【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 第3回自治研UNDER35全国集会in弘前でフィールドワークや弘南鉄道維持活性化事業の課題解決について取り組みました。その活動の中で見つけた弘前市の魅力や多くの市町村が抱える問題などを本レポートで取り上げています。少子化や自家用乗用車の普及により鉄道利用者が減少傾向にあるなか、地域住民の重要な交通手段として鉄道路線の安全運行を確保するための解決方法を提言します。



弘前自治研に参加して
―― 弘南鉄道を維持するために ――

群馬県本部/前橋市役所職員労働組合 糸井みなみ

1. はじめに

 組合活動といっても幅広く、私が所属している前橋市職労では主に30代以下の組合員で構成される前橋ユース部と、ユース部を卒業すると所属する前橋市役所職員労働組合にわかれています。ユース部では同世代との交流・学習を主軸に活動しています。交流の中でお互いに感じている職場での働きにくさや、学習した中で感じる疑問を仲間同士で話し合い、解決方法を探し、時には親組に意見を伝えています。そんな組合活動は、職員にとってより良い環境で働くためのものですが、なかなか理解を得られないこともあります。「組合活動に参加する時間なんてない」「好きでやっているんでしょ」など、否定的な意見を聞いたこともあります。新型コロナウイルス感染症の影響で、組合活動を行うにあたって人数制限もある中、どうしたら多くの組合員が事業に参加してくれるか模索していたときUNDER35の存在を知り、2022年4月22日(金)~23日(土)に行われる第3回自治研UNDER35全国集会in弘前への参加を決めました。

2. UNDER35とは

 全国的に若年層の組合離れが進み、組合活動はもとより自治研活動も若年層の参画が少なくなり、今後の自治研活動の停滞が危惧されています。このため自治研活動の次代の担い手を確保すること、そして若い組合員の発想による自治研活動の活性化を目的に、概ね35歳以下の自治労組合員を対象として2014年の佐賀自治研で立ち上げられました。

3. 活動内容

 今回開催された第3回自治研UNDER35全国集会in弘前(以下、弘前自治研)では、全国から集まった仲間をいくつかのグループに分け、グループワークを行いました。今回の企画である「PHOTO旅ひろさき~弘前市の魅力と課題発見旅~」では、あらかじめ用意された2種類のチェックポイント、「観光チェックポイント」と「課題チェックポイント」の写真と同じアングルの写真を撮影することでゲットできるポイント数を競うものでした。「観光チェックポイント」はテーマごとに数か所チェックポイントがあり、弘前市の有名な場所を複数訪れるものでした。「課題チェックポイント」は、弘前市が総合計画で掲げる課題と関係しているもので、グループなりの課題解決法を2日目にプレゼンテーション方式で提案するものでした。優勝チームには、弘前市の物産品を詰め合わせたギフトセットがプレゼントされることもあり、どのチームもやる気に満ち溢れていました。

(1) 弘前自治研1日目
 私は、同じ前橋市職労から参加した2人、栃木県庁から参加した3人と那珂川町職労から参加した1人の計7人から構成される、北関東チームでした。まずはアイスブレイクでお互いに自己紹介を行い、緊張をほぐしました。ここで更に打ち解けるために、ニックネームで呼び合うことを提案しました。年齢が様々だったので、気軽に話しかけられるよう工夫が必要だと思ったためです。みんな快く賛成してくれて、とても良い雰囲気の中活動を始めることができました。
 私たちの班はまず初めに、2種類のチェックポイントすべてを回って写真を撮るため、効率良く回るためのルートマップを作成することにしました。また、最終日に行うプレゼンテーションの課題については、「弘南鉄道維持活性化事業」「れんが倉庫美術館等管理運営事業 ―― 歩きたくなるまちなか形成事業 ―― 」「中心市街地活性化推進事業 ―― 空き店舗対策事業 ―― 」「ごみの減量化・資源化の推進」「地域共生社会実現サポート事業」の5つの中から1つを選ぶものでした。どの課題も業務上深くは関わったことがありませんでしたが、多くの市町村で抱えている内容のため、実際に現地を巡りながら検討することにしました。
 「観光チェックポイント」のテーマは複数に分かれており、そのうちの1つに「ひろさき前川建築めぐり ―― 前川建築カード集め ―― 」がありました。前川氏は日本の近代建築に大きな功績を残した人物のうちの1人で、前川氏の母が弘前藩士の娘であったことから、弘前には多くの作品が残されています。その前川氏が建築した建物を巡りながらカードを集めつつ、建物の写真を撮影するものでしたが、翌日が土曜日だったためいくつかの建物は初日のうちに訪れる必要がありました。そこで、運営本部に相談して、ルートマップ作成が終わり次第フィールドワークへ出ることにしました。いくつかの班は私たちと同じ考えだったようで、平日しか営業していない建物を巡る最中に弘前自治研参加者の姿を見かけました。初日は前川建築を中心に8か所ほど巡り、国登録有形文化財などの当時の面影が残るレトロな建築物を楽しみました。また、「課題チェックポイント」をいくつか回った結果、課題選択は南鉄道維持活性化事業にしました。なぜなら、実際に現地へ訪れた際の第一印象として、あまりにぎわっていなかったからです。大通りから見えにくかったこともあると思いますが、全員が中央弘前駅に気づかず、一度通り過ぎてしまいました。前橋市に弘南鉄道のような私鉄はありませんが、だからこそ新しい解決の切り口が見つかるかもしれません。初日の活動時間が終わり、全員宿泊施設も同じだったため夕食も一緒に食べながら、翌日の作戦会議をしたり、弘前市の印象に残った建物の話をしたりしました。
 弘前市は和と洋が混在する街並みが特徴的で、新しいものも取り入れつつ古いものも大切にしている「ハイカラ気質」な建物が目立ちました。実際に建物内に立ち入れた旧弘前市立図書館は、日露戦争で得た大きな利益を公共に還元しようという事業から建てられたそうです。当初の設計では、約4分の1の大きさの規模だったようです。完成した1906年に市に寄贈され、1931年まで市立図書館として利用されていたそうです。その後は下宿や喫茶店として使用され、1990年に市制施行百周年の記念施設の1つとして元々建てられていた東奥義塾の敷地内から、現在の場所に修復・復元されたそうです。1階は、図書室や館長室、婦人閲覧室などがあり当時の関係資料が展示してありました。2階には、ビデオによる文学碑めぐりのコーナーや地方出版物などが紹介されていました。3階は関係者以外立ち入り禁止だったため見ることはできませんでしたが、窓が多く室内が明るくなるような工夫がされていました。また、左右に八角形の双塔が印象的で、洋風な外観でしたが、外壁は漆喰で仕上げてあり和の部分も感じることができました。
 旧第八師団長官舎もレトロな雰囲気の建物でした。1917年に旧第八師団長官舎として建設され、終戦とともに米軍の司令官宿舎として使用されていましたが、1951年に弘前市に払い下げられ、市長公舎として利用されていたそうです。現在は喫茶店として活用されており、観光名所になっていました。建物を活用することで、文化財の永い保存に繋がることや、気軽に立ち寄れる観光スポットとして素晴らしい事例だと思いました。


旧弘前市立図書館
 
趣のある館長室
 
旧第八師団長官舎

(2) 弘前自治研2日目
 2日目は弘前駅からフィールドワークを開始しました。駅前で自転車の貸し出しを行っていたため、せっかくならと自転車で移動することにしました。弘前市では2022年4月1日から観光用貸自転車を行っており、さくらまつり期間は、3か所の貸し出しステーションですが、普段は5か所ほど貸し出しステーションがあるようです。青森県の名産品であるりんごがトレードマークの赤い自転車でした。前橋市でもシェアサイクル「cogbe」を実施していますが、利用にはアプリのダウンロードが必要で観光用というよりは、市民の移動手段の1つとして利用されています。支払いは交通系電子マネーででき、電動アシスト自転車のため近くへの移動に便利だと思います。

 
りんごがトレードマークの貸し出し自転車   弘南鉄道 中央弘前駅

 自転車で回ったため、移動時間が短縮され弘前市の春のお祭り「弘前さくらまつり」を堪能する時間がとれました。日本三大桜名所に名を連ねるだけあって、約2,600本の桜が咲き誇る弘前公園は圧巻でした。また、花筏と呼ばれる外堀を埋め尽くすピンクの花びらは、まさに桜の絨毯のようでした。前橋市はこの時期にはすでに桜は散ってしまっていたため、もう一度桜を鑑賞することができとても贅沢な時間でした。
 午前中にすべてのチェックポイントを回り、午後はプレゼンテーションの準備に費やしました。弘南鉄道は、弘前市と周辺市町村を結ぶ広域鉄道路線として重要な公共交通機関ですが、少子化や自家用乗用車の普及により利用者が年々減少傾向にあります。また、新型コロナウイルス感染症の影響により、さらなる利用者の減少を余儀なくされています。そのような中、地域住民の重要な交通手段として鉄道路線の安全運行を確保するため、次世代を担う子どもたちに親しみを持ってもらえるよう地域連携ICカード「とれっぷる」の導入を提案します。まずはとれっぷるを認知してもらうため、高校生を対象に無料配布を行います。りんごをモチーフにしたデザインにして、SNSを通じて広く取り上げてもらえたらと思います。地域連携ICカードを発行するにあたり生じるデポジットなどの費用は、弘前市のふるさと納税「がんばる弘前応援コース」から流用を考えました。これは、弘前の課題解決や地域活性化のため、広く全般的に活用されるためのものです。
 実際に、栃木県では2021年3月21日から「totra(トトラ)」、群馬県では2022年3月12日から「nolbe(ノルベ)」という地域連携ICカードを導入しています。私は普段バス通勤ですが、前橋市では今までバスカードか現金のみの利用でした。多くの方が長年交通系ICカードの導入を求めていましたが、機械の老朽化に伴い交通系ICカードのサービスが提供されるようになりました。今まで利用できなかった交通系ICカードが使えることで、利便性が非常に良くなりました。キャッシュレス化が進んでいる中、利用者目線に立った必要なサービスではないでしょうか。弘南鉄道でも今すぐの導入は難しくても、ぜひ検討していただきたい内容です。また、電車の車内に園児や小学生の絵などを展示することでその家族の乗車を促すことができます。弘南鉄道では駅ごとの乗車時間の多くが約3分ほどなのでちょっとした時間に子どもの絵を見に行くことができます。次に電車と言ったら鉄道ファンです。鉄道撮影を主とする「撮り鉄」や録音や音響を研究する「音鉄」「録り鉄」、乗りつぶすのがメインの「乗り鉄」など様々な種類があります。弘前さくらまつり公式応援キャラクターのさくらみくと桜ラッピング列車がコラボして、弘前市が力を入れている体験型のふるさと納税返礼品や購入型のクラウドファンディングで改装資金を募り、改装後初日の乗車券を提供することを考えています。いわゆる「オタク」と呼ばれる人たちは、自分の好きな物事にはたくさんのお金を掛けてくれる傾向にあります。そのため、期間限定の鉄道に対して投資してくれるのではないでしょうか。
 更には体験型のイベントとして、地元民おすすめの楽しみ方を募集して行うローカル鉄道旅や、車内で実際にりんご狩りを体験し、その後りんごを使ったスイーツを楽しむりんごづくしツアー、近年人気が広まっている謎解きゲームを鉄道とコラボした街歩き型として実施することで、地元の方をはじめとする多くの方に楽しんでいただけると思います。大鰐線の近くには温泉があったり、りんごを使ったスイーツを提供しているカフェがあったりと子どもから大人まで楽しめる魅力が様々です。
 また、公共交通機関を使っての中央弘前駅へのアクセスがあまりよくないため、土手町循環バスに新たなバス停を増設することで、より中央弘前駅が使いやすくなると思います。土手町循環バスはどこで降りても100円のため、車で移動できない子どもの身近な公共交通機関です。バスのダイヤを見直し、電車からバスに乗るまでの待ち時間を減らすことで利便性を向上させます。古くから愛されてきた弘南鉄道が維持できず、廃線となることを考えると地元の人たちの寂しさは計り知れません。この日のプレゼンテーションが弘南鉄道を少しでも活性化するきっかけになればと思います。
 弘南鉄道維持活性化事業を選択したほかの班もとても素晴らしいアイデアでした。それは、弘南鉄道を「お見合い列車」にするというものでした。具体的にはテーマに沿って人を募集し、個人同士や、個人と企業のマッチングの場を提供します。次の駅に着くまでの時間それぞれが会話をし、駅に着いたら別の人と会話をする。弘南鉄道は片道約30分程度のため、往復しても1時間です。1時間終了後、意気投合すればそのまま飲みに行っても良いですし、連絡先を交換することもできます。こうしてマッチングしていき、そのうち弘南鉄道は「お見合い」ができるとの噂が広がれば、利用者がどんどん増えるのではないでしょうか。また、この提案はランニングコストが掛からないため、実践のしやすさがとても魅力的でした。
 ほかの課題を選択した班も、「商店街のシャッターにイラストを描いてはどうか」「道幅も狭く、横断歩道が遠い」「紙のマップはアプリでペーパーレス化を」などの気づきが挙げられました。
 どの年齢層をターゲットにして事業を行うのかによって、企画の内容も様々な工夫が必要になります。私たちは若い世代やファミリー層、観光客向けの提案でしたが、企業向けにするならば全く違った提案になったと思います。
 すべての班のプレゼンテーション終了後、審査員である青森県本部副委員長や弘前市労連委員長を含む3人の方から講評をいただきました。そのうち2人の方に地元と観光客向けの双方への解決策や、予算まで考えていることが良かったなど、加点の評価をいただきました。また、平日しか手に入れられない前川建築カード集めを含むすべての観光チェックポイントも制覇したため、見事私たちの班は優勝することができました。

群馬・栃木合同チーム

4. まとめ

 今回の弘前自治研を通して弘前市の課題だけでなく、改めて前橋の課題にも気づくことができました。似たような課題を抱えている市町村は多く、成功したモデル都市などを参考にしながら独自の施策を考えることができ、とても楽しく活動できました。また、色々なアイデアがあったなかで、私たちの提案が受け入れられ、やりがいを感じました。今後、業務などで困難な課題にぶつかった際は、この経験を少しでも活かすことができればと思います。
 また、全国から集まった仲間と交流することができ、良い刺激になりました。特に同じ班だった栃木県庁の方と那珂川町職労の方とは、数か月経った現在でも交流があります。コロナ禍のなかで思うように組合活動や自治研活動ができない今、他の市町村ではどのような活動を行っているかなどの情報交換をしています。実際に弘前自治研に参加し、さまざまな活動のあり方について学ぶことができました。社会経済活動が元に戻り、以前のように大人数での会食や飲み会が行えるようになった時には、弘前自治研で出会った仲間たちとこの日の思い出話に花を咲かせたいと思います。