【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第10分科会 貧困・格差社会の是正とセーフティネットの再構築

ひきこもり支援から見えた地域福祉の可能性
~地域づくりとの連携を模索して~

秋田県本部/藤里町役場職員労働組合

 皆さんは「ひきこもり」とは、どんな生活、どんな状態をもってそのように呼ぶこととなるのか説明できるでしょうか?
 多くは「何らかのきっかけから、長期間にわたって自発的に自宅、自室にとじこもる」などと表現されるようですが、それでは、どこまでがそうで、どこからが違うのか、定義は曖昧です。
 そのため、時代的背景もあり、高齢者からは「ひきこもり」と称する住民はほとんどいない(見たことが無い)と言う方が多いように見受けられます。
 しかしながら、一見すると優秀に見える若者などが「自分は引きこもりでした」もしくは「自分もいつそうなるか分からない」と答えるケースも現実的に存在します。
 こういった年齢間の異なる意識も、若者が生きづらい社会を生み出しているのではないでしょうか。

 近年さまざまな自治体、メディア等で取り上げられている、当町のひきこもり対策の主体は藤里町社会福祉協議会です。
 どうして町社協がひきこもり問題を?
 この質問について、藤里町社会福祉協議会では、介護保険事業や、障害者の自立支援事業など、高齢・社会福祉分野での様々な訪問活動を続けて行く過程のなかで、どうしても乗り越えられない分野が発現した際、そこで止まってしまうのが従来のやり方であったものを、その点に取り組んで行かなければならない使命がある、と結論付けたところからこの挑戦が始まったと考えています。

 その原点は、1980年から始まった、秋田県ネットワーク活動事業が発端であり、地域に問題を抱えた人たちを見つけ出し、サービス提供につなげるというのが本来の活動であったようです。
 その中で、社協職員が対象者宅を訪問して、会話をしながら徐々に見えてきた課題を目の前にして、例えば病気などの治療は医師が行い、それ以外で自分たち(社会福祉従事者)だからこそ出来ることがあるのではないかとの視点から、そのことを団体として追求しようとしたのが特徴と言えます。

 ネットワーク事業からトータルケアへ、2005年度から従来のイメージを払拭するための取り組みが始まりました。
 その後、ひきこもり者の実態が浮き彫りになって行くことになりますが、同時にその対応の難しさと、自分たちの今までの取り組みの反省点、そして、新たな対応策が見えてくるのであります。

 2006年度に町社協が「ひきこもり」と想定される方々の実数把握調査を実施したところ、人口4,000人足らずの町に100人以上(これについては様々な見解があるものの)のひきこもり者がいることに愕然とし、2009年度、彼らの居場所作りをしなければならないと言う事で、地域活動支援センターを設置し、2010年度にその拠点となる「こみっと」を開設したのであります。

 「こみっと」における支援の特徴としては、一つは居場所づくり・活動の場づくりであり、それぞれが自分に出来る形での参加としています。
 もう一つの特徴は、支援する側とされる側の区別をつけず、同じ事務所で共同しながら活用し、補完し合いながら、選択・自己決定のための体験の場としているところです。

 「こみっと」支援を実施した結果、登録生に明るさと共に、自分から進んで行おうとする積極性が出て来ました。その活動を通じて、地域の方達との交流の機会が増す毎に、地域住民からの理解者・支援者が増えました。後から出て来ますが、一般就労に結びついた成果もありますし、地域の福祉活動、活性化へ貢献して行くことになります。

 翌2011年度には、「くまげら館」という自立訓練・生活訓練ができる宿泊棟を開設し、また、当町の特産品である白神舞茸をふんだんに使った「舞茸キッシュ」の商品化にこぎつけるなど、ここまで多くの成果を上げてきましたが、そこにたどりつくには、決して楽ではありませんでした。

 実態調査の他にも、最初は民生児童委員や町社協の福祉員の皆さんに情報提供を依頼し、また、積極的に住民とふれあいながら、多くの情報を収集し、社協職員による、報告・連絡・相談の共有と、職員がこのネットワークやトータルケアに積極的に取り組むという、強いリーダーシップをもって進んできたのです。

 その結果、2004年度では100件に満たなかった苦情・相談件数が2005年度には倍以上、その後も増え続け、2012年度には8,039件と、驚異的な数字となりました。2013年度は一定の取り組みへの理解もあり減少しましたが、それでも、7,002件と、まだまだ大変な労力が必要です。

 現在、藤里町社会福祉協議会の「引きこもり者及び長期不就労者及び在宅障害者等支援事業」に、全国から問い合わせや視察が相次いでいます。その理由の一つとして、2015年度から始まる「新たな生活困窮者支援制度」との類似点があげられております。大きな違いは、藤里町社協が地域ぐるみの支援にこだわっている点と、「こみっと」において集中的に実施している点です。

 現在の「こみっと」の取り組みとしては、対象者との関係を維持するための誘いの案内配布や、共同事務所登録14団体と一緒に開催する、「こみっと」感謝祭等があります。
 また、それと並行して、登録生も含めた「求職者支援事業」の実施と、それに向けた受講者の勧誘を行っています。

 引きこもり者が最初に「こみっと」に参加した段階では、多くが昼夜逆転の状態で、毎回違った方法で参加を呼びかけていました。また、ハローワークへの訪問についても、口答でのやりとりだけではそれも実現しないことから、履歴書の書き方をレクチャーして、当日は職員が同行したりと、最後のやりとりまで細かく指導をしています。
 事業開始当初は「こみっと」に来ることを楽しめるよう、レクリエーション等を実施していましたが、現在では就労支援事業の一環としての活動が主体となっており、登録生もそれを望んでいます。

【就労訓練】  お食事処でのそば打ちの様子と、食堂でのウェイターの作業
【就  労】  白神舞茸キッシュの製作と、箱詰めの様子
【活  動】  登録制による短期・臨時の人材派遣の仕組み。これは、高齢者向けのシルバーバンク人材センターの就労困難者版のようなもので、派遣先は、町社協を通じて行い、高齢者向け配食サービスの調理補助や、介護施設での浴室清掃、また農家からのリンドウ畑の草取り、雪かきなど多岐にわたる

 2013年度からは、国の求職者支援事業の導入に先駆けて、厚生労働省の助成を活用し、地域とのふれあい・交流を目的とした町のオリジナルカリキュラムによる訓練を開始しました。
 これは、藤里町の独自性を全面に出した、「世界自然遺産の麓の町としての循環型事業構想と自然の恵がもたらす事業」として、地元関係者が講師となるなど、ユニークな内容となっており、今後も継続の予定です。

 例えば、リンドウ農家からは、どうして始めたのか、何をめざしているのかなど、営農の基本部分等について講義を受け、演習では畑の整備を学び、実習として畑作業を行ったり、葬儀屋の演習では、実際に祭壇を持ち込んでの、本格的な組み立て作業を体験したり、また、居酒屋では魚介類のさばき方、包丁の使い方などを受講するなどがあり、さらに変わった講習も検討しています。
 町の人を巻き込むことによって人と人とが出会い、そして元気にする。
 地域そのものを維持・向上させて行くには、人と人の出会いをつくる仕掛けをどう作っていくかにかかっていると、ある専門家の方がおっしゃっていました。

 地域の中に「仕事がない」と引きこもっている人がいて、「仕事はある」と、人手を求めている人がいて、常勤では雇えないけれども、ある時期だけ多くの人手が必要な農家や、限られた部分だけをお願いしたい職場がある。こんな時だからこそ、双方をつなぐ新たな仕組みが生み出せるかも知れない。このことを模索しながら、当町の社協は進化を続けています。
 我々も出来ることを応援します。