2. 図書館を核としたまちづくり実行委員会の取り組み
(1) なぜ図書館なのか
旧浜田市立図書館は、1969年5月に開館し、社会教育施設としての重要な役割を果たしてきたが、施設の老朽化が進み、延床面積は686㎡、駐車スペースも5台分しかないなど、県内他市の図書館と比較してハード面において市民の要望に十分に対応できていないのが現状であった。図書館建設の計画は2000年度からあったが、財政状況等の様々な要因で延期を余儀なくされてきたが、2009年11月に新図書館を整備する方針が決定され、図書館建設検討委員会を設置し、様々な検討が行われた結果、2011年2月に「浜田市中央図書館基本計画」が策定され、新図書館の建設が現実のものとなった。
この「浜田市中央図書館基本計画」には、新図書館の基本コンセプトとして、4つの項目を掲げている。
ここで注目すべきは、「社会教育推進の役割を担う図書館」であり、ここでは、新しく建設される中央図書館は、市民協働による運営を行うことを明記している。
図書館建設の基本コンセプトに市民協働を明確に打ち出した結果、今回紹介する図書館を核としたまちづくりの流れができたと言っても過言ではない。
社会教育推進の役割を担う図書館 |
図書館や図書に関するボランティア活動の場を創出・提供するなど、市民との協働による図書館運営を目指す。また、当市における社会教育推進のための拠点施設の一つとして、社会的課題の解決に役立つ情報を提供するとともに、その取り組みを支援する。 |
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(2) 推進体制の概要
図書館を核としたまちづくり実行委員会は、2012年1月に設立された市民団体「自立できるふるさとを創造する会」を中心として、この団体の行う活動に賛同した市民団体、地元自治会、企業に行政や教育機関が参加し、組織化された団体である。
構成団体は、図書館に関わりのある読み聞かせボランティアを始め、高齢者クラブ、高齢者のパソコン普及を目的とした団体、環境美化の団体、食について考える団体、おやこ劇場、民間企業、地元公民館や自治会組織、幼稚園及び小中学校、県立大学等の教育関係、地元企業といった多種多様な団体が参加している。さまざまなフィールドで活動する団体が集まることで、既成の枠にとらわれることなく、多角的な活動を展開することが可能となった。
なお、この実行委員会の中心となった「自立できるふるさとを創造する会」は、浜田市職員労働組合組織内議員・須山隆県議が代表を務める団体である。
図書館を核としたまちづくり実行委員会構成図 |
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(3) 活動内容と成果
図書館を核としたまちづくり実行委員会の活動をまとめると大きく5つの事業に分けることができる。実行委員会による各構成団体の特性を活かし、実に多彩な活動を展開しているところに注目して欲しい。以下、各事業の内容とその成果について紹介する。
① 関係団体による実行委員会の定期的な開催
実行委員会は、これから実施する事業について各団体と協議、調整する場として開催している。2012年3月から2013年3月までにおいて6回の実行委員会を開催し、これから紹介する事業について議論し、決定している。
② 図書館開館に向けた事業検討のためのワークショップ
ワークショップの開催は、この実行委員会の事業のキモと言える重要な活動であり、部会を組織し、各部会において、新しい図書館は市民にとって、どう在るべきで、いかに活用し、図書館の運営に市民はどう関わっていくかをワークショップ形式で議論を深めてきた。
ワークショップは、まちづくりを議論するうえで有効な手段として用いられることが多いが、うまく機能させるにはファシリテーターと呼ばれる司会進行役の力量に大きく左右される。このため実行委員会では、構成団体のコネクションを活用し、岡崎市で新図書館を建設する際、市民活動と図書館をつなげ、まちづくりの発展に寄与してきた名古屋工業大学の三矢勝司さんを講師に招きワークショップの手法を学びつつ議論を深め、6回のワークショップを通じて行動計画を策定した。
現在、各部会では、この行動計画に基づき、図書館の開館に照準をあわせた事業を展開しているところである。
策定された各部会の行動計画 |
部会名 |
行動計画 |
図書館開館PR作戦 |
図書館への関心度を高めるため、加盟団体の主催で、月に一度PRイベントを行う。 |
周辺環境整備 |
図書館周辺の環境整備を行うことにより、外でも本が読めるような開放的な空間を創出する。 |
自然観察ボランティア
(天体観測の部) |
天体観測を通じて、図書館の情報による学習と屋外での学習を結びつけた活動を行う。 |
読み語らい行動計画 |
図書館において、読み聞かせなどを通じて、読書週間を持ち自ら考え行動できる能力を養う。 |
多目的ホール等の使い方を考えよう |
図書館に設置される多目的ホールやコミュニケーションスペースなどをどのように利用していくのか、市民が自分たちで検討し、提言を行う。 |
図書館のトリセツ |
市民と図書館の関係を分かりやすく編集した「図書館の取扱説明書」を作成し、図書館が持つ可能性を分かりやすく伝え、市民の図書館活用力向上を目指す。 |
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③ 憩いの水辺づくり事業の実施
この事業は、多くの市民を巻き込み、現段階において最も成功したものであり、新図書館と市民の活動を繋ぐ重要な架け橋となっている。
新図書館は、旧医療センター跡地に建設され、市道を挟んで2級河川の浜田川が流れている。この浜田川における新図書館周辺部は、階段護岸が整備され、遊歩道が整備されているが、これまで清掃活動が行われてこなかったため、河川敷には草が生い茂り、ゴミが捨てられているような状況であった。
実行委員会は、ここを改善し、図書館を利用する市民の新しい憩いの場を提供したいと考え、河川敷の清掃活動及び花の植栽を計画し、実行に移している。
この事業では、2013年6月末時点において実に4回の大規模な清掃活動を行い、延べ約600人の市民が参加し、その趣旨に賛同した地元企業からは、トラック等の必要資材等の外、参加者の軽食や飲み物の提供が行われた。
また、市内幼稚園、保育園児とその保護者や地元の高齢者クラブによる延べ約100人以上が参加した植栽活動を行っている。
こうした取り組みの結果、県による河川敷の土砂取りや小水路の掘削など、市民だけでは対応できない重機を使った整備に繋がり、まさに市民と行政による協働の環境整備が実現している。
なお、今後、市においても市道のカラー舗装を行う予定であり、市民の新たな憩いの場として相応しい空間が誕生することになる。
④ シンポジウムの開催
実行委員会では、新しい図書館に市民に広く関心を持ってもらうため、2回のシンポジウムを開催している。
第1回のシンポジウムでは、公募により決定した新図書館の島田館長(当時、図書館準備室長)及び鳥取県立図書館支援協力課長の小林さんに新図書館の概要や地域の情報拠点としての図書館の可能性について講演いただき、約200人の参加があった。
また、第2回のシンポジウムでは、元松江市図書館館長の大屋さんを招き「地域が支える図書館づくり」を演題に講演いただき、約50人の参加があったところである。
この2回のシンポジウムの開催により、新図書館のあるべき姿や可能性を広く市民にイメージしてもらうことができたことがこの事業における成果と言える。
⑤ 先進地視察の実施
実行委員会は、これまで2回の視察を実施し、各視察先の図書館でどのような取り組みが行われ、自分たちは何をすることができるかを模索し、先述のワークショップを通じて行動計画を策定している。
なお、いずれの先進地視察にも新図書館の館長も参加し、先進地の取り組みをどう取り入れ、活用すべきか行政も一緒の目線に立って情報を共有化している。
3. まとめ
(1) 成果と今後の課題
図書館を核としたまちづくり実行委員会の取り組みは、多くの市民を巻き込み、多角的な視点から図書館を考えることができたことが大きな成果である。特に憩いの水辺づくり事業は、市民協働の成果の象徴とも言え、多くの市民の方々から評価を得ている。
その一方、この取り組みは図書館を核としたまちづくりの第一歩を踏み出した段階であり、今後は、ワークショップを通じて策定した行動計画の着実な実行が重要であり、ネットワークを更に広げ、浜田市における市民協働促進の起爆剤となることが期待されている。
なお、こうした活動を継続していくうえで、活動資金の確保が最も重要な問題となるが、活動初年度となる2012年度は、島根県の新しい公共支援事業の補助金を活用し、現在は、同じく県の「しまね社会貢献基金事業」に移行し、資金面においてはやや安定していると言え、その分、活動を継続し、更なる発展を図っていく使命を与えられたとも言える。
(2) さいごに
浜田市職員労働組合は、図書館を核としたまちづくり実行委員会の活動に対して、憩いの水辺づくり事業において執行委員を始め多くの組合員が清掃活動に参加している。
しかしながら、現時点において、浜田市職員労働組合がその存在感を示すような活躍はできているとは言えず、今後、この活動に対しどのように関わっていくべきか議論を深めていく必要がある。
格差社会が進む現在、市民の行政に対する視線は今後ますます厳しくなっていくことが予想される。自治体労働組合は、自らの労働条件を勝ち取っていくためには、組合員も市民であることを再認識し、市民協働を通じて市民の活動に飛び込み、地域社会の活性化に寄与することで、その存在意義を示し、市民の理解を得なければならない状況にあるのではないだろうか。 |