1. はじめに
今、性の多様性を尊重する社会が求められています。
2015年4月に文部科学省から発出された「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」においても、"悩みや不安を受け止める必要性は、性的マイノリティとされる児童生徒全般に共通する"ということが明らかにされ、また、全国の各地で性的マイノリティに関する理解の促進と支援の必要性の認識が広がっています。
宝塚市においても、性の多様性を理解し、誰もが「ありのままで」「安心して自分らしく」過ごせる、そんな、誰もが生きやすい社会をめざして取り組みを進めています。
2. 取り組みの方向性
本市では取り組みの方向性として「人権尊重のまちづくり」「当事者に心を寄せるまちづくり」を掲げています。
「人権尊重のまちづくり」はすべての人が個人として尊重され、誰もが、自由で、平等な社会で、安心して暮らせるまちづくりの事です。実現のために何をすべきか考え、①知らないことが偏見を生むため、正しく知って、理解することから始める。②学校教育において、正しい情報の提供を進める。③安心して働ける職場、安心して暮らせる地域づくりを進める。という項目を設定しました。
「当事者に心を寄せるまちづくり」は誰もがありのままでいられる社会、自分自身を受け入れることができ、自分らしく幸せに過ごせるまちづくりの事です。実現のための項目は①どこにでも悩んでいる人がいることを理解する。②多様な「性」や「家族」の形を理解する。③幸せのパターンの決めつけを無くす。の3点です。
3. 性的マイノリティに寄り添う具体的な取り組み
(1) 宝塚市パートナーシップの宣誓制度
様々な人々が自分らしく生きていくことができる社会づくりに向けて、孤立感を抱えている可能性のある性的マイノリティの方々について理解するとともに支援するため、2015年11月に本市の取り組み方針「ありのままに自分らしく生きられるまち宝塚」を策定しました。
その取り組みの1つとして、同性パートナーを尊重するため、2016年6月に宝塚市パートナーシップの宣誓の取り扱いに関する要綱を制定しました。これは、互いをその人生のパートナーと約束した同性カップルの宣誓書を市が受け取り、一定の条件を満たしている場合、2人をパートナーと認め受領証を交付するものです。
また、近年、性的マイノリティの方の人権尊重に取り組む自治体が増加し、パートナーシップ宣誓制度を導入する自治体については2018年度末に11団体であったところ、2021年1月8日現在、全国で74団体となり、兵庫県内においても7市で導入されました。しかしながら、法に基づく婚姻ではないため、1自治体の取り組みとしては限界があり、導入する自治体における連携した取り組みが必要です。そのため、阪神7市1町(尼崎市・西宮市・芦屋市・伊丹市・宝塚市・川西市・三田市・猪名川町)による「パートナーシップ宣誓制度の取組に関する協定書」を締結し、当事者の方の負担を軽減するため、転出・転入時の手続きを簡略化しました。
協定書を締結したことに伴い、さらに広く性的マイノリティの方にご利用いただけるよう、内容について次のとおり見直しました。(2021年4月6日改正)
① おひとりでも市内に住所を有していれば宣誓ができる。(予定も含む。)
② 通称名も使用できる。
③ 協定書に基づき、協定締結自治体間での転出入の場合は手続きが簡素化。
④ 上記の改正に合わせ、受領証等の様式も一部変更。
(2) 出前講座・講師派遣事業及び職員研修
本市では、市民のみなさまにLGBTのことを知っていただくため、職員が講師となる出前講座や専門の講師を派遣する講師派遣事業を実施しています。「出前講座(ふれあいトーク)」は市役所の職員が市民のみなさんのところへ出向き、性的マイノリティについてお話をします。「講師派遣事業」については、性的マイノリティに関する研修会等を開催する場合、講師料の助成をしています。講師は、研修会の趣旨に沿う講師であって、性的マイノリティに関する専門的な知識を有する講師です。本市からお支払いする講師料は、1件3万円以内です。
また、毎年市職員に向けた研修において、性的マイノリティをテーマとし、大学教授や弁護士などによる講演を開催しています。
4. 理解促進・普及啓発素材
LGBTへの理解促進や普及啓発として、様々な成果物を作成しました。
(1) レインボーステッカーによる"見える化"
性的マイノリティの方の中には、差別や偏見の恐れから、お店や病院など、生活の中で必要な場に行くことや、窓口でやり取りをすることに対して、大きなストレスや不安を感じている方も多くいらっしゃいます。そのような精神的負担を軽減し、少しでも安心して生活していただけるよう、性の多様性への理解と尊重を示す窓口であることの"見える化"をするために、レインボーステッカーを作成しました。このステッカーは希望者へ無料で配布しています。
(2) 性的マイノリティ啓発リーフレット
様々な人々が自分らしく生きていくことができる社会づくりに向けて、孤立感を抱えている可能性のある性的マイノリティの方々について理解するとともに支援するため、性的マイノリティ啓発リーフレット「ありのままに自分らしく生きられるまち宝塚」を配布しています(A4サイズ、4ページ、フルカラー)。このリーフレットは本市のホームページからダウンロードできるようになっており、一般用と教職員用があります。また、性的マイノリティに関するDVD・図書・絵本を市民の皆様に、原則一週間無料で貸し出しています。市内在住・在勤の地域、学校、園、事業所、企業、自治会等の団体などでの研修や学習にご活用できます。もちろん、個人での利用も可能です。
5. 現状の課題
本市では、2007年3月に策定した「宝塚市人権教育及び人権啓発基本方針」を見直し、新たな方針の策定を進めるにあたり、方針策定の基礎資料として活用するため2016年10月から11月にかけて人権問題に関する市民意識調査を実施しました。
性的マイノリティの人権について、「差別的な言動をされる」、「性的マイノリティの人権を守るための法律や制度の整備が十分でない」といったことに対する関心が高まっている一方で、最も多かった回答は「わからない」となっており、他の人権問題に比べ、性的マイノリティに対する差別や人権侵害についての問題意識が形成途上にあることが明らかになりました。また、女性に比べて男性の関心の低さが浮き彫りになりました。さらに、性的マイノリティの人権を守るために必要なこととして、「相談などができる公的な機関の充実」、「人権に関する問題だから社会全体で解決に取り組むべきだと思う」、「学校教育や社会教育の充実」に回答が集まっています。
本市は「ありのままに生きられるまち宝塚(性的マイノリティに寄り添うまちづくりの取組)」を通じて、性的マイノリティについて市民が学び理解を深め、社会に包摂する意識を高めていくことが必要だと考えています。また園所、学校などと連携し、人権教育と連動させながら性的マイノリティの子どもの支援も検討していくことが求められます。さらに男性の関心が低いことから、女性の人権に関する施策と連動させながら施策を展開していくことが大切だと考えます。
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