【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第12分科会 地域包括ケアシステムの構築

 市立伊勢総合病院を公設公営の病院として存続させ、伊勢志摩地域の医療体制を確保し、住民の生命と健康を守るため、私たち伊勢市職労、伊勢病院労組は一丸となって運動に取り組んできた。経営赤字を少しずつ解消し、2018年5月の新病院開院に向けて、現在も運動を継続している。今回、私たちが取り組んできた「できることから病院職員総行動」をはじめとした「よりよい地域医療を確立するための組合運動」について紹介する。



よりよい地域医療を確立するための組合運動
―― 労働組合による病院改善の取り組み
『できることから病院職員総行動』 ――

三重県本部/自治労伊勢市職員労働組合

1. 情 勢

 三重県伊勢市では、2003年6月に慶應義塾大学伊勢慶応病院が廃院となって以降、公設公営の市立伊勢総合病院(以下、伊勢病院という。)、山田赤十字病院(現伊勢赤十字病院。以下、伊勢日赤という。)が輪番で伊勢志摩地域の救急医療体制を維持し、伊勢病院は二次救急を、伊勢日赤は二次、三次救急を担ってきた。2008年から二病院の救急当番は、伊勢病院1:伊勢日赤2となった。
 三重県南部では、2004年度より開始された新医師臨床研修制度の影響で慢性的な医師不足が深刻な問題となり、伊勢病院、伊勢日赤は、県南部の救急医療拠点として、伊勢市だけでなく近隣の市町や紀州地域を含む広範囲な地域からの救急搬送患者を受け入れてきた。
 2011年4月からは、内科医師の減少、伊勢病院の脳神経外科の休診により、救急当番は、伊勢病院1:伊勢日赤5、伊勢病院が金曜日と土曜日を隔週で担当し、それ以外の日を伊勢日赤が担当するという厳しい状況が続いている。
 2012年1月には、伊勢日赤が新築開院(一般病床 651)し、新たにドクターヘリが導入されるなど、伊勢日赤は県南部の公的医療拠点として高度医療を提供する一方で、伊勢病院は、医師や看護師等の不足による病棟閉鎖、患者数の減少によって、逼迫した経営状況となっている。

2. 市立伊勢総合病院の現状

 伊勢病院は、2004年4月1日より公営企業法を全部適用している。1979年4月、現在の伊勢市楠部町に新築移転後、建物は35年が経過しており、施設の耐震化問題からも新築建替に関して様々な検討がなされてきた。
 一方、医師不足やそれに伴う患者数の減少が経営状況の悪化に拍車をかけ、不良債務の増嵩が課題となった。国の公立病院改革ガイドラインに基づき、伊勢病院では2008年に公立病院改革プランを策定し経営改善が図られたが経営赤字は深刻化し、市議会においては、医療政策を論じることよりも財政論を優先し、民営化をはじめとする経営形態の見直しを主張する市議会議員の発言も目立つようになった。
 2011年9月定例会の冒頭、鈴木健一伊勢市長が、「市立伊勢総合病院については、伊勢志摩サブ医療圏の要として、これから迎える高齢化社会、市民の健康に対するニーズが非常に高いことを踏まえ、新しく建て替える方向性でいきたい」と明言したことから、2012年には新病院建設基本計画策定委員会による新病院の規模、機能に関する議論が深められ、2013年3月、『人間性豊かな市民病院~市民の健康増進、生活の質の向上を目指して、愛情と誇りを持てる病院を目指して~』を基本理念とした新病院建設基本計画が策定された。現在は、当初より1年早い2018年5月の新築開院をめざし、具体的な新病院の建設準備作業が始まっている。
 新病院整備の基本方針は、①質の高い良質な医療の提供、②患者中心の良質なチーム医療の醸成、③他の医療機関、福祉施設などとの緊密な連携、④市民病院の責任として行政と協働して政策医療を実行、⑤市民の命を守るための災害時拠点病院、⑥病院を維持、継続できる安定した経営基盤の確立、⑦働きがいがあり、報われる職場となる就業環境の改善、⑧優秀な人材の育成・確保・定着、とされた。
 病床数は現在の322床を300床とし、「急性期・救急医療」、「回復期・慢性期医療・緩和ケア」、「予防医学・健診」を三本柱とした機能による「切れ目のない医療」の実現に向けた運営方針を掲げている。特に回復期医療については、新病院開院に向けた足掛かりとして、2013年4月より365日リハビリテーションを開始、同年9月には回復期リハビリテーション病棟を開設し、それに伴う職員の増員を行うなど、新病院開院に向けた準備が積極的に進められている。
 しかし、経営状況の改善は依然として最重点課題となったままである。

表1 市立伊勢総合病院の経営状況(各年度の決算統計資料より)
  2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
病床数(床) 419 322
看護配置基準 10:1 7:1
1日平均患者数(人) 入院 291
外来 988
入院 254
外来 747
入院 232
外来 683
入院 230
外来 655
入院 211
外来 585
入院 189
外来 558
入院 190
外来 532
病床利用率(%) 69.5 60.7 55.4 71.4 65.4 58.7 59.1
医業収益(百万円) 6,160 5,789 5,393 5,495 4,973 4,776 4,801
純利益(損失)(百万円) ▲342 ▲529 ▲585 ▲239 ▲163 ▲345 15.8
他会計繰入金等(百万円) 459 459 458 508 703 1,583 1,072
不良債務(百万円) 743 916 1,059 1,028 1,022 168

不良債務比率(%) 12.1 15.8 19.6 18.7 20.6 3.5
(職員数の動向)
  2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
医 師 45人 44人 46人 44人 43人 37人 36人 35人
看護(准)師 230 227 216 206 201 189 187 187
医療技術員 61 56 57 56 54 51 60 60
事務員 18 22 20 20 21 26 27 27
その他の職員 26 25 22 21 11 10 11 11
救急輪番体制 2:3 1:2 1:5

3. 労働組合としての地域医療を守るたたかい

 伊勢市職労、伊勢病院労組としては、伊勢病院を公設公営で存続し、この地域の医療を守っていくための取り組みをより強化するため、2012年、組合執行部に病院対策委員会を設置した。2013年の定期大会では、運動方針に「地域医療を守るとりくみ」を掲げ、病院職場だけでなく、伊勢市全体の運動として位置づけ、①財政分析を通じた経営改善のための課題研究、②『できることから病院職員総行動』、③地域医療を守るカンパ、の具体的な取り組みを提起し実行した。

(1) 財政分析を通じた経営改善のための課題研究
 経営改善に向けた取り組みとして、まず執行部自身が伊勢病院の経営状況を客観的に把握し、課題について認識を共有するため、2011年12月11日、経営支援センター松江 医療経営アドバイザーで自治労本部衛生医療評議会事務局長を務められた米田幸夫氏を招き、財政分析学習会を実施した。学習会には、執行部のほか、病院当局、市財政当局も参加し、公立病院の責務や役割、経営赤字の本質の究明、解消のための方策、経営改善に対する繰入金等の課題について労使で再認識し、早期の取り組みの着手の必要性を確認した。
 また、「地域医療を守るとりくみ」を労働運動として取り組むにあたっての課題を学習するため、翌年1月16日には、田中智也県議会議員(元三重県病院事業庁労組・県本部衛生医療評議会事務局長)を招き、三重県における県立病院改革の概要と三重県職労における地域医療を守る運動の取り組みについて学習した。
 2012年1月26日には、伊勢病院の経営状況、危機感を共有し、運動に取り組む重要性を職場全体で確認するため、医師をはじめ病院職場の全職種の職員に呼びかけ、伊勢市ハートプラザみその多目的ホールにおいて、再度、米田氏による財政分析学習会を開催した。交代制勤務等により学習会に参加できなかった職員に対しては、2月24日、学習会の状況を撮影したビデオをもとに執行部独自で学習会を実施した。学習会では、財政優先ではなく医療政策の立場から、地域住民のためになくてはならない病院のあり方を考えていくこと、職員一人ひとりの意識改革を喚起し、トップダウンではなくボトムアップで職員自らが病院改革に取り組む重要性を確認した。
 さらに、6月1日・4日・6日にかけ、病院職場の全職員を対象に集中オルグを行い、伊勢病院が今後も「伊勢市の医療行政の推進母体」として、公立病院の役割を果たし続けていくこと、経営形態の変更を行うことなく「公設公営」によるサービス提供を行っていくことのできる病院づくりをめざし、一丸となって運動に取り組むことを職員と意思統一した。そのうえで、2012年4月26日には藤本昌雄病院事業管理者に、6月12日には病院設置者である鈴木健一伊勢市長に対して「伊勢病院のあり方について」の組合としての考え方を申し入れた。
 2013年2月14日の市議会教育民生委員会、3月4日の3月定例会において、鈴木市長は、経営形態に係る市の方針について、「地域医療を確保し、市民の命と健康を守ることは、市の重要な役目であり、そのためには、地域に必要な医療機能を確保していかなければならない。このような市の役割を果たしていくためには、市立伊勢総合病院を市の組織の一つとして位置づけ、市の政策医療を実施しやすい地方公営企業法の全部適用を継続していく。そして、病院事業管理者のリーダーシップのもと、全部適用のメリットを最大限活用しながら、経営改善に取り組んでいく」と明言した。

(2) 『できることから病院職員総行動』の取り組みについて
 病院各職場においては、これまでも職務の一環から経営改善に向けた努力をしていたが、新たに組合運動としての病院改革の取り組み、『できることから病院職員総行動』に取り組むこととした。これは、病院職場の分会長を中心に、職員全員の協力を得ながら、医師・看護師不足、赤字経営など様々な問題を抱えている中で病院をどのように守っていくか、また、新しい病院開院に向けて伊勢病院をより良くしていくために、「病院の各職場で何ができるか」ということを働く者の立場から一人ひとりが考え、各職場で議論した結果に基づいて自主的に行動することを組合の立場でまとめたものである。
 取り組みとしては、2012年9月~2013年3月までの間を第1回、 2013年4月~2013年9月を第2回、2013年10月~2014年3月を第3回、2014年4月~2014年9月を第4回としている。
 内容は、全職場共通の項目、または各職種・職場ごとの特性に応じた項目ごとに達成目標を設定して取り組み、その結果を月単位で職場ごとに自分たちで確認、評価する、さらに毎月初めに定例開催する分会長会議で結果を報告し、新たな課題や問題が発生していないか、など職場全体を点検し改善することを継続していくといったものである。また、取り組みを行うに当たり、以下のルールに基づいて進めることとした。

『できることから病院職員総行動』のルール

① 取り組みの期間は6カ月毎とする
② 取り組みの結果は「◎、○、△、×」の4段階で評価し、目標を具体的な数値(数量)で設定したものについては、その数値(数量)を報告票に記入する
③ 組合員のいる全ての部署ごとの取り組みとする
④ 月末に執行部まで報告する
⑤ 必ず職場全体の意見をまとめ、分会長1人の判断としない
⑥ 目標は継続して取り組めるものが望ましく、達成が△・×の評価が多いものは次回も継続して取り組む
⑦ 病院全体の共通項目を設定

 第1回の期間では、全職場、全職員で取り組むことによって大きな効果が得られることが予想される内容・取り組みを共通項目とし、『患者に笑顔で応対する』、『職員・患者を問わず、全員にあいさつする』、といった「明るい病院づくり」をめざした項目を掲げて取り組んだ。(表2
 一方、経営改善に向けては、多くの職場で節電、節水、物品の節約などに取り組んだ。
 取り組みを始めてから期間終了までの7ヶ月間における効果として、電気使用量、ガス使用量、ペーパータオル使用量をできる限り抑えることでコスト削減に成功した。また、それぞれの職場の使用する物品の低コスト化などに取り組んだ。個々の職場における削減量としては、それぞれ微量であったが、職員がコスト意識を持って取り組むことで、全体で相当の額を削減することができたとあらためて実感した。
 その他にも、エコ活動、職場の整理整頓、療養環境の整備、積極的な研修・勉強会への参加、資格の取得・維持、地域との関わりを持つこと、などを取り組み項目とした。取り組み項目の多くは、ごく当たり前の基本的な内容であるが、一人ひとりが主体的に行動することで病院全体に経営改善の流れを生むことができることを確認できた。
 何よりも、取り組みを通じて病院職員一人ひとりの姿勢が変化してきていることが見て取れ、特に若年世代の職員においては個々の努力が目覚しく、他部署との交流も盛んで今まで以上に職場が活気づいている。
 地域住民への質の高い医療サービスを提供するため、組合としてもこの運動を通じ、地道ではあるが職員一人ひとりが継続して実践することの重要性を職員全体で共有し、取り組みを継続することとしている。
 こうした中、病院当局は、医師看護師奨学金基金の設立や医師確保手当の創設など、医療人材の確保に向けた取り組みを積極的に進める一方で、病院設置者の市と一般会計からの繰入基準の見直しを協議し、その増額を図りつつ、財政基盤の強化を行ってきている。

表2 「できることから病院職員総行動」共通項目、各職場項目(代表例)
職 場 第1回
(2012.9~2013.3)
第2回
(2013.4~2013.9)
第3回
(2013.10~2014.3)
共通項目 『患者様に笑顔で応対する』 『伊勢病院のPR活動(医師・看護師の勧誘、伊勢病院の受診推薦など)』 『他部署とのコミュニケーションを積極的にはかる(チーム医療の推進、各科交流勉強会の開催など)』
『職員・患者を問わず全員にあいさつする』 『節電、節水、ペーパータオルの削減などコスト意識を持つ』 『職場の意見を積極的に上層部にあげる(ボトムアップの促進)』
3東病棟 ペーパータオルの削減 エコキャップ活動に参加 エコキャップ活動に参加(800個以上ためる)
天気の良い日は南側の電気を消す 院内・外の研修・勉強に参加し患者に還元する 院内・外の研修・勉強に参加し患者に還元する
エコキャップ活動に参加している スタッフステーション・病室の整理整頓 スタッフステーション・病室の整理整頓
手術室 節約(ペーパータオル・イソジン・ハイポ・滅菌パックなど) 患者さんに笑顔で応対、声かけをする 患者さんや院内スタッフに対し、笑顔で対応・声かけをする
節電(使用していない部屋の電気・夜勤時の空調など) 環境整備 環境整備
空調節電(19~21時) 院内外研修への参加、ボランティアなど地域との交流 院内外研修への参加、ボランティアなど地域との交流
臨床検査室 使っていない部屋の電気・エアコンのこまめな節電 臨床検査技術の向上(勉強会参加、学会発表、資格取得) 臨床検査技術の向上(勉強会参加、学会発表、資格取得)
業務を勤務時間内に終わらせられるよう時間外削減を心がける 他部署とのコミュニケーションを図る(チーム医療の推進、他科交流勉強会の開催など) 他部署とのコミュニケーションを図る(チーム医療の推進、他科交流勉強会の開催など)
物品・試薬のコストを表記し、コスト意識を持つ
検査機器を大切に扱い、修理費用を抑える
患者さんに笑顔で対応、進んで声がけ
患者さん・職員にかかわらず全員笑顔であいさつ
患者さんに笑顔で対応、進んで声がけ
患者さん・職員にかかわらず全員笑顔であいさつ

『できることから』病院職員総行動

(3) 地域医療を守るカンパの取り組み
 2012年10月、伊勢病院において医師・看護師確保を目的として医師看護師奨学金制度が設立された。組合としても病院を守り、地域医療を守っていく運動として、この基金に対するカンパを病院職場に限らず職場全体から募った。その結果、全職場で、管理職や非正規職員を問わず、多くの職員から多額のカンパを集めることができた。これは、伊勢病院の問題が伊勢市の職員全体として取り組んでいかなければならない課題であることが認識された結果の表れであると言える。
 現在、奨学金制度の利用による人材確保が進められる一方で、まだまだ、奨学金の継続的な運用のための基金の財源が不足していることから、2014年1月には、再度、カンパを募り、集約されたカンパを浦井執行委員長から藤本昌雄病院事業管理者に贈呈した。

カンパの取り組み状況
(第1回)
2012年11月26日
~2012年12月28日
・集約金額 1,002,000円(贈呈 2013年2月14日)
・取り組み人数 990人 組合員
管理職等
臨時・嘱託職員 
808人
54人
128人
(第2回)
2014年1月14日
~2014年1月31日
・集約金額  760,000円(贈呈 2014年3月26日)
・取り組み人数 863人 組合員
管理職等
臨時・嘱託職員 
741人
50人
72人

4. 今後の取り組み

 これまでの取り組みは、組織内における職員の意識改革からの病院改革、それを実現するための取り組みが中心であった。この取り組みを継続するとともに、今後は、市民の生活の中に「安心・安全」を実現するため、伊勢病院を公立病院として維持していかなければならないことを訴えていく運動が重要になってくると考える。そして、伊勢病院を「市民の財産」として認識してもらい、その信頼に耐えうる医療環境の実現を当局とともにめざしていかなければならない。
 2014年度は、新たな取り組みとして、連合地協、地区労など地域労働界の仲間に対し「地域医療を考える学習会」(仮称)の開催を通じ、伊勢志摩地域の医療の現状と課題について情報を共有し、「地域医療を守るとりくみ」を広げていくことを執行部で検討している。最終的には、市民運動としての運動展開も視野に入れている。

5. まとめ

 国は公立病院改革プランにより、経営の効率化、さらには経営形態の見直しを自治体病院に迫ってきた。次々と公立病院では地方独立行政法人化や指定管理者制度の導入が進められていく中で、伊勢病院においては、地方公営企業法の全部適用を継続し、公設公営による経営形態を維持する方向性が決まり、新築建て替えによる4年後の新病院開院に向けた作業が始まったものの、依然として厳しい財政状況を背景に、民営化議論は完全に消えたわけではない。
 伊勢病院は、「公共の福祉の増進」という公立病院であるが故の大きな責任をもち、「地域住民の生命(くらし)と健康」を守るという大きな使命を果たすため、当局側、労働側が一体となって新たなスタートを切った。
 国や市から財政支援を受け、あるいは市民から負託された税金を投入し運営されていることからも、まさに住民にとって社会的な共有財産である。鈴木健一伊勢市長も「20年後の伊勢市のためになくてはならない医療政策推進のための中心的機関」として公設公営で運営していくと標榜する。
 今後は、医師をはじめとする人材確保を一層図り、新病院建設基本計画に基づく医療サービスの充実により、伊勢市のみならず、鳥羽市、志摩市、玉城町、度会町、南伊勢町からの患者受け入れが円滑に行え、伊勢日赤とともに伊勢志摩サブ医療圏における基幹病院としての機能が遺憾なく発揮されることが望まれている。また、2015年より取り入れられる地域包括ケアシステムにおいても、官民の垣根を越え、医療・保健・福祉の連携による地域全体のセーフティネット機能の確保に向け、さらに重要な役割を担うことは言うまでもない。
 私たちは、多くの資料をもとに経営形態変更による結果の検証を行った。そして、①民営化した場合、自治体病院がこれまで果たしてきた「地域医療への貢献」という役割が継続性かつ安定性を持って実践される保証はどこにもない、②経営形態変更によって職員の身分が公務員でなくなった場合、「公共の利益」のため全力を挙げて職務に専念する地方公務員として共有すべき基本的な価値観は期待できない、③経営形態が変更されても、医師をはじめ医療スタッフの確保は確約できないことから診療機能の低下を招く恐れがある、といった点から、伊勢病院を公設公営として継続していくことが、伊勢志摩地域の医療を守っていく上で絶対に必要であると考える。
 現状、当局は公設公営で伊勢病院を経営していく方針を維持するが、今後、伊勢市の財政状況、市長や議会の意向によって方針が覆される可能性は十分にある。ましてや、伊勢病院そのものの経営が改善されず経営努力も認められなければ、公設公営の伊勢病院を守ることはできず、結果として、安心できる伊勢志摩地域の医療体制も守ることはできない。
 私たちは組合として伊勢病院を守るため、「できることから」をはじめとした様々な運動に取り組んできた。病院職員全員はもちろんのこと、伊勢市職員の全てが公設公営の市立伊勢総合病院の必要性を理解し、一人ひとりの小さな行動ではあるが、着実に運動は根付き、職員の意識も変わった。「病院が明るい雰囲気になった」、「看護師の皆さんが本当に優しく接してくれて安心だ」といった患者やその家族からの声が、少しずつ増え、病院当局に届いている。伊勢病院を守る運動を組合活動の一環として取り組むことで大きな流れを生み出すことができた証である。新病院建設、開院に向けて伊勢病院の経営状況に改善の兆しがみえ、職場自体に活気が戻ってきた今、組合として取り組んできた運動を継続し、伊勢市全体で市立伊勢総合病院を守る運動に展開していくことが重要である。