② 脱原発運動に向き合わない労働組合
その後、合併前に鷹島町長であった宮本さん(玄海原発と日本のエネルギー政策を考える会代表)を取材したが、「原発関連の交付金が対岸の肥前町と同額50億円の財政措置があれば、旧鷹島町が松浦市と合併しなくても自立した行政運営が出来た」と、再稼働に反対する中心メンバーが語っている事も注目したい。
この「考える会」は、地元の農協・漁協・商工会・観光協会・石工業組合など6団体で組織しているが、地元の労働組合はさようなら原発1000万人アクションの署名運動をはじめ脱原発運動に参加していない。
宮本会長は、住民の79%が再稼働に反対と回答している中で、原発問題に真剣に向き合わない労働組合に問題を感じていた。
2. 安全協定締結後再スタート
福島原発事故を教訓に避難区域が30㎞に見直されたこともあり関係する自治体は九州電力と原発設置自治体並の安全協定締結について協議をしていた。
2012年6月に長崎県知事、松浦・壱岐・平戸・佐世保の4市長は九州電力社長と「地域防災計画の的確かつ円滑な実施を推進し、住民の安全・安心を確保すること」で協定【資料1:原子力防災に係る長崎県民の安全確保に関する協定書】を締結。
同年12月に、締結した4市で「長崎県原子力安全連絡会」【資料2:長崎県原子力安全連絡会会則】が改めて設置され、各自治体で選ばれた諸団体と自治体の代表者及び九州電力と玄海原発の責任者で会議が行われることになった。
(1) 長崎県原子力安全連絡会の概要
原子力安全連絡会は、2013年10月から11月に松浦市・壱岐市・平戸市・佐世保市の4ヶ所で開催されたが、私は、日程の都合で2会場を傍聴した。
この2会場に共通していたのが、「九州電力玄海原子力発電所が様々な防災対策を充実し安全であるとの宣伝」から始まり、原子力規制委員会への対応のため職員約90人を東京に常駐させている。
玄海原発3号機及び4号機の来年度の早い時期に再稼働をめざしている等と、会社側の長い説明があり、「玄海原発は安全・九電は福島原発の様な事故は起こさない」と、会社側の考えに理解を求めることを最優先しているようであった。
また、この会議に女性メンバーが極端に少なく、平戸会場では名簿記載もなかった。災害弱者となる子どもたちを考慮しての人選であるのか率直な疑問でもあった。
(2) 平戸会場
最初の議論は、離島からの避難行動のあり方であった。
集団での住民避難は旅客フェリー活用しか考えられず、議論が集中したのは避難者と乗客定員との関係であった。
佐世保海事事務所と協議で、フェリーの復原性を再計算し救命胴衣・救命浮器等の設備を満たせば臨時的に運行を認める事になった。しかし、乗客定員以上の救命胴衣・救命浮器等の設備をどこの部署でするのか等、責任体制や予算措置については今後のようであった。
また、平戸市は防護服着用訓練を市庁舎内で5月に実施したようであるが、新型インフルエンザの発生時も兼ねた訓練で、「サーベランス」など、原子力災害に対応した訓練は実施されていない事も判明した。
地元医師会からは、避難困難者の対応として特に離島地域に「シェルター」の整備を求められ、県の担当者は「国に整備をお願いする」と答えていた。
地域住民代表からは、「九電側の説明が信用できない」と追及したが、九電は会社が主張する「安全」が住民の「安心」に変わるように何度も足を運び説明する等と話していた。
市長からも、原発の安全対策の不備を具体的に指摘されたが、九電の答弁に説得力はなかった。また、間もなく40年を迎える1号機と2号機について「どのように考えているのか」尋ねられたが、「継続運転(再稼働)をしたいが、規制委員会の議論を受け対応を考えている。」と、会社経営を重視する発言を繰り返していた。
長崎県危機管理からは2013年11月30日の防災訓練は福岡・佐賀県との合同訓練となる。鷹島の沖に位置する唐津市向島から漁船により平戸港へ、県域を超えての避難についても実施されると報告があった。
(3) 佐世保会場
九電側は、「安全協定の内容を着実に実行する」との決意表明があったが、平戸会場での議論を引き継ぐ型で、放射能の拡散防止策で「強力な放水銃で放射性物質を落す。これで皆さんを守ります。」と説明した問題で、「発生した汚染水の処理」についても説明を求められた。
「土嚢でせき止め、海にはシルトフェンスを設置して対応する」と答えていたが、住民・漁業関係者は一斉に異論を唱え、「汚染の広がりで日常生活に重大な影響がある。九電は軽く考えている」等と、改めて運転停止を強く求めていた。
住民からは、放射線モニタリング体制・避難後の防犯・気象状況を考慮しての放射能拡散(シミュレーション)の再検証・テロ対策・航空機等の墜落による安全性・要援護者登録と情報開示などの問題点について活発な質疑があったが、その多くが再稼働反対の立場で発言されていたようであった。
しかし、佐世保市長は「原子力規制委員会の審査で安全性が確認され、住民や関係団体に十分な説明をした上で国の責任で再稼働が判断されるのであれば認めないというものでない」と発言し、商工団体代表からは「再稼働してエネルギーの安定供給を図るべき」と、九電の説明を積極的に容認する発言であった。
漁業団体は、個別の安全協定締結を求め県北地域で再稼働反対の当面の行動として「立て看板を設置する」との強い発言があった。
(4) 傍聴しての感想
安全連絡会開催の目的が、九電側が「再稼働を視野に、住民や関係団体に十分な説明した」との既成事実をつくるためであったら大問題である。
また、この会議に放射能に敏感な女性が極端に少なく平戸会場では名簿にあった唯一のPTA代表が欠席していたことも気がかりであった。
この会議に出席した住民代表が「再稼働」に疑念を抱いている事が判った安全連絡会の傍聴であった。
平和団体に限らず、脱原発を唱える労働組合からの傍聴が一切無かったことも気がかりであった。
それにしても、佐世保市長の「原子力規制委員会の審査で安全性が確認され、住民や関係団体に十分な説明をした上で国の責任で再稼働が判断されるのであれば認めないというものでない」との発言と、安全連絡会に参加した多くの市民代表が「再稼働」反対を主張していた中で、住民の安全を守るべき市長の「住民や関係団体に十分な説明をした上で……」の言葉の真意を住民代表が図りかねている様であった。
3. 今回の原子力防災訓練
(1) 避難訓練の実態
佐賀・福岡県との三県同時に実施された11月30日の原子力防災訓練では、佐世保市北部の江迎・吉井・世知原地区住民の避難予定地区となっている三川内地区公民館で訓練の様子を視察した。
大型バス3台に乗車して2地区から避難訓練に参加したのは合計で64人、対象地域の住民約1万1千人の僅か0.6%、日曜日にも関わらず児童・生徒の参加は皆無で、市職員など訓練スタッフの多さとは対照的であった。
(2) 被曝防止対策は今から
放射能の付着状況を確認するための「サーベランス」、汚染が確認できた方には「除染」へと一定の流れは11月7日の原子力艦を対象にした訓練後でもあり、慣れているようであったが、福島原発事故程度の事態が発生すれば「パニック」は容易にできるようだった。
甲状腺の被曝を抑制する安定ヨウ素剤の展示や服用指導などの訓練も行われたが、説明を聞いていたのは服用効果が薄い40歳を超える皆さんであった。
これまでの訓練では確認出来なかった、乳幼児向けに安定ヨウ素剤をシロップ剤に溶かしスポイトで計量する一連の動作は初めての実施のようであったが、調合・服用に限らず服用前の問診や薬剤の保管場所・服用場所など様々な想定下での対策は今後になっている。
(3) 防災訓練で見えてきた課題
放射能を含むブルームの流れる方向によっては、居住地で安定ヨウ素剤を服用し避難場所に移動となるはずである。
① 安定ヨウ素剤の予防服用
放射性ヨウ素が吸入摂取または体内摂取される前の24時間以内又は直後に、安定ヨウ素剤を服用することにより、放射性ヨウ素の甲状腺への集積の90%以上を抑制することができるが、16時間以降であればその効果はほとんどないと報告されている。備蓄されている行政機関から輸送し、服用指導となれば手遅れの可能性が非常に高い。被曝を最小限に抑えるため松浦市は鷹島の住民を対象に事前配布を検討しているようである。
② ブルームが来る方向
佐世保市の旧江迎町と旧吉井町の境にある鷲尾岳風力発電所建設の事前調査資料に年間の風向・風力などの調査資料がある。夏場は当然ながら南風が通るがそれ以外は北東の風の通り道の様である。
このデータは玄海原発で発生したブルームが佐世保北部方面に向かう可能性を示している。安定ヨウ素剤の備蓄されている市保健所から運搬し服用指導となれば時間とのたたかいとなる。医師・薬剤師を確保できるのか課題も読み取れる。
③ 国の避難訓練結果を生かそう
川内原発で過酷事故が発生したとして、2013年10月11日から2日間にわたり事前のシナリオ設定せずに国が中心となった大規模な実動訓練が実施された。住民150人を40㎞離れた場所に避難するのに2時間かかり実際に全住民が避難するとしたら道路の渋滞やパニックで想定と大きく異なる事態が容易に予想される報告がまとめられている。
今回の3県合同の訓練は事前に設定したシナリオに従い、想定時間をスキップして実施された。当日の気象状況は反映されていない。2012年11月に予定された前年度の訓練は訓練参加者の安全が保てないとして悪天候を理由に2013年2月に一部変更された。原発事故の発生は天候に関係ないはずである。
今後は訓練当日の風向・風力など原発からのブルームの移動を推定した実動訓練に移行し、実効ある避難輸送体制を検証すべきである。
④ 実態に合わない避難場所
訓練ではバスによる輸送で実施されたが、長期にわたる避難を想定すると自家用車を活用することが容易に考えられる。この場合大渋滞が起きることは間違いない。避難場所は居住地域別に住民の収容数を勘案し検討したようであるが、改めて駐車場が確保してあるのか検証することも重要だ。
避難民を受け入れることになる三川内地区の住民十数人がサーベランスなどの訓練を傍聴していた。受け入れ地区住民が防災訓練の模様を現場で見ていたのは初めて目撃した。
しかし、今回も病院や介護施設からの避難は検討されていなかった。入院患者や介護施設入所者は何処に避難するのか。輸送手段について検討しているのか。佐世保市三川内地区での訓練を見た中でも、まだまだ課題は多くあるようだ。
⑤ 訓練検証
国・県・各市町そして九州電力は、三県合同訓練を年中行事やイベントに終らせないではないために真剣に検証し、浮かぶ課題の解決策を示して頂きたい。
最後に、抜き打ちで原子力訓練を実施した場合、避難者の輸送方法、避難所の設営・サーベランスや除染・被曝医療の人材確保、安定ヨウ素剤の服用など短時間で実施できるのか問いたい。
4. 自治労に期待
玄海原発の再稼働や米原子力艦の度重なる寄港と反対運動を展開している、平和センターや地区労の各種の集会は、参加者の減少傾向が続いている。
また、長崎県や佐世保市の地域防災計画策定委員会や、各原子力防災訓練の傍聴・現地調査と訓練時の検証など、自治労組織に期待する所は大きいが、これまでに全く行われていない。
福島第一原発事故後盛り上がった脱原発運動や、地域の基地撤去・平和と連動し、「核と人類は共存しない」との基本姿勢で自治労運動の強化を期待したい。 |