【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 地域の課題を職場の仲間や市民と一緒に実現する「地域自治研」の実践や組合員に寄り添った職場環境の改善をめざしている苫小牧自治研の最近の活動を報告します。職場アンケート調査を実施したり、民間委託後の窓口職場の状況を検証するなどの活動に取り組みました。まだまだ目立った成果は出ていませんが、少しずつ、一歩ずつ進んでいこうと考えています。



苫小牧自治研 最近の活動報告
―― 地域自治研の実践と職場環境の改善に向けて ――

北海道本部/苫小牧市役所職員労働組合・自治研推進委員会

1. はじめに

 私たち苫小牧市職員労働組合自治研推進委員会(以下「苫小牧自治研」という。)は、月に1度会合を開き、市政や職場の問題などについて議論している。苫小牧自治研はかつて、苫東開発反対闘争、千歳川放水路反対闘争、ITER(国際熱核融合実験炉=「イーター」)誘致反対運動といった地域の大きな課題に市民とともに取り組んできた歴史がある。しかし、その後しばらくは活動が停滞していた時期があった。
 そのような状況を脱するため、2017年からは今後の活動として、市民に訴えるもの又は市民と連携するものを行うこととし、「小中学校の給食費無料化」と「勇払原野のラムサール条約登録」の問題を取り上げた。前者については、市民に対し議論開始のための一石を投じるために提言書を発表し、後者については、市職労組合員とその家族を対象にバス見学会を実施した。いずれも、具体的な成果に結びついてはいないが、少なくとも自治研活動を活発化し、意義あるものにするための一歩を踏み出すことができたと考えている。以下、その後の苫小牧自治研の活動について報告する。

2. 職場アンケート調査

(1) アンケートの実施
 苫小牧市では、最近メンタルの不調で休職する職員や将来のある若手職員が早期退職するケースが増えている。苫小牧自治研は、その原因が何なのか、解決するためには何をすればいいのかを考察するため、2020年に組合員を対象に「職場アンケート」を実施した(897人中775人から回答。回答率86.4%)。結果からは、職場環境の改善が差し迫った課題であることが浮き彫りとなった。

(2) アンケートの結果
 アンケートでは7つの質問を設定し、それぞれに回答してもらった。その結果、「職場の雰囲気」「仕事のやりがい」では肯定的な回答が多かったものの、およそ1割がパワハラを受けたと回答し、セクハラの存在も明らかとなった。また、こころに大きな負担を抱えているとの回答がおよそ3割、退職を考えたことがあるとの回答が4割近くにのぼった。
 パワハラ、セクハラを誰から受けたかとの問いに対して、最も多かった回答はいずれも「上司」で、次に「同僚」が続いた。こころの負担となっている原因や退職を考えた理由は、「職場の雰囲気・人間関係」「仕事がきつい、労働時間が長い」「仕事が面白くない・やりがいがない」といった職場環境に起因するものが上位にきている。また、自由記載欄には、上司に対する不満や人事のあり方についての不満が多く寄せられた。

(3) 問題点への対策
 アンケート結果により明らかとなった問題点を解決するため、次のような対策を考えた。
① パワハラ・セクハラへの真剣な対応を
 まずは当局による実態把握と進行中の案件への対処が不可欠。その上で、研修や相談窓口などの再発防止・解決策の確実な実施が必要。組合も相談機能を強化。また、当局は非正規職員の待遇にも気を使うべき。
② 人員を増やすこと  職場環境改善のためには人員増を図るべき。優先するのは時間外勤務が多いとか病休者が頻繁に発生しているような困難職場。また、負の連鎖を防ぐため、病気休暇が一定期間を経過した場合に加配で職員を配置するルール作りが必要。
③ 仕事のやりがい向上のために
 ア できる限り職員本人の希望を聞き、資質・能力に合った仕事に就けるような制度設計など異動のあり方の見直し(所属長の人事関与を強めるなど)。
 イ 部下の仕事内容や心身の状態を把握するなど管理職が役割を果たす。
 ウ 苦情対応等で職員を孤立させない取り組みやチームワークを重視した仕事の仕方など、仕事に対する嫌悪感の軽減。
④ こころの健康問題の解決に向けて
 発生させない対策(職場での気づき、相談窓口の充実)と発生した後の対策(職場復帰プログラムの浸透)が重要。また、休職中の異動に対する柔軟な対応や、職場や仕事に多様性を確保することも必要。

(4) 報告書の提出
 アンケート結果と問題点への対策については、報告書にまとめ組合を通して当局に提出し、善処を求めた。また、組合の今後の活動にいかしてもらうとともに、苫小牧自治研としても更にこの問題を掘り下げ、職員が働きやすくやりがいを持って仕事に打ち込める環境づくりにつながるよう、継続して取り組みを進めていく。

3. 窓口サービス課の民間委託に関する検証

(1) 民間委託後の検証
 2020年1月20日、苫小牧市役所住民課(現窓口サービス課)の窓口業務(住民票などの証明発行、住民異動、戸籍管理等)に民間委託が導入された。苫小牧自治研では、委託開始から1年が経過したのを機に、民間委託後の職場の実態について検証することとした。
 検証に当たり、業務として住民票などを取得している司法書士、行政書士等のいわゆる八士業の方々にアンケート調査を実施し、14人から回答を得た。また、市職員など関係者に対し聞き取り調査を行った。調査結果からは、委託部分の窓口(以下「本庁窓口」という。)の市民サービス低下と窓口サービス課職員の業務環境悪化が明らかとなった。

(2) 検証の結果から見えてきたこと
① 市民サービスの視点
 調査結果から、市民サービスの視点では次のような実態がわかった。
 ア 窓口での手続に時間がかかることにより、利用頻度の高い利用者が本庁窓口を敬遠するようになった。
 イ 待ち時間が長くなったことにより生じるしわ寄せが市民と職員に降りかかっている。
 ウ 委託業者の職員は業務に関するノウハウが乏しく、本庁窓口のレベルが委託前に比べて相対的に下がっている。
 エ 委託業者の職員は臨機応変に柔軟な対応ができないため、市民サービスにつながる連携がとりにくい。
 このように本庁窓口の民間委託によって市民サービスの低下が見られたが、大きくは待ち時間が長くなったことと業務のレベルが下がったことの2点に分類できる。
 待ち時間に関しては、アンケート調査によると14人中8人が「手続に時間がかかる」と回答し、そのうち5人は委託後の本庁窓口に「行かなくなった」(「減った」を含む)とし、代わりに出張所等を利用するようになった。また、聞き取り調査によると、葬儀業者は死亡届を戸籍の窓口に提出し火葬許可証の交付を受けているが、委託後は待ち時間が長いのでやむなく日中を避け、本庁の夜間窓口で手続しているとのこと。
 そのほか、委託業者の職員が混雑時に来庁者の反応を見ながら出張所等での手続を案内しているという話まであった。わざわざ来庁した市民に別の場所での手続を勧めるという対応は、委託前には見られなかったことである。
 業務のレベルに関しては、アンケ-ト調査によると、本庁窓口のサービスの質が「悪くなった」理由として、「業務に詳しくない(知識がない)」と回答(複数回答)した人が6人いた。委託業者の職員は民間委託に合わせて採用された未経験者が多く、聞き取り調査でも市民からの苦情がかなり多かった。将来的に市の直営時代のレベルにまで到達できるかというと、委託業者は窓口業務と入力・発行業務を担当し、最終判断を伴う審査業務を行わない、偽装請負の懸念から市職員と直接話ができない、委託業者の職員は身分が不安定で退職による入れ替わりが多いなどのマイナス材料があり、なかなか難しいと思われる。
② 職員の業務環境の視点
 次に、職員の業務環境の視点では次のような実情がわかった。
 ア 委託業者の業務と市の業務が構造上の問題から有機的に結びついていないため、業務効率が悪い。
 イ 委託後の減員と新たな業務により職員の負担が増えている。
 ウ 窓口、入力等の業務を経験しないことにより、職員のノウハウ蓄積の機会が失われる。
 このように本庁窓口の民間委託によって業務環境の悪化が見られるが、業務効率の悪化と市職員の能力の低下が一番の問題である。
 業務効率に関しては、委託業者が窓口業務と入力・発行業務を行い、市が審査業務を行っているが、前者と後者の間には壁があり、委託前よりも一手間も二手間も多くかかる。しかも、不備があって市の審査担当職員から委託業者の職員に差し戻すときに、偽装請負に当たらないよう「どこが不備なのか」を具体的に指示できない。委託業者の職員は自分なりに考え修正するが、不備が解消していなければもう一度差し戻される。どうしても不備の箇所がわからない場合、自社の管理責任者を通してエスカレーション(疑義照会)を行う。こういった非効率な工程が、前述した「本庁窓口の手続に時間がかかる」理由でもある。
 職員の能力に関しては、委託前であれば初任者は窓口業務からスタートし、入力・発行業務、審査業務というように経験を積むごとにステップアップしていったが、委託後はこういった教育体制をとれないので、市職員が担当している審査業務を遂行するために必要な実務経験が圧倒的に不足する。ある自治体では、このような事態を避けるために平日は委託業者に窓口業務を任せるが、土日開庁では市職員が担当しているという。そこまでするならなぜ民間委託をするのか疑問だが、当市では同じ手法をとれないので、今後、窓口サービス課が機能しなくなるのではないかと危惧される。

(3) 結論として
 窓口業務の民間委託は、もともと住民課の業務に何か問題があってその改善のために導入されたわけではなく、「行政改革の推進」という多分に政策的な意味合いの強い目的から導入されたと見るべきだろう。検証を通じて感じたのは、どうしても窓口業務を民間委託しなければならない理由が、市民サービスの面からは見当たらないということだ。そして、窓口業務の民間委託の本質は「一連の業務を一体的に行っていたものをあえて分断してわざわざ混乱させている」ということなので、このことが職員の業務環境の悪化も招いている。
 今回の検証結果をもって、苫小牧自治研としては「この問題は構造的な問題であり、根本的な解決のためには民間委託をやめて直営に戻すべき」と結論づけた。

(4) 報告書の提出
 検証結果については報告書にまとめ、組合を通して市当局にも提出した。2022年10月からは保険年金課の窓口や総合案内業務などにも民間委託が導入されることが決まっており、民間委託導入の動きは続いているが、苫小牧自治研としても何とかこの流れを止めるため、引き続き様々な角度からこの問題に取り組んでいく。

4. 自治研ニュースの発行

 苫小牧自治研では、不定期に組合員に向けて自治研ニュース『ズームアップ』を発行している。取り上げるテーマは、「市営バスの民間移譲」「図書館への指定管理者制度導入」といった市政の課題や「特定秘密保護法」「集団的自衛権」といった国政の話題など様々だが、最近は組合員により身近な話題として、日常業務の中で「これはおかしい」「何か変だ」と感じたことを取り上げ、問題提起している。
 例えば、2021年9月には「公用車の運転は当たり前か」と題して、職員が公用車を運転することで利益を受けている市当局が、事故・違反を起こしたときに処分を受けるリスクを負う職員を一方的に非難する構図になっていると指摘した。
 続いて、2022年3月には「コンプライアンスチェックシートの違和感」と題して、市当局が行ったコンプライアンスの自己検証の内容が威圧的で細かすぎ、職員を委縮させ縛り付けるものとなっていると指摘した。
 こういった内容のニュースは、市当局からは評判が悪いが、組合員からは一定程度共感を得られていると感じている。

5. おわりに

 私たち苫小牧自治研は、報告したような活動を行う中で、世の中の流れが徐々に悪い方向に進んでいて、それにあらがうことが難しくなっているような無力感を覚えることがある。例えば、市の若手職員の退職が増え、メンタルの不調による休職者は一定程度の推移で減らず、窓口職場の民間委託も次々に導入され、とどまるところを知らない。また、市の業務を担当する非正規雇用の数は増加している。
 このような状況になったのは、新自由主義的な考え方のまん延であったり、自己責任論や不寛容といった孤立を招く風潮と無関係ではない。そして、なぜそうなるのかというと、やはり労働組合が弱体化しているからではないだろうか。本来労働組合は、労働条件の維持改善だけでなく、平和や人権を守り、世の中の不条理に声を上げ、そのことが一定の影響力を持つ存在である。その労働組合が力を失うと、社会のチェック機能が弱まり、権力者は好き勝手することができてしまう。私たち苫小牧自治研は、現状で労働組合ができることは何か、何をすべきなのか、その歴史をひも解きながら考えてみた。
 労働組合の源流は、中世ヨーロッパの商工業者の間で結成されたギルドだといわれるが、ギルドの原理やその後の産業革命によって生まれた初期労働組合の機能に通底する考え方は「労働者同士が競争させられることをいかに規制するか」であった。労働者の中に少しでも悪い条件で働く人が現れると、たちまち労働組合は力を失ってしまう。だから、職種や職務に応じて一律な協定により決定した賃金を使用者側にも仲間の組合員にも守らせることが重要で、そのためには生産工程や労働市場をコントロールし、組合側が使用者側に対し優位に立つ必要があった。
 かつては親方的な熟練労働者が労働過程における意思決定権を持っていて、どのようなものをつくるか自分の頭で構想し、実際の労働として実行していた(構想と実行の一致)。また、職域を組合員で独占し、徒弟制によって供給する労働力を制限していた。労働組合が労働力の地域間の不均衡を是正するために労働力移動まで行っていたとか、労働力の質を維持するために組合員の教育や訓練まで行っていたのには驚いた。このようにして形成された労働組合の力が、長い労使のたたかいの中で分断され、解体されてしまった。今の労働者の置かれている状況では、使用者側に対抗するための武器があまりないように思われる。
 では、私たちはこれから一体どうしたらよいのだろう。思いつくままではあるが、賃金や労働条件は労使協議によって決めることをあきらめてはいけないし、職場ごとの職員定数や必要な職種などは組合が関与して決定するべきだ。「構想と実行の一致」とまではいかなくても、仕事の仕方をなるべく自分たちのコントロール下で行うことは、数年ごとに異動があり法令に縛られる公務員には難しいが、少なくともマニュアルや研修に頼り切った仕事はしたくない。また、人事評価のような一方的な評価によって処遇を決められたくないし、コンプライアンスの押し付けや勤務外での交通違反・事故の報告も強制されたくない。そして、これは重要なことだが、メンタルの不調で休職している職員や職場環境などで悩んでいる職員を組合がサポートすること、それから、同じような仕事をしていて賃金や労働条件が異なる非正規雇用を放置しないことだ。
 このような考えが議論の中から出てきたが、私たちは、今後自治研の活動を続けていくに当たって、労働組合本来の機能や役割を再認識し、その運動に関わる者として何ができるのか、そして何をすべきなのかを意識していきたい。