【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第7分科会 ワークショップ「自治研」 楽しく学ぶ自治研活動

 宗像市では、「市民協働」を市の重要な施策として位置づけ、協働のまちづくりを進めています。地域ではまちづくりの拠点となっているコミュニティ・センターを中心に、自主的な活動に取り組む一方で、コミュニティ活動の基盤である自治会への加入率が若年層を中心に低下しており、活動の担い手不足が課題となっています。そこで、地域の活性化の力になるべく、宗像市職労「わたがし部」が立ち上がりました。



「わたがし」で地域を笑顔に
―― おまつり盛り上げ隊 ――

福岡県本部/宗像市職員労働組合・ユース部長 惠下 尚輝

1. はじめに

(1) 宗像市の概要
 宗像市は福岡県北部、北九州市と福岡市の中間に位置し、人口は約96,000人、北を除く3方向を山に囲まれ、南は筑豊地方と接する交通や文化の要衝であったため、数多くの歴史を有してきました。北の海岸線一帯は玄海国定公園に指定され、好漁場である玄界灘に面し、七夕伝説発祥の地と言われる県内最大の島・筑前大島や、遣唐使も立ち寄った海の正倉院・沖ノ島が沖合60キロにあります。
 市内を東西に横断するJR鹿児島本線や国道3号線・495号線の整備によって、福岡・北九州への通勤などの交通アクセスが充実し、住宅団地や大学、大型商業地などが相次いで進出。活気あふれる学術・文化都市として人口が急増しました。
 これに伴い農村だったまちは急激な都市化が進み、教育・文化の充実、上下水道や道路網など生活基盤が整備されました。その一方で、都市化による人間関係の希薄化が進み、隣近所のつきあいが減り、「お互いに助け合っていく」という地域コミュニティの意識が低くなりました。
 市としてこのような問題に取り組むため、地域コミュニティを再構築し、住民主体による「コミュニティ活動の推進」を市の施策の中心に位置づけました。宗像市は全国的にみても、いち早く地域コミュニティ再構築の問題に取り組んだ自治体です。
 2003年に旧宗像市と旧玄海町が合併し、新生「宗像市」が誕生。2005年には旧大島村と合併しました。合併後も、旧宗像市が進めていた「コミュニティ活動の推進」の方針は引き継がれ、現在では、市民と行政が一緒になって活動を行う、市民参画・協働によるまちづくりが進んでいます。


(2) 地域コミュニティの活動
 地域のまちづくりは小学校区を原則として区域分けした単位で「コミュニティ運営協議会」という組織を設置し、その協議会が中心となって行っています。市内には12の協議会があり、それぞれの地域の特色を活かしたまちづくりが行われています。
 活動内容は、公民館活動、青少年育成、健康福祉、環境整備、防犯防災など様々で、市が行っている業務の中で、地域が行った方が効率的なものや住民サービスが向上するものなどについては、権限・財源を地域に譲り、コミュニティ・センターを拠点として、地域の権限で事業を行っています。また、いずれの地域でも夏まつりや文化祭などといった「まつり」が大きなイベントとなっており、地域が一体となって運営しています。


2. 地域に関わるきっかけ

(1) 地域コミュニティの課題
 地域コミュニティでは、協議会の役員を中心に活動が行われており、役員の多くが地域の自治会長や自治会役員で構成されています。コミュニティごとに若干の違いはあるものの、協議会の役員の負担は大きく、現役で働きながら協議会の役員を務めることは困難な状況にあります。そのため、活動の主体は自然と年配の方々が多くなり、地域のまつりやイベント時の力仕事や盛り上げ役の中心を担えるような若い世代の参画が少ない状況が各地区で問題となっていました。

(2) 市職員の地域コミュニティへの参加状況
 地域コミュニティの活動だけでなく、多くの職員が消防団やPTA、自治会活動、地域スポーツの指導などあらゆる形で地域の活動に携わっています。また、宗像市職労としても清掃活動や平和活動の取り組みなど多くのボランティア活動に取り組んでいます。しかし、職員(組合員)の多くは極めてアピール下手であり、目立っていないのが現状で、そのためしばしば住民の方から「地域の活動で市職員の顔が見えない」との声が上がりました。 
 このような中、一部の組合員からは、市職労の自治研活動として、市の政策の柱である「コミュニティ活動の推進」ということに向き合い、関わっていくべきではないかという意見が出始めました。

3. 市民の財産「さつき松原」を考える

(1) さつき松原アダプトプログラムがスタート
 宗像市内の玄界国定公園にある「さつき松原」は、全国白砂青松100選に選ばれるほどの美しい松原で、樹齢200年の黒松林がゆるやかに弧を描いています。江戸時代に黒田長政が植林を始めたといわれ、現在も田畑を潮風から守り、防砂林として人々のくらしの助けにもなっています。
 しかし、松原の管理は、昔のようには行われなくなり、少しずつ荒廃が進んでいました。また、松くい虫による松枯れを過去に何度も起こしており、市民による植樹活動などを中心に再生への取り組みが行われていました。
 2010年度から市や関係団体の呼びかけでアダプトプログラムを導入し、エリアごとに管理団体を定め、市民や各団体などと協働による保全管理体制をスタートさせました。アダプトプログラムとは、一定区間の公共の場(道路や河川、海岸など)を「養子(adopted child)」と見立て、ボランティア団体やコミュニティ運営協議会、市民活動団体、企業などが協力して、年間を通じて環境美化活動に取り組む制度のことです。
 この制度開始を知った組合員から、「さつき松原を守るために、市職労として参加しよう」という提案が出され、「市民の財産を守る活動に市職労は自治研活動として取り組んでいく」という方針の中で、執行委員会で参加を決定しました。具体的な活動としては、定期的な見守りと、年3回程度の草刈り・清掃活動を行います。主に、環境部門で働く(働いていた)組合員や、市民協働に関わる(関わっていた)組合員、ユース世代の組合員など多くの組合員が参加しています。

さつき松原の清掃活動を行う組合員。年3回程度実施している。エリアが決められると愛着が湧き、
他のエリアには負けたくないという思いが出てくる

(2) 市民に認知されない活動
 「地域に関わろう」と始めたアダプトプログラムへの参加で、この活動に関わる団体等からは一定の評価を受けました。しかしその一方で、一般の市民の方までにはなかなか認知されませんでした。職員(組合員)の頑張りをもっとみんなに知ってもらいたい。そのために、もっと積極的に地域に関わっていく必要性を再認識させられました。

4. 「わたがし」はじめました

(1) 地域の課題解決×市職員の地域へのアピール=わたがし

 

コミュニティ事務局長会議でまつり出店の趣旨説明をする市職労執行委員と市人事課長

 地域の若い世代の人材不足を補うため、また市職員の頑張りを地域にPRするために市職労として考えたのが、「地域のおまつりに関わる」ということでした。まつりの参加者に喜んでもらいたい。また、活動を長く継続して行うために、参加するスタッフの負担や市職労の財政的な負担はなるべく減らしたい。そこで考え出した答えが「わたがしの出店」です。子どもたちの大好きなわたがしはまつりで喜ばれること間違いなし。また、わたがし機はコミュニティ団体から無償で借りることができ、準備する材料もザラメと割り箸だけでいいという手軽さが決め手になりました。
 初めは地域に顔を出すことをメインとし、市のイベントの際にわたがしを出店して、地域の子どもたちに喜んでもらうという活動からスタートしました。イベントでは、予想以上に需要が高く「地域コミュニティのまつりでも出店してほしい」「市のイベント以外でも」という声をよく聞くようになったため、さらにもう一歩踏み込んで、地域コミュニティのまつりへの出店を決めました。
 市職労の自治研活動の趣旨を理解してもらい、各コミュニティのニーズを把握するため、各協議会の事務局長が集まる会議でまつり出店・協力に関する提案をし、希望が出された地区でのわたがし出店を行うという形をとりました。


(2) 「ありがとう」「お疲れさま」の声がやりがいと次の活動を生み出す

 
   
 

どのコミュニティのまつりでも「わたがし」は子供たちに大人気

 わたがし出店は、とにかくどの地域でも大好評です。わたがしの大きさや見た目はともかくとして、地域貢献を重視した利益度外視の低価格に設定したというのが一番好評だったようです。子どもたちが大行列をつくることもしばしばでした。また、地域の要望にはできるだけ応えるようにしており、わたがしの出店が重なった場合は、かき氷での出店をするなど臨機応変な対応もしています。子どもたちの"笑顔"と、「わー、大きい!!」「ありがとう」の声は、活動に関わるスタッフのやる気に繋がっています。
 主催する地域コミュニティ側からの評判も良く、多くの地区から声がかかるようになってきています。宗像市のニュータウンには、福岡市、北九州市で働く(働いていた)サラリーマンが多く、コミュニティ活動に関わる主に年配の方々は、「昔、バリバリの組合活動をしていた」「組合の役員をしていた」という方も少なくありません。市職労のこのような活動は好意的に受け止められ、「お疲れさま。あんた達も大変やね」などといった労いの言葉を多くの方にかけてもらっています。
 参加したスタッフからは、「何かもっと面白いことできんかねー!?」という話も出てきています。


5. 今後の展開

(1) 地域との連携をさらにを進め、地域の中で活動できる後継者をつくる
 活動も2年目になり、少しずつ地域への認知度も広まってきており、市職員(組合員)の頑張りはアピールできつつあります。通常の業務以外でのボランティア活動は市職員への信頼にもつながっていることを実感しています。地域の方々との協働のまちづくりを進めるうえでは、このような活動を通して人間関係を築いていくことは不可欠なことであり、今後も活動を継続していきたいと考えています。
 自治研活動として、自分たちのまちや地域のまちづくりのことを考えると、ただ継続するだけでなく地域内の若い世代が地域のまつりやイベントを盛り上げていく体制をどうするかまで考える必要があります。そのため、市職労では、活動主体を親組合からユース部に移し、若い世代が盛り上げる姿勢を地域に示し、一緒に考えていくよう工夫をこらしています。
 今後は、地域の方の中、特に若い世代から「地域活動に貢献したい」という人材を探し出すことが必要です。まずはこれまでの経験を活かし、どのようにすれば若い世代が地域活動に関わることができ、コミュニティ活動がうまくいくのかなどについて、ユース部がコミュニティ運営協議会へ助言等をしながら地域コミュニティの自立の力になっていきたいと考えています。