【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第8分科会 男女がともにつくる、私たちのまち

 全国的にも公立の保育園が減少し、民間保育園が増えてくる中、公立保育園のあり方そしてそこで働く保育士の現状と、保育士の非正規化が増大する職場環境について、これから我々はどのように取り組むべきか、現場で働く保育士の目線から考える。



大田市の「自治体が担う」
保育サービスのあり方について

島根県本部/大田市職員組合 大久保真弓

1. はじめに

 大田市には公立保育園が分園1園を含めて11園あり、民間保育園は山間部、中央部合わせて8園ある。幼稚園は公立が4園(1園休園中)、また認可外保育施設として運営されているものが3園ある。
 大田市の人口は37,984人(2013年7月1日)であり、また高齢化率は35.0%と少子高齢化の傾向にある。そして約1,090人の児童が保育園に入園している。うち公立保育園に入園している子どもは約500人である。

2. 現代の保育に関わる国の動きと社会情勢について

 1990年に厚生省(当時)がまとめた人口動態統計で、一人の女性が生涯にわたって産む子どもの数が過去最低の1.57人となったことが発表され、以降「少子化」「子育て支援」が一般用語として語られるようになった。「子育て支援」として社会全体で取り組むことの大切さが強調されるようになり、保育という仕事が福祉からサービス業であると言われるようになった。それまでは「子どもの最善の利益」を求め、子ども中心に考えた保育を行うとともに、保護者がどのように子育てをしていけばよいのかについてアドバイスをしていたが、現在では社会状況の変化に伴い、いかに保護者が子育てについて負担感を覚えずに生活することができるか、そのためのサービス内容が求められるようになってきた。
 そして保育士資格が2003年の児童福祉法改正に伴い、県認定の資格から国家資格になった。児童福祉法第18条の4にて子育ての基盤となる家庭の機能が低下していることから「保護者への保育に関する指導」が保育士の業務として新たに追加された。さらに、義務規定として、①信用失墜行為の禁止(18条の4)②守秘義務(18条の22)(違反者は資格消失をはじめ罰則規定まで付されることとなった。)また、48条の2第2項により保育園に勤務する保育士は、乳幼児に関する助言を行うための知識及び技術の習得、維持及び向上に努めなければならないとされた。
 従来通りの通園してきている子どもたちの保育に加え、保護者の相談に応じることはもちろんのこと、在宅で育児をしている家庭の支援や地域での子育て支援も保育士の重要な役割とされるようになってきたのである。在宅児のサポートは特にデリケートなケースが多く様々な機関と連携をとり、多角的なサポートが有効でかつ必要である。

3. 大田市の子育て支援の課題

 保育所における職員配置基準は、児童福祉法第45条及び児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第33条で最低基準が定められており、保育士1人に対して0歳児3人、1歳、2歳児5人(国は6人)、3歳児20人、4歳児以上30人となっている。この基準は以前から改正されていないにもかかわらず、責務が課され業務量が増え、現代社会が求めているニーズに合った人員配置がされているとは言い難い。
 大田市だけではないが保育サービスにおける一番の問題点は人員不足である。大田市でも一時保育サービスを掲げているが現場に余裕がないことは明らかである。
 例えば受け入れをする心構えはあるが人員不足で断るケースが少なくない。また、地元の保育園に途中入所希望を出しても、人員不足のため中央に位置する離れた民間保育園を子育て支援課から紹介されることがある。(これを保護者が断れば、この子どもについては待機児童とはみなされないということになっている。これは都市部における対策ルールであって、決して地方の実情に合ったものではない。)そして、保護者が地元の保育園に入所させたいという希望は大変強く、結果として母親が職場復帰を断念してしまったというケースも実在する。
 公立保育園では、地域の子どもが地域の方々と触れ合う機会を意識して多く取り入れている。祭り、町民運動会、敬老会、地域の福祉施設訪問等地域の中で住民の皆さんとふれあいながら育てられるべきであると考えており特に大切にしている。地域の一員として育ち、将来は子育てをしていく存在になるからこそ連携が大切なのである。住民の皆さんにとっても、将来を担うであろう子どもたちが育っていく姿を身近にみることができるということは、地域の活性化に通じる事だと思う。
 また、保育園の入園条件の一つとして、大田市では4歳に満たない子どもについては、家庭で養育できる人がいる場合は入所できない、となっている。そのような子どもたちは幼稚園に通わなければならない。果たしてこの現状が、将来の大田市を担う子どもたちを育てていく環境だと言えるのであろうか。本来であれば幼稚園対象の子どもも地元住民と交流することによって育っていくことが望ましい。
 地元の保育園に入所させたいと願うことは当然のことであり、保育室の空きスペースがあるにもかかわらず、人的環境の不足による受け入れ困難な状況であるということは大変残念なことである。生まれ育った地域の保育園、小学校へ通うことによって、子どもたちはお年寄りをはじめ地域社会全体の中で、様々な人々と関わることで得られる教育的なメリットは大きなものがある。

4. 大田市の保育士の労働環境の問題点

 健康でいつまでも長く意欲を持って働き続けたいという気持ちがあっても、実際には職場で精神的にも身体的にもかなりの負担を強いられていることにより、定年まで働き続ける自信を持っている人は少ない。ここでそれを表している大田市でのアンケート結果を紹介する。

正規職員への質問
12. 定年まで働くか
①はい ②いいえ
15人 75人
(2) いいえの理由
(ア)身体的
理由
(イ)精神的
理由
(ウ)介護・
家族
(エ)他にやりたい
ことあり
(オ)能力・体力の
低下
(カ)その他
34人 50人 7人 10人 18人 2人

 このアンケート結果からは、人数不足から忙しすぎる、業務内容や公務員といった立場から身体的にも精神的にも負担を強いられる状況にあり、長期療養や療養後職場復帰が叶わず退職していく職員も少なくない。
 このような実態を踏まえて、職員組合では保育士を中心とする保育現場での問題点を明らかにするために、職場代表委員、女性部役員、基本組織執行委員が集まり保育現場での実態把握に取り組み始めた。
 私たち保育士の労働環境は、業務が就労時間内に終わらないのが現状である。その理由は、①保育士の労働時間は7時間45分(早番、普通番、遅番などのシフト勤務)であることに対し、子どもの預かり時間は11時間となっている。②保育士の任務となっている「保育課程」「食育計画」「保育年間計画」「月案」「日誌」「個人経過記録」「クラス便り」また、発達障害児における各連携機関への書類作成などは、ほとんど全ての子どもが帰ってからの時刻(保護者のほとんどはフルタイム就労状況にあるので登園時刻は7時半から8時までがピークであり、降園時刻は17時半以降を占める割合が多い。)に行うこととなる。つまり、早くて17時を過ぎてから取りかかることになる。また翌日の保育教材の準備や、行事に向けての準備も同様で、定時内での業務終了は困難な状況である。③保育士資格が国家資格になり、様々な罰則規定まで定められているという国の動きであるのに、無資格の職員を配置している。保育園の保育は養護と教育を一体化させるべきものであり、無資格職員で対応できるものではない。カバーするのは当然資格を持った職員である。④保育時間より少ない勤務時間(例えば9時から16時まで)でパート職員を一人の保育士枠で配置し、基準をクリアさせていることに対して、非常に疑問を感じる。これもフルタイム労働者が無資格職員、パート職員のカバーをすることによって、その負担はさらに増しており、早番であっても帰られない。遅番であっても早めに出勤して勤務している状態もある。

5. 臨時保育士の状況

 大田市の保育士の半数を占める臨時保育士においても同じ状態である。正規保育士と同じように担任を持っており、正規職員と同じように書類作成があり、時間外労働をせざるを得ない状況である。臨時保育士が担任を持って経験・年齢等を考慮されることなく低賃金で正規職員と同じように労働することに対して不満を持つ職員も多い。雇用に対する安定性のない立場の臨時保育士が、不満を口にすることもなく働いている状況を見て、同じ職場で働いている者にとって申し訳ない気持ちもあるし、どうしてそのような思いを自分たちが抱かなくてはいけないのかという疑問も芽生えてくる。
 正規保育士も臨時保育士も仕事に対して、意欲を持っているからこそどのような労働条件であっても、無理をしながら働いているというのが現状である。臨時保育士が正規保育士とほぼ同じ仕事をしているとともに国家資格になったことにより、責任も十分に課されていることからしても保育士は正規対応でされるべきだと言える。

6. 公立保育園として今後の保育を見つめる

 私たちが働かなければならない、また働くことができるのは家庭という基盤があるからこそである。自分の生活と仕事をいい状態で両立させていくこと、つまりワーク・ライフ・バランスを確立させながら生活することをめざすのは当然の主張すべき権利である。人を相手にする職場で、自分の心が穏やかで満たされた状態、つまり身体だけでなく心も健康でないと、保育される幼児の心を穏やかに育てることは大変難しくなることは、臨床心理士により周知されていることである。
 一方では、子どもや保護者を支援するために必要だと感じている仕事の中には、公立の保育士としての業務内容にあたるのかという疑問もある。しかし、私たちは公務員として誇りを持ち、専門の技術・知識を活用し、情熱を持って職務に当たっていると自負している。それ無しには、現在の様々な情勢の下で育っていく子どもたちの発達の援助と、情報化社会の中で溢れ出す膨大な情報の取捨選択に戸惑い、心の不安定な状態で子育てをしている保護者への支援は大変難しいものとなるであろう。また、発達障害を抱えている子どもの支援に当たっては、地域を含めての支援が必要である。発達障害について、様々なところで理解を求める取り組みが行われているが、医学的にも未解明な部分も多く、世間一般においても十分な理解を得ることが出来ていない。このため保護者は子育て段階での悩みが多く、精神的負担も大きい傾向にある。このようなことを理解するとともに、その子どもに合った個別の方法で支援することにより、子どもたちの将来がより良いものになる可能性が大きい。しかし、必要な時期に必要な対応がされないことにより、学ぶべき時に学べない、そして成功体験を積めないことにより自尊感情が持てず、社会の中で生きにくくなることが多くなるのである。こういった時間も気力も要する子育てにおいて手抜きはできない。
 民間保育園が大田市においても指定管理制度導入とともに徐々に増えてきている。民間保育園というのはやはり経営が成り立つということが最低条件であり、いわゆる「利益」がないと運営していけない。経営が目の前にあるということから経費を保護者の見えない部分で削減するといったこともあり得るのではないか。食育、食の安全性の追求や子どもに直接かかる消耗品費の削減などが考えられる。福祉施設の保育部門において営利目的なしに運営不可能な企業に委託することは、行政として責任ある態度とは言えないのではないだろうか。
 保育は教育と養護を一体化して行うものであると保育所保育指針により明確な記述がある。その両方を兼ね備えた業務をするということは前述しているとおり、多大な業務内容と精神的負担を強いることになる。人員確保に加えより良い安定した職場環境でないと遂行は困難である。
 民間保育園では、待遇面に不満を持ち短期で転職していく職員がいる。公立の正規保育士は退職するものは少なく、年々経験を積んできている。経験を積むことにより、適切な助言をすることが出来る。保護者が市の開催する1歳半健診、3歳児健診等において子育ての悩みを誰に相談するのかというアンケートに対し、保育士という回答が最も多く、一番身近な相談相手となり得ていると自負しているところである。
 また、公立保育園は民間には少ない職員の人事異動がある。複数の公立保育園を抱え職員が異動することにより様々な考えが検討され、より良い保育につなげることができている。また、一定水準の保育内容を提供することは私たち公立保育士としての責任であり、常々、民間保育園のモデルとなるような保育士でなければならないと思っている。自己研鑚に努めることはもちろんのこと、プライベートにおいても公務員としての自覚を持って生活することは必至である。臨時保育士を職員仲間として指導する立場であるとともに、彼らの労働環境についても守りつつ職務の遂行を共に力を合わせていく姿勢を持ち続けることが重要である。
 大田市では当局と職員組合との関係は比較的良好であり、是々非々ではあるがお互い尊重し合いながら交渉を行っている。しかし、2005年を最後に大田市の保育士採用はないように、保育園の民営化を進める方向に見受けられる。保育士の年齢バランスは若い臨時保育士により何とかとれているが、臨時保育士も安定した雇用環境ではないため、保育士というやりがいのある職を辞め、他の職種に転じる方が多く、結果全体的に必要とする保育士の確保に困難をきたしている正に負のスパイラルに陥っている。そして、その被害者ともいえる影響を被っているには、未来を担っていく「子どもたち」なのである。
 「子どもの最善の利益」を考えて、保護者の就労だけを条件に保育施設利用をするのではなく、本当の意味での「子育て支援」を今、ここで行政の責任として考えるべきではないかと思う。都市部では保育所が足りないことについて5年間で政府が待機児童解消をめざそうという動きがある。しかし、現場では規制緩和による質の低下を懸念せざるを得ない。やはり、最低基準を守り続けることは行政が直接運営する公立保育園にしかできないことだと思う。
 公務員として市の財政情勢を考えつつも労使が充分に協議を重ね、経費削減のための民間委託ではなく、子どもたちのより良い環境を求め続けていくことを公立の保育士として、また一大田市民として訴えていきたい。
 事務職、保育士等の職種を越えて、全ての組合員が同じ方向を向いて、今後も取り組みを続けていこうと思う。