1. はじめに
(1) 国際学術都市「東広島」
東広島市には、国立大学法人広島大学(以下「大学」という。)があります。大学には、世界各国から多くの留学生が通っています。市内の色々な施設でさまざまな国の方を見かけることがよくあります。
日本では、「留学」というと若い世代の学生のイメージがありますが、家族連れでの留学生も多数います。家族を連れて留学されている方は、自国では比較的裕福な環境にある家庭が多いそうです。まだ小さい子を連れて留学されている家族もいますので、保護者が学業に専念できるように東広島市では、入所要件が整ってさえいれば保育所での受け入れをしています。
保育所給食では、3歳未満児には「朝のおやつ」、全園児に「昼食」を提供しています。そのうえで色々な国からとなると、宗教もさまざまで、その国の宗教食に対しての配慮が必要となります。特に、「イスラム教」、「ヒンズー教」、「ユダヤ教」は、食物のタブーが意外と多いことに気づかされます。
(2) イスラム教と食事制限
特にイスラム教には色々な食物に対する制限があり、イスラム教徒には、「六信五行(ろくしんごぎょう)」という義務があります。「神」、「天使」、「啓典」、「預言者」、「来世」、「天命」が六信で、イスラム教徒は、この6つを信じなければならないとされています。五行は、「信仰告白」、「拝礼」、「断食」、「喜捨」、「巡礼」のことで、イスラム教徒が行わなければならない5つのことです。
イスラム教の聖典「コーラン」の第五章に、食事について記述があり、その中で「死肉、血、豚の肉、それに神以外の邪神に捧げられたもの」が「食べてはならぬもの」とされています。また、第二章には、「酒と賭矢についてみんながお前に質問して来るであろう」とあります。
つまり、イスラム教では、豚肉とアルコール類は禁止、他の肉類には制限があるということです。豚肉以外で、宗教に反する殺され方をした肉類は「食べてはならぬもの」になります。しかし、イスラム法に基づいて、お祈りが行われ、神の名のもとに屠殺(とさつ)された肉「ハラール・ミート」は、食べてもいい肉になります。
2. 宗教除去の実態
(1) 東広島市の保育所に多く在籍している園児の主な外国籍
国 |
主な宗教 |
食べてはいけない食材 |
インドネシア |
イスラム教 |
肉・アルコール等 |
エジプト |
イスラム教 |
肉・アルコール等 |
ネパール |
ヒンズー教 |
牛肉(神聖な動物) |
シリア |
イスラム教 |
肉・アルコール等 |
ガーナ |
キリスト・イスラム教 |
豚肉・アルコール等 |
バングラデシュ |
イスラム教 |
豚肉・アルコール等 |
中国 |
多宗教 |
無し |
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※中国は留学生より就業に来て多く住んでいる
※この他の国からの留学生も多くいる。 |
(2) 宗教除去食
保育所給食での除去食では、それぞれの国の肉類はもちろんですが、調味料(酒・コンソメ・ショートニング・味噌等)など使用できない食材が多くあります。一か所の保育所で、複数の外国籍の子が在籍している場合では、小鍋で複数を調理し、調理台の上には主菜・副菜を合わせて多くの皿が並び配膳します。宗教除去食だけではなく、アレルギー対応・離乳食対応などもありますので、調理台いっぱいにお皿が並ぶこともあり、神経を集中して調理をしています。
-S保育所の除去-(メニュー:ゆめまる汁、かきあげの場合)
宗教除去を必要とする子ども→12人
インドネシア:4人 インド:1人 ネパール:1人 エジプト:6人
※除去をする食品(肉・アルコール・みりん・コンソメ・中華だし・乳化剤・ゼラチン) |
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~ゆめまる汁~
※豚肉を除去 |
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~かきあげ~
※ハムを除去 |
3. 課 題
(1) 保護者との意思疎通
日本と外国の文化や言語の違いは大変苦労する場合があります。例えば、イスラム教では「断食」の習慣があります。1年間のうちの1ヶ月を通して、太陽が出ている時間は食事を摂らないのがイスラム教の「断食」ですが、宗教熱心な保護者は、子どもにも保育所にいる間の「断食」を強要されたことがあります。(おやつ・昼食・飲み物)
保護者との話し合いは、大変難しく、「保育所ではできない」ことを伝えるのに通訳を介して理解してもらうのは一苦労でした。
また、保育所では遠足に行く時には保護者にお弁当を持参してもらいます。しかし、外国には遠足(ピクニック)の習慣がない国があり、お弁当箱に作った物を入れてきてもらうことを説明するのに、身振り手振り、絵を書いたり説明に大変苦労したこともありました。
給食だけではなく、日々の保育でも保育士は大変でした。「保育所だより」、「給食だより」をローマ字で作成したり、「ひらがな」が読める外国の保護者には全部をひらがなで作成して理解を得ました。中には、数年日本に留学している子どもは、保育所で日本語を覚えてくるので、子どもを通じて保護者に通訳を頼んだこともあります。
(2) 全体の連携の必要性
このように、多くの留学生が東広島市には在籍している現状を踏まえて、安心して子どもを保育所に預け学業に専念してもらえるように、大学・行政・保育所・保護者との密な連携がはかれるようにしていくことの必要性が、現在の課題でもあります。
4. 文化の違いを認め合う・知る
保育所では、他の国の文化に触れる良い機会が身近にあるということから、外国の料理を給食で提供することがあります。在籍している子どもの国の料理を保護者に聞き、少し日本風にアレンジして提供します。子どもたちにその国の文化を知らせ、「給食だより」で保護者にも伝えることで、日本だけではない他国の存在を知る(学びの場としての給食)機会となっています。
5. これからの取り組み
保育所では、これまで以上に外国の保護者に保育所に関係する情報を正確に知らせていく組織的な対応や仕組み、関係する行政情報を身近から伝えていく施設としての位置を確立していく必要があります。
また、現在の東広島市の学校給食(小・中)ではアレルギー対応は実施しているものの、宗教除去対応はお弁当持参となっています。共同調理場、センター給食での給食提供のため、除去食対応を実施していません。保育所同様に東広島市立の小・中学校に通う全ての子どもたちに「安心・安全な給食」を提供するためにも、現場からの提言を行っていく必要があると考えています。 |