【自主レポート】 |
第35回佐賀自治研集会 第10分科会 貧困・格差社会の是正とセーフティネットの再構築 |
税、公租公課の滞納原因は大きく2つに分けられます。払いたいけど払えない(経済破綻型)のか、払えるけど払いたくない(人格破綻型)のか、この原因を見極めることが重要です。 |
|
1. はじめに 佐賀県伊万里市では2008年から滞納者の多重債務問題を解決するため、市内弁護士・司法書士と連携して債務整理の体制作りに取り組みました。
ここまでが、多重債務問題に注目した2010年までの伊万里市の取り組みです。 2. FP(ファイナンシャルプランナー)相談とは 本市では2008年より主に消費者金融の過払い金問題に取り組んできました。その中で当然ながら解決困難な事例がでてきました。例えば、銀行からの借入れや住宅ローンの負債過多等です。徴税吏員の知識だけでは整理のしようがありませんでしたが、多重債務問題に取り組む過程で知り合うことになったFPより具体的な解決策を教授していただく機会がありました。このFPによる手法が滞納整理に非常に有効であり、また滞納者にとって根本的な問題解決に向かう手法であることがわかり、2010年よりFPと契約しFP相談を実施することとなりました。 3. FP相談解決事例
国保税の滞納でよくある、滞納者本人が無資力なのに世帯主であるため課税されているケースです。差押により徴収すると言っても本人に全く財産は無く、自動車等も娘名義でした。捜索差押を執行して残りは執行停止で不納欠損かと判断していました。 このようなケースでも、過払金の調査は有効な手段です。このケースでは過払金調査の結果、過去に消費者金融との取引があり、約22万円の過払金が発見されました。しかし、それを滞納市税に充当したとしても、残りの滞納は世帯合計で411,700円あります。財産は全く無い状況なので、残った滞納税については執行停止以外の選択肢が無いように見えます。 この状況をFPから見るとどうなるでしょうか。 このケースでは、FPはまず本人の年齢に着目しました。59歳ということは、1年後に年金が受給できる可能性があります。年金がどれぐらい出るかで今後の市税納付の計画が立てられることになります。 しかし調査した結果、滞納者は年金を277カ月しか掛けていないことが分かりました。年金は最低300カ月掛けないと1円も支給されません。つまり、60歳を過ぎても年金は一切支給されず、滞納市税の納付はおろか自身の生活は困窮したままです。将来娘が結婚などで世帯から出て行けば、生活保護すら検討せざるを得ません。これでは一時的に過払金を滞納市税に充当したとしても、根本的な問題の解決にはならないと判断しました。 ここで、FPと徴税吏員が協議して以下の対策を打つこととしました。 (1) 対策1. 本人が年金を受給できるようにして自立させる。 |
その他にも、以下の点で本人の収支改善の提案を行いました。 (2) 対策2. 本人を過去に遡って娘2の税上の扶養に入れさせる。 (3) 対策3. 今後、本人を娘1の社会保険の扶養に入れさせる。
家計の実態を把握する必要があるため、来庁して家計の収支を話すよう指導し、下記の情報を聴取できました。
このケースでは過払金はありません。通常の徴税吏員の判断であれば、「本人の財産は全て取り立て済み。他は反対債権過多により換価価値ある財産無し。執行停止とする。」といった判断をしがちな案件に見えます。 しかし、ここで、本市が契約するFPの金融機関の経験が生きました。金融機関の知識があれば解決策は見えてきます。 まず、住宅ローンの支出が大きすぎるのが問題です。以前より住宅ローンの負担が重荷で、ローン契約がステップ償還方式(借入れ当初は元金少額返済だが、将来収入が増えると仮定し後々元金返済額が増える契約)になっており、数年前より月15万円に返済額が増額になったのがそもそもの滞納の原因でした。 ここで、住宅金融支援機構の借り入れであれば下記の特例措置が使えることに着目しました。
・特例基準:世帯人員数8人×64,000円=512,000円 ・実収入 :本人200,000円+妻170,000円(共有名義のため二人分を合算)=370,000円 特例基準512,000円>実収入370,000円 となり、特例基準の条件を満たすことが確認できました。 上記特例を使い、返済期間を5年延ばすリスケジュールをした場合。 残額1,200万(利率4.3%)の返済方法の変更 ・当初契約 残年数8年 月返済額147,951円 2018年(55歳)まで ↓ ・変更契約 残年数13年 月返済額100,550円 2023年(60歳)まで リスケジュールにより、本人の生活を変えずに毎月5万円を滞納市税に納付することができます。早速信用金庫窓口でローンの延長を申請してもらい、月5万の分割納付を継続した結果滞納市税は完納に至りました。 このケースでは、住宅ローンが返済困難との相談を受けた場合に、銀行が持つ具体的な救済策を知っているかどうかがポイントとなります。なお、住宅金融支援機構以外の銀行ローンについても、同様に解決できました。
FPより、決算書で明らかに所得があるのにお金が無いのは決算の仕方に問題があるのではないか。経費はちゃんと計上されているか、決算は税理士に頼んでいるのか、決算書を確認させてほしいと伝え、決算書2期分の提出をしてもらいました。 提出された決算書を確認すると青色申告で税理士に依頼していました。会社の債務、経費、減価償却等も適正になされており、減価償却分(申告上は経費だが、実際は現金がある状態)まで含めると、毎年900万円の現金が手元にある状態でした。FPの初期判断ではお金をタンスに隠し持っているとしか思えないとの話がありました。FPと一緒に滞納者宅を訪問し、決算は適正であり即時完納するよう指導に向かいました。ラブホテルの事務所で三者面談し、900万円の収入がどこに消えているのかを事情聴取しました。そこで明らかになったのが、決算書に現れてない債務の存在でした。 滞納者が負っていた債務は以下のとおりです。
滞納者は3人兄弟で、滞納者は長男、次男は左官業、三男は会社員の構成です。左官業を営んでいた次男が多額の負債を抱え廃業。その後始めた喫茶店もうまくいかない状況に陥り、次男の再三の懇願により、滞納者、三男は次男の②、③の債務に対する保証人となりました。次男は結果的に返済しきれなくなり、保証人の滞納者、三男に保証請求が来ることとなりましたが、所得の状況から長男が全て被ることとなり、さらに次男の店舗を確保するために滞納者が次男の喫茶店の住宅ローンを借り換えして負担することとなりました。次男の店舗を確保したものの、次男の金銭感覚は破綻しており、サラ金にも手を出した上、自己破産して東京へ転出していました。結果、滞納者、三男に保証債務だけが残ることとなっていました。三男は病気で死亡し、その保証人の立場は妻に移っています。 当初は、貸し店舗がどうにか任意売却できないか、リスケジュールできないか等模索しましたが、残念ながら買い手は見つからず、リスケジュールもできませんでした。ここで、FPがこれらの債務のうち、滞納者が返済をやめた場合のリスクを検討しました。
また、本人の給料が借金返済のために高額になっているような状況であったため、本人と税理士と協議をし、給料を下げてもらい娘の社保に入ってもらうよう話をしました。 この結果、高額だった現年発生国保が無くなった上、今までの月20万円のローン返済を納税にまわしてもらうこととなり、完納への道筋ができました。 ここまで上げた事例は、いずれも基本的な手法です。 4. 第三者相談員のメリット 以前、徴税吏員自身がFP資格を取得して家計相談に取り組んだことがありました。日常的に相談に当たっている徴税吏員がFP相談を行えば、より多くの滞納者の問題解決ができると考えたからです。しかし、この方法は全くうまくいきませんでした。なぜなら、我々徴税吏員は、滞納者から見るとどこまでいっても「債権者」だからです。滞納者からすると我々はただの取立て屋に見えるため交渉はうまくいきませんでした。 本市では、現在FP相談に活路を見出していますが、別にFPに限る必要はありません。FPという資格が各種制度の広範な知識を取得しているため、納税相談に非常に役立つことは確かですが、大事なのは「市民側に立って」「具体的な解決策を持つ」第三者の力を借りることです。例えば、金融にも詳しい弁護士・司法書士、金融機関を退職した人、会計士、中小企業診断士、中小企業再生支援協議会等々は、ここで述べたような問題に対して市民側に立つ第三者になれる可能性があります。 5. まとめ 2008年より多重債務問題に取り組み、2010年からFP相談を実施しているところではありますが、当初は徴収率が思うように伸びませんでした。それはなぜかというと、滞納処分を強化せずに相談のみを重点的に行っていたからです。当然ながらFP相談の実施により解決できる案件は増えましたが、差押可能な財産を差し押さえることなく滞納を放置していては納税に繋がりません。まずは差し押さえ可能な財産を差し押さえ、その後の出口対策としてFP相談を受けていただくということが大事だと考えています。滞納者の問題点が何かを聞き取り、その解決策を具体的に提示し、問題の根を断ちきり、生活サイクルを良い方向にもどし、安定した納税に繋げることが重要です。 |