【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第8分科会 男女がともにつくる、私たちのまち

 私たち地方自治体職員が取得することができる年次有給休暇は、週休日の外に「勤労から解放される日」を設け、職員に安んじて休養をとらせ、心身の疲労回復や労働力継続培養をはかることを趣旨としており、今日においては、教養の習得等の積極面において活用され、勤務意欲の向上に寄与する意味で重要なものとなっています。本レポートではその年次有給休暇の取得状況とその重要性について提言します。



年次有給休暇の取得状況と重要性について


北海道本部/渡島地方本部・鹿部町職員組合・鹿部町総務・防災課 竹内  稔

1. 年次有給休暇の取得状況について

 日本の年次有給休暇の導入は1947年に定められた労働基準法第39条の規定にされ、法律上当然労働者に生ずる権利として確立されています。また、地方自治体の職員は地方公務員法第24条第6項の規定に基づき、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例に定めるとされ、各地方公共団体は国家公務員に適用される一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律を根拠に条例を制定しています。
 上述のとおり年次有給休暇は、週休日の外に「勤労から解放される日」を設け、これを有給とすることにより職員に安んじて休養をとらせ、心身の疲労回復や労働力継続培養をはかることが本来の趣旨としており、今日においては、教養の習得等の積極面において活用され、勤務意欲の向上に寄与する意味でとても重要なものです。
 では、地方自治体の年次休暇取得状況について見ていきます。

(1) 平均年次有給休暇取得日数
 総務省が各地方自治体に対し調査を行っている「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」において、2012年度調査結果が示されました。
 【2012年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果 表4抜粋】

年次有給休暇の使用状況(平成24年)

 この調査結果では2012年1月1日から12月31日までの期間、非現業の一般職職員のうち首長部局に属する職員の平均年次有給休暇使用日数が算出されており、都道府県の年次有給休暇平均使用日数は前年度調査より0.5日増の11.9日、指定都市は前年度調査より0.1日減の12.9日、市区町村は前年度調査より0.3日増の10.5日という結果でした。
 この結果のとおり市区町村の使用日数は国及び指定都市と比較し低い日数となっており、民間企業については、市区町村の使用日数を更に下回る日数となっています。
 特に市町村について、下表のとおり過去5年間の年次有給休暇使用日数は都道府県及び指定都市よりも低い状況が5年連続しています。

 【2012年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果 表4抜粋】

年次有給休暇の使用状況の推移

 この状況について厚生労働省では民間企業を含めた各事業所に向け、2006年3月31日に労働時間等の設定改善指針として『労働時間等見直しガイドライン』を策定し、各事業者が労働者に対する適正な労働時間管理と年次有給休暇取得促進等を取りすすめるよう喚起しています。
 このガイドラインの中で年次有給休暇取得環境整備について、「年次有給休暇については、周囲に迷惑がかかること、後で多忙になること、職場の雰囲気が取得しづらいこと等を理由に、多くの労働者がその取得にためらいを感じる」と述べており、このことは地方自治体においても同様状況ではないかと考えられます。

(2) なぜ市区町村は年次有給休暇を取得なのか?
 上述のとおり市区町村職員における年次有給休暇平均使用日数が低迷している一因として、私は「団体規模と人口当たり職員数」ではないかと考えます。
 総務省自治行政局では2013年4月1日現在の『類似団体別職員数の状況』を公表され、その中で「人口1万人当たりの職員数」が算出されています。
 この算出と併せて、鹿部町職員労働組合員全員に対し、地方公共団体の勤務条件等に関する調査と同様の方法で年次有給休暇取得日数を聞き取り、年次有給休暇平均使用日数を算出しました。

 【2013年4月1日現在 北海道の人口1万人当たりの職員数(抜粋)】

●北海道札幌市(政令指定都市) 住基人口  1,919,664人
  普通会計職員数 10,878人
  人口1万人当たり職員数 56.67人
●北海道函館市(中核市) 住基人口 275,263人
  普通会計職員数 2,033人
  人口1万人当たり職員数 73.86人
●北海道鹿部町(町村Ⅰ-0) 住基人口 4,378人
  普通会計職員数 63人
  人口1万人当たり職員数 143.90人

※ 鹿部町職員労働組合首長部局所属非現業一般職の年次有給休暇平均使用日数
 (調査対象組合員から聞き取り集計)
  ◎ 2012年1月から12月まで: 7.44日
  ◎ 2013年1月から12月まで: 7.68日(前年比0.24日増)

 この数値と「2012年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果 表4」を見る限り人口1万人当たり職員数が多い地方公共団体ほど年次有給休暇平均使用日数が少ないことが窺えます。
 鹿部町職員労働組合の組合員からの聞き取りでも、1人の職員が抱える業務量は他の市町村と比較し軽量ではあるものの、その分多分野にわたる業務をこなさなければならず、リフレッシュ等を目的とした年次有給休暇を取得した場合、担当者以外の対応が難しく、来庁された方にご不便をおかけすることが想定され、年次有給休暇の取得をためらってしまうことがあるとのことです。もちろん各課での年次有給休暇に係る対応は策定しているものの、その業務の専門的な案件(例えば、情報システムに係る業務や防災等非常時対応業務)まで対応が追い付かない現状にあるとのことです。
 鹿部町の場合のみならず小規模な地方公共団体は今後、職員定数の削減や地方分権に伴う業務量の増などから、年次有給休暇平均使用日数が横ばい、もしくは微増減の状況が長く続くことが見込まれます。

2. 年次有給休暇の重要性

 この状況について、単純に「一職員の業務量の削減」や「職員定数の増」といった対応は、人口減少と高齢化社会を向えた今日において、適当な対応とは思えません。まず、地方自治体全体が年次有給休暇の重要性を再認識する必要があると考えます。

(1)  地域の特性を活かした年次有給休暇取得促進事業の事例
 厚生労働省では、2013年度から、地方自治体などと連携を図りながら、地域における休暇取得促進の働きかけを行う「地域の特性を活かした休暇取得促進のための環境整備事業」を実施し、全国2箇所(静岡県島田市・川根本町と熊本県人吉市)で開催されました。
 なお、年次有給休暇取得状況については、現在調査中とのことです。

 

【実施地域の取組概要】(厚生労働省HPより抜粋)
 <静岡県島田市・川根本町>
 大井川沿いを走るSLのイベント「SLフェスタ2013」や「親子の公共施設無料利用」に合わせて、小中学校などが学校休業日となる日を年次有給休暇取得の重点実施日とした。

 

 

 

 

 

 

 

<熊本県人吉市>
 国宝青井阿蘇神社で行われる人吉球磨地方最大の秋祭り「おくんち祭」に合わせて小中学校などが学校休業日となる日を休暇取得の重点実施日とする。


 ◎ 取り組み方法
  1 ポスター、リーフレットや地元ラジオ番組の放送などによる周知・啓発
  2 労務管理の専門家が地域の事業場を訪問、重点実施日の休暇取得に向け、働きかけ

<厚生労働省:促進事例概要>

(2) 年次有給休暇取得促進が人口減対策に
 人口減少が見込まれる今日において、各市区町村では如何にして人を取り込み、人を流出させないか、という課題を抱えていますが、こういった人口減少の中でも、育児政策や医療福祉政策により人口増に成功している市区町村があります。
 そのような今日の中で年次有給休暇取得促進は、前述のとおり職員に安んじて休養をとらせ、心身の疲労回復や労働力継続培養をはかることを趣旨として取得を促しますが、さらに家庭の事情により育児休業が困難な職員に対し年次有給休暇取得を促すことによる育児参加や、医療福祉分野においては、年次有給休暇取得による心身の疲労回復により疾病等傷病率の減少から医療費等の削減が見込まれます。

3. 年次有給休暇の積極的取得を

 厚生労働省では年次有給休暇の計画的付与制度を導入するよう各事業所に斡旋しており、地方自治体にも波及していくのではないかと考えます。地方公共団体の業務の特性上、困難な側面もあると思われますが、労働行政の長である厚生労働省が推奨する年次有給休暇計画的付与制度等、地方公共団体が率先して年次有給休暇取得促進を実施し、他の民間企業を牽引していく存在になっていく必要があると考えます。