【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第8分科会 男女がともにつくる、私たちのまち

 大分市職労では、現在の業務を自ら見つめ直し、市民サービスの向上をめざして政策提言・要求を積み上げ実現させる「自治体改革闘争」を1999年に開始し、これまで現業職場を中心に取り組んできました。今回は行政改革交渉で確立した「清掃指導業務」について、取り組みの経過を報告します。



子育て・子育ち支援のあしたをめざして
―― 別府市公立保育所再編計画にかかる取り組みについて ――

大分県本部/別府市職員労働組合・保育部会

1. 当時の別府市の公立保育所を取り巻く情勢

○ 市内の保育所は、公立保育所11園、私立認可保育所15園、その他17園の認可外保育所が点在していた。
○ 公立保育所のほとんどが築後30年以上経過しており、大規模改修も行われていないため老朽化が激しく、望ましい保育環境ではなかった。
○ 保育士(正規)は、一時期の労使対立からほとんど退職者不補充となっており、非常勤職員が増加するとともに正規職員の平均年齢も高くなってきていた。多くの団塊世代の退職を控えており、大規模な採用が必要となっていた。
○ 公立保育所建設に関わる国県の補助は保護者のニーズに合ったもの(支援センターなどの併設)が対象となっていた。
○ 共働き世代の増加により、支援センターや放課後児童クラブ、児童館などの拡充が求められていた。また、待機児童の解消も喫緊の課題となっており、民間保育園の増築などで措置定数増を進めているが、需要に追いついていなかった。
◆公立保育所を取り巻く情勢に対応するには
① 子育てを取り巻く環境の変化に対応する
② 老朽化した施設を改善する
③ 人員配置を含め、現状の問題を解決する

2. 経 過

① 別府市当局は、別府市職労に対して「公立保育所の再編計画とそれに伴う条例の一部改正」についての提案を行ってきました。
  【提案された公立保育所再編計画】
  ◆子育て支援の核として、児童健全育成の充実を図るため、保育所・児童館・子育て支援センター等の複合施設を建設する。
  ◆公立保育所(11園)を2006年までに統廃合及び民間への移管を実施し、併せて民間ニーズの多い延長保育・一時保育の実施を検討する。
  ◆具体的には、地域の拠点施設として南部、北部、西部地区に定員を増やした保育所・支援センター・児童館の機能を備えた複合施設を市直営で運営する。残り8施設は年次計画で民営化し一部は児童館に改築する。
② 市職労は内容を検討した結果、以下の理由から再考を促し、一端当局に差し戻しました。
  ◆条例廃止案(民間移管)が先行している。
  ◆公設公営の複合施設の約束が不透明である。
  ◆将来に渡る計画を一括して決めてしまうことは問題が多い。
  ◆市民福祉の重要な問題であり、市民・保護者・議会の合意が得られるか疑問である。
  しかし、
  ◇公立保育所の老朽化が激しく、耐震性もないため早期の建て替えが必要。
  ◇建て替えは国・県の補助事業が基本となり時間的制約がある。
  ◇入所待機児童解消のための早急な措置が必要である。
  などから、計画を分割した上で、第1次再編計画として再度提案がされました。
   その後、第2次・第3次再編計画として提案・検討・実施されました。

3. 現 状

◆南部地区拠点施設
 中央保育所・南部子育て支援センターわらべ・南部児童館
◆西部地区拠点施設・ほっぺパーク
 鶴見保育所・西部子育て支援センターべるね・西部児童館
◆北部地区拠点施設・すきっぷパーク
 内竈保育所・北部子育て支援センターどれみ・北部児童館
 *保育所では……
  ・特別保育(延長保育 7:00~19:00、一時保育)
 *支援センターでは……
  ・来所する親子への支援
  ・育児相談
  ・親子で遊べる場の提供
  ・サークル活動の開催
  ・自主サークル育成支援
  ・保健師、栄養士、外部講師による講習会
 *地域に広げる活動として……
  ・3センター合同行事(運動会、クリスマス会)
  ・広報活動(健診時のリーフレット配布 等)
  ・出前保育
 *その他……
  ・ファミリーサポート事業
  ・訪問事業
  ・親育ち支援プログラム(NP)開催

4. 公立保育所再編計画を振り返って

 市職労と保育部会は当局から提案された「公立保育所再編計画」について労使協議、交渉を重ねてきました。8年に及んだ保育所再編も、朝日・平田・あけぼのの民間委託と、新内竈保育所の完成によって一定の収束を見ます。この間労働組合として、当局の再編計画に一定の理解を示しながら協議を進めてきた大きな理由は次の一点に集約できると考えます。
    「限られた条件の中で、
       支援が必要な子どもや保護者のために、
         私たちが何を守り、何を作ることができるのか」
 労働組合の目的は、そこで働く人々の権利と生活を守り、健康で生き生きと働くことのできる職場を作ることです。民営化や民間移管などはその目的に反するものであり、それまでは「絶対反対」の立場で臨んできました。先に挙げられた再編計画も、組合の立場からすれば「自らの首を絞め、行革に荷担する内容」だったのかもしれません。しかし、核家族や共働き世帯が当たり前となる中で、助けや支えを必要とする子どもや親が激増しています。
 子どもの豊かな成長を支える私たち保育士にとって、育児ノイローゼや児童虐待、いじめなどの問題は決して見過ごすことはできません。また、待機児童が解消されない中、認可外の施設で痛ましい事故が報道されるたびにやるせない気持ちでした。
 また、当時私たちの職場は市の財源不足で老朽化が進み、とても子どもを保育する環境ではない状況でした。保育士の新規採用も10年以上ストップされ、非常勤が激増し、他の自治体の民営化を耳にするたび「このまま公立保育所はどうなるのだろう。すべて民営化されるのだろうか」との不安がつきまとっていました。
 そんな時に提案されたのが、この再編計画でした。
 当初は迷いました。11園もの公立保育所が3園までに減ってしまうのですから。
 「本当に新しい保育所なんてできるのか」「民間移管だけでおわってしまうのでは」という意見も多くありました。
 しかし、親組合や市当局と協議を重ね、何度も保育士全員で話し合った結果、
① 助けや支えを求める親子のために、支援センターや児童館を通じて私たちの経験や知識を生かせる。また、全体的な定員増で待機児童も解消する。
② 少なくとも3園は公立として残り、他の認可園のお手本として今後も頑張ることができる。また、一定の新規採用を勝ち取れば、正規職員の比率も正常に戻る。
ことなどがわかり、不安も徐々に解消されていきました。
 連日の話し合いや夜遅くまでの交渉は大変でしたが、仲間を信じて頑張ってきた結果、なんとか新しい拠点施設も2つ完成し、わずかながら毎年正規の保育士も採用されるようになりました。児童館で生き生きとした子どもたちの姿や、支援センターでお母さんたちの相談に乗ってあげられる仲間を見るにつけ、この方向は間違っていなかったと確信できました。しかし、反省点や課題も多くありました。

(1) 反省点
① 運営や雇用の問題で、園(法人)側が保護者・保育士と対立し、大きな問題となった移管園もあった。移管後のトラブルを防止するために、実績のある法人に移管すべきだったし、最低でもトラブル発生時の対応を当局にきちんと作らせておくべきだった。
② 極端な環境の変化で子どもや保護者に不安を与えないために、「2年間は保育内容を引き継ぐ」ことになっていたが、それが守られていない園があった。
③ 引き継ぎの期間は一定期間あったものの、法人によっては重く受け止めていないところもあり、不十分なまま引き渡してしまったケースもあった。
④ 移管後の公立保育所・児童館・支援センターのあり方(保育内容・職員数・正規と非常勤の割合など)を詳しく詰めていなかったため、計画推進中に慌てて労使協議を行う場面があった。

(2) 今後の課題
① 「正規7割」を守らせるための計画的な新規採用。
② 認可保育所のお手本になるための、公立保育所の機能充実。
③ 子育て支援拡充のための、児童館・支援センターの適切な職員配置。
④ 給食部門を民間委託させないための、食育等の取り組み強化。
 ○ 離乳食対応(前期・中期・後期)
 ○ アレルギー児に対応するための除去食
 ○ クッキング事業(楽しく料理を作り、みんなで調理した物を食べることにより「食べる楽しさ」「食の大切さ」を知ってもらう)
 ○ 給食試食会(保護者を対象に実施)
 ○ 保育所体験での給食提供(在宅児童を対象)
 冒頭記したように、私たちが頑張ってこれたのは、「自分たちの職場を守ること」以上に、「子どもたちのために何を守り、何を作ることができるのか」という思いでした。
 この計画を単なる行革と受け止め、職場を守ることだけに汲々としていたら、ここまでたどり着けなかったかもしれません。そして、仲間と組合を信じ、何度も何度も話し合いを重ね、納得いくまで親組合に意見をぶつけてきたことも大きいと思います。再編計画が無事に終了したことも嬉しいですが、この運動の中で、仲間の信頼や若手の成長、部会の組織強化が図れたことも大きな財産となりました。
 とはいえ、現在の保育職場を取り巻く状況を見たとき、今後も決して楽観できません。
 これからも、財政難や行革の流れに負けることなく、子どもたちのために正々堂々と声を出し、「公立保育所」を守りながら、自治体職員としての保育士の役割を追求していきたいと思います。

別府市立保育所・子育て支援施設の変遷