【要請レポート】

第35回佐賀自治研集会
第8分科会 男女がともにつくる、私たちのまち

 三重県庁では、2000年(平成12年)当時の北川知事が「全国で1番の労使関係をつくろう、自治体労使関係のスタンダードをつくろう」との発言をきっかけに、新たな労使関係をつくるための議論が始まり、労使協働委員会が創設された。この委員会は、これまで「対立・交渉・妥協」といった言葉で表現されがちな従来の関係から脱却し、双方が「対等」と「信頼」を基本としたパートナーとして勤務条件から政策課題に至る幅広い議題について、オープンで建設的な議論を行っている。全国的にも先進的なこの取り組みについて報告する。



三重県庁における労使協働の取り組み
「ワーク・ライフ・マネジメント」の開始にあたって

三重県本部/三重県職員労働組合・労使協働委員会

 三重県庁では、2000年(平成12年)労使協働委員会が創設された。この委員会は、これまで「対立・交渉・妥協」といった言葉で表現されがちな従来の関係から脱却し、双方が「対等」と「信頼」を基本としたパートナーとして勤務条件から政策課題に至る幅広い議題について、オープンで建設的な議論を行っている。
 労使協働15年目になる本年、三重県庁では、これまでの労使協働の積み重ねのもと、ワーク・ライフ・バランスからさらに踏み込んだ「ワーク・ライフ・マネジメント」の取り組みを開始した。本レポートでは、三重県庁が取り組む労使協働、ワーク・ライフ・マネジメントについて報告する。

1. 労使協働の取り組みのあらまし

 労使協働委員会は、県の組織階層、地域に合わせて上図のとおりの組織となっている。取り組み内容は下記のとおり。

(1) お茶くみ問題、セクハラ問題
 この問題が話し合われる2000年(平成12年)以前は、職場ではお茶くみ当番というものがあり、そのために女性職員は通常より早く出勤し、お湯の準備やお茶出しを行っていた。それについての話し合いが労使協働委員会で行われ、その結果、女性職員のお茶くみが解消された。また、同様にセクハラについても話し合いが行われ、民間会社による外部相談窓口の設置や、管理職員向けのセクハラ防止研修の実施につながっている。現在は、セクハラだけでなくパワハラを含め、継続的な取り組みを行っている。

(過去の職員アンケートの全体満足度得点推移)

(2) 職員満足度アンケート
 2001年度(平成13年度)から、職員の満足度を把握するため、アンケート調査を行っている。相談できる人がいるか、子育てや介護を行う職員への理解があるか、職場で必要な情報が共有されているか、現在の仕事にやりがいがあるかなど、現在は27の項目について、調査している。全体の満足度は右肩上がりで進んでおり、平成25年度の満足度は100点満点の63.06点で過去最高を記録している。

(3) 組織定数にかかる協議と検証
 2007年(平成19年)に県が定数削減の計画を策定した際に、労使での協議の結果、業務削減など職員の負担を軽減する方策を事前に労使で協議し、1年後に検証するという仕組みを構築した。そのように始まった職場や部局での労使協働による組織定数の協議は現在も継続している。定数に関することであるため、完全な納得が得られるというものばかりではないが、どのように業務を見直すか、どういった業務を削減していくかを職場で話し合う契機となっている。

 この他にも、休憩室等の職場環境整備や知事の職場訪問、専門家を招いた労使協働セミナーの開催等、多岐に亘る取り組みを行っている。


2. 「ワーク・ライフ・マネジメント」に至った経緯

 上記1の取り組みに加え、本年度から三重県庁において実施している「ワーク・ライフ・マネジメント」に関わりの深い、特筆すべき取り組みを紹介する。

(1) ワーク・マネジメントにつながる取り組み
① 総勤務時間縮減運動
  三重県庁では時間外勤務を削減し、年休等休暇の取得を増大させる総勤務時間縮減運動を平成12年度から実施してきた。当時、問題となっていたサービス残業の増大に、労使協働で取り組み始めたのがきっかけである。毎週水・金曜日のノー残業デー、各職場状況に合わせた定時退庁強調月間・週間、連続5日以上のリフレッシュ休暇、メモリアル休暇などに取り組み、運動は職員に浸透し、特に休暇を積極的に取得する文化は定着した一方、時間外勤務は増加し、高止まりとなっている。この背景には、職員定数削減や県民からのニーズの多様化、サービスの質の変化に伴う業務の複雑化などがあり、これに対し管理職員のマネジメントも含めた業務削減、業務プロセス改善などに取り組んできたが、なかなか成果につながっていない。時間外勤務時間数について、所属や部局で目標を立てて取り組んでも、結果として守れないことが多く有効な歯止めにならなかった。深刻な事態となっている。年間500時間を超える超長時間勤務者もここ3年連続400人前後となり、メンタル疾患など健康面への影響も懸念され、これまでと違う新たな方策が急務となっていた。

(2) ライフ・マネジメント支援につながる取り組み
① 男女協働小委員会の取り組み
  中央労使協働委員会には、課題別に小委員会を設置し、具体的な取り組みを行っている。その1つ男女協働小委員会では、次世代育成支援や男女共同参画等に取り組んでいる。
 ア 次世代育成支援に関する取り組み
   2010年度(平成22年度)の特定事業主行動計画後期計画策定にあたり、職員労働組合の各支部を回り、現場の声のヒアリングを実施。その結果、「制度ができただけでは取りづらい」「自分が時短を取ると周囲に迷惑がかかる」「所属長はじめ周辺職員の理解がないと、短時間制度を希望しても結果として取れない」など、周囲の理解や人員配置などの環境整備を求める声が多かった。これを受けた後期計画では、『仕事も子育てもみんなで応援』を合言葉に、育児をする本人だけでなく、所属長や周囲の職員も当事者として位置付け、役割と具体的な取り組み内容を明記した。また、後期計画の目安となる指標を「男性の育児参加休暇取得率100%」「男性の育児休業取得率10%」とし、平成23年度には育児休業を経験した男性職員へのアンケートを実施し、男性の育児休業取得の効果を検証した。
   フリーアンサー形式の「育児休業を経験して変わったこと」では、「家庭での役割が増え、早く帰ることを意識して仕事するようになった」「勤務時間内に業務を終わらせるよう必死になった」「育児と職務の両立で苦労している職員を自分のことと捉えるようになった」など、タイムマネジメントと職場での支え合いの両方によい影響があることがわかった。これらの結果を職員に周知することで、次の育児休業取得者への意識づけにもなった。

 イ 介護に関する取り組み
   平成20年度には職員アンケートを実施。

   介護が必要な家族がいると回答した職員は50歳代以上、課長補佐級が最多で、役職者、責任ある世代が苦悩している状況がわかった。5年以内の近い将来に介護が必要と回答した職員は約500人おり、次世代育成と比較し、見えにくいがニーズが高い。アンケート時から時間もたっているため、現在のニーズ把握が必要である。
 ウ 組合の取り組み
   組合独自の取り組みとして、産育休中の職員を対象とした学習交流会として「育休さん集まれ ワイワイガヤガヤほっとサロン」を女性部が青年部と連携して開催している。次世代育成行動計画では円滑な職場復帰のために所属長が情報を送付したり、近況を尋ねたりすることになっているが、現実はなかなか情報が来ず、産育休中の職員は孤立感や復帰の不安を抱えている。この「ほっとサロン」では次世代育成に関する制度の説明のほか同じ産育休中の職員や先輩復帰者とのフリートークを行い、不安の解消が図れたと好評を得ている。

 以上の取り組みから、ライフ・マネジメント支援には制度と環境両方の充実の必要性を実感している。


3. ワーク・ライフ・マネジメント概要

 三重県ではワーク・ライフ・マネジメントを「職員一人ひとりがそれぞれのライフサイクルなどに応じて、自ら主体的に『ワーク』と『ライフ』をコントロールすることが可能となる状態を実現するための組織的な活動」と定義し、「ワーク・マネジメントの推進」「ライフ・マネジメント支援の推進」「意識・組織風土改革の推進」の3つの柱で進めることとした。
 ワーク・ライフ・マネジメントを進めることで、職員がワークにもライフにも充実した生き方ができる「日本一、働きやすい県庁(しょくば)」を実現し、「幸福実感度、日本一の三重県」につなげていく。

 

(1) ワーク・ライフ・マネジメントの特長
 特長の1つめは「組織運営の重点事項の一つとして積極的な推進を図る」ことである。最終推進責任者を知事、部局の推進責任者を部局長、所属の推進責任者を所属長と位置付け、県が組織マネジメントとして職員の「ワーク」と「ライフ」の高度な両立の実現をめざすことは画期的である。労使協働で計画、取り組み内容を決定するとともに、その方針に基づき組織的に取り組むことによって進展が大いに期待される。
 2つめは、職員と所属長の対話のしくみである。従来、年度の期首に業務に関しての面談は行っていたが、個人の「ワーク」と「ライフ」の充実に向けて、両者が話題として対話することを取り入れたのも特筆すべきと考える。

(2) 具体的な取り組み内容
 具体的な推進項目としては、今までの取り組みも含めて、体系的にまとめ、着実に推進する。
① ワーク・マネジメント
  業務改善、時間外削減(2014年度(平成26年度)全庁目標 2013年度(平成25年度)の時間外勤務実績から10%の削減、2013年度(平成25年度)の超長時間勤務者数から30%の削減)、定時退庁(ノー残業デー、定時退庁強化週間)、サービス残業ホットライン設置、タイムマネジメント研修などを計画している。
  業務改善については、部局長をはじめとする管理職員が、勤務評定の基礎となる組織マネジメントシートを活用し、思い切った業務削減、業務プロセスの見直しを行うこととしている。
② ライフ・マネジメント
  支援休暇取得促進(2014年度(平成26年度)全庁目標 2013年度(平成25年度)の年休取得時間実績以上)、次世代育成支援(2014年度(平成26年度)全庁目標 男性の育児参加休暇取得率100%、男性の育児休業取得率10%)、介護支援等に取り組む。
  次世代育成支援については、労使協働で作成した、妊娠から中学校就学までの次世代育成に関する各種制度の内容を一覧にした「次世代育成各種制度早見表」や「育児参画計画書」を活用している。
  職員は「育児参画計画書」に記入し、所属長に提出することで、自身の子育てプランを明確にし、一方、所属長は職員の子育てプランを理解し、所属内の応援体制の整備など、マネジメントをスムーズに進めることができる。
  これらのツールを活用しながら、2013年度(平成25年度)に所属長の目標等を記載する組織マネジメントシートに上記の全庁目標値を明記し、組織的に取り組んだ結果、男性の育児参加休暇取得率は83.70%、育児休業取得率は13.04%と双方とも過去最高値となった。
  平成26年度からはこれらの取り組みに加え、職員が安心して産育休取得及び職場復帰ができるようにするため、産育休取得前、育休復帰後などの節目における所属長と職員との面談等の実施や、職員のこどもが親の職場を訪問する「こども参観」、産育休取得者へのメールマガジンの送信等の取り組みの実施を予定しており、次世代育成支援を推進していく。

 なお、介護については現在職員が置かれている状況やニーズを把握し、具体的な取り組みを検討する。
③ 意識・組織風土改革
  個人の「ワーク」「ライフ」について、所属長が職員のことをしっかり理解し、的確な指導をするための相互理解に向け、「所属長と職員の対話」を取り入れた。より具体的な対話ができるよう、新たにワーク・ライフ・マネジメントシートというツールを作成し、すべての職場での対話の実施をめざす(2014年度(平成26年度)全庁目標 ワーク・ライフ・マネジメントシートを活用した対話を全所属で実施)。

 その後、所属で職員の事情を共有し、所属全体の目標を決めるため、職場労使協働委員会で意見交換することとしているが、そうした機会を通じて、徐々に助けられたり助けたりといった「お互いさま」の意識が根付くことを期待する。


4. 今後の取り組みや将来的な展望

 2014年度(平成26年)4月に知事、組合委員長も参加したキックオフイベントを開催した後、各支部で労使協働会議を開催し、所属長と職員労働組合の分会長に説明した。次に、職場で所属長と分会長から職員に趣旨を説明し、職員と所属長の対話、職場労使協働委員会、部局労使協働委員会を経て、具体的な取り組みが始まった。今後は、中間、期末時点で期首と同様に対話、職場労使協働委員会、部局労使協働委員会を行い、半期や1年間の取り組みを振り返り、課題を抽出し、次期の取り組みにつなげる。
 取り組みの推進には職員の主体的、積極的な取り組みが必要である。数値目標の達成に一喜一憂するのでなく、何か1つでも具体的な取り組みが進み、変化、前進を感じてもらえるように進めていく。そのためにカギとなるのは検証であるため、丁寧に行いたいと考えている。


5. 最後に

 わたしたち三重県庁はこれまでの取り組みの積み重ねにより、ワーク・ライフ・マネジメントの取り組みを始めた。公務員は、少しでも質の高い住民サービスをめざし、ワークに時間をかけてしまうことが多いと思われる。しかし、ワークとライフ双方とも充実できる生き方をすることが最終的に住民サービスの向上につながり、住民、公務労働者双方の幸福につながるという信念のもと、この取り組みを充実、発展させていきたい。