【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 伊丹市職員労働組合では、組合の取り組みや活動報告を組合ニュース、中央委員会、定期大会等を通じて行ってきましたが、保育職場や支所・分室といった庁外職場の組合員から、アクセスしやすい情報発信を希望する声がありました。また、近年では新型コロナウイルス感染症により集会が困難な状況が発生したことから、ブログとTwitterを開設し、運用することとしました。その取り組み内容と成果を報告します。



時間と空間を超えた新たなる連帯に向けて
―― 伊丹市職員労働組合における教育宣伝活動を通じて ――

兵庫県本部/伊丹市職員労働組合 山下 敬士

1. はじめに

 労働者の声を聞き、その声を当局へ訴え、労働条件と職場改善を推進していくことが組合運動の原点です。特に、働き方改革や業務のデジタル化が推進されていく状況においては、職場環境が大きく変化することから、より多くの労働者の声を聞くとともに、組合員へ的確に情報を届けていく必要があります。
 また、組合組織全体を拡大・強化していくため、組合員に限らず、より多くの人びとに、伊丹市職員労働組合(以下「市職労」という。)の活動内容を知っていただく機会を設けることが求められ、組合における教育宣伝活動の重要性は高まっています。

2. 教育宣伝活動の課題

 市職労では、日々の教育宣伝活動として、これまでも市職労ニュース(伊丹市職員労働組合連合会として市労連ニュースも発行しているため、あわせて以下「組合ニュース」という。)を発行してきましたが、次のような課題がありました。
 第1に、保育職場や支所・分室といった庁外職場への情報伝達に時間を要し、組合員の手元に届いていないという実態もありました。組合ニュースは、発行と同時に基本はメール便による配布、一部の庁外職場へはFAXで、闘争報告のニュースは庁内職場に対しては机上配布、庁外職場へはメール便による配布としていました。このような配布体制では、庁外職場については発行日より数日が経過してから組合員の手元にニュースが届く場合や、そもそもニュースを受け取ることができていないということがあり、市職労の取り組みや活動内容をタイムリーにお知らせすることができていない状況でした。
 第2に、組合未加入者に対する組合情報の発信を十分に行えておりませんでした。組合加入の促進にあたっては、組合未加入者に組合の必要性を認識していただく必要があります。しかし、組合未加入者が組合ニュースを手にする機会は、闘争報告時の机上配布の時のみであったため、組合に関する情報を知っていただく機会が不十分でした。
 第3に、組合ニュースで発信できる情報量・情報内容には限度がありました。組合の方針や活動内容、必要性を理解していただくためには、市職労の日々の取り組みだけではなく、各メディアで報じられている労働問題や社会問題に関するニュースに触れる機会が重要となります。しかし、組合ニュースを発行する頻度や、1回のニュースで掲載できる記事の数には限りがあります。そのため、市職労の日々の取り組みや時事ニュース等について十分な情報発信ができていない状況でした。

3. 教育宣伝活動を効果的に推進するための取り組み

 以上の課題に対して、市職労はブログ(伊丹市職員労働組合のブログ(hatenablog.com))とTwitter(伊丹市職員労働組合 @unionitami)を開設し、情報発信することにしました。
 まず、組合員がインターネットで組合ニュースの閲覧をできるようにするためブログを開設しました。市職労では、各闘争期の交渉日の翌日に組合ニュースを配布していますが、庁外職場の組合員から「交渉後の組合ニュースは特に、すぐ見ることができるようにしてほしい」という声がありました。そこで、組合ニュースの配布とあわせてブログでも発信することで、庁外職場の組合員に対しても確実かつ迅速に組合ニュースを閲覧できるようにしました。また、ブログを通じて情報発信することにより、組合未加入者でも組合に関する情報へ容易にアクセスすることができるようになりました。
 そして、組合ニュースだけではなく、人事院勧告の内容や定年引上げに関する情報等を随時発信するようにしました。そうすることで、労働条件や労働環境に関係する情報を、迅速に組合員へ届けることができるようになりました。さらに、ブログではリンクを貼り付けることによって、組合ニュースでは掲載しきれない情報を閲覧することができます。
 これらの取り組みによって教育宣伝活動の課題を一定解決できると考えていましたが、実際に運用してみたところ、ブログへのアクセスが全く伸びない日々が続きました。その要因を考察した結果、ブログでは更新情報を容易に確認することができないためアクセスに至らないと考えました。また、「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、「ブログ・ウエブサイト」のモバイル機器によるインターネット利用の行為者率は、「ソーシャルメディア」と比較すると決して高くない状況であり、日常生活においてはブログというメディア自体にアクセスしづらい可能性があると分析しました(総務省情報通信政策研究所「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」57頁)。

【令和2(2022)年度】[平日]モバイル機器によるインターネット利用項目別平均利用時間(全年代・年代別)

単位(分)

全年代

10代

20代

30代

40代

50代

60代

(N=3,000)

(N=284)

(N=426)

(N=500)

(N=652)

(N=574)

(N=564)

メール

21.3

18.2

24.0

12.9

23.9

21.2

25.6

ブログ・ウェブサイト

17.3

9.4

21.1

26.1

20.7

17.0

6.9

ソーシャルメディア

35.8

70.5

80.3

39.5

25.4

18.6

11.0

動画サイト

30.2

90.5

57.7

29.9

19.8

12.8

9.3

オンラインゲーム・ソーシャルゲーム

14.1

27.6

24.0

14.0

16.6

7.8

3.6

 出所:総務省情報通信政策研究所「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より作成

【令和2(2022)年度】[休日]モバイル機器によるインターネット利用項目別平均利用時間(全年代・年代別)

単位(分)

全年代

10代

20代

30代

40代

50代

60代

(N=3,000)

(N=284)

(N=426)

(N=500)

(N=652)

(N=574)

(N=564)

メール

18.7

14.4

24.9

12.5

21.3

17.2

20.3

ブログ・ウェブサイト

19.0

10.0

27.3

27.1

22.4

19.8

5.4

ソーシャルメディア

42.0

81.7

108.9

42.4

25.1

21.7

11.5

動画サイト

45.5

133.4

97.9

42.3

30.8

19.3

8.1

オンラインゲーム・ソーシャルゲーム

20.5

41.9

36.8

22.4

20.0

14.1

3.1

 出所:総務省情報通信政策研究所「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より作成

 そこで、利用者が年々増加しているSNS(Social Networking Service)の活用を検討しました。令和2(2022)年通信利用動向調査の結果によると、SNSの利用者は全年齢層の平均で約70%となっており、13~39歳の各年齢階層では80%以上と特に高くなっています(総務省『令和2年通信利用動向調査報告書(世帯編)』32頁)。このことから、組合への関心が低い若年層の職員に対して、SNSでの情報発信は特に効果があると考えました。
 SNSツールには、LINE、Twitter、Instagram、Facebookなどがありますが、市職労はTwitterを活用することにしました。「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、利用率ではLINEが圧倒的に高く(90.3%)、InstagramはTwitterと同率(42.3%)ですが(総務省情報通信政策研究所「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」66頁)、次のような理由からTwitterを選びました。まず、市職労の日々の活動を伝えるためには、写真や動画ではなく、「文章」を中心とした情報発信が必要であると考えたからです。組合関係のイベントに参加したときは画像を効果的に使うこともありますが、日々の組合活動の情報は文章で発信しないと具体的な内容がわかりません。
 次に、組合未加入者に対して組合情報を届けるためには、組合の「外部」に対しても情報発信できるツールが必要だからです。具体的には、LINEは「友だち」には情報を届けることはできますが、そうでない「外部」に対しては情報を届けることができません。一方、Twitterの場合は「フォロワー」でない方でも情報を確認することができ、リツイート機能によって、組合に関心が無い方へも情報を届ける事が可能となります。
 さらに、Twitterでは、ネット上で取り上げられているニュースを簡単に共有することができたり、他のユーザーのツイートを引用リツイートでコメントを添えてリツイートしたりすることもできます。これらの機能を使って、組合や労働問題に関する情報をたくさんの方に随時発信することができます。
 このようにブログとTwitterを組み合わせて利用することで、ブログのアクセス数も伸び始め、組合の活動内容や諸制度について、今まで以上に多くの情報を、より多くの方に伝えることができるようになりました。

4. メディアを通じた新たなる連帯

 市職労は、以上のような理由からTwitterを開設し、ブログの更新情報もTwitterにアップすることでアクセス数が伸び始めました。また、Twitterを開設してからは、さまざまな労働組合や労働問題に関係する機関、市職員以外の方が市職労のアカウントをフォローして、リツイートやいいねをしてくれています。つまり、Twitterというメディアを通じて、「伊丹市」という空間を超えた連帯が生まれています。
 このような連帯は、日々接触する人びとや親しい仲間との連帯と比べると強固なものではないかもしれません。しかし、アメリカの社会学者であるマーク・グラノヴェターの研究では、いつも会っている親しい人びと(強い紐帯)よりも、たまに会う人びと(弱い紐帯)から新しい情報を受け取る場合が多いということが指摘されています。つまり、Twitterを通じた連帯には「弱い紐帯の強さ」(グラノヴェター)が生まれる可能性があり、これは今までの市職労には無かった新たな連帯の在り方です。
 Twitterによってこのような空間を超えた連帯が生まれる一方で、ブログによって時間を超えた連帯も可能となります。ブログを開設した当初は、組合ニュースをデータで情報発信することが中心でしたが、「夏期一時金闘争」「賃金確定・年末一時金闘争」「学習会」といったカテゴリーを作成し、これらの記事もブログで更新するようにしました。そうすることで、市職労の組合活動がアーカイブ化され、過去の取り組みの積み重ね・歴史を閲覧することができるようにしました。
 このことによって、時間を超えた連帯が生まれます。市職労の役員になって感じたことは、組合の活動や議論してきた歴史が十分には残されておらず、過去の組合と現在の組合との間に断絶があるということでした。西田亮介さんが述べているように、「決定の正統性のある種の根拠を、皆で考えて手続きを通じて決めた『事実』それ自体に見出すこと」(西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください ―― 17歳からの民主主義とメディアの授業』55)は重要な価値であり、その「事実」をアーカイブ化することが大切だと考えました。そうすることで、組合が取り組んできた「事実」について時間を超えても共有することができるようになり、過去と現在、そして未来の組合と連帯することができます。このような一つ一つの事実の積み重ねが、組合の組織強化にも繋がっていきます。

5. まとめ

 現在、市職労のブログとTwitterを普及するために、組合ニュースにQRコードを掲載したり、独自のポスターを作成して庁舎内に掲示、新規採用職員の説明会や中央委員会等の場で配布したりしてきました。組合ニュースにQRコードを掲載した時やポスターを配布した際には、アクセス数が増加する等、一定の効果は出ています。
 また、市職労では独自の学習会を行っており、Twitterでその内容をお知らせしたところ、市職労のOBの方や伊丹市職員ではない方が関心を持ち、実際に組合事務所まで参加しに来てくださったこともあります。このように、時間と空間を超えた新たな連帯が生まれ、また、インターネット空間だけの仲間ではなく、インターネット空間から新たな仲間が生まれる可能性もあります。
 労働組合から社会全体をいっぺんに変えることは難しいですが、一つ一つの取り組みを積み重ねていくことで、小さなユニットから行動を起こして、漸進的に社会を変えていくことはできます。こうした新たな教宣活動を通じて、労働組合の存在意義をより多くの方に認知してもらい、時空間を超えた連帯によって組織強化を図り、労働者が仲間意識を持って、安心して健康に働くことができるよう、活動を続けていきます。

QRコードを掲載したポスター QRコードを掲載した組合ニュース



【参考資料・文献】
マーク・グラノヴェター2019『社会と経済 ―― 枠組みと原則』ミネルヴァ書房
西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください ―― 17歳からの民主主義とメディアの授業』日本実業出版社
総務省『令和2年通信利用動向調査報告書(世帯編)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR202000_001.pdf 2022年8月3日閲覧)
総務省情報通信政策研究所『令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』
https://www.soumu.go.jp/main_content/000765258.pdf 2022年8月3日閲覧)