【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第11分科会 「生活者の多様性に根差した災害への備え」をめざして

 福岡県消防行政研究会県南ブロックでは、消防体制の充実をめざして国が示している「消防力の整備指針」を活用のうえ、地域の消防力の比較を行い高齢化や広域化、緊急性の増大などに対応できる消防体制づくりに取り組んでいます。日頃、行政上の関係では遠い職場となっていることを含めて、消防行政研究会では自治体単組や議会とも連携して、市民の命、自らの命を守る課題を明らかにし、今後とも活動強化を図ります。



自治体の消防力を高める取り組み
―― 「消防力の整備指針」を基本にした
地域消防力の強化に向けて ――

福岡県本部/福岡県消防行政研究会・県南ブロック議長 古賀  彰

はじめに

 福岡県消防行政研究会を取り巻く状況は日々大きな変化を伴い、これまで全消協の大きな課題となっていた団結権回復の取り組みは、政権交代によって実現が遠のいていますが、消防職場の抱える課題は市民生活に直結し、急性も併せ持つことから引き続き地道な取り組みが必要となっています。
 福岡県消防行政研究会の独自活動としては、九州地連や全国消防協活動はもとより、毎年泊まり込みで開催される単消研役員研修会やFFセミナー、県代表者会議や幹事会などの日常的な活動に合わせ、県域を北と南に分けてのブロック会議が二か月に一度開かれています。
 私たち県消研県南ブロックでは、消防職場の抱える大きな問題である「消防力」の強化について、国が基準として示す「消防力の整備指針」にそって、圏域の各消防本部の実態を分析しながら、県消研の活動方針で提起された、質の高い消防サービスの実現の課題にそって、公平で公正なサービス提供を行うための活動を行ってきました。
 今日的な課題である高齢化社会での火災・交通事故の増大、異常気象や防災対策への対応、消防職員の研修・福利厚生の対策、事務事業の見直しなどを含めて検討し、当然、直近で関連する「消防広域化への対応」や「救急医療体制の確立」、「消防職員の労働安全衛生対策」も議論しています。結果としては、各消防本部において人員不足の状態が明らかになり、総合的な計画と整備を求める必要が出てきています。

1. 消防力整備の基準

 管轄内の消防力の整備状況を図るものとして、基準となってくるのは区域面積や居住人口、市街地形成状況や市街地内の人口分布をはじめとして、建築物を把握するための建ぺい率や中高層建築物の状況、危険物取扱施設の規模や箇所数などであり、それを総合的に考慮して設置組織が自主的に決定すべきとされていますが、現実は明確な基準はない状態が続いています。
 一方、国が示している「消防力の整備指針」は、国民の安全・安心を守るという国の責任において、国の各機関や自治体に対し「安全」の具体的要求水準や、要求内容を数値化して明確に示したものです。この「消防力の整備指針」の位置づけは、県・市町村等が消防力の整備を計画的に進めるにあたって、地域の実情を勘案のうえ指針に基づく基準数値を整備目標として 、具体的整備に取り組むことが要請されるもので、単に「目安」というものではありません。
 指針に水準を充たさない場合の罰則などの拘束力はありませんが、市町村は自らの消防力の整備水準について、住民に対して現状の客観的・合理的理由について説明責任を果たす必要があり、県においても消防力の整備についての統括的な管理と推進についての責任が伴っています。全国的には大都市圏を中心に、県や市町村等から消防力の現状比較が明示され、指針との数値差を明確に示したうえ整備を進めるとの計画書が発出されている地域もあります。

2. 消防力の算定要領

 各設置消防署の消防力については、「消防力の整備指針」の基準数値にそって、管轄内の市街地人口等の状況により署所の配置数、必要な消防車両の台数と車両を運用するのに必要な職員数(予防要員等を含む)を算定していく事になります。
 県消研県南ブロック傘下の近隣圏域5消防本部の実態について、この数値基準をもとに分析作業を行いました。全部の消防職場でほぼ共通要因の課題が生じています。ここでは人口4万人、区域面積100平方キロメートル程度の1本部の事例を参考に明記します。

(1) 署所の配置について
 基本的に市街地に配置することが適当ですが、それ以外の地域の災害危険を放任してはならないとされています。市街地人口が1~2万人程度であることで1つの署所の配置、また、管轄面積等を考慮しさらに1つの署所配置が必要となり、この本部では2つの署所が必要となります。

  【表1】

車両種別

基準台数

現有数

充足率

指揮車

1台

1台

100%

救助工作車

1台

1台

100%

はしご車

1台

0台

0%

消防ポンプ車

3(2)台

2台

100%

化学消防車

1台

1台

100%

救急車

3台

3台

100%

合 計

10(9)台

8台

89%

(2) 消防車両等の基準台数
 消防署には、指揮車が最低1台必要とされていて、救助工作車消防署には救助隊の設置が必要であり、救助隊数に応じた救助工作車が最低1台必要となります。また、消防ポンプ自動車は、市街地内の人口が1~2万人のため最低2台必要であるとともに、市街地以外の地域を考慮し合わせて3台の配置が求められます。はしご自動車は高さ15m以上の中高層建築物が、概ね10棟以上あれば最低1台必要とされていますが、現状は配置がありません。
 さらに、化学消防車は危険物(第4類)取扱施設が50か所以上あれば最低1台必要で、事例の場合は71か所存在するので1台配置となり、救急車は人口3万人毎に1台のため2台必要、圏域面積・道路配置状況による現場到着までの時間を考慮し最低3台必要となります。結果的に事例本部の消防車両等の「整備指針」に基づく比較は【表1】のとおりです。

(3) 消防吏員数の算定
 消防吏員数の基準構成は、消防車両に応じた隊員 、通信指令員、予防要員 、庶務の処理に必要な人員の合算値となっています。各車両を有効に活用するため、車両ごとに必要人員(最低搭乗員数)が基準化されています。消防ポンプ自動車(搭乗隊員5人)を例に示すと、①隊長(部隊指揮)、②機関員 、③第1筒先担当員 、④第2筒先担当員、⑤伝令及び補助員の5人編成となるのです。ただし、一定の省力化ができれば例の場合には4人での対応も可能です。

  【表2】

車両種別

基準台数

搭乗人員

必要人員

指揮車

1台

3人

9人

消防ポンプ車

2台

5(4)人

24人

はしご車

1台

5人

15人

化学消防車

1台

5(4)人

12人

救急車

3台

3人

27人

救助工作車

1台

5人

15人

合 計

9台

 

102人

3. 実際に必要な隊員数の算定

 事例については2部制の運用なので、必要な「人員措置係数」を乗じて算定すると概ね3倍の人数が必要となります。この人員措置係数には隊員の休暇取得(週休、年休、忌引、病休等)消防学校の入校や研修日数、各種資格取得の対応などが考慮されています。表1を基準として必要人員は【表2】の通りになります。


  【表3】

車両種別

部隊数

搭乗隊員数

必要人員

指揮車

1隊

3人

9人

消防ポンプ車

1隊

4人

12人

はしご車

0隊

0人

0人

化学消防車

1隊

4人

12人

救急車

1隊

3人

9人

救助工作車

1隊

5人

15人

合 計

5隊

 

57人

4. 隊員の兼務について

 災害出動の頻度を考慮し、一定の基準を満たす場合に、消防隊員が救急隊員を「兼務」することが認められています。ただし、兼務する場合、救急出動中の火災に対応できないなど、安易に行い得るものではありません。兼務を想定しての配置は次の通り【表3】になります。

① 兼務した場合の隊編成イメージ(理論値)【図1
  事例市の場合の兼務を考慮した編成は以下の通りとなります。

【図1】

② 事例市消防署の隊編成の現状イメージ【図2
  しかし、現状は相当厳しい状態で消防力の指針には程遠い状態です。

【図2】

5. 通信指令員の配置

 指令員の算定基準は人口10万人に対し10人の指令員が必要となりますが、事例市の人口は4万人強(5万人換算)であり、5人の指令員が必要となります。
 なお、現在当該地域においては消防通信指令業務共同運用が整備中のため、司令員の数については現状を基本にしています。今後、通信指令台の共同運用への対応として、指揮隊設置の必要性が格段に高まることや運用開始に伴い、職員を派遣する必要が生じますが、地元消防本部での対応がどのようになるのかで、要員数の検討を進める必要があります。


6. 消防署所運用のために必要な職員数

 以上、「消防力の整備指針」の数値基準をもとに、事例市の消防署の状況を比較してくると、車両台数に応じた人員と通信指令員を合わせて、62人の配置が必要となり現行配置体制との比較においては、現在の事例市消防署の人員は50人であり12人の不足が生じているのが現状です。

7. 整備指針に基づく「消防本部」の人員

 消防本部は専ら継続的な事務処理を行うことになっていて、職員で構成される組織(毎日勤務者)、(管理職)(庶務要員)(予防要員)となります。また、消防長庶務係長指針により総務課長庶務係主査5人専任が余儀なくされ、さらに、警防課長施設装備係長や予防課長共同運用担当の配置など合わせて、13人程度配置が必要となります。

8. 消防力の整備指針に基づく消防力の水準

 以上のことから結果的に、消防本部要員としての13人の配置と消防署要員62人を合わせて、75人程度の消防吏員配置が求められています。しかし、現有の職員数は総勢58人であり、整備指針水準と比較すると17人程度不足という状況が見えてくるのです。

9. 人員不足による諸課題

(1) 指揮隊の設置できない
 現有の施設や人員を有効活用するためには、災害活動を統括する指揮隊が絶対必要となり、無線のデジタル化に対応した共通波、活動波の複数無線機を運用する必要があります。さらに、現在進行中の指令台の共同運用により、現場指揮の需要は格段に高まっていく事が必至です。

(2) 消防活動の困難性、危険性
 災害対応人員が不足しており、兼務体制しかとれないため、常設部隊の数が少なくなり、高速道路など超危険地帯での活動に、相当数の部隊が投入できなくなっています。近年は災害規模の大小に関わらず、非番・休日該当者への非常招集に頼らざるを得ない現状です。とくに、非常招集の場合、参集に時間を要し即時性が確保できないことは重要な問題です。
 また、①消防車両1台に3人しか搭乗できないため効率化が図れない(1台1線のみの放水)、②迅速性が損なわれる(重量資器材の搬送等)、③操作の確実性が保てない(長時間の活動)、④高所作業や屋内検索活動ができない、⑤安全管理が徹底できない(指揮者も活動)など複合的な要因になってきています。

(3) 隊員の専従化が図れない
 部隊の隊員が日ごとに替わるため、連携しての高度で専門的な訓練が行えない(非画一的な活動にならざるを得ない)ことや、全ての特殊車両及び資器材を使いこなさなければならず、各職員への負担が大きくなっていること、消防本部の事務を兼務しなければならず、基礎的な訓練さえ十分に行えない状態です。

(4) 本部業務(事務作業等)と署業務(災害対応)の兼務
 毎日勤務者が十分確保できないため膨大な特殊事務を少人数で処理して、予防事務等、専門的職員を育成できないことや立入検査や完成検査等が十分に行えない課題を抱えています。これは、消防隊員が事務処理を兼務しているため立入検査や完成検査等を非番、週休の時間外勤務で対応することとなるためです。また、交代制勤務では、週に2日程度の出勤となり、事務処理が深夜にまで及ぶことや接客中に出動指令があれば、来客を放置するなどの問題も起こっています。

(5) 各種教育訓練のための入校及び研修人員枠の確保
 消防活動を行う上で特殊免許、資格が必要なのですが、資格等を取得するための研修は、短~長期にわたり、全寮制入所で拘束されることもあるため、当該研修期間中は、実質職員数に欠員を生じる人員確保ができなければ、教育研修派遣は行えず、計画的な育成ができなくなり、結果的に、既資格取得者に頼ることが増し、取得職員の負担や人事の硬直化につながっています。

(6) 休暇取得への影響
 当直には最低確保しておくべき人数があるので、研修や会議等の公務が優先されると、休暇取得が困難となってきます(日常的にギリギリの人数となっている)。冠婚葬祭や職員の疾病・ケガにより、突然の勤務変更が常態的に発生していて、交替要員がいない場合は、体調不良のまま勤務を行うなど、労務管理上も支障があります。

(7) 時間外勤務の増加
 消防本部の事務を兼務していることから、常態的な時間外勤務が増加しています。
 立入検査・完成検査や中間検査をはじめ、消防団の訓練指導、救急救命士生涯教育(法規に基づく教育)、各種会議・各種研修、外郭団体事務(防災協会、設備士会、防火委員会)など要因は多種多様にわたっています。

10. 今後の増大する課題

① この間にも大きな変革が及んでいますが、インフラ整備による交通事情の変化として、インターチェンジ開設や有明沿岸道路(高規格道路)の整備により、出動区域が拡大したことが要因となっています。とくに、高速道路上に出動した場合は、引上げ時間が延長し市内の消防力が0の状態になること、超危険地帯での活動のため、現場指揮はもとより、安全管理を行う支援隊が必要なこと、特殊事故(NBC)への対応など不安感は増すばかりです。また、【表4】で示すように救急要請の同時発生が増えている事にも注意が必要です。
② 建物の高層化等による生活環境の変化も加速化しています。インフラが整備され通勤圏の拡大の影響で、中高層マンションや介護施設等が増加しており、中高層階における災害対応が重要となっています。これまでの消防戦術では対応できない可能性(新たな訓練の導入や教育の充実が必要)も十分想定されるため、人命救助のための消防力一挙投入が必要となります。
③ 高齢化の進展等による救急需要の増加
  管轄人口は減少しているが、救急需要は増加していてマスコミ報道等でも、高齢化を大きな要因としています。今後、救急隊数の確保や救急救命士の継続的な養成、救急支援活動の重要性(PA連携)に対応することとともに、予防策としての出前講座など防災、救急予防講習会が必要になってきます。

【表4:事例市における最近の救急要請の同時発生状況】
区 分 総救急件数 2件同時 3件同時 4件同時 5件同時
2010年 1,508件 211件 32件 1件 0件
2011年 1,590件 224件 32件 4件 1件
2012年 1,750件 273件 57件 4件 0件
※2013年12月20日には過去最大の7件同時要請事案が発生しました。

11. 今後の県消研活動方向について

 これまで述べたように市町村の消防責任を十分に果たすためには、管轄区域内の消防施設や人員が適正であるかについて、「消防力の整備指針」を総合的に検討し、比較検討を行いながら、計画的に整備していく必要があります。
 他方で、「消防力」についての課題が浮かび上がってくると、十分な市民への説明を行っていく事が必要となります。そして、当然、自治体内部において数々の問題と解決策に対応することが求められてきます。
 県消研県南ブロック内においても議論の根底に大きくあったのは、同じ行政内部でありながら自治体と消防の間には、かなりの距離が生じているのが現実でした。同じことが県消研各消防協議会と自治体単組との間にもあり、この解決のために県南ブロックでは、地域内の自治体単組と合同の会議を開き、また、県本部においても学習会を開催し、消防職場の現状についての理解を深めてきました。同時に、ほとんど明らかにされていない消防の現状について光を当てるため、関係議員とも協議を行い県議会や地域の議会でも論戦展開が進んでいます。
 これらの結果を受けて一部の自治体では消防職員増強の方針が出され、職員採用の計画までに至りました。今後、大きな課題を抱えながらも、市民の命と財産を守り、自らの命と職場の安全を守るために、引き続き全県での検証を行いながら、未組織消防本部や各自治体へも情報の発信を行い、この取り組みの全体化に向け活動強化を行っていきます。