1. 高齢者人口の推移
高齢者人口は今後、「団塊の世代」が65歳以上となる2015年には3,395万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3,658万人に達すると見込まれている。その後も高齢者人口は増加を続け、2042年に3,878万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されている。
総人口が減少するなかで、高齢者の増加に伴い高齢化率は上昇を続け、2013年には高齢化率が25.1%で4人に1人となり、2035年には33.4%で3人に1人となる。2042年以降は、高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、2060年には39.9%に達して、国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されている。
総人口に占める75歳以上の人口の割合も上昇を続け、いわゆる「団塊ジュニア」(1971年~1974年に生まれた人)が75歳以上となった後に、2060年には26.9%となり、4人に1人が75歳以上の高齢者となると推計されている。
また、高齢者人口のうち、65~74歳人口は「団塊の世代」が高齢期に入った後に2016年の1,761万人でピークを迎える。その後は、2031年まで減少傾向となるが、その後は再び増加に転じ、2041年の1,676万人に至った後、減少に転じると推計されている。
2. 高齢者を取り巻く社会問題
一人暮らし高齢者や高齢者夫婦のみ世帯の増加が、現在の高齢者福祉における問題の一つであり、地域、社会からの孤立、健康状態の維持などが挙げられる。「気軽に身の回りの世話や用事を頼める人がいない」、「日常生活の中でできなくて困っていることがある」など、生活において様々なケースが発生している。
年齢が高くなるほど「閉じこもり」の率が高くなり、社会とのかかわりがより希薄しており、これに伴って発生する可能性が高まるのが高齢者の孤独死である。一人暮らしの高齢者が亡くなったまま1週間発見されず、週1回訪問していたヘルパーが第1発見者になるケースも出てきている。
身寄りがなく誰にも看取られずに息を引き取り、その後の対応(葬儀、遺留品の処分等)に苦慮する事例や病院や施設への入院、入居に際しても身元の引き受け手がないため必要な処遇が図られていない事例が散見されてきている。
しかしながら、各自治体では本人が居住している地域のコミュニティ機能を頼りにした対応を基本としているため、本人の住所を管轄している民生・児童委員を中心として民生所管課の職員(事務分掌に規定されていない業務として)が対処している。
このような状況にあって、地域コミュニティ機能を最大限活用しながらも各自治体の関与の在り方を明確にする必要がある。
そこで今回は、身寄りのない高齢者にターゲットを絞り、その対応の現状を明らかとしながら、終末にかかる手続きや死亡後の対応について今後の在り方を考察し、その方策の提言を行う。
3. 身寄りのない高齢者の定義
今回の研究における身寄りのない高齢者の定義は次のとおりとした。
①施設入所や入院時に身元引受や保証をしてくれる親族等がいない者(※親族等がいても、地縁のつながりを自ら希望していない、親族等から拒否されている等、絶縁状態となっている場合も含む)、②死亡人の場合は、亡くなった時点において、その亡骸や遺留品の引き受けをする者がいない者(後日、親族等が判明し引き取りがあった場合も含む)。
4. 自治体の取り組み状況
2012年度に㈱野村総合研究所が実施した「孤立(死)対応・対策に関する全国自治体アンケート」では、孤立死の事後処理よりも予防施策の実施割合が高く、孤立死の実態把握は約2割の自治体で行った程度であり、未だ統一した実態把握の手法、事後処理の対応が存在しないことがわかった。
また、個人情報の取り扱いが厳密に行われるようになってから情報集約・共有が進んでいないことが実態把握の障害になっていること、孤立死の定義が明確化されていないため具体的に取り組めないなどの問題が生じている。
5. 県内の自治体の実態
本県においても、前例にない高齢化社会を迎えている中で、核家族化などの家族形態の変化、地域社会の相互扶助機能の低下などにより、地域社会や家族を取り巻く環境が大きく変化してきている。特に一人暮らし老人の問題は、地域、社会からの孤立、健康状態の維持などが挙げられる。
自治体では民生委員が中心となり、このような人たちの日々の生活を見守り、必要に応じてさまざまな相談援助活動を行っているが、その活動はまだまだ、民生委員など特定の人が担っている状況である。
また、一人暮らし高齢者の突発的な急病や事故に備えて、家庭用の緊急通報装置を給付し、迅速な救急体制を確保する緊急通報システム事業なども行われ、友愛訪問事業や福祉電話などは安否確認だけでなく孤独感の解消にもつながっている。しかし、身寄りのない高齢者に対する、支援の在り方については、試行錯誤という状況であり、現状では、身寄りのない一人暮らしの方が亡くなると、次のような対応を行っている。
自治体や警察はまず、遺体の引き取り手となる親族(相続人)を探す。引き取り手がいない、または引き取りを拒否された場合は、「墓地、埋葬等に関する法律」に基づき、市区町村において遺体を引き取り、埋葬することとなる。この場合、市区町村長は法務局長の許可を得て、職権で戸籍に死亡の記載をし、そして、自宅で孤立死した場合は、検死が行われた後、警察から市区町村が遺体を引き取り、葬儀、火葬を行った上、永代供養をしていただける寺院に遺骨を納める。
火葬や納骨にかかる費用は、まず死亡者の遺留金品等を充当し、不足する部分は市区町村が立替え、最終的に県が負担。反対に、遺留金品等を充当してもなお残余金が生じる場合には、基本的に国庫に帰属させる。
部屋の片付け(遺品整理、消毒、消臭、ルームクリーニングなど)の費用は、原則として大家(不動産オーナー)の持ち出しによって片付けることとなる。
身元不明の遺体の対応については、墓地、埋葬等に関する法律に「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しない時は、死亡地の市区町村がこれを行わなければならない。」と定められている。
身元不明の行路人の遺体や海岸に漂着した水死体については、所在地の市区町村が警察、医師、県などの関係機関で連携し対応することになっており、状況、相貌、遺留品、その他本人の認識に必要な事項を記録した後、遺体の火葬及び埋葬を行うこととなる。
そこで、今回県内31市町村に対し、身寄りのない高齢者への対応について、アンケート調査を行い、回答期限までに寄せられた15団体の結果は以下のとおりである。15団体の平均高齢化率は27%であり、一人暮らしの割合は、4%であった。
身寄りのない高齢者を把握していると回答したのは、3団体であり、ほとんどの自治体では一人暮らしの高齢者世帯については把握していても身寄りがないか否かについてまでは把握していないと推測できる。
身元引き受けに関しては、社会福祉事務所長等が引受をせざるを得ないケースでも保証人にはなれないと回答した市町村がほとんどであるが、1団体のみ「両方」と回答。また、その他と回答した市町村のいずれも「親族等を探しても見つからないケースについては、最終的に社会福祉事務所長等が身元引受人とならざるを得ない」と回答している。また、死亡後の手続き、遺留品の管理、埋葬なども、現状では社会福祉事務所長がならざるを得ないという状況である。納骨に関しては、これらの業務を受託する社会福祉法人、NPO団体などの活動はすでに大都市圏では広がりを見せているが、本県においては社会福祉事務所長等がせざるを得ないと考えている自治体が多い。
身元引受人のない死亡の取り扱い規則などについては、明文化された規則等の整備がなされている自治体はなく、また整備予定としている自治体もなかった。
6. 今後の方策
わが国では、急速に高齢化が進み2015年には、総人口に占める65歳以上の人の割合(高齢化率)は26.8%になり、本県においては30%に達することが見込まれる中で、高齢化の進展は社会生活の全ての分野に、大きな影響を及ぼしている。
その中で家族形態、社会情勢の変化に伴い、今後孤立死は、増加すると予測されるが、対応方法は、市区町村において様々であり、試行錯誤の中で実施せざるを得ない状況にある。
これまでの福祉政策を転換し、超高齢社会にも対応できる高齢者保健福祉計画の立案、実施が求められている。
高齢になっても住みなれた地域で生きがいをもって安心して住み続けたいというのが多くの人の願いである。そのためには、今までのような行政主体の福祉から、地域のあらゆる人が支えあう気持ちを大切に、いきいきとした地域社会を創造していくために、今後必要であること、強化していくべきことは、以下のとおりである。
(1) 見守りネットワークの構築
社会的な意味での「孤独死(孤立死)」対策について、「孤立」と「死」という連動する二つの問題状況と「予防」と「早期発見・早期対応」という二段階から構成される。今日の「孤独死(孤立死)」対策の中心は「孤立」の「予防」であるから、社会的孤立を防ぐ対策が中心となっている。また予防を活性化することが「事後的対応」、つまり「看取られない死」の早期発見につながり、遺体が放置されるのを防ぐことになる。
予防を活性化し効果的に実施するためには、まず地域の高齢者の置かれている状況を理解することから始まる。なかでも、社会的役割を担う民生委員をはじめとした、自治会、老人クラブ、商店会などの協力は不可欠であり、地域での見守りネットワークの柱となる。従来から行われている支援事業を有機的に結びつけ、支えあいのネットワークと連動した展開を強化、推進する必要がある。
① 見守りネットワークの推進
見守りの必要な高齢者を支援するため、地域包括支援センターを中核として、民生委員、自治会、老人クラブ、近隣住民、商店会など日常生活にかかわりの深いメンバーにおいて、連携強化を図るために行動会議等を設置し、地域での見守りネットワークの実効性を確保する。そして、状況変化に対し早期発見、早期対応へ結びつける。
② 身守りネットワークを支援する各種制度
緊急通報システム、福祉電話貸与、徘徊探知サービスなど各種の見守り、支えあいサービスを充実し、見守りネットワークを制度面から支援する。
③ つどえる拠点の確保
閉じこもりを防ぎ、地域社会とのふれあい、寄合の場となる、地域お茶の間サロンなど、気軽に参加できる拠点を、今後も整備、拡充していく必要がある。このような場において、様々な情報交換や、一人一人が老後や、その後に控える死をについて考えるきっかけとなる場としても活用していく。
④ 身寄りのない高齢者の実態把握の徹底
今回のアンケート調査においても、身寄りのない高齢者を把握している市町村は、4件(27%)、していない市町村は、11件(73%)であり、一人暮らし高齢者世帯の実態把握は、ほとんどなされているが、身寄りがないか否かについてまでは把握していないと推測できるため、今後実態把握内容の充実と強化が必要である。
⑤ 支援を拒否する人へのアプローチ
上記①~③のサービスを拒否し、社会とのかかわりを全く持つことを嫌う人も存在するため、その対象者把握を行う必要がある。対象者を明確にし、その対象者へは、行政や、関係機関からの様々なアプローチ方法を検討、実践していく必要がある。
(2) 情報収集の強化
その人がその人らしく、安心して人生の幕を閉じるための支援をさせていただくために、本人が望む葬儀の在り方、財産処分の在り方など非常にデリケートな部分についても可能な限り本人より情報収集をしておく必要がある。
(3) 業務マニュアル化の徹底と行政間の連携強化
異動や、また職員自身も核家族等で、寺や墓に馴染みが無く、法事やお彼岸といった風習にも疎く、実生活においても人の死にかかわることがない職員も増加してくる中で、事案が発生すると、担当者が手探り状態で対応をしている。今回実施したアンケート結果においても、事務取扱要領などで一応の規定はあるものの、明文化された規則などの整備がなされている自治体はなかった。誰が担当してもその対応がスムーズに行われるためにも、まずは業務マニュアルの作成や見直しを随時行うとともに、使えるマニュアルづくりを徹底していく。また、その対応は市町村間においても異なることより、情報共有などさらに、連携を強化していく必要がある。
(4) 共同墓地、無縁墓地、納骨堂の設置、増設
身寄りのない高齢者に限らず、子孫が受け継いでいく従来型の墓に入ることができない人が急増していることから、誰でも墓に入ることのできる場所の確保が必要である。大都市圏では進んでいる無縁墓地や納骨堂の設置や増設が必要である。
(5) 孤立者、無縁者の存在を前提とした医療、介護、福祉制度の拡充
親族や地域住民による支援を受けることが困難な時代に突入しているのであることより、第三者による支援を前提とする制度が必要である。身元引受、保証人を立てられない現状があることより、医療機関や施設、介護事業所等関係機関と、現状を共有し、対応策を導きながら、新たな保障制度等の確立が必要である。
(6) 終末をサポートする人的・経済的支援
現在でも家族に変わって身元保証になったり死後の手続きを行ってくれるNPO法人等の団体や、民間企業はあるが、非常に高価であったり、大都市圏に集中しているなど、利用には至らないのが現状である。安価で安心して利用できる組織の育成などの検討が必要である。
7. おわりに
「こんなに長く生きるつもりはなかった」「早くお迎えが来てほしい」「なかなか死ねない」「迷惑をかけたくないので早く死にたい」これまでかかわってきた人から発せられた言葉である。
誰もが安心して人生を終えるという願いを叶えることが、困難な社会となった今、様々な課題が山積している。改めて、足元を見つめ、出来ること、出来ないこと、やらなければならないことの優先順位の見極め、自助・互助・公助などの役割とバランスの在り方等を明確にし、常に行政からの発信をし続けながら、だれもが幸せな人生であったと言えるような地域社会づくりを行っていきたい。 |