【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第7分科会 ワークショップ「自治研」 楽しく学ぶ自治研活動

 自治研活動は難しいと思っている組合員に対して、自治研活動として仕事の見直しや改善点を考えてみようとあらたまって提起をせずに始め、自分たちが仕事に対する問題意識を持ち、それを職場改善に繋げることの大切さを経験し、自治研の目的、活動の方法を理解してもらいました。



日々の業務で改善できること
―― 自治研活動の「いろは」のい ――

北海道本部/札幌市役所労働組合・教育委員会支部 藤原 玲子

1. はじめに

 札幌市の学校給食の実施形態は、単独調理場方式(校内に調理施設を持つ)を取っており、そのなかで、自校分のみ調理する単独調理校方式と、自校分と給食調理施設を持たない近隣の他校分の給食をあわせて調理し提供する複数校給食方式(親子方式)で実施しています。
 近年、学校給食における異物混入や食中毒等に関する問題は多く、札幌市でも2009年1月、直営調理校ではないものの市内小学校においてヒスタミン食中毒が発生し、多くの児童に健康被害を生じさせる事故がありました。
 これを受け、札幌市では食中毒再発防止を観点に2009年3月「札幌市学校給食衛生管理マニュアル」を改訂し、さらに文部科学省からの指導のもと、2009年4月文部科学省施行の「学校給食衛生管理基準」に基づいて2010年4月にも改訂。2011年4月には再度、法に位置づけられた考え方を記載したうえで内容を見直し、衛生管理の徹底を図るための改訂が繰り返し行われてきました。
 このような背景の中、調理員がそれまでに行っていた調理作業の他に、入念な洗浄・消毒等の衛生管理に関する業務や食材納品時の厳重なチェックと取扱い、何種類もの帳票の作成・記入、さらにアレルギー対応給食の導入による複雑な調理・チェック作業等、「札幌市学校給食衛生管理マニュアル」の改訂の度に業務量が増え続け、直営の調理員は、作業人員が変わらぬまま際限なく増えていく業務を毎日こなしていく余裕の無い日々でした。

2. 効率的な業務にむけてのアイデア

 前述にもあったように学校給食を提供するにあたって、「学校給食衛生管理基準」に基づいた衛生管理を徹底する意味で、札幌市の調理員は、毎日、主に5種類の帳票類の記入・作成をしています。
① 日常点検票:学校給食従事者の日常的な健康状態の点検・調理室の温度や湿度・調理作業前の調理室の状態の点検・作業中の食材や出来上がり品の加熱や冷却温度と配食時間・保存食の状態の記入・作業後の廃棄物の処理や部外者の立ち入りに関するチェック等を記入
② 学校給食施設設備・機械器具保守点検表:施設設備や機械器具を安全で清潔な状態に保たれているか・調理器具や調理機器から異物混入を未然に防ぐための点検等を記入
③ 検収表:食品や食材の納入時に立ち会い品名・数量・納品時間・生産地・品質・鮮度・箱や袋等の包装容器の状況・消費期限や賞味期限・製造年月日・品温・ロット番号等のチェックと記入
④ 調理作業工程表:衛生的な作業ができるように、その人がどのような食品を扱うか、どのような作業をするか、下処理作業から配食するまでの時間の流れに沿って人ごとの動きを記入
⑤ 作業動線図:当日使用する食品や食材が納品された場所から、調理室内のどこを通って調理されたかの食品や食材の動きを記入
 この他、アレルギー対応チェック表・配食量や残食量の記入・学校給食従事者専用便所清掃記録簿等の記入も毎日行っています。
 その中でも作業工程表と作業動線図は、調理作業の流れや時間、衛生面を考慮して組み立て、慎重に作成しなければならないため、非常に作成時間のかかる帳票といえます。
 また、作成する期限もあり、前週までに提出をして栄養教諭や栄養職員と献立のミーティングを行い修正した後、管理職のチェックを受け、さらに当日はそれを使用しながら個々の仕事の分担等を、綿密に打ち合わせします。
 札幌市の子ども達に安全で安心な美味しい給食を提供するためには、徹底した衛生管理は絶対条件であることは調理員の誰もが認識はしているものの、業務が増え複雑化していくなかで、何かもっと効率性の高い作業の仕方や工夫できる方法が無いだろうかと現場で模索していました。
 こうした状況を改善するために、日々の膨大な作業の中で軽減できるとすれば、どのような作業か、またどの作業が一番手間や時間がかかるのか、組合員が今、何を望んでいるのかを考えたときに「帳票の作成が勤務時間内で終わらない」「帳票の作成をもっと簡単にできれば」という意見があがりました。

3. ソフト作成までの過程

(1) 簡単に帳票を作成するには
 1999年から衛生管理表(現在の調理作業工程表)を調理員が作成しており、衛生管理マニュアルが改訂になる度に調理作業工程表とともに作業動線図の記入内容も複雑化してきていたことから、パソコンでの作成を行う調理員が増えていました。
 しかし、パソコンが苦手、触ったことがない、という調理員もまだ多かったことから、パソコンの講習会を開催し、立ち上げから操作方法、工程表と動線図フォームを使った書き込み方の初歩を学習したところ、その中から「もっと単純で簡単な操作で帳票作成ができるソフトがあれば作業時間が短縮できるのでは?」とのアイデアがあがりました。
 そこで、まず調理作業工程表の作成を考えた時に、調理校ごとに作業する調理員の人数や動き、給食の実施形態や調理施設を持たない他校への搬出距離や食数により調理時間や配食時間に差があることと、すでに基本フォームを独自で作り、共有している調理員もいたことから一旦、工程表のソフト化は見送り、逆に、作業動線図は札幌市の給食の献立や使用する食材・調味料は全市統一であるので各調理校の調理室の図面が作成できればパソコン上で作業ができるソフトが作れるのではないかと、作業動線図作成ソフトの開発をスタートさせることにしました。

(2) 作業動線図ソフトを作成するにあたって
 作業動線図は、「二次汚染を起こす可能性の高い、肉・卵・すりみ・魚介類等の食品」と「汚染させたくない和え物・サラダ・果物や加熱調理後の食品」が交差する恐れのある場所が明確となり、二次汚染防止の対策をとることができる食品の動きを示すもので調理作業工程表と合わせて見る帳票になります。
 作成するにあたって明確にしなければならない留意事項や記載しなければならない食材や調味料、献立や食材ごとに決まった色での記載、線の種類等も複雑です。
 衛生管理だけは何があっても徹底しなければならないというルールだけは守ったうえでどのようなソフトにしていきたいのか考えました。
 動線図は記載のルールが複雑な分、記入間違いもしやすいため、出来るだけ打ち込む作業を少なくし、クリック一つで、ある程度表示されるようにできないか。その実現に向けた準備として、まずは役員数人でパソコンソフト開発の知識を持つ講師に相談し、協力の依頼をするとともにソフト開発のためのノウハウの講習を受けました。

(3) プロジェクトチームでいよいよ入力作業
 そして、まず札幌市のすべての直営調理校の調理室内の図面を作成しなければならないことからパソコンを使うことができる調理員の有志を募り「動線図ソフト開発のためのプロジェクトチーム」を立ち上げました。
 プロジェクトチームのメンバーを集めて、メンバー全員が図面の作成ができるように調理室の図面の作り方の講習会を開き、メンバー一人あたり3校から5校の持ち校を決め作成し、札幌市の全ての直営調理校の図面を完成させました。
 その際、各職場の調理員に向けてアンケートを取り、調理室の出入り口や食材を納入する場所や保管しておく場所、作業台や調理台、機械、冷蔵庫、オーブン等の設備の位置等の情報を聞き取りました。
 同時にソフト本体に組み込む札幌市の500以上もある料理レシピの種類分けや、動線図記入上の色や数字のルールの組み込み、アレルギー対応を含む献立の入力と食材ひとつひとつの入力を、講師の方の協力とサポートのもと、担当分けして述べ3か月をかけて行いました。
 そしてデータ入力済みのソフトに各職場の図面を貼り付けて、食材の名前の入力に間違いはないか等の動作確認を複数人で何度も行い、慣れない作業に悪戦苦闘しましたが、最終的にCDに焼き付ける作業まで行い、無事に完成することができました。

日付とメニューを選んでクリックすると献立名と使用する食材名が出てきます

(4) ソフトの出来栄え
 ソフト開発スタート当初は、もっと操作や打ち込みする手間が必要なソフトを想定していましたが、出来上がってみると、献立名を入れてクリックひとつで、日付や全ての献立と使用する食材が色別に一発で表示されるので、あとは線を引くだけの素晴らしい作業動線図ソフトに仕上がりました。もちろん線の色も線種も選択することができ、食材番号の変更や印刷までワンクリックで自動的に出来る優れものです。
 またパソコンで線を引くのが苦手な人のために献立名と食材名までをパソコンで出して印刷し、線だけは手書きすることも出来るので、パソコン初心者でも扱いやすいものになりました。
 私達調理員が、ソフトの作成を進めるうちに、さらにもう少し作成作業時間を短縮することができないか、パソコン初心者でももっと簡単な操作で作成できないかという欲が出てきたこと、組合として組合員のためにできる事を考え、調理員として現場で働く仲間の思いを背負って何度も試行錯誤を重ねていった結果であったと思っています。
 以前の手書きでの作業動線図と比べると、作成時間の大幅な短縮はもちろんのこと、調理指示書から作業動線図に記載しなければならない食材名の選択ミスや食材の色の間違えも無くなり、また、パソコンで作業することで、きれいで誰もが見やすく打ち合わせもしやすくなったメリットもあります。
 また、この作業動線図作成ソフトが誰でもすぐに使用できるようにソフトの開き方から献立名の入力の仕方、線の引き方、印刷するまでの説明を記載したマニュアルを作成しました。

ソフト導入以前の手書きの作業動線図
 職場ごとの調理室の図面のコピーを張り付けたものをひな形として使っていました。
 調理指示書から記載に必要な食材名をひとつひとつ手書き。
 カラーボールペン等で記入していたため、間違えて記入した時の訂正も大変でした。

作業動線図作成ソフトを使って作成した作業動線図
 献立名を選んで、クリックひとつで献立名と使用する食材名が色別で出てきて、あとは図面上に線を引くだけで完成です。
 以前のものと比較すると非常に見やすくキレイな仕上がりで、打ち合わせもスムーズに行えるようになりました。


(5) 組合員の反応は
 作業動線図作成ソフトを作り始めた当初、調理員の組合員の中には、「パソコンが無いから戸惑っている」「パソコンを使用して作成しないといけない気がして不安だ」等の意見もありましたが、「どんなソフトが出来るのか楽しみにしている」「パソコン初心者でも扱えるものなら使ってみたい」との意見も多数あり、完成間近の作業動線図作成ソフトを組合員にプロジェクターとスクリーンを使用して初めてお披露目をした際には、オオーッ!! と歓喜の声があがるほどでした。
 また実際にこのソフトを多くの組合員に使用してもらうために、パソコンの初心者向けの講習会やソフトの注意点や線の引き方等の使用方法の説明も兼ねた学習会も開いて、作成時間を短縮し業務の効率化が図れる便利なソフトであることを理解してもらう機会を持ちました。
 作業動線図作成ソフトの完成から1年後、どのくらいの職場で使用されているのかをアンケートで調査したところ、7割近くの職場で使用されていることがわかりました。翌年の2013年には、献立の変更や新献立の追加・アレルギー対応メニュー・線の太さ等を変更した改訂版を配布して、現在は9割の職場で活用されています。

4. おわりに

 今回、この作業動線図ソフトを作成したことによって、調理員の帳票の作成時間が短縮され、単純に個人の負担が減っただけでなく、作成するために費やしていた時間分だけ、焦ることなくゆとりを持った業務ができ、別の作業に充てる時間を持てることにもなりました。
 自治研活動ということにとらわれず、日々の業務を改善したいという意識が出発点となりましたが、この視点が結果的に調理員個々の意識を高め、自ら衛生管理を徹底するための作業効率を高める作業の仕方や工夫を考えることになり、今後も増えていくであろう衛生管理等の問題にも協力しあいながら解決していくという自信に繋がりました。
 同時に仕事に対する問題意識を高め、改善するこの取り組みこそが仕事に対するやりがいを感じ、子ども達により安心で安全な給食を提供するという公共サービスの向上に通じる本来の自治研活動であるということを、経験しながら理解してもらうことができたと感じています。
 現在、この動線図作成ソフトは直営の組合員のいる調理校だけで使用しているものですが、今後は札幌市全域の子ども達に、より安全で安心な給食を提供できるよう教育委員会に対して職場から発信された自治研活動として、札幌市のすべての調理校で使用できるよう運動に取り組みながら、積極的な業務に従事していきたいと思っています。