【レポート】

第39回静岡自治研集会
第4分科会 多様性が尊重される社会にむけて

 男性の育児休業を取得しやすくする制度を定めた育児・介護休業法の改正法が、2021年6月3日、衆議院本会議で成立しました。政府も男性の育児休業取得目標を13%から30%に引き上げました。社会的に育児は「両親で」という風潮が主流となり、制度も拡充していますが実態はどうでしょうか。育児休業を取得した1人として日本における男性の育児休業取得の実態を考えたい。



男子諸君
―― 父親の育児休業取得について ――

大分県本部/日田市職員労働組合 長野 哲夫

1. 日本の育児休業制度について

(1) 経 過
・1972年「勤労婦人福祉法」が制定
 本法は、「女性」に限定して、事業主の努力義務として規定されたことが始まり、育児休業法の前段として制定されました。
・1991年「育児休業法」が制定
 女性の職場進出を推進することを目的に、女性が職場に残って働き続けられるためといった側面が強く、依然「育児休業は女性が取得するもの」というものでした。
・1995年「育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」として改正
 現在では聞き慣れている「介護休業」を盛込んだ改正に「育児」「男性」をセット
・2010年「改正育児・介護休業法」が施行
 出産や育児へのかかわりを選択することが可能な働き方や、子育て期間中における働き方の制度が拡充されました。
・2021年6月に改正
 改正の柱として「男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設」などを掲げ、男性の子育て参画について後押しをしています。

(2) 世界的評価
 現在に至るまで、国内の制度改正や、様々な業種・職場での取り組みが行われた結果、2016年時点でユニセフの研究所が行った分析で、経済協力開発機構(OECD)と欧州連合(EU)に加盟する41カ国について、有給で取得可能な休業日数を比較した結果、日本は驚きの1位ということでした。(図-1)
 これは有給で取得可能な休業日数と、その後の給付金などが支給される期間を割合加算したもので、世界からは、「父親に6ヵ月以上の有給育児休業期間を設けた制度を有している唯一の国(注1)」と紹介されています。

図-1 父親が取得可能な有給育児休暇期間

出典:「2019年:ユニセフ報告書」
(注1)育児休業中は育児休業手当は子が1歳に達するまで支給されるが、その額を通常の月額給料に換算した場合に何月分となるかを計算した期間。

2. 現状の分析

(1) 数字でみる世界の取得率と国内の状況
① 世界における日本
 子どもと家族に優しい高福祉国家のイメージがある北欧の国々では、男性の育児休業取得率はかなり高く、ノルウェー、スウェーデンなどでは男性の育児休業取得率は70~80%以上と高水準で推移しています。(図-2)
 一方、国内に目を向けてみると、前述のとおり制度に関して世界一の評価を受けているにもかかわらず、図-3に示すように、厚生労働省が行う「雇用均等基本調査」では、2019(令和元)年度の男性の育児休業取得率は7.48%であり、上昇傾向ではあるものの北欧の国々に比べ低水準であるという結果となっています。

図-2 世界の育休取得率(男性)
図-3 男性の育児休業取得率の推移

出典:厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」

② 日本における大分県
 大分県の総合長期計画「安心・活力・発展プラン2015」~2020改訂版~における男性の育児休業取得率は2018(H30)年度の実績で6.8%と公表されています。
 本計画における最終年度の目標は「国の目標以上の取得率」と高い目標を掲げています。(政府が掲げる男性の育児休業取得率目標値は「2020年までに13%」から「2025年までに30%」へ引き上げられています)
 県内における男性の育児休業取得率は、国内平均とほぼ同水準であり、いずれにしても低水準であることから、政府の掲げる「2025年までに30%」を達成するには、かなり踏み込んだ政策や取り組みが必須であると考えられます。
③ 県内における日田市
 次に、日田市における男性の育児休業取得状況については、日田市での統計が無いため、市職員で実際に取得した人数を例に挙げてみると、2008(平成20)年度から2020(令和2)年度までの13年間で、男性で育児休業を取得したのはわずか5人でした。
 取得が進まない背景には、取得しにくい職場の環境、休みを取ると周りに迷惑をかける、仕事が回らなくなる、家計の収入が不足する、といった声が子育て世代の男性職員から聞かれました。

(2) 課 題
 現状分析のとおり、日本の制度は充分といえる段階に達しているものの、取得率は伸び悩んでいます。その理由は大きく二つの課題があると考察されます。
 一つは、「組織」です。
 当該制度の取得は課・係といった職場(組織)単位での取り組みになります。理解のあるトップや上司がいなければ、なかなか自分から手を挙げられないと思慮します。
 民間企業が行った「平成29年度 仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると育児休業を取得しなかった理由は、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」、「職場が育児休業しづらい雰囲気だった」「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった」などが大半であり、"組織"を意識することが取得率の向上にブレーキをかけています。男性の育児休業取得を促進するためには職場環境づくりや意識醸成が急務であると考えられます。近年では、男性の育児休業取得を後押しするため「イクボス宣言」をする企業(経営者)等が見受けられます。「組織」のボスが自ら男性育児休業を取得し、組織の姿勢を発信する取り組みと考えられます。
 今後は改正育休法により、男性の育児休業取得の確認が義務付けられますが、組織による"確認"が形骸化すれば意味がありません。せっかく強化された制度も、運用するのは組織ですので、男性の育児休業取得に結び付けられるような取り組みが求められます。
 二つには、「人」です。
 労働者の休暇取得は、"夏休み"、"忌引休暇"、"振替休日"といった、比較的馴染みがあるものは、男女問わず多くの人が取得しているように感じます。
 しかしながら、"育児休暇"は取得のタイミングが定まらず、また生計にも影響を与えかねない制度という概念に、自分を投影しがたい感覚があるのではないでしょうか。
 つまり、取得しようとする人、その職場の人、家族、これらすべての人に育児休業制度の正しい情報が伝わって初めて取得(普及)が進むと考えます。

3. わたしの育休経験記

(1) 我が家の状況
 著者:1977年生
 妻 :1976年生共働き世帯
 育児休暇取得までの流れ
 2007年 結婚
 2008年7月 第一子の長女出生(妻が産前産後休暇を取得)
 2009年9月 一カ月間ではあったが著者が育児休業を取得(同月に妻は職場復帰)
    10月 以降、長女は幼稚園に入園。
 2012年 第二子(長男)誕生。
 2017年 第三子(次男)誕生。

(2) 周囲との関係性
① 職 場
 当時、市職労としても男性の育児休業取得を推進しており、第1号の登場を熱望していました。そこで当時の書記長の要請で該当職員数人に"取ってくれ"と要請があったことが良くも悪くも私が育児休業を取得するきっかけとなりました。
 当時の職場の反応ですが、"制度は何となく知っている"(応援するとは言わない)が休暇の申請用紙には根拠条例を添付して、課長に直接説明して決裁を受けるようにと言われたのを記憶しています(この一言を覚えているくらい、当人は、周囲の冷やかな反応をかなり気にしていました。)
 当時の勤務先は税務課です。税務課の9月がどうとは言いませんが、一番の繁忙期かというとそうではなかったことも取得の後押しになったと記憶しています。
② 家 庭
 多くの女性は育児期に疲れています(マタニティブルー)。しゃべる機会が減少することによる心理的疾患も増加します。特に長子の場合その傾向が顕著に表れます。夜泣きや授乳、離乳食への移行、家事の同時並行など、結婚以来、最も過酷なたたかいに臨んでいることを、男性諸君、理解していただきたい。
 当然ながら体力には自信がある我が家の妻も、たたかいに明け暮れる中で少しでも早い職場復帰を望んでいたように感じます。
 又、男性の育児休業取得に際しては夫婦双方の両親の支援(実際は多少ですが)も有り難かったように記憶しています。
③ 子どもとのかかわり
 我が家では3人の子どもに恵まれましたが、子どもの個性は様々です。長子に関しては、睡眠時間が長く、少しの物音では起きたりしない。極端にいうと、ご飯食べながら寝る、ふろ上がりにタオルに包み居間まで運んでいるうちに寝ていた……。こんな感じでしたので非常に手がかからないタイプの育児経験となりました。
 育児休業中は、午前の昼寝が終わった後、妻の作った弁当を一緒に食べ、おむつを替え、家の周囲で遊び、散歩しながらおんぶをしてまた寝かしつけ、遊んで疲れて寝る事をひたすら繰り返していました。こんな時間の合間に少し洗濯や家の掃除をわずかながら、やっていました。
 その後生まれた兄弟もそうですが、育児休暇を取得したことにより、子育てに必要なスキルは最低限身についたため、育児以外でも、何でもやればできるようになったと感じます。夫婦で分担することの合理性も改めて気づきました。このスキルの取得と、分担の合理性への共通認識が、その後の社会人としての原点になったような気がします。

4. 育児にまつわる男女の考え方

 レポートを作成する中で、耳にした男女の意見をまとめてみます。
① 女性職員も出産については一定の悩みを抱えている
 (今の職場で産休に入って大丈夫?)(職場復帰してからの家事が心配)
 といった悩みをすべて女性に押し付けている現状に気づいてください
② 男性は家庭が大事な時期なのに、職場のことばかり(思い込みで)気にしている
 (この仕事は自分しかできない)(この職場には自分が必要)
 本当にそうでしょうか? 女性の育児休暇取得で職場が壊滅した事例は聞いたことがありませんし、異動辞令が出たら別の職員でやれてるような気がしませんか? 男性特有の心配性の部分ですが、周囲のみんなで考えてください。
③ 自分本意ではなくても"組合に強要された"で全然OK
 (自分からは言い出しにくい)(組合・所属長からの根回しがあれば)
 休暇取得は自分にとって大変有意義なものです。育児休業が取れそうな職場に前もって異動してでも取得したいと取り組む男性が増えることを期待します。
④ 男性の育児参加は家庭円満の秘訣。結果的に仕事にも良い影響がもたらされる
 (女性からは絶対喜ばれる)(子ども・仕事への向き合い方に変化)
 女性にとっても大変助かる、良い経験になります。社会進出やその後の出産意欲など、現在の日本が抱える多くの問題解決につながるのではないでしょうか。

5. まとめ

 これまで、低迷する我が国の取得率の原因を考察してきました。仮に、取得率が100%を達成した組織が県内に発生したことを想像してみると、明るい未来が見えそうです。
 100%取得の組織では、多人数職場でも、出先でも取得することになり、様々な職場の対応が必要になります。代替職員配置には一定の整理が必要と思われますし、その他の職員による業務の支援もかなり生じることは明白です。これを可能にするためには、当局が各職場実態を踏まえて臨機応変に取り組むこと、さらに職員間での共通意識、快い業務の支援も約束されなければ100%の組織にはなりません。取得する個人以上に周囲の努力が必要です。
 子育てを頑張っている仲間のために周囲が支援するというのは、まさしく組織力であるため、本来、欧米諸国より日本のほうが優れていなければなりません。

 現状の低い取得率の組織と100%取得の組織、この両者を公務員志望の男子学生が比較したとき、どう感じるでしょうか?
 【子育て世代が主役な市役所なんだろう】
 【きっと全庁あげて、風通しが良い職場風土なんだろう】
 【市長や管理職も相当の理解がありそうだ】
 【低い取得率の職場って気味悪い】

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