【要請レポート】

第35回佐賀自治研集会
第10分科会 貧困・格差社会の是正とセーフティネットの再構築

若者の貧困から見える課題と自立支援


東京都本部/一般社団法人八王子自治研究センター・事務局長 佐藤千恵子

1. 若者プロジェクトから見えてくる若者の貧困と自立

(1) 当事者参加の若者プロジェクト
 八王子自治研究センター(以下、「自治研」という)では、子どもや若者が夢と希望のもてるまちづくりをめざすために、様々な角度から研究活動や取り組みを行っているところだ。地域で子どもや若者を支え・育んでいくためには、行政も含め子どもや家庭の支援に係る多くの人たちが手と手をつなぎ、子どもの権利を守る視点から子どもや若者施策を考えることが大切だ。特に、子ども・子育て・若者の自立などの課題について検証していくためには、当事者からの発信が重要になってくると考える。
 自治研では、高校生や若者の課題について当事者が集まり、自分たちが発信したい声を自分たちで伝える運動につなげるために若者プロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトは、現在、①若者の参加が一人しかいない「若者からの発信『クロ茶会』」と、②高校生5人が集まってわいわい意見交換を行っている「高校生からの発信『優笑(ゆうしょう)☆ミーティング』」の2つがある。
 この2つの活動は、無理をせず、自分たちのスタイルで楽しく進めることをコンセプトに活動を行っている。今回は、この中で、孤軍奮闘している『クロ茶会』の活動を重点的に紹介しながら、若者の現状と課題を検証したい。

(2) 一人で悩まない、いつでも相談できる居場所づくり
 若者の中には、家族の問題や地域のつながりの希薄化の中で、孤立し、支援を得られず苦しんでいる人たちがいる。そんな若者のひとりが、自治研で自ら発信する場として今年の3月から『クロ茶会』を立ち上げた。
 この活動は、一番にクロさん(本人希望のニックネーム)の気持ちを大切に、ゆっくり、のんびりと進めている。クロさんにとっては、自由に語れるお茶飲み場として活動を始めた。それは、幼少期からの体験で、クロさんが自分を表現したり、人と対峙することがとても苦手だからだ。そして、現在、自立して頑張っているクロさんには、今も様々な困難がぶつかってきている。自治研では、クロさんにひとりではないことを伝え、悩みを共有できる仲間作りに向けて活動している。
 今回は、『クロ茶会』の出来事を報告しながら、若者の貧困から見える課題と自立支援について考察出来ればと考える。

(3) クロ茶会の主役はクロさん
① 第1回クロ茶会
  クロ茶会は、月に2回程度活動を行っている。クロさんは、24歳の青年で、半畳の押入れと小さな流し台がついている6畳ほどの空間で、今一人暮らしをしている。現代でいうシェアハウスだ。家賃は、水道代込みの21,600円で、トイレとお風呂と洗濯機は共同利用になっている。クロさんの収入は、月によって異なるが、平均すると約6万円から8万円で、何とか日々の生活は維持が出来るとのことだ。
  しかし、この会を立ち上げ始めた頃は、体力・気力に限界を感じている様子で、精神的にとても疲れ、精神科を受診したいと希望していた。

② 第2回クロ茶会
  今日は、クロさんと今悩んでいることを話題に意見交換した。クロさんの悩みは、働く環境の問題が大きかった。
  彼は、現在、月に6万円~8万円の収入で暮らしを立てていて、お金が少しでも余ると貯金もするように心がけていた。
  しかし、7年間働いたアルバイト先は、有休もなく、賃金も10円上がっただけとのことだった。
  最近、身体が思うように動かないことがあり、しばらく休みたいと思うことが多いという。精神科に行くかどうか悩んでいたので、クロさんには、自治研はいつでも相談場所だということを伝えた。


≪クロさんからの発信≫
 今、職場の中で、お客さんからの注文に対して一番動けるのは自分になっている。
 本来、今の仕事は4人以上いなくてはならないのに、2人しかいない時がある。忙しいと、自分をフル回転させることが出来るけど、他のバイトの人は参って相談してくる。店長に言える時は、自分が伝えることもあるけど、店長もあちこちの店へ異動になるので、たびたびかわる。店長も上の人には言えない。特に、働かない社員さんがいると、自分たちで対応しなければならない。それが、今すごくストレスになっていて、身体がついていけない時がある。少し休みたい。そして、身体が動かなくなる。それで、また、ストレスになる。
 精神科の病院で見てもらいたい。

 第3回クロ茶会
  今日は、悩みを話せる仲間を増やしたいと自治研からクロさんにお願いをして、1度顔を合わせたことのある草平さん(東京自治研センター研究員)を紹介した。草平さんは、今30歳で年齢もクロさんと近い。最初は、質問されないと話しが出来ないクロさんだったが、真剣に話しを聞いてくれるお兄さん的な草平さんに、最後は笑顔で話し合うことが出来た。この日のクロさんからの発信には、いつもと違うメッセージが書かれていた。

≪クロさんからの発信≫
 話を聞いてもらえるというのはいいことかもしれない。
 自分の辛い気持ちを一部でも共有してもらえると気持ちがラクになる。
 自分にはそこまでの気持ちに至る過程があるわけだけれども、中々そこまでは理解してもらえないところもある。
 それでも話を聞いてもらえたかそうでないかで差というのはでてくるものだった。
 一人じゃないと感じることもできた。
 どんな重い話でも聞いてくれる人、話した内容、考えがその話した人の全ての考えではないと前提で聞いてくれる人、そんな人が自分の話を聞いてくれる。それはすごく幸せなことなのかも。(自筆)

④ 【緊急対応】○月○日
  5月の中旬に、クロさんから突然電話があった。緊急で相談したいことがあるとのこと。いつも、電話代を気にしてメールでのやり取りなので緊急事態と感じて直ぐに自治研で会うことにした。クロさんは、直ぐに来て事情を話し始めた。
  クロさんの話しは、「生活費」ということで父が元同僚からお金を借りたが返せず、彼へ突然返済要求が来たということだった。クロさんは、相談している人がいるから直ぐに返答出来ないと伝えると、相手は「常識的に考えてそれは違うんじゃないか。とにかく君がお金を用意して返してほしい。知り合いに弁護士がいて、場合によってはそういう手段をとらざるを得ない。」と言い出し、さらに、クロさんに手持ち金がなければ、まち金へ行ってお金を借りて来るように要求していた。これは、クロさんの生活そのものを脅かしかねない内容だった。また、相手には、個人的な借用書があること、一部でも納得できる金額を返済した場合は借用書を破り捨てても良いことなどを持ちかけている。

≪クロさんからの相談≫
 昨日、父さんへお金を貸した人から自分の携帯電話へ連絡あった。
 その人は、「君の親父へ電話で借金の返済を求めたが、返す目処がないと言っている。親父には、息子からお金を受け取ってほしいと言われた。もし、息子に金がない時は、まち金に行かせてお金を借りさせてくれと言われている。すぐに対応して欲しい。」と言ってきた。
 はじめは、出来ないと断わったが、「俺も生活が厳しく、何としても返してほしい。返却日は今日だ。」と執拗に言われた。
 その人には、自分には今相談している人がいて、自分の一存では決められないと言って時間をもらってきた。どうしていいかわからず悩んでいる。

 自治研では、緊急対応が必要だと判断して、理事長も含めて対応に入った。相手方との交渉は、理事長が毅然と対応を行い、私はクロさんと今回の問題について時間をかけて話し合った。直ぐに答えの出せなかったクロさんだが、一つひとつの問題を整理した結果、導き出された答えは「この借金はクロさんの借金ではないこと」「家族であっても今回はクロさんに返済義務はないこと」「まち金でローンは絶対に組まないこと」「クロさんは、自分のために生きてよいこと」などについて確認する作業を行った。
 今日の話し合いの中でも、クロさんが、長い間家族の問題は自分の問題だと思って苦しんできたことが見えてくる。しかし、今回のことで、やっと「父さんは、父さんで警察のお世話になっても自分で解決していかなくてはならない」と、クロさんは決意したようだ。それでも、気持ちの整理がつくまで、まだ時間がかかるだろう。この対応後は、クロさんへお金の請求が来ることはなくなった。

(4) 「クロ茶会」の積み重ねの中で、みんなが成長していくことの発見
① 第4回クロ茶会
  この日のクロさんは、「今は、いろいろな思い出が抜けず自分の愚痴ばかりになっている」とのことだった。クロさんは、今回の借金返済を求めてきた父の元同僚に対しても、「本当は悪い人じゃないんです」と、相手のことを気遣っている。今日のテーマは、これからクロさんが、人のためではなく、自分の幸せについて考えたり、楽しんでみたいことをテーマに話し合った。
  クロさんは、これまでの自分を振り返りながら、今は自分を大切にしても良いということを学んでいる。行きつ戻りつしながらも、確実にクロさんは前に進もうとしていた。

≪クロさんからの発信≫
 昔は、人と話すのが苦手だった。父さんの成長を願って、18歳から自分を変えてきたが父さんはいなくなった。父さんがいなくなって、自分がやらなくてはという気持ちになった。父がいなくなったということは、自分の経験としては何でもできるという自信になってよかった。
 父さんのことは昔から好きだったが、今はかわいそうな気がする。
 自分が今までやってきたことが、父の成長につながらなかった。父さんの成長を願ってやったことが、父のためにはならず、自分のためだけのことだった。昨年の1月から5月まで60万円貸している。使い道はよいところに使っていない。その他、横領したり、お金の使い方もわからない。
 父さんも、再生しようとしているけど、父をこうしてしまったのは、自分だという気持ちが大きい。父さんは、18歳のときにはお金を家族にいれずに勝手に遊んでいた。父さんがいなくなって、市から支給してもらうようになったけど、父さんの口座ではお金を使われてしまったので、自分が受け取るようになった。そして、自分が頑張っていると父さんはまた家に帰ってきた。
 楽しいと思ったのは、21歳頃に2回目の引っ越しをした時だ。家族が、皆で頑張れた。自分は、家族を支えているというやりがいがあった。
 ただ、その時、無理をして何時間も働いて体が動かなくなったことがある。それから、怖くて無理に働くことが出来なくなった。
 今は、一人暮らししてよかった。お風呂が共同なので、そこがコミュニケーションの場になっている。趣味的なことは、2対2で戦うゲームがあり、家で出来るが、最近はそれもしない。最近、疲れが先行をして休みたいという気持ちが多い。

  最後にクロさんは、「自転車で遠出したいな。今は、ひとりで行く勇気がないから迷っているけど……。」と話していた。彼の行ってみたいという思いが伝わってきた。
② 第5回クロ茶会
  今日は、草平兄さんが来てくれた。この間、39度以上の熱が出て、医者にも行ったが治るのに5~6日かかったとのこと、ずっと寝ていたので疲れや腰の痛みはなくなったこと、歯医者に行って神経を抜かなければならなくなったことなどを楽しそうに話していた。その間、自治研ではクロさんと体調についてメールでやり取りしていたが、クロさんは乗り切った。歯は、医者から虫歯が大きくなり過ぎて時間のかかる治療になると言われたそうだが、それでも、クロさんは、確実に自分のために生きていこうとしている。
  今日は、皆でクロさんと少し意見交換をした後、草平兄さんと外でワークをすることになった。二人で駅周辺を散策したり、図書館を見学に行くなど、日ごろ彼が行かないところをまわって来たそうだ。活動の最後に、クロ茶会で活動したことやクロさんの思いを発信する場所として、自治研のホームページを活用していくことを本格化するための準備を始めることにした。また、自治研から全国の自治研集会などへ発信していくことを了解してもらった。
③ 第6回クロ茶会
  今日は、クロさんが生活の中で不便なことや苦労していることを話し合った。クロさんは、大家さんは年配の女性なので、自分で出来ることは自分でやっていると言っている。今回は、日常生活の中で、いろいろ工夫をしていることを教えてもらった。
  特に、網戸の直し方や安くておいしいペペロンチーノの作り方は、ひとり暮らしをしている人たちへぜひ発信していきたいメッセージだ。私たちも、多くの事をクロさんから学んでいる。

≪クロさんからの発信≫
 今のアパートには、東大を出た人もいたり、すごい人ばかり出会う。
 お風呂で出会う人は、40歳頃の人で「30過ぎてからでも就活は遅くない」と言っていた。
 今のアパートは、家賃が2万2千円以下で、おふろ・トイレが共同、小さい流し台と押入れで6畳近い。でも、わざわざここを選んでくるのかというと、ここが良いと思って入ってきた人が多い。ここから、離れる気はないと自分が知り合った人は言っている。
 私も今満足している。1つは、お風呂で話せる人がいる。住んでいる人がみんな良い人だ。
 足りないものは、部屋にもっと棚がほしい(でも、自分でやろうと思えばできるけど……)。
 共同の物干し竿があるが、いつも一杯なので自分で買ったり、網戸が破れていたので、網とつけるゴムなどを買って自分で交換した。だから、今困っていることはない。
 食事代も、今は、2万円くらいは使うようにしているから、きちんと食べている。自治研で言われて野菜も多く取るようにしている。炊飯器は、部屋の中で炊いて、おかずはサニーレタス、トマト、パプリカ、大根おろしとか作っている。特に、ペペロンチーノは安くておいしい。


クロさんの簡単・安い夕飯レシピ スパゲティ150円とサラダ120円
昨日の夕飯は、ペペロンチーノとサラダ
 作り方、なべとフライパン IHとカセットコンロを使う。
 ① IHで、お湯を沸かす。お湯になったら、塩を入れてパスタ200グラムゆでる。
 ② フライパンにオリーブオイルを入れ、にんにくを刻んで炒め、乾燥わぎりの唐辛子をまぜる。
 ③ スパゲティが茹で上がったらフライパンに入れて、塩コショウで出来上がり。

(5) 自治研のホームページは当事者からの発信の場へ
 自治研では、若者プロジェクトを立ち上げてから、高校生やクロさんからの様々な発信を受けた。この発信については、自治研だけではなく多くの人たちへ発信していこうと高校生や若者にも呼びかけた。ホームページの開設にあたっては、いろいろな方に協力を仰ぎ、低価格でフォーマットを作成してもらい、更新などは自分たちの手で作っていけるレイアウトにしてもらった。現在は、クロさんや高校生たちの協力の中で8月中旬の開設をめざしている。これからは、クロさんの悩みや課題だけではなく、暮らしの中での工夫や知恵なども発信したい。



2. 貧困の連鎖を防ぐために、地域や自治体で出来る支援とは

(1) 子どもの貧困と不登校・引きこもり
 クロさんは、長い間、家族の中でひとりだったという思いが強く残っている。幼少期に、母が家を出て、祖父母と同居もしたが、クロさんの不登校や引きこもりを引き留めることは出来なかった。クロさんは、父が家庭を顧みなくなり、借金を重ねていく中で、自分のために何かをしてもらったという体験がほとんどないと言っている。また、引きこもりの時は、皆が寝静まってから残り物を食べるなど部屋から出られなかったとのことだ。
 中学校時代は、不登校のことが多く、地域の児童館が唯一居場所となっていた。
 中学卒業後は、友だちは進学や就労などが決まり、クロさんひとりが取り残された状況になった。児童館では、対人恐怖症だというクロさんに寄り添い、人とのかかわり方や衣食や就労についても助言しながら自立に向けたサポートをしながら、クロさんを支えてきた。しかし、クロさんの家庭状況は、借金取りが毎日来るなど、衣食住も含めてクロさんを追い詰めていった。そして、18歳になる年には、父が家出し祖母と二人で残され電気やガスも止められるという事態に陥ってしまった。その時は、児童館の助言で自ら市へ訴えることが出来た。そして、友だちから誘われたアルバイトも受け入れる決心が出来た。
 これまでは、自尊心が低く、貧困の中で自分の将来も決められないクロさんだったが、アルバイトをすることで収入につながることを体験していくと、クロさんの生きる意欲が少しずつ高まってきた。
 そして、クロさんは、今年の1月から念願のひとり暮らしを始めた。しかし、仕事の問題、家族の借金の問題、本人の貧困など、クロさんが一人で悩んでいる環境は変わらない。児童館は、児童福祉法の施設で18歳までの利用だ。クロさんには、引き続き悩みやほっと出来る居場所が、身近な地域の中で必要だと考える。そして、クロさんのように、一人で悩んでいる若者は、地域の中にもっといることだろう。

(2) 子どもから若者、そして自立につなぐ支援
 子どもが誕生してから自立するまでは、長い道のりがある。また、その時々で求められる支援も違う。自治研では、クロさんに寄り添い、クロさんの抱えている課題を共有しながら検証を重ねていくと、乳幼児期から学齢期、義務教育から青年期、自立へと「つなぐ」支援が必要とされることがはっきり見えてきた。
 貧困や虐待、不登校、ニートなどの困難に陥った地域で暮らす子どもや若者が自立するためには、身近に通えるほっとできる空間と時間、そして的確に支援が出来る人材が求められる。そして、自尊心を失っている子どもや若者には、自尊心を回復させる環境を整え、さらなる支援として学習支援や就労支援へとつなげていくことが自立支援の大切なポイントになると考える。
 そして、クロさんの事例からも見えるように、虐待・貧困・不登校・ニートなどの要因は、一つの定義にくくることが出来ないほど複雑に絡み合うことも多く、子どもの権利の推進を前提に、子どもは「社会で育つ」、「社会で育てる」という認識を持ち、「子どもの居場所」「若者の居場所」を確実に確保するという課題を、真剣に考えなくてはならない。
 国の施策は、社会保障と税の一体改革の中で、「子ども・子育て関連三法」「医療・介護制度及び年金制度の改革」、「貧困・格差対策」などが謳われ強化対策を進めている。また、子ども・若者の貧困対策として「子ども・若者育成支援推進法」「生活困窮者自立支援法」「子どもの貧困対策法」などが重要施策となっている。しかし、次々と新たな施策が打ち出されるが、現実的にはそのスピードに追い付けないのが市町村の現状だ。
 厚生労働省が2006(平成18)年度より「地域若者サポートステーション(以下サポステ)」の設置を促進してきたが、2013年度末の設置は149か所に留まっている。また、不登校や引きこもりなどの困難な状況にいる子どもや若者を、自立に向けた回復プログラムで相談支援を行う場としているが、利用期限が最長6か月と短く継続性や生活支援が求められる若者には居場所となっていないのが現状だ。
 日本の児童福祉施策は、戦後の児童福祉法に謳われている18歳未満の児童について、戦後(1946(昭和21)年)国が「国家の責任」「無差別平等」「最低生活保障」の三原則を示し、子どもの公的扶助の基本としてこれまで施策の充実を行ってきた。この基本理念を揺るがすことがないように、成熟した日本社会が貧困状況にいる子どもから若者の自立につながる施策の中に「育ち支援」を大切に丁寧に盛り込み、「子ども・若者支援」の充実に向けた施策を展開する必要がある。

 最後に、地域で暮らす子ども若者の中には、今も「虐待される」「家族から家を追い出される」、「家族の借金で家がなくなる」、「ひとり親の死」などで窮地に追い込まれている事例がある。その要因は、様々だが、地域で暮らす家族の貧困は子どもたちの育ちへ大きな影響を及ぼしていることは間違いない。
 自治研では、クロさんとのかかわりの中で、15歳までは学校や児童館のような公的な施設での支援を行い、そこからつなげる場の一つとして、サポステのような支援場所が都道府県単位ではなく、この自治研での取り組みのように、身近な地域の中に根を張り、居場所や相談場所として行政、NPO、個人、町会など様々な人たちが、いつでも連携し、居場所や支援の場として手を挙げられるような施策とそれを支える仕組みを作るように提案したい。何故ならば、成果主義の施策ではなく、当事者本位の施策に変えていかなければ自立へはたどり着くことが難しいと考えるからだ。当事者本位とは、それほど難しいことではない。その人にあったプログラムの中で、その人が中心に自立の道を探ることだ。そして、多くの困難な状況にある子どもや若者が求めている支援は、「尊厳」つまり自分という存在を自分が認められる感覚を持つという過程が大切になる。
 八王子の自治研では、これを一つの提言としていきたい。