【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第8分科会 男女がともにつくる、私たちのまち

保育士採用と子育て支援総合施設オープンまでの道のり


福岡県本部/八女市職員労働組合 樋口マサミ

はじめに

 福岡県南部の「茶のくに」八女市は2010年2月に1市2町2村が合併し、労働組合も組織統合を行い、現組合員総数599人の八女市職員労働組合(以下市職労)が誕生しました。
 市職労における保育所問題研究会(以下保問研)は、八女市の公立保育所(6ヶ所)で働く組合員で構成され、公立保育所が直面する問題や本市における子どもたちを取り巻く現状など課題解決に向けた検討・議論を定期的に行っています。

1. 民営化計画

 公立保育所の民営化に関しては、財政状況の悪化を理由として、行財政改革を進めるなか、2005年4月に「第4次八女市行政改革大綱」に位置付けられました。その後、「八女市保育所運営検討委員会」及び「八女市社会福祉施設運営委員会」において検討が行われ、八女市の全ての公立保育所を民営化の対象とする「八女市における公立保育所の民営化計画」が策定されました。その後、当局と交渉を重ねてきましたが、2003年公設民営化された保育所に続き民営化計画に応じて2009年4月からさらに1ヶ所の直営の公立保育所が民営化されました。
 民営化計画が進むなか保問研は、公立保育所の位置づけを明確にし、地域の多様な子育て・子育ちを支える役割を果たしていくために、これからの公立保育所のあり方について有識者の助言を受けながら、さまざまな視点から議論・検討を重ねました。これらの議論の過程の中で、本来はすべての公立保育所を民営化せずにこのまま存続していきたいという思いがありました。しかしながら、八女市の情勢等を踏まえ、6ヶ所ある公立保育所を3ヶ所に拠点設置し、存続する保育所においては人的にも設備的にも充実させ、八女市の保育を保証し、市の責務として保育水準を高め、そして私たち公立保育所が子育て支援の総合拠点としての役割を果たしていくことが重要であると考えました。そこで、公立保育所の機能と役割を考慮し、八女市の今後の子育て施策として保育の水準を高める拠点施設として、最低でも八女西部地域、八女南部地域、八女北部地域のそれぞれの地域に公立保育所を存続させる必要があることを提言しました。
 2010年10月、「これからの公立保育所のあり方についての提言書」をまとめ、当局に提出しました。その後、2011年11月になって『八女市公立保育所再編計画』が当局から提案されました。その中で、3ヶ所の公立保育所を地域の子育て拠点施設として存続することに変更されました。これは、保問研として公立保育所の存在意義や役割を明確にする内容の提言書を作成し、当局へ提出した成果といえます。

2. 保育士採用までの経過

 八女市の全ての公立保育所を民営化の対象とする「八女市における公立保育所の民営化計画」がある中、正規の保育士の採用は、2002年を最後に11年間行われていませんでした。正規の保育士の退職補充については、非正規職員での補充となり、現在6ヶ所ある公立保育所の職員の6割は非正規職員となっています。そのような状況の中、しょうがいのある子の加配を、非正規職員が担っている保育所も多く、身体的・精神的負担も大きくなっているといえます。
 子育て環境が悪化し支援が必要な家庭が多くなり、配慮を必要とする子どもが増える現在であるからこそ、子どもの利益が優先され、その発育を尊重し支援する保育が必要です。相談業務や関係機関との連携も重要な役割となっており、支援が必要な子どもの受け皿となることが行政の役割であり、真の次世代育成に繋がっていくと考えます。このまま非正規化が進めば保育業務へ支障をきたし、保育士の育成にも問題が生じることとなります。
 保育士採用の空白期間があったため年齢層が偏っており、保問研は市職労と連携し、正規職員の採用に向けて所属長との意見交換の場を設定し、保育現場の実態を訴え正規の保育士採用を強く要求しました。2012年7月の人員確保闘争では、11年ぶりに正規の保育士2人の採用を勝ち取ることができ、また、現在3ヶ所の公立保育所の民営化計画がある中、2013年の人員確保闘争においても3人の採用を勝ち取りました。現在、50代が9人、40代が14人、30代が5人、20代が5人とまだまだ偏りがあり課題ではありますが、その解決の第一歩として近年採用試験を勝ち取ることができたのは、保問研として公立保育所の存在意義や役割を明確にする内容の提言書を作成し、市の施策として「再編計画」により、地域全体での子育て支援をする基盤を形成し、子育て支援事業の拠点施設として、公立保育所を存続させる方針へ転換させることができたからといえます。保問研での長年の地道な活動の積み重ねが成果として現れました。

3. 八女市子育て支援総合施設オープン

 『八女市公立保育所再編計画』では、八女市の3ヶ所の公立保育所を拠点施設として存続することになりましたが、築年数も30年以上経っている保育所が多く、建て替えの必要性を求める意見も出ていました。そのような状況を踏まえ、八女市の中心部に存在している福島保育所の移転とともに、子育て支援センターとの併設を目的とする「八女市子育て支援総合施設計画」が策定されました。
 保問研では、公立保育所のあり方や必要性などを考え、保育所の職員としてだけではなく、地域に密着した子育て支援を行っていくことの重要性から、この総合施設の建設計画段階から携わっていくことを要望し、当該計画のプロジェクトチームには、各保育所から保育士1人(1保育所のみ給食調理員)が入り、現場からの意見・要望を反映させることができました。よりよい施設を造っていきたいとの一心で他県の子育て支援施設を視察に行くなど、話し合いを重ね方向性を一つにしたので、保育現場の声も聴いていただき、子どもたちが安心して過ごせる素晴らしい施設となりました。
 新施設の運営方針は、「近年、少子化や核家族化の進行及び家庭力やコミュニティー力の低下で、子どもや子育てをめぐる環境は大きく変化している。その中で、子育て中の親の孤独感や不安感の増大といった問題が生じ、育児不安や虐待として表出している。特に、幼児期は生涯にわたる人格形成の基礎を培う極めて重要な時期と位置付けられ、保育行政の充実や地域における子育て支援の推進が求められている。また、国の少子化対策をめぐる動きにも変化が見られ、2012年8月に『子ども・子育て関連3法』の交付が行われ、子ども・家庭を支える仕組みが大きく変わろうとしている。そのような中、八女市では子育て支援の総合施設として本施設を建設し、保育行政と地域における子育て支援がそれぞれの機能を果たしつつ、共通の支援理念や支援目標に向かって連携し、八女市の未来を担う子どもの健やかな育成を図るものである。」となっており、施設の支援理念、支援方針、支援ビジョンに基づき運営されていくことを期待しながら、私たちも努力していきたいと思います。
 現在、少子化や核家族化の進行、地域社会の変化など、子どもや子育てをめぐる環境が大きく変化する中で、家庭や地域における子育て機能は低下傾向にあり、子育て中の親の孤独感及び不安感は増大しています。地域の子育て支援機能が弱まり、児童虐待も増大かつ深刻化が止まらない中で、地域支援機能の強化を含めた保育所と支援センターの役割はますます重要になっています。そこで、地域における子育て、親子の交流等を促進する子育て支援事業を実施し、地域の子育て支援機能の充実を図り、子育ての不安感等を緩和し、子どもの健やかな成長を支援することが重要です。今後も、公立の施設としての存在意識や行政職員としての役割を明確にし、常に自らの資質向上と専門性を高める努力をしていく必要があると考えます。