1. はじめに
現在、日本の総人口が減少し、生産人口も減少する中、無業状態の若者の割合が増加している。このことは、産業構造・雇用情勢の変化により労働環境が変化したことと関係している。若年無業者(15~34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者)の数は、2002年に大きく増加した後、おおむね横ばいで推移し、2012年には全国で63万人となっているが、15~34歳人口に占める割合は緩やかに上昇しており、2012年は2.3%となっている(注1)。
厚生労働省の施策として地域若者サポートステーション事業がある。これは「働くことに悩みを抱えている15歳から39歳までの若者に対し、キャリア・コンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への職場体験などにより、就労に向けた支援を行うもので、厚生労働省が認定した全国の若者支援の実績やノウハウのあるNPO法人、株式会社などが実施しており、2014年度は全国160か所に設置されている(注2)。
本稿では、京都若者サポートステーションと京都市北青少年活動センターとで協働で実施した事業「野菜づくりから仕事に近づく」の事例を通して、中間的な就労のプログラムの効果を検証したい。
2. 京都市ユースサービス協会とは
(1) 公益財団法人 京都市ユースサービス協会の成り立ちと事業の柱
① 1988年3月に、青少年の自主的な活動の振興を図ることにより、京都市の青少年の健全な育成に寄与することを目的に設立された。
② 青少年が社会の担い手として成長するために、社会参加と自主的な活動の機会を提供し、必要な支援を行っていくことが「ユースサービスの理念」。
③ ユースサービス協会は、その理念に基づきながら、京都市など関係行政機関、青少年団体、青少年の育成に関わる人たち、そして何より青少年自身と協力しあいながら、活動を展開している。
④ 現在では、(ア)京都市青少年活動センター(7か所)の受託運営(指定管理者)、(イ)京都若者サポートステーションの受託運営(厚生労働省及び京都市からの受託)、(ウ)子ども・若者育成支援地域協議会「指定支援機関」業務(京都市からの委託)、(エ)青少年の自主的な活動促進のための事業の実施、(オ)青少年育成・支援のための調査研究などを行っている。
(2) ユースワーカーとは
① ユースワーカーは若者の成長を手助けする専門スタッフで、イギリスを始めヨーロッパ各国で養成が取り組まれ、国家資格となっている国もある。
② 日本には、イギリスのユースサービス/ユースワークとともにその活動が紹介され、各地でユースワーカー養成が行われている。
③ 京都では2006年から大学院での養成プログラムを始めた他、ボランティアや関連する仕事の中でユースワークを担う人材を育てる、独自のユースワーカー資格取得のプログラムも始めている。
3. 事例紹介
(1) 職業ふれあい事業について
京都若者サポートステーションと青少年活動センターとが連携して行っている就労支援の取り組み。
北/農業体験 東山/身体表現(インプロビゼーションワーク)
下京/事務作業体験 南/カフェ体験 伏見/カフェ体験
(2) 「野菜づくりから仕事に近づく」について
畑の開墾から野菜の収穫、そして販売までの一連の流れを体験する。働きながら(収入を得る)、働くことについて考える(研修の要素)、中間的な就労の形態を取った農業プログラム。
(ねらい)
・生活のリズムを整える。
・参加者が自ら販売することで、主体性やチャレンジ精神を学ぶ。
・参加者同士で行動を振り返り、フィードバックしあう中で、自らの"強み"に気づく。
・プログラムを最後までやり遂げることで達成感を感じ、"自信"を持って次の行動を起こす。
(対象)
・15歳から39歳までの一定期間無業の青少年で、特に働きたいという思いはあるが、継続して働くことができるかどうか不安を抱えている人。
・農業に興味があり、約4か月の農業体験が可能な体力のある人。
・研修内容(主体的に動く、チャレンジ精神を養う、自らの"強み"を見つける)を理解している人。
(日程およびプログラム構成)
・第1期は2012年9月~12月の14週間、第2期は2013年5月~9月の17週間で実施した。
・週3日の農作業と、月3回程度の研修で構成した。
・農作業に関しては、いずれも講師から基本的な情報(知識)を与えてもらい、参加者が相談して作業方針を決めた。(何を育てるか、どんな手順で作業を進めるか、など)
・研修として、グループワークの手法を用いた自己理解・他者理解を深めるワーク、協同作業の体験(料理づくり)、販売計画つくり、販売促進グッズの作成などを行った。
※詳細は別紙資料①を参照。
(実施場所)
京都市左京区岩倉長谷町
(運営体制及び役割分担)
・講師……農地提供、農業に関する技術指導、参加者へのアドバイス。
・ディレクター……講師と参加者の間に立ち、講師からの指示のもと、参加者をリードし、必要な指示を出したり、不足した作業面を補う。
・運営ボランティア……農作業の補助、販売の補助。
・ワーカー……参加者間のコミュニケーションのフォロー、研修プログラムの作成・実施、面談の実施。
※詳細は別紙資料②を参照。
(3) 参加者の変化
・1期の参加者(11人)のうち、10人にレベル上昇が見られた。
・2期の参加者(4人)全員にレベル上昇が見られた。
※詳細は別紙資料③を参照。
(4) 成果と課題
(第1期)
・規則正しい生活を送り、生活リズムが安定する参加者が多かった。また、体を動かすことで、食欲も増え、夜もよく眠れるようになったという声も聞かれた。
・野菜販売の際に「おいしかったよ」「次はいつ来るの?」という声をかけてもらい、肯定的な評価を得たことで、自信を持つことにつながった。
・コミュニケーションが苦手ながらも、集団での作業を通じて仲間意識を持つことができた。お互いの得手不得手を理解し、受け止めるような雰囲気ができた。
・参加者が、自分の意見を他者の前でも述べることが出来るようになった。
・仕事や働くことに対して、前向きな発言がみられた。
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