1. 紋別市に暮らす外国人の現況
紋別市は、水産加工業の工場などで実習を行う外国人技能実習生が多く暮らす地方都市の一つとして知られる。
紋別市に住民登録している在留外国人の現況(人数、国籍、在留資格の傾向など)は、①「中国」国籍の技能実習生のピークアウトおよび「ベトナム」国籍の技能実習生の急激な増加、②「500人ほどいる」(2021年12月下旬時点)市内の外国人の在留資格は9割が技能実習であること、などが特徴である。出入国在留管理庁の「在留外国人統計」によると、紋別市の場合、2012年12月期の258人から以降漸増し、2019年6月期の465人でピークを迎えている。その後、2020年6月期では、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受けて、在留外国人の総人数は全国的にも全道的にも減少傾向になるなか、紋別市は463人と、ピーク時の水準を維持している。道内に限れば、2019年12月期から2020年6月期における「ベトナム」国籍の在留外国人の数は1,896人から9,863人へと5倍超に増加しており、前述の「ベトナム国籍の技能実習生の急激な増加」という回答の背景として理解できる。
同市は2018年より、現市長のリーダーシップと『第2期総合戦略』への位置づけのもと、市の機構に国際交流および外国人支援の所管部署を設置し、相談窓口を兼ねる支援の拠点施設を整備するとともに、市内に暮らす技能実習生等の外国人を対象とした生活支援・就労支援の施策の拡充を進めているところである。本稿は紋別市における現下の外国人支援の概要と特徴について報告するものである。
2. 現下の外国人支援への取り組みの推進力
紋別市において現在、市内在住の外国人への支援や国際交流に関する施策が積極的に推進されている根拠もしくは原動力としては、2021年6月から第5期目の市政期に入り、長く市政の舵取りに携わってきている宮川良一市長のリーダーシップによるところが何より大きい。市長が外国人支援の積極化への方向に明確に舵を切るのは第4市政期(2017年6月18日4選)以降である。
紋別市の現下の外国人支援政策の基本的な方向性を、①人口減少・生産年齢人口の減少への対応策としての外国人住民・労働者の確保、②外国人住民・労働者の定住の拡大を見据えた公的支援の拡充と生活環境の整備、の2本柱の追求と解するならば、それは2018年度市政執行方針の段階でまず打ち出され、その後、実質的に総合計画の役割を果たしている『第2期紋別市総合戦略』に位置づけられ、以降の施策推進の根拠とされてきた経過が見て取れる。
第4市政期の2020年3月に策定された『第2期紋別市総合戦略』を見ると、「外国人就労の拡大」と「外国人が安心して暮らせる社会の確立」が明記され、最初の総合戦略(『紋別市総合戦略』)と比較しても、外国人支援に関する施策が大幅に拡充されていることが見て取れる。
3. 市の体制整備(所管部署と拠点施設の整備)
市の外国人支援の実施体制は、2021年11月以降、「国際交流推進室」を所管部署とし、市役所本庁舎から徒歩数分の距離にある「もんべつ国際交流ステーション」を拠点施設とする体制が整備されている。「国際交流推進室」のオフィスは、市役所本庁舎ではなく「もんべつ国際交流ステーション」に置かれている。この現行体制の構築には、2018年春から3年半ほどの時間がかかっている。
まず2018年5月より、旧拠点施設である「国際交流サロン」が市立施設内に事務所を置くかたちでオープンし、専任職員が配置された。国際交流の拠点として整備されたサロンではあるが、当初から外国人を対象とする相談窓口の機能を併せ持ち、生活支援の諸事業も所管・実施してきている。
次に、2020年度以降、「外国人との共生社会の実現」を目的に、国際交流や外国人支援などの事務・事業を所管する部署として、「国際交流推進室」を設置し、配属する職員の数も増員された。「紋別市事務分掌条例」上、「臨時の機構」の位置づけである。国際交流推進室内には現在、「国際交流担当」、「生活支援担当」、「就労支援担当」という3担当が置かれ、それぞれ職員配置・任務分担(兼務含む)が行われている。
その上で、2021年11月下旬、現行の拠点施設である「もんべつ国際交流ステーション」が新たに整備され、オープンした。旧施設と違い、全館が外国人支援と国際交流の事業に供用されている。建物は3階建てで、2階には会議室、姉妹都市の産物などを展示するギャラリー、プレイ(スタディ)ルームが、3階には文化体験室と大会議室がそれぞれ整備されている。1階の広いスペースは交流室とされ、誰もが気軽に立ち寄れる場として活用されている。
国際交流推進室の職員数(2021年度)は、正職員6人(室長、国際交流担当参事、国際交流担当副参事、就労支援担当副参事、生活支援担当副参事、国際交流担当・就労支援担当兼務の係員)、会計年度任用職員5人、地域おこし協力隊員1人の計12人である。このうち会計年度任用職員には、生活支援担当配属の「国際化推進員」3人が含まれる。いずれも在留外国人で、国籍はタイ、ベトナム、中国である。国際化推進員は、普段は主に、拠点施設を訪れる外国人に対応する際に通訳を担っている。また、外国人が体調を崩した際に病院に同行し、医療通訳の役割も担っている。
4. 拠点施設で実施されている事業
もんべつ国際交流ステーションを拠点として実施されている、現下の紋別市における外国人支援の施策は、国際交流事業、生活支援事業、就労支援事業の3つを柱としつつ、市内在住外国人が個別に持ち込んでくる相談事にも分野を問わず広く対応している。以下、生活支援事業、就労支援事業について概説するほか、相談内容の傾向について紹介する。
(1) 生活支援事業
生活支援事業は、旧拠点施設(国際交流サロン)の設置後、2019年度から始められた諸事業であり、大きくは生活支援事業(日本語講座、産業施設見学など)、交流事業(運動会、料理教室など)、文化体験事業(日本食体験、着付けなど)、運営事業(感謝状贈呈式)、交通費等助成事業(バス運賃一部助成)に分けられる。このうち参加者が多いのは「日本語講座」であり、初級のN5からN2までの4段階で講座が組まれている。日本語学校の設立に向けた検討も始まっている。
生活支援事業の特徴の一つは、その取り組みの内容を「運営委員会」の議論を経て決めていることである。運営委員会は、当初は「国際交流サロン(仮称)運営委員会」の名でサロン設置を翌年度に控える2017年度に発足した。この名称で第1期(2017~2018年度)を活動し、サロン設置後の第2期(2019~2020年度)では「紋別市国際交流サロン運営委員会」と変わり、第3期目の2年目に当たる2022年度からは、拠点施設名の変更を受けて、現行の「紋別市国際交流ステーション運営委員会」に改名となっている。委員は、市が選定した市内の市民活動団体、地元企業、経済団体、監理団体などから民間委員十数人を招集している。委員会での議論を経て、次年度の事業の内容が決められると、これに基づき国際交流推進室から予算要求を行う。事業費は市から委員会へ補助金として交付され、これを財源に諸事業が実施される。
(2) 就労支援事業
2021年度から新たに事業として具体化されたのが就労支援事業である。その一環として、2021年11月より、インターンシップ支援事業が始まっている。
本事業は、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を学校卒業後に取得できる大学・専門学校の留学生が紋別市内の企業でインターンシップ(就業体験)を行う場合、交通費や滞在に係る経費などを対象に1人当たり最大10万円を市が補助するというものである。この在留資格は、更新すれば無期限に働き続けられ、人手不足の市内企業において、事務職を担う労働力として長く働ける高度外国人材の確保を当面の目的としつつ、定住人口の拡大も見据えている。
すでに本事業を通して採用が内定した留学生もいるといい、今後、資格変更等の手続きで必要になる入管への提出資料の作成については、市が採用企業と協力して行う。企業への就労開始後は、市職員の定期的な企業訪問による意見交換などを通して、スムーズに定着するよう支援が行われる。
(3) 外国人の相談への対応と内容上の傾向
以上で見てきた事業のほか、拠点施設では、旧施設の創設当初より、市内在住外国人が持ち込む相談事への対応も行ってきている。
2021年12月に実施した市関係者からの聞き取りで、拠点施設(旧・現行)で過去に対応した外国人からの相談について、その内容の傾向や特徴をうかがったところ、以下のような回答があった。
仕事に関する相談としては、賃金や労働条件に関する不満などはほとんど聞かれず、それよりはむしろ仕事が身体に及ぼす影響に不安を持つ者が若干いるとのことであった。例えば、水産加工業では長時間の立ち仕事や冷水を扱う作業が多いので、こうした状態が続けばいずれ身体に良くない影響を及ぼすのではないか、といった不安である。また、このこととも関連して、生活上の悩みや不安に関する相談としては、病気に関するものが件数としては圧倒的に多いとのことであった。
生活上の悩みとしてはもう一つ、借金に関する相談が一定数あるとのことであった。日本の外国人技能実習制度に対しては、来日に先立って母国の送出機関などに多額の借金をしてくる実習生が多いことが問題点として指摘されている。
このほか、技能実習生からは将来不安に関する相談も一定数あるという。具体的には、現行の「技能実習」の在留資格が期限切れになった後、どうすれば日本に残り、働き続けられるのか、という相談である。これに対しては、それぞれの相談者の置かれた状況に応じて、在留資格の切り替えのしかた、切り替えに必要な学歴や職歴、日本語習得レベルなどについて説明するとのことであった。
5. 現下の課題と今後の展望
前出の市職員からの聞き取りで、課題としてまず挙げられたのは、事業費の財源の確保である。紋別市は2020年度以降、国(法務省)から「一元的相談窓口の設置」を使途として「外国人受入環境整備交付金」の交付を受けているが、期限付きであるため、中長期的なスパンでの事業を構想しても、財源の面で不確実性が残り、事業の組み立てができないからである。
第二に、さらなる多国籍化への対応に関する将来的な不安である。前節でも紹介したとおり、紋別市では国際化推進員3人を雇い、中国、ベトナム、タイの3カ国語にすでに対応しているが、今後も外国人労働者の受け入れの拡大が図られていくなかでは、さらに市内に暮らす外国人の国籍が多様化し、使用する言語の種類が増えていくことが予想され、市側の体制の拡充も求められることになる。このようななかで、どれだけ市として対応していけるのか、不安があるとされた。あわせて、「特定技能2号」の在留資格を取得する外国人がこの先増えていけば、同資格は技能実習生と違い家族帯同が認められるため、市内に居住する外国人の子どもも増える可能性がある。そうなれば、市教育委員会や各学校などとの庁内・多機関連携の体制の構築も求められるようになるだろう。
第三に、地域でみられる諸課題への対応として、市単独では限界もあるところ、道庁もしくは地元の総合振興局と連携した取り組みが必要との認識も示された。その上で、道庁に期待する取り組みとしては、地域の実情や課題を詳細に把握すること、制度と地域実態の間にギャップがあるならば国に必要な提言を行うこと、管内市町村への情報提供や職員研修の実施、市町村間の連絡体制の構築を進めることなどが挙げられた。
同市の取り組みから学びうるのは、自らのまちに外国人に来てもらうには、まずは彼らに実習先あるいは移住・定住先として選ばれなければならないのであり、そのための施策が必要だということである。すなわち、地域の多国籍化に対応しうる住民や事業者の意識の醸成、日本人と外国人を区別しない公的支援の体制整備を通じて、外国人が地域住民の一員として安心して暮らしていける生活・労働環境を用意することである。「外国人との共生社会の実現」には、自治体行政のみならず、住民、民間事業者がそれぞれ役割を果たし、必要に応じて各主体が連携することが不可欠であり、その先にめざすべき共生社会の姿が見えてくると思われる。
日本国内では、2017年、2020年と、相次いで「社会福祉法」が改正され、「地域共生社会の実現」を進めていく根拠が法定化されている。改正を経た同法は現在、「地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない」との理念を掲げた上で、国・自治体に対しては「地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備」への努力義務を課すに至っている。また、これと並行して、地域包括ケアシステムや生活困窮者自立支援制度の実践において先進地とされるいくつかの自治体では、いち早く自らの包括的相談支援体制のあり方の模索が始まっている。
問題は外国人住民を包括的相談支援体制の支援対象と見なすことができるか否かであり、その内実化には地域や自治体の経験が重要になると思われる。外国人支援の先進地である紋別市における実践経験のさらなる積み重ねと、他の市町村への取り組みの波及が期待される。
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