はじめに
看護師不足、看護職の早期離職が社会問題化して久しい。この問題は労使ともに解決策を見いださなければ改善の道はない。自治労大分県本部が実施したアンケート等をもとに、大分県職員連合労働組合に集う看護師、産業保健担当保健師をメンバーとして研究を実施したので報告する。
1. 現 状
(1) 大分県職員の状況
表1 年齢別人数割合 |
2013.4.10現在 |
年 齢 |
~24 |
25~29 |
30~34 |
35~39 |
40~44 |
45~49 |
50~54 |
55~59 |
60~ |
計 |
女性(知事) |
62 |
202 |
259 |
193 |
205 |
122 |
100 |
84 |
15 |
1,242 |
女性(病院) |
20 |
104 |
135 |
60 |
77 |
32 |
22 |
34 |
1 |
485 |
女性(計) |
82 |
306 |
394 |
253 |
282 |
154 |
122 |
118 |
16 |
1,727 |
男性(知事) |
71 |
204 |
294 |
421 |
479 |
587 |
632 |
503 |
69 |
3,260 |
男性(病院) |
3 |
9 |
20 |
32 |
25 |
23 |
24 |
22 |
0 |
158 |
男性(計) |
74 |
213 |
314 |
453 |
504 |
610 |
656 |
525 |
69 |
3,418 |
計(知事) |
133 |
406 |
553 |
614 |
684 |
709 |
732 |
587 |
84 |
4,502 |
計(病院) |
23 |
113 |
155 |
92 |
102 |
55 |
46 |
56 |
1 |
643 |
合 計 |
156 |
519 |
708 |
706 |
786 |
764 |
778 |
643 |
85 |
5,145 |
|
組合加入者は、県職労3,169人(加入率96.6%)、病院局労518人(加入率97.5%)である。
(2) はたらく女性の健康調査
自治労大分県本部が、2012年1月~2月に女性組合員を対象に実施した「はたらく女性の健康調査」について、大分県職員連合労働組合に加入する女性組合員に対しても同じ調査(自記式無記名アンケート)を実施した。
アンケート配付数1,132、回収数650、回収率は57.42%だった。回答者の年齢区分は表2のとおり。
表2 アンケート回答者年齢別人数割合 |
|
20歳代 |
30歳代 |
40歳代 |
50歳~ |
計 |
女性組合員 |
回収数 |
全 体 |
136人 |
217人 |
202人 |
95人 |
650人 |
1,132人 |
57.4% |
知事部局 |
76人 |
128人 |
134人 |
66人 |
404人 |
669人 |
60.4% |
病院局 |
60人 |
89人 |
68人 |
29人 |
246人 |
463人 |
53.1% |
|
図1 アンケート回答者(年齢別内訳) |
|
今回の研究では、このうち知事部局40歳以上のデータ及び病院局全員のデータを読み取ることとする。
2. 現 状
(1) 健 康
前述の「はたらく女性の健康調査」で「疾患の有無」についての問いに対しては、知事部局と病院局に差はなかった。
「月経不順」について「ある」と答えた人は病院局の方が多く、特に40歳未満では、7割近くが月経不順を訴えている。その具体的状態として半数近くが「月経痛が強い」、3割近くが「周期が不規則」と訴えている。
「更年期と思われる症状」は知事部局も病院局も7割近くが「ある」と答え、病院局では、40歳未満でも3割は「更年期症状がある」と答えている。その症状として病院局労では「疲れやすい」と半数以上が訴えており、「腰痛」の割合は知事部局より高く、「意欲低下」については、知事部局より訴える人が明らかに多かった。(図表省略)
(2) 働き方
① 超過勤務の状況
表3 超過勤務の状況 |
|
超勤なし |
24時間未満 |
24~45時間 |
45~99時間 |
全 体 296人 |
32人 |
130人 |
94人 |
39人 |
知事部局 200人 |
29人 |
110人 |
41人 |
19人 |
病院局 96人 |
3人 |
20人 |
53人 |
20人 |
|
図2 超過勤務の状況 |
|
病院局の7割強が24時間以上、2割は45時間以上の超過勤務を行っており、知事部局より明らかに超過勤務が多い。
② 定年まで働き続けるか
「はたらく女性の健康調査」で60歳定年まで働き続けるかとの問いに対し、知事部局では、「働き続ける」と答えた人が半数を超えたのに比べ、病院局では1割強しかいない。この傾向は、65歳まで働くかという問いではより顕著に表れる。
表4 60歳定年まで働き続けるか |
|
はい |
いいえ |
わからない |
はい |
いいえ |
わからない |
全 体 297人 |
114人 |
68人 |
115人 |
38.4% |
22.9% |
38.7% |
知事部局 200人 |
101人 |
24人 |
75人 |
50.5% |
12.0% |
37.5% |
病院局 97人 |
13人 |
44人 |
40人 |
13.4% |
45.4% |
41.2% |
|
図3 60歳定年まで働き続けるか |
|
表5 定年延長した際、65歳まで働き続けるか |
|
はい |
いいえ |
わからない |
はい |
いいえ |
わからない |
全 体 296人 |
42人 |
135人 |
119人 |
14.1% |
45.5% |
40.1% |
知事部局 199人 |
39人 |
69人 |
91人 |
19.5% |
34.5% |
45.5% |
病院局 97人 |
3人 |
66人 |
28人 |
3.1% |
68.0% |
28.9% |
|
図4 定年延長した際、65歳まで働き続けるか |
|
図5 60歳、65歳まで働き続けるか |
|
図6 60歳、65歳まで働き続けるか 病院局(年代別) |
|
③ 定年まで働かない(働けない)理由
定年まで働きますかという問いに「いいえ」「わからない」と回答した人の理由は下記のとおり。
表6 定年まで働かない(働けない)理由 |
|
今の心身の疲れ |
体力・能力の低下 |
介護・家庭 |
他にしたいことあり |
全 体 118人 |
58人 |
30人 |
11人 |
19人 |
知事部局 56人 |
22人 |
9人 |
7人 |
18人 |
病院局 62人 |
36人 |
21人 |
4人 |
1人 |
|
図7 定年まで働かない(働けない)理由 |
|
知事部局と病院局では「定年まで働かない(働けない)理由」に差がある。知事部局では、「他にしたいことがある」と答えた人が多いが、病院局ではほとんどいない。
表7 定年まで働かない(働けない)理由 病院局(年代別) |
|
今の心身の疲れ |
体力・能力の低下 |
介護・家庭 |
他にしたいことあり |
病院局 147人 |
86人 |
49人 |
8人 |
4人 |
40歳未満 85人 |
50人 |
28人 |
4人 |
3人 |
40歳以上 62人 |
36人 |
21人 |
4人 |
1人 |
|
図8 定年まで働かない(働けない)理由 病院局(年代別) |
|
病院局では、年代を超えて「今の心身の疲れ」と「体力・能力の低下」とで9割を超える。若い頃から心身の負担を感じていることがわかる。
(3) 看護師の働き方に関する他機関の調査
看護職員不足や早期離職が社会問題化する中、(社)日本看護協会の「潜在ならびに定年退職看護職員の就業に関する意向調査報告書(2007年3月)」の中で離職(退職)理由の調査が行われている。
離職(退職)理由を退職者自身の状況に関することと職場環境に関すること各16項目の中から、退職者本人には、あてはまるもの全て、看護管理者に対しては、主な退職理由5つを選択させるアンケート調査で、それぞれの上位10位までの項目の結果が図9のとおりである。本人の理由1位は「妊娠・出産」、2位は「結婚」、3位は「勤務時間が長い・超過勤務が多い」となる。これらの離職理由の背景には、労働問題があると推測される。
さらに、この調査で興味深いのは、看護管理者の考える離職理由には、職場環境に関するものが上位10位以内には見られないことである。離職者本人と管理者の認識に差があることがわかる。
図9 潜在看護職員の離職理由(社団法人日本看護協会調べ) |
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3. 考 察
日本看護協会などの動きを踏まえ、厚生労働省は、「看護師等は、夜勤を含む交替制などにより厳しい勤務環境におかれている者も多く雇用の質の向上が喫緊の課題」として、医療分野の雇用の質向上をめざしたプロジェクトチームを発足し、2011年6月に第1次報告「看護師等の『雇用の質』の向上に関する省内プロジェクトチーム報告書」(以下、「雇用の質報告書」とする。)をまとめた。雇用の質報告書では、「看護業務が就業先として選ばれ、健康で生き甲斐をもって能力を発揮し続けられる職業となるために、具体的に『職場づくり』『人づくり』『ネットワークづくり』を推進する」としている。この3つの枠組みで考察する。
(1) 職場づくり
離職率が低いことで有名な市立伊丹病院では、「深夜勤務の職員は早く帰宅させる」「深夜入りの職員は病棟会などに参加させない(いずれは病棟会もなくす)」などの改善を行っている。聞けばあたり前のようなことだが、できていないのが現状である。特に、時間外に行われる「委員会」や「研修」が総労働時間に大きく影響している。実際、勤務は終わったのに帰宅できないという状況を招き、育児等との両立の困難感などが増している。責任の重さや業務量の多さから、あえて退職し、臨時職員を選択する人もいる。
また、看護職は、対人サービス(感情労働)という困難さに加え、交代勤務、危険業務があり、難しい症例への対応や悲嘆処理の負荷などストレス要因を抱えている。そして、これらのストレスを達成感で補っている傾向にある。このようにストレスマネジメントを心理主義に頼るのではなく、職場環境調整を行うことが必要である。具体的な勤務時間管理とその事前通知をすることなども有効ではないか。
(2) 人づくり
まずは、量と質の両面における人材確保である。人員不足は、多様な働き方を阻害し、自由な休みがとれないといった影響も招く。自身や家族の病気等で急な休みをとらざるをえなくなった場合、翌月の休暇で帳尻をあわせるといったことがまかりとおる状況では、とうていワークライフバランスなど望めない。職場づくりに必要なのは何より十分な人員配置である。
質に関しては、いかにして専門職としてのモチベーションが上がる目標管理を行うかということである。忙しさから自己研鑽まで目が向かない現状の中で、適切なキャリアプランを提示し、本人の意欲を保持し続けることが重要である。
(3) ネットワークづくり
雇用の質報告書では、医療行政、労働行政及び関係者の協働を地域レベルも含めて深化させるとしている。院内に目を向けたとき、経営・管理層と現場スタッフの間の密なコミュニケーションが必須であり、このためには、労使間の対等かつ良好な関係性が必要である。使用者は、労働者の声に耳を傾け、労働者も自身の雇用の質を確保するために、建設的な発信を行うことが求められる。
4. まとめ
病院に勤務する女性(多くは看護職)が恒常的な超過勤務にさらされ、定年まで働く気持ちが薄いことがわかり、その理由の多くが、心身の負担であった。看護職がいきいきと働き続けるためには、雇用の質の確保が必要であり、そのためには、就労時間の管理、人員確保、モチベーションのあがるキャリアプランの提示、対等かつ良好な労使関係が重要であると考えた。
今回の研究は、既存のアンケート調査の分析を主に行っているので、具体的な課題抽出は研究メンバーの経験等に頼ることとなったので、今後、本研究をステップアップさせるには、より具体的な状況や課題抽出が必要である。 |