【レポート】 |
第39回静岡自治研集会 第1分科会 自治研入門! 来たれ、地域の新たな主役! |
少子高齢化・人口減少が進む津和野町において公立保育園は年々減少の一途をたどっています。私たちの職場はどうなるのか、そのような不安がある中で新型コロナウイルスの流行。子どもたちを守っていかなければならないが、私たちの職場も守っていかなければならない。本レポートは感染対策といった様々な制限がある中で、保育士部会・調理師部会と連携して2018年のイベントの続きをめざした取り組みと今後についての記録です。 |
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1. はじめに 「あのイベントを再びやりたい」きっかけは保育士部会での職員の一言でした。2020年から始まった新型コロナウイルスの流行は保育の現場でも大きな変化をもたらしました。 合併当時の津和野町では、町内の保育園数は公立保育園が5園、民間保育園が1園でした。しかし、園舎の老朽化などが原因で民営化・民間委託が進み2021年時点では、公立保育園が2園、民間保育園が5園と公立保育園の減少、また園児の数も年々減少傾向にありました。そのため、この先私たちの職場はどうなるのだろうか、という不安もあります。そのような状況での新型コロナウイルスの流行及びそれに伴う多種多様な感染防止策が保育園・職員に課せられる中、公立保育園、保育士として園児たちに何ができるのか、この職場で何ができるのか、そのような状況でのあの一言は活動のきっかけとしては十分でした。
2. 2018年の保育イベント 「あのイベント」とは保育士部会と調理師部会、自治研部が共同で開催した2018年の保育イベントのことを指します。「自分たちの保育を知ってもらい、自分たち以外の保育を知る」をテーマに企画したイベントです。当時の内容については以下の通りです。① 各保育園が用意した手作りおもちゃコーナーであそぶ。 ② 保育士による人形劇を鑑賞する。 ③ 各保育園のアピールパネルの掲示。 ④ 調理師部会が作成したアレルギー対応食を弁当として親子で食べる。 保育士部会や調理師部会、自治研部が各々の役割を分担し、参加者はもちろんのこと、主催者も楽しむことを忘れずに準備を進めました。 当日はとても温かい雰囲気で、親子の楽しそうな表情が多く見られる会となりました。参加した保護者からも好評で、「今回のようなイベントにまた参加したい」「お弁当がとても美味しかった」「子どもとゆったり遊べた」などの感想がありました。主催した保育士側の感想でも、大変さや反省点はあったものの、「親子の楽しそうな姿が見られて良かった」「公立保育園の良いアピールになったと思う」「またこのようなイベントをしたい」など前向きな意見が多くありました。好評だった保育イベントを1回で終わらすのはもったいない、続けていきたい、という思いで終了したのが2018年の保育イベントでした。
3. 新型コロナウイルス流行の影響 再び2018年の保育イベントを実施したいという保育士部会の思いに賛同し、調理師部会にも協力してもらい、自治研部と合同で「保育イベント」を企画することとなりました。しかし、イベントをやりたいという思いはあったものの、新型コロナウイルスの影響で前回のような規模で保育イベントを行うことは難しい状況でした。しかし、このような状況でも町内の親子に元気を与えられることはないだろうかと保育士部会、調理師部会と協力して考えることにしました。 まず初めに、保育園に子どもを預けている保護者さんに、コロナ禍での休日の過ごし方など、変化した点や悩みなどがないか聞き取りを行いました。その結果として「あまり以前と変化はない」「家で遊べる工夫をしている」「親子でクッキングをする機会が増えた」という声があった反面、「自由に出掛けられなくなってストレスを感じる」「メディア(テレビや家庭用ゲーム機、スマートフォンなどの電子機器)の時間が増えた」「外食が減った分、自炊が増え、献立に悩む」などという声も上がりました。そのような意見を参考に、どのような活動をしていけば良いか検討を重ね、出た意見は以下の通りです。 ① 手作りおもちゃのキットを用意して、町内の子どもたちに配布する。 ② メディアに関わる時間は同じにしても、パネルシアター、人形劇などをして町のケーブルテレビで放送してもらい、質の良い番組を観てもらう。 ③ 飲食の伴わない人形劇イベントを開催。 ④ 土曜日に公立保育園で、人形劇を披露したり、手作りおやつを提供する。 ⑤ 紙でできる手作りおもちゃや親子でできるクッキングを紹介する。作り方を撮影し、動画で流す。 ⑥ 町内在住の音楽家に依頼し、音楽活動をプロデュースし、町立保育園で実施する。 ⑦ 身近で遊べるスポットを取材し、紹介する。 ⑧ 保育園で人気の給食やおやつレシピの紹介をする。 上記の意見から、さらに検討を重ね、今年の活動として実施することになったのは以下の2つです。 ① 牛乳パックを使った人形を作り、町内の園児に配布して家で遊んでもらう。様々なバージョンの人形が作れるため、作り方の紹介もする。(保育士部会中心) ② 園で人気の給食やおやつレシピをいくつか紙面で紹介する。(調理師部会中心) 4. 牛乳パック人形 保育士部会で取り組むことになったのは手作りの牛乳パック人形です。ねらいとしては上記の保護者への聞き取りにあるようにコロナ禍において、家で過ごす時間が増えたので、身近な物を使った手作りおもちゃを提供し、親子で楽しく遊べる時間をつくってもらうこととしました。 この牛乳パック人形は2018年の保育イベントでも「牛乳パックでおもちゃを作ろう」というコーナーを設けており、イベントの中でも一番人気があったものでした。また、聞き取りの中で近年おもちゃの値段が上がっており、保護者の金銭的負担も大きくなっていることも意見としてありました。牛乳パック人形は、牛乳パックと画用紙で作成できることから安価で作ることが出来ます。前回のイベントと異なる点は、前回は会場で親子と一緒に作ることが出来ていましたが、今回はできません。そのため牛乳パック人形と一緒に作り方を掲載した用紙を渡すことで、自宅でも親子で作ることが出来るように変更しました。牛乳パック人形を渡して終わりではなく作り方も一緒に渡すことで、新型コロナウイルスの流行で増えた自宅での時間に活用してもらうことが出来るのではないでしょうか。牛乳パックについてもこのために買うのではなく、事前に保育士部会や調理師部会、自治研部の組合員に周知し、空の牛乳パックを回収することでまかないました。
5. おやつレシピの配布 調理師部会に協力してもらい、保育園で提供している給食やおやつのレシピの配布を牛乳パック人形と同時に行うことにしました。保育園で人気の給食やおやつのレシピを紹介することで、家での献立や親子クッキングの参考にしてもらうのが狙いで、聞き取りの中で「外食がしにくくなった」「自宅で子どもと一緒に料理をすることが増えた」という保護者の意見としても挙がっていたことが実施に至った理由の一つでした。これまでのイベントでは調理師が調理し、それを親子で食べるのが一般的でした。しかし飲食店でのクラスターの事例等をみると飲食を伴うことは感染リスクが高く、計画時点で感染状況が落ち着いていたとしても実施の時期に感染者が増加することも考えられるため、今一つ踏み込めない状況でした。実際、津和野町内のイベントも飲食を伴うものを中心に軒並み中止になっている状況でした。そこで意見として挙がったのが、レシピを園児の家庭に配布するという案でした。保育園の日頃の取り組みとして、その日に園児が保育園で食べたものを撮影し、保育園の入り口に掲載しています。保育園での様子を記載する連絡ノートやお迎えの際に保護者に「今日は良く食べていました」と伝えると、「どのようなものを食べましたか」といった質問を投げかけられるなど、保護者もどのようなものを保育園で食べているのか、どのようなメニューであれば食べるのかは気になるようでした。その時にメニューをお伝えするより、当日の給食写真を見せるとより伝わりやすく、保護者からも「参考になります」と好評でした。しかし、「レシピはありますか?」と言われることも過去にありましたが、保育士は園児の食事の様子をお伝えすることは出来ますが、材料や調理についてはお伝え出来ないのがネックでした。そこで調理師部会と協力し、レシピを作成・配布することで解決できるのではないだろうかということになり、レシピの作成・配布が決まりました。レシピのメニューに関しては、普段家庭ではあまり作られなさそうなもの、調理師が自信をもって紹介できるもの、そして保育園の子どもから人気があるものという3つの観点から選びました。検討を重ねた結果、レシピとして採用したのは以下のレシピになります。【納豆丼】 【麩のラスク】 【チキンチキンごぼう】 【いろいろ豆のかりんとう】
6. 当日の様子 配布当日は、3種類の人形から好きな人形を選んで持ち帰る形にしました。中にはどうやって遊んでいいか分からず遊び方を尋ねる園児もいましたが、とても好評でした。園児を迎えに来た保護者にも人形のことを説明し、人形の作り方を記載した用紙と調理師部会が作成したレシピを渡しました。「ありがとうございます。使わせていただきます。」「(レシピを見ながら)次の休みの日に子どもと作ってみます。」といった反応が多い中で、ある保護者の「大変でお忙しいのにここまでしていただいてありがとうございます。」と言われた時や大事そうに牛乳パック人形を園児が持ち帰る姿を見ていると、とても嬉しい気持ちになりました。7. 後日のアンケート 後日、牛乳パック人形とレシピを配布した保護者に向けてアンケートを実施しました。結果としては、牛乳パック人形については約9割の子どもが自宅で遊んだとの結果となり、おやつレシピに関しても約9割の家庭で参考になったというものでした。アンケートの実施については、インターネットを用いた匿名のものであるため、回収率は約5割ではありますが、その分率直な意見を頂けたと思います。実施の回答の中での意見を一部紹介すると、「(回答:遊ばなかった、年長)子どもが興味を示さなかったため」「(回答:遊ばなかった、幼児)まだ小さいので一緒に作るのは怖くてできていない」といった意見もいただきました。2018年のイベントでは様々な年齢の子どもが参加できるようにしていたため大きな問題にはなりませんでしたが、今回のように1つに絞ることで生じる課題でした。集まってのイベントが困難であること、保育士の現状を考慮すると現時点では致し方ない部分ではありますが、ひとつの事例を通じて今後に生かせる課題でもあります。8. 今後について 新型コロナウイルスの流行や感染対策などの制限で以前と同じようにという事が困難な状況は今も続いています。その中でも出来ることは何かないかという思いで取り組みました。大規模なことはできない、保育園に保護者が参加しての実施ができないなどの制限もありましたが、何より子ども達の喜ぶ姿を見ることができたのは保育士冥利に尽きると共に2018年と今回を通して、保育士と調理師が共同し合える体制にある私たちの職場ないし公立保育園の魅力を再認識できたのではないでしょうか。また、イベント後に取ったアンケートは一部内容を変更し、自治研部を通じて津和野町役場に勤める組合員(対象は未就学児がいる親)にも実施しています。そのアンケートの質問に新型コロナウイルスによる影響や遊びについてなどを尋ねており、その中での回答は、「外出の機会が減った」が多い一方で、「大きな公園に行きにくい」「人手が多いところに行けない」など外出先が制限されるのも特徴として挙げられます。地方は都市部に比べて感染者が少なく特に津和野町の場合は、その日に1人出るか出ないかです。それ故に新型コロナウイルスの感染者にならないことに重きが置かれているのではないでしょうか。また回答の中に「他の子どもに迷惑をかけられないので、保育園以外では他の家の子どもと遊ばせるのに躊躇してしまう」といった回答もあり、他者に感染させないために交友関係にまで影響が出ていることも分かりました。福祉施設や保育施設でのクラスターが発生していることもあり、当面の間は保育園や室内でイベントを実施することは困難な状況ではありますが、野外であれば実施できるのではないかという意見がありました。以前のような県外のレジャー施設に行くのは現実的ではありませんが、このような時期だからこそ「私たちの働く津和野町」にスポットを当てた地域住民と協同した企画ができないか検討しています。9. 終わりに 「あのイベントを再びやりたい」と動き出した今回の取り組みでしたが、新型コロナウイルスの影響で思うようにできなかったのも事実です。しかし、「今できること」や、「今だからこそできること」に着目し、様々な視点で模索して実施まで持って行けたことは大きな糧となりました。このような経験を積み重ねながら私たちの活動の根底にある「公立保育園の良さを町民にアピールし、自分たちの職場を守っていきたい」という思いを強く持ちました。そして、コロナ禍で生活様式が目まぐるしく変わる状況ではありますが、このような時代だからこそ、より良い方向をめざしていこうという気持ちを失うことなく、職場で働く私たちや地域の住民の方々にとってより良い環境を作っていけるような自治研活動を続けていきます。 |