【レポート】

第39回静岡自治研集会
第2分科会 アニメ マンガ コンテンツを活用した地域活性化

 コンテンツの舞台である土地を訪れる、いわゆる「コンテンツツーリズム」が注目されています。大洗町では、町を舞台にしたアニメ「ガールズ&パンツァー」をきっかけに、多くのファンの方が町を訪れ、現在では地域とのアニメを超えた交流が生まれています。本レポートでは、これまでの取り組みとあわせて、小さな町のガルパンを通したまちづくりを紹介します。



ガルパンを町おこしの目的としないまちづくり
―― 町に元気をくれたファンへの恩返し ――

茨城県本部/大洗町職員組合 住谷 幸泰

1. はじめに

(1) 大洗町の概要
 大洗町は、茨城県太平洋沿岸のほぼ中央に位置する町で、穏やかな気候・風土に恵まれた観光・保養の地であり、日本三大民謡のひとつ「磯節」でも謡われる景勝地です。町を代表する大洗サンビーチは、全長1.3キロメートルにも及ぶ広大なビーチで、日本初のユニバーサルビーチとして、障がいのある方やお年寄りが安全・快適に楽しめる海水浴場となっています。
 また、全国トップクラスの大型水族館「アクアワールド茨城県大洗水族館」をはじめ、フォトジェニックなスポットとして人気の神磯の鳥居など多くの観光資源に恵まれ、年間約450万人(2018年観光客動態調査報告)のお客様にお越しいただく県内随一の観光地です。
① 面積:23.89km2(県内44市町村中43位) ※大洗町HPより
② 国勢調査人口: 15,715人 ※2020年調査

(2) ガルパンって何?
 大洗町を舞台にしたアニメで、正式名称「ガールズ&パンツァー」略称「ガルパン」は、2012年10月から2013年3月にかけてテレビ局TOKYO-MX等で放送され、2015年11月には劇場版が公開、深夜放送アニメとしては異例の大ヒットとなり、現在、続編として最終章全6話が進行中。ストーリーは、戦車を使った武道「戦車道」が華道や茶道と並んで大和撫子のたしなみとされている世界、「県立大洗女子学園」に通う生徒が戦車道に打ち込み、全国大会を勝ち進む青春ストーリー。精巧に描かれた戦車とリアルに再現された街並みが話題となりました。
 

砲弾を受ける大洗町役場

実際の大洗町役場
         

2. ガルパン放映開始時期の大洗町の状況

(1) 東日本大震災による被害
 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、大洗町にも大きな被害をもたらしました。町を襲った津波は最大4.2メートルで、町域の約10パーセントが浸水し、津波と地震による住宅被害は、家屋全壊12棟、半壊291棟、一部損壊1,285棟、浸水家屋は371棟の甚大な被害を受けました。


津波到達時の役場玄関前

通常の役場玄関前

(2) 東日本大震災による観光への影響
 東京電力福島第一原子力発電所の事故による風評被害は、海沿いの我が町の観光に大きな影響を及ぼし、海水浴場入込客数をはじめとする観光入込客数は著しく減少しました。

大洗町観光入込客数(大洗町観光動態調査より)

年 度

入込客数

前年比較

震災前比較

2010年

5,544,800人

 

 

2011年

2,975,900人

53.7%

53.7%

2012年

4,078,400人

137.0%

73.6%

2013年

4,286,900人

105.1%

77.3%

 

 

 

 

2019年

4,412,800人

97.4%

79.6%


大洗町海水浴場入込客数(大洗町観光動態調査より)

年 度

入込客数

前年比較

震災前比較

2010年

653,360人

 

 

2011年

145,630人

22.3%

22.3%

2012年

348,574人

239.4%

53.4%

2013年

453,680人

130.2%

69.4%

 

 

 

 

2019年

193,300人

84.3%

29.6%


 表のとおり、観光全般については、東日本大震災前の数値には及ばないものの増加傾向にある一方で、海水浴場来場者は、近年、20万人程度の低調な数値で推移しています。海水浴場来場者減少の要因として、レジャーの多様化による海離れ、少子高齢化が挙げられます。  

3. 大洗町におけるガルパンの取り組み

(1) ガルパン企画の起点 「コソコソ作戦本部」の存在
 大洗町におけるガルパンの企画・運営に実行委員会は存在しません。あえて組織化せず、少人数でアイデアを持ち寄り、企画に応じて関係各所に協力を依頼してきました。その少人数の企画起点が「コソコソ作戦本部」です。
 コソコソ作戦本部は、ガルパンプロデューサー、直売所経営者、旅館経営者、温泉施設支配人、観光協会職員、役場職員等の少人数で構成され、失敗を恐れず、責任は皆で負うこととし、スピーディーな企画運営を行っています。

(2) ファンと商店街をつなぐきっかけ 「ガルパン街なかかくれんぼ」
 2013年3月より大洗町商工会とガルパンのコラボ企画として、商店街に54体のキャラクターパネルを設置する「ガルパン街なかかくれんぼ」を展開しました。すると、ファンは各商店を巡り、商店主とのコミュニケーションを図るようになりました。最初は色眼鏡で見ていた商店主も、ファンのマナーの良さ、礼儀正しさに感銘を受け、より積極的に交流を図るようになります。お店によっては、店先にテーブルやイスを設置し、休憩できる場所を設けたり、ファンのアドバイスを受け新たなサービスをはじめるお店も見受けられるようになりました。






店先に置かれるキャラクターパネル一例

(3) 大洗町商工会による手作り缶バッチ
 同じく2013年3月には、これまで大洗町商工会が東日本大震災復興企画として制作してきた「がんばっぺ大洗」缶バッチにガルパン仕様が登場します。商工会は、店舗オリジナル缶バッチを手作りで作成し、店舗に販促品として1個45円で出荷しています。現在では、種類600種以上、累計百数十万個以上に及ぶ缶バッチを作成し、様々な活動資金に充てています。


ガルパン缶バッチ一例 商工会職員による缶バッチ作成の様子
                   
(4) 事業者向けガルパン相談窓口「ガルパン相談会」の開設
 当然のことながら、ガルパンにも著作権があります。ガルパンを使用した商品を作りたい、ノベルティグッズを作りたいなどの事業者からの相談窓口として、ガルパン相談窓口を設置し、月2回(第2・4金曜日)の相談会を行っています。コソコソ作戦本部の中心メンバーが代表を務める事業所が権利元とのルールに基づくデザインチェックと商品化の申請を一括して管理し、大洗町商工会を通じて権利元への申請を行っています。
 またこれによる各種ロイヤリティは、商工会が取りまとめ一括して支払うなど、各店舗の各種申請から支払いにおける作業負担の軽減が図られています。

4. イベントを通した賑わい創出

(1) 大洗あんこう祭の飛躍
 大洗の冬の味覚あんこうをPRするイベントとして、毎年11月に大洗あんこう祭を開催しています。2012年11月に開催した大洗あんこう祭において、ガルパンで登場するあんこうチーム5人の声優が参加されたことに伴い、それまでのイベント来場者をはるかに超える6万人を動員しました。それ以降、あんこうチームの参加が恒例化することで、年々来場者は増え続け、2019年開催のあんこう祭は、過去最多の14万人を動員しました。


イベント会場の様子

(2) 商店街自主イベントの開催
 あんこう祭のような大規模イベントとは別に、商店街ではキャラクターの誕生会などの自主イベントが開催されるようになりました。こうして、大小合わせたイベント数は年間30にも及び、年間を通しての賑わいが創出されています。


キャラクター誕生会

商店街での自主イベント

5. 大洗町とファンが共に歩み続けて

(1) 取り組みの評価
 大洗町とファンが共に歩んだ結果として、2013年6月観光庁主催第1回「今しかできない旅がある」において、オリジナル・アニメ「ガールズ&パンツァー」と連動した夢と魔法の物語。「実家のような町」大洗でしか味わえない旅がある。が奨励賞を受賞、その後も数多くの表彰を受けました。
【これまでの受賞歴】
 ・2013年12月 茨城県 2013(平成25)年度いばらきイメージアップ大賞受賞
 ・2015年3月 経済産業省 がんばる商店街30選
 ・2015年11月 第17回商工会青年部全国大会(兵庫大会)まちづくり部門 全国顕彰
 ・2016年5月 第25回日本映画批評家大賞 アニメ部門 サンクチュアリ作品賞(聖地作品賞)受賞 
 
授賞式(左)とファンを茨城県庁での授賞式に招待し、記念撮影(右)
          
(2) 大洗町を応援する動き
 地域とファンの交流が進む中で、町を応援する動きが広がりました。イベント開催時の混雑対応やゲストのアテンドなどを担う組織、KGO(勝手にガルパン応援団)は今では製作元からの信頼も厚く、ガルパンイベントでは欠かせない存在です。そのほか、大洗町でも総務省の地域おこし協力隊制度を活用し、ガルパンをきっかけに応募いただいた5人を協力隊としてお迎えしています。
 また、今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響による外出自粛などの行動制限により、地域経済は大きく落ち込むこととなりました。そうした中、2020年(一社)大洗観光協会が主体となり、協会会員及び商工会会員を支援する取り組みとして、クラウドファンディングを活用した「大洗おかえりミッション」を実施しました。この取り組みは、個別店舗支援型と町全体支援型の2種類の支援をいただくもので、個別店舗支援型に支援いただいた方には、支援額に10%上乗せした店舗未来チケットを送付するもので、町全体支援型は、大洗ブランド認証品を中心とした特産品を贈るものです。募集期間2か月で延べ3,602人、総額約46,864,000円もの支援金が集まり、多くのガルパンファンからご支援をいただきました。


 株式会社CAMPFIRE公式HPより

(3) これまでの取り組みの裏には
 大洗町でのガルパンにおける取り組みの裏には、町おこしを目的とせず、東日本大震災により疲弊した町に元気をくれたファンへの恩返しの気持ちがあります。そして、様々な偶然が重なりあった結果かもしれません。
 まず、第一にアニメがヒットしたこと。そして、訪れるファンの礼儀正しさやマナーの良さが地域に受け入れられたこと、キーマンとなるべき人の存在、商店街のおじちゃん・おばちゃんが心通わす交流をはじめたこと、アニメ制作サイドも地域に理解していただき、対等にお付き合いしてくれたことです。

6. おわりに

 この小さな町大洗で起きたファンとの交流や賑わいを学ぼうと多くの自治体等から視察の依頼があり、実施してきました。その皆さんの多くが「ガルパンで町の経済効果はいくらほどでしょうか?」と質問されますが、町では把握していないと答えます。ガルパンファンの皆さんはアニメを通して町を訪れ、様々な店舗を巡り、色々なアイデアや元気を与えてくれました。そのような温かいファンの方を金儲けの手段としてのビジネス対象とはせず、恩返しと考え、ファンと共に楽しむことを大切にしているからこそ、今があると思っています。
 ガルパンを通じて、はじめてこの町を訪れた方が今では大洗のファンとなり、第二の故郷として「ただいま」「おかえり」と呼び合える光景こそが、これまでの取り組みの最大の財産であり、今後も大切に引き継いでいきます。