② 大きな物語を終えて、小さな物語のつながりへ
これからの社会は小さな物語、一人一人が地域で紡いで、ささやかでもしっかり繋いでいくようなものになります。
ア 食べものに限らず、できるだけ地域で自給するようにする。
自給できるものは、自然、風景、共同体、仕事、技能、趣味、教育、習慣、家族、愛情……つまり、暮らしのほとんどを自給します。この場合の自給とは自家を超えて、共同体の内部を含みます。
イ 競争社会ではなく、協働社会へ
国内での産地間競争の延長にグローバル経済化の国際競争があったことをしっかり反省し、人や他産地や他国を蹴落として行くのではなく、譲り合うシステムをつくります。
③ ナショナリズムではなく、パトリオティズムを土台とする
まず国民国家があるのではなく、まず地域社会があるのです。もう一度地域社会の連携の上に国民国家を再建する気持ちで、政治は自治を土台にして、地域本位で立案します。行政の単位はできるだけ小さくして、江戸時代の「村」くらいがいいでしょう。
ア 地域のことは地域で考えて、地域で決める政治を実現します。これまでの自治体の在り方もより小さい規模に戻し、農政は村から発想していきます。
イ 「国益」「国富」という発想は放棄します。国民国家は地域の連合体として機能します。
④ 自然を自然にもどす
ア 自然環境の保全と再生
ここでいう自然とは、田畑や村を含みます。自然に責任を負う農だからこそ、自然からの恵みを受けとることができるのです。
イ 人間の中に自然を取り戻す
仕事や暮らしを通して、自然に没入し、自ずからなる境地で生きられるような社会を農がリードしてつくっていきます。
⑤ 農業から農へ、さらに農本へ
もともと農は"生業"でした。ところが明治以降の日本は農を近代化=産業(農業)化することを政治の目標にしてきました。未来社会は農業から農へと回帰していくでしょう。また社会も資本主義の経済価値優勢の社会から、人間と自然の共同体を土台とした農本社会へ移行していきます。
ア 「国民皆農」の実現
みんなが農業ではなく農と何らかの形でつながり、いくつかの"ふるさと"を持つことになります。食べものや自然や育ちや教育や文化が、そこでは"自給"されることになります。農村はみんなの共通財産として、開放され、同時に支えられています。
イ 「生産性」を否定して、総合的な豊かさの生産へ
狭い経済だけの生産性は滅び、カネにならない豊かな価値を生産する生業としての農が社会の土台として成立します。
ウ 自然と人間が経済を超えて交感し、あたりまえの変化しない地域をいつくしむとき、地域はきれいな風景という表情を見せてきます。
3. 環境支払い政策
第1部 環境支払いの理念
第1章 これまでの経緯
(1) それは「農」の健康診断、アグリチェックから始まった
① 「環境支払い」を農業政策の目玉に
私たち農ネットは、20年近くに及ぶ「アグリチェック」活動の成果をふまえ、「環境支払い」を農業政策の抜本的改革の目玉として提言しました。「環境支払い」とは、農業を通して、自然環境を守っている農家の営みを新しい方法で評価して、その対価を国民全体で負担し、応援をする制度のことです。私たちはこの間、「環境支払い」の速やかな導入・実施を提唱。政党や行政機関、農業関係者等に説明や要請を行ってきました。
② 多面的機能支払い制度のスタート
現在農水省では、こうした農業のもつ働きを「多面的機能」と呼んで、この機能を守る政策を打ち始めています。以前から始められた「農地・水環境保全向上対策」は、今の政権においても「日本型直接支払い(多面的機能支払い)」として進められています。これらについては私たちが提言してきた「環境支払い」につながる動きとして一定の評価はしていますが、さらに積極的に位置づけられることを強く願うものです。
(2) TPP交渉こそ農のピンチをチャンスに変える好機
2013年7月24日、日本は「重要5品目を聖域」として死守することを前提に、TPPに正式に参加することになりました。その後、日豪EPAなどを背景に確実にグローバル化に向けた動きが強まっているように思います。ピンチはチャンス。私たちは、いまこそ「環境支払い」を日本の農業政策の中心に位置づけるまたとない好機だと考えます。
そのためには乗り越えなければならない課題があります。
① 大切なのは農業をいかに「ナショナルな価値」として位置づけられるか
TPPへの賛否は、この国の農業のかたちをどのように「ナショナルな価値」として位置づけるかにかかっています。にもかかわらず、交渉のありかたや関税の行方に議論が矮小化され、それが論点の核心をぼやけさせています。
第2章 農ネット版「環境支払い」の理念
(1) 好機をつかむために 「理念と豊富なメニュー」 を
では、危機を好機に変えるためにはどうすればいいのか。それは「環境支払い」にきちんとした理念を盛り込んで掲げる一方で、具体的なメニューを豊富化することです。これが誤解や反論を超えていく王道です。その考えのもとに、農ネットでは長年準備をかさねてきました。メニューについては、第2部で詳述しますので、ここでは理念について簡単に記しておきます。
① 減少する所得の補填ではなく、価値を認めて対価を支払う
市場価値はないが国民の生活に大切なものを国民の負担で支える
市場価値はないが国民の生活にとても大切なものを、市場経済からはずして、国民の負担で支えようとするのが、「環境支払い」の理念の本意です。つまり、農業が他の産業と根本的に異なるのは、非経済価値を無償で提供するところにあるからです。
② 産業政策、市場原理偏重からの脱却
「環境支払い」は、これまでの生産振興の産業政策としての農業政策から、本格的に大きく舵を切る政策です。身近な自然環境や地域共同体や国民文化にどういう責任と役割を負うかが問われる政策なのです。意識的に自然環境を支える農業への転換を意味します。この転換をすすめるための政策設計でなければ、たんなるバラマキとのそしりを受けてもしかたがありません。
第3章 これからの進め方
(1) 「環境支払い」実現のための戦略
① 地域で生きるものの感性と危機感から生まれる必要
では「環境支払い」を「絵に描いた餅」に終わらせずにどうやって実現していくのか。
これまでの生産振興政策であれば、国全体のデータに基づき、中央で立案できるでしょう。しかし「環境支払い」は、地域の自然環境や百姓仕事の技術といった全国一律では把握できないものに依拠しており、そこから発想し、政策化しなければなりません。すなわち「環境支払い」の知恵は、地域で環境保全に活動してきた農家やNPOや住民やそして地方自治体の職員の感性と危機感から生まれるものでなければならないのです。霞ヶ関の官僚だけに頼っても生きた政策とはなりません。
② 国民の理解と共感
また、「環境支払い」は農家の賛意とともに、国民の理解と共感を得なくては、両者の亀裂を広げかねません。とくにTPP賛成の世論が強まりつつある中で、国民の理解を得るためには、「身近な自然環境を保全するための農業」をしっかり打ち出すべきです。
したがって、私たち「自治体"農"ネットワーク」だけでなく、この分野で先駆的に活動してきた様々な団体・グループ・個人の意見・提言に真摯に耳を傾けるよう政府に求めます。
(2) 当面の課題と提案
① 「ふるさと支払い」(全国共通の基礎支払い)と「めぐみ支払い」(各種環境支払い)
私たちは、地域のさまざまな農業の危機と、それと連動している自然環境の危機を、「環境支払い」で救出する182の政策メニューを提言します。
② 小さく地道な農の営みも含め「オールジャパン」で農と農地を守る
「ふるさと支払い(基礎支払い)」も「めぐみ支払い(多面的機能支払い)」もすべての農家を対象とすべきだと考えます。
③ 自主的な選択と「評価委員会」によるモラルハザードの防止
モラルハザード、あるいはバラマキの弊害に配慮し、「めぐみ支払い(多面的機能支払い)」については、それぞれの農家、農業団体の地域事情にあった「得意とするもの」を自主的に選べるようにします。その上で、「環境評価委員会」等を設置します。
なお、「環境支払い」は地方自治体が中心になって立案し、国とともに実施していくものとして、まとめた政策メニューです。
第2部 環境支払い(環境デ・カップリング)の具体案
第1章 環境評価委員会(要約)
この政策は従来の政策と三つの点で大きく異なっています。
① 農業の非経済的な価値が地域と国家を支えていることを評価する
② 地域の実情と発想と工夫を重視し、地域に評価委員会設立
③ 多彩なメニューから農家自身が選択して請求する
この政策は、地域の自然環境を保全するために、自らのくらしと経営を転換するために、多彩な「支払いメニュー」から選択して、自身で請求するスタイルをとる。同時に、その成果を納税者である国民へ情報開示する義務を負う。
(1) 地域環境評価委員会の設立 |