【レポート】

第39回静岡自治研集会
第5分科会 コロナ禍の平和運動を探る ~平和運動の原点と未来~

 これまで、安倍元首相とそれを支える「日本会議」などの右派勢力は、日本国憲法によって規定され、戦後日本社会の根幹にあり続けてきた平和主義、主権在民、基本的人権の尊重という原則に対する破壊策動を進めてきました。国会で改憲を目論む政党が安定した議席を持つ状況の中、「改憲反対」をこれまで以上に訴えることが重要ですが、これまでの私たちの運動を今後どのように活かしていくことができるのかを提言します。



職場・地域からの平和運動


大阪府本部/大阪市職関係労働組合・港区役所支部

1. はじめに

 2020年1月6日、中国武漢市で原因不明の肺炎患者発生の報道が行われた新型コロナウイルス感染症は、日本における感染確認から2年以上を経過しました。長期にわたるパンデミックは、社会的弱者を直撃し生活破綻の広がりが懸念されていますが、新自由主義的政策を実行してきた政府・自公政権は有効な手立てを見いだせずにいます。新型コロナウイルス感染症発生から不完全な対応に終始していますが、早急に変化する社会構造に対応できる政治が求められます。 
 平和と人権尊重の社会の実現にとって、憲法問題は今後の社会が進む方向を定める要の問題です。しかし、このことは必ずしも多くの国民の共通認識になっているわけではありません。国民の多くが現行憲法のもとで生まれ育っていますが、憲法問題を最も重要な課題とみているわけではなく、多くの世論調査では「改憲に賛成」と「改憲に反対」よりも、むしろ「どちらかというと賛成」あるいは「どちらかというと反対」が多数になっています。ある意味で現行憲法が定着してきていることの結果であるといえます。
 岸田首相は、年頭の所感で憲法改正について「本年の大きなテーマ」と述べており、「敵基地攻撃能力」保有や、「緊急事態条項」導入などの危険な議論も進めています。
 2022年2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始しました。欧米諸国は、一斉に反発し経済制裁措置に入りましたが、ロシア軍はプーチン大統領が独立を承認したドネツク・ルガンスク両人民共和国に留まらず、首都キーウを含むウクライナ全土を攻撃しています。攻撃対象は、学校や病院にまで及び、侵攻後1週間で民間人の犠牲者は死者2,000人を超え、ポーランドやスロバキア、ルーマニアへの避難民は100万人を超えています。3月4日には、欧州最大級のザポリージャ原発でも戦闘があり、原発サイト内において火災が発生し、あわやという事態が起きています。
 ウクライナ情勢を利用し、核武装なしに日本は守れないとして米国と核を共有する「核シェアリング」をはじめ、非核三原則を見直すべきとの主張があるなど、極めて危険な状況の中で、安保法制の違憲部分の廃止と「立憲主義」の回復、「憲法改悪」を阻止するため多数派形成が改めて求められています。
 こうした状況のもとで、大阪市港区内で働く労働者の組合で構成する港地区平和人権連帯会議で事務局長の任にあたる当支部が、新型コロナウイルス感染症が拡大し活動を制限、自粛せざるを得ない状況の中で取り組んできた反戦・平和運動について報告させていただきます。

2. 港地区平和人権連帯会議の運動

 私たち港地区平和人権連帯会議は、1993年9月28日開催の「総評港地区センター解散大会」「港地区平和人権連帯会議結成総会」以降、南大阪平和人権連帯会議に結集し、これまでの平和運動の取り組みを踏まえ、従前の運動の枠組みを基本に中小労働運動支援と首切り合理化に反対し、解雇撤回・雇用確保をめざす長期争議組合支援などの運動を継承しつつ、活動を続けています。
 大阪における労働運動の中心的役割を果たしてきた「民主・リベラル大阪労組会議」は2000年に解散しました。その協調・協力体制の実績のもと新たに設立された「21世紀ビジョン大阪懇話会」も2007年9月末に発展的解消し、「大阪平和人権センター」がその運動を引き継いでいます。現在では、加盟労働団体の理解と協力のもと、府内に7つある地域平和人権連帯会議を大阪平和人権センターの地域組織と位置づけ、さらなる運動の展開を進めています。

(1) 沖縄の新基地建設反対の取り組みと沖縄現地訪問団について
 日本の米軍基地の75%を占める沖縄では、代替ヘリポート基地建設予定地の名護市辺野古で強い反対運動が続く中、政府・防衛省は環境現況調査を行うなど、強引にヘリポート基地建設の工程を進めてきました。
 大浦湾側の軟弱地盤の存在が明らかになっており、政府は工期を当初の8年から12年に延ばし、工費も約2.7倍の9,300億円に変更しています。
 また、2019年2月に実施された「辺野古米軍基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票」は、投票率52.48%、賛成114,933票、反対434,273票、どちらでもない52,682票の大差で基地建設に反対する市民が勝利しました。
 しかし、安倍政権を引き継いだ菅政権、岸田政権は、選挙や県民投票の結果を無視し続け、土砂の投入を行っています。
 南大阪平和人権連帯会議では、2019年6月に官民の職場から21人が沖縄現地訪問団を編成し、実りある成果をあげました。行程は、通常のツーリストでは絶対に行くことができない行程です。悲惨な体験を見聞きし、それを仲間に伝えることから平和への一歩が始まるものと考えており、長年にわたる運動を通じて、公務員と民間の労働者が一体となって、更なる平和への想いを共有してきました。
 2020年6月に予定していた沖縄現地訪問団は、新型コロナウイルスの感染拡大により中止としました。
 2021年は幹事会で実施の方向を打ち出し、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が発令される中でしたが、6月4日から6日まで辺野古新基地建設現場や伊江島でガイドからの説明を受け、最終日は激戦地の南部にある平和の礎、ひめゆりの塔・資料館等の見学をはじめ学習を深めました。感染症対策として、結団式、出発の朝、ホテルでの起床後、3日間いずれも簡易検査キットにて唾液検査を実施しました。全体で12人での実施予定でしたが、緊急事態宣言下でもあったので、当支部からの2人の参加予定者は断念せざるを得ませんでした。
 2022年の沖縄現地訪問団は、感染症対策を徹底した上で6月3日から5日まで18人の参加のもとで実施し、当支部から3人が参加しました。行程は2021年と同じコースを訪問しました。
 辺野古新基地建設現場では辺野古テント村を訪問しました。あいにくの雨で活動はされていませんでしたが、看板や張り紙などで住民の気持ちや意思を訴えかけていました。
 伊江島は本島からフェリーで約30分の離島です。太平洋戦争での激戦地であった伊江島には戦争史跡が多くあります。敗戦を知らず、終戦後2年間、日本兵2人が樹上生活を送ったガジュマルの木。現在は絶景ですが、当時は集団自決の場となった断崖絶壁や洞窟などがあります。
 ひめゆりの塔・資料館では、沖縄戦の際、15歳~19歳の女子生徒が陸軍病院で看護活動を強いられました。病院壕の中は血、膿と排泄物の悪臭が充満し、負傷兵のうめき声と怒鳴り声が絶えない状況。負傷兵の看護の他に、水くみや食料の運搬、伝令、死体埋葬なども生徒たちの仕事で、それらの仕事は弾の飛び交う壕の外に出ていかなければならないとても危険な任務だったそうです。資料館には戦死した生徒がどのような方だったのか、どのような最後を迎えたのかを一人一人記されていました。
 戦後77年、戦争の実体験をされた人が年々減っていく中、そのことを私たちがどう伝えていくのか。世の中には色々な情報が氾濫しており、ネットで簡単に情報を得ることができるようになっています。うその情報を若者が信じてしまうこともあります。ロシアの問題も自分達を守るためなら武器が必要であるとの考えは私たちを守るためには平和や憲法9条の堅持が必要との教えと真逆になっています。
 私たちが学んだことを今後1人でも多くの人に伝えて、ネットで見た情報をすべて正しいと信じるのではなく、自分自身が見て、聞いて、話して何が正しい情報なのか考えるよう促すことがとても重要になってくると考えています。

(2) 日朝友好の取り組みについて
 朝鮮半島-東アジア情勢は、米国、ロシア、中国のそれぞれの思惑が交差し、不安定な状況が続いています。とくに朝鮮半島では、2019年2月のハノイにおける米朝首脳会談が非核化をめぐって決裂して以降、「和解と協力」から「断絶、対立、軍事的緊張」へと局面が大きく変わり、バイデン大統領のもとでも、平和に向けた関係改善は見られません。北朝鮮は2022年3月24日大陸間弾道ミサイル1発を発射しました。2018年4月に核実験場の廃棄とともに、核実験とICBM発射のモラトリアム(一時停止)を宣言しましたが、約4年で宣言は覆されたことになります。まず、ミサイル発射を止め、核実験とICBM発射のモラトリアムに北朝鮮が立ち返るよう求めていかなければなりません。また、朝鮮半島の課題に対して当事者である日本政府が積極的な提案を行い、対話を生み出すことを強く求めていく必要があります。
 韓国では、文政権が朝鮮半島の「終戦宣言」実現のために最大限の努力を重ねてきましたが、2022年3月の大統領選挙で誕生した尹政権による敵視政策により「平和と統一の象徴」ではなく「戦争と分断の象徴」のままとなっています。
 2002年9月17日、小泉首相の訪朝により、戦後初めての日朝首脳会談が実現し、「日朝平壌宣言」が調印されるなど、日朝国交正常化交渉に向けた歴史的な一歩が踏み出されましたが、日朝政府間対話は、2014年5月の「日朝ストックホルム合意」以来中断し、今もなお、日朝関係に改善どころか岸田政権の北朝鮮敵視政策により、南西諸島へのミサイル・陸上自衛隊の配備など日米軍事同盟下において、「敵基地攻撃能力」保有に向けた動きが加速しています。
 一方、拉致問題を契機として、特に朝鮮総聯や朝鮮民族学校生徒たちに対しての弾圧、暴行事件、嫌がらせが多発しており、このような行為は人権問題として断じて許すことができません。
 また、大阪維新の会の知事による大阪府・市の補助金打ち切りに始まった差別政策は、高校無償化・幼児教育無償化・コロナ禍に対する大学生支援からの排除などが未だに続いています。こうした差別を許さない府庁前での抗議行動「火曜行動」を継続しています。
① 日朝友好新春のつどい
 このような状況のもと、また未だコロナ禍の困難が続く中、「日朝友好(西・港・大正)新春のつどい」が歴史的経緯と意義から2001年以降も毎年開催できていることは大変意義深いものであると考えています。
 2022年は、2月22日(火)に大阪市住之江区の「南大阪朝鮮初級学校 講堂」で開催しました。
 基調講演では、「京都府宇治市ウトロ地区の歴史と今~ウトロ平和祈念館とヘイトクライム」を受けました。
 ウトロ地区は、太平洋戦争中に京都飛行場~逓信省乗員養成学校、日本国際航空工業飛行機製造工場、兼用飛行場建設工事のため、「徴用に引っ張られない」「住むところもある」という触れ込みで飛行場建設造成のために大量の土砂を掘削し、低地となった部分(日本国際航空工業所有地)に飯場を設置し、多数の朝鮮人労働者が集められた朝鮮人飯場がはじまりです。
 終戦後、建設工事が中断され京都飛行場は米国進駐軍に接収され、接収解除後は日本国際航空工業に払い下げされ、日本国際航空工業を引き継いだ日産車体によりウトロ地区の転売が行われました。ウトロ地区の住民は差別と上下水道のない劣悪な生活環境の中生活してきましたが、行政による「放置」により置き去りにされた街になってしまいました。ウトロ地区に民族学校が設置されましたが、閉鎖命令が出たので小倉小学校で民族学級が開設されました。土地の明け渡し要求に対し住民たちが請願するも時効取得の欠格により住民たちは全面敗訴しました。
 水道問題から始まったウトロ土地対策委員会(当事者)とウトロを守る会(支援者)によるウトロを守るための支援運動が始まりました。数々の要望書の提出やデモやパレードを行い、国際世論も盛り上がり、国連社会権規約委員会から勧告が出されました。韓国市民社会での世論化や、韓国市民運動により市民16万人から募金が集まりました。それがきっかけで韓国政府支援金決定と日本のまちづくり事業が始動します。
 韓国政府系財団と市民募金財団によるウトロ地区の土地の買い取りが行われ、土地の無償提供(地上権設定)、無補償の住宅除去、道路・公園用地の寄付により不良住宅改善事業とウトロ地区の街づくりが始まり、分断と対立の克服としての小さな統一が実現しました。
 そうした中、2021年8月30日にウトロ地区で7軒の建物(内民家2軒)で火災が発生しました。この火災によりウトロ地区の歴史と転換を象徴する立て看板が焼失しました。当初の警察の捜査では、出火原因は「漏電が原因」とされていましたが、別件で逮捕された容疑者が犯行を認めたため、11月に再捜査し容疑者を逮捕しました。
 放火発覚後に拡散されたウトロ地区のネガティブキャンペーンやそれに対するメディアの反応と行政の動きの鈍さなどに対し、ヘイトクライムに反対する市民集会が開催され、250人が集会に参加しました。
 基調講演で提起された(ア)ヘイトクライム(差別犯罪)の加重処罰と厳重処罰、(イ)ヘイトクライムに対する行政の立場表明、(ウ)憎悪と対立の負の連鎖を断ち切ること、(エ)ウトロ地区における小さな統一の実践が分断と対立の克服、などを私たちはめざしていかなければなりません。
 「つどい」では、南大阪朝鮮初級学校への支援金贈呈後、大阪朝鮮歌舞団が歌と踊りを披露しました。団員が途中の挨拶で、コロナ禍の中で活動を自粛せざるを得ない状況で公演ができたことに対し涙ぐむ場面もありました。
② ウトロ地区のフィールドワークへ
 「つどい」実行委員会の総括会議で議論し、2022年7月16日に同年4月30日にオープンしたウトロ平和祈念館を訪問しました。写真やパネルで、1. なぜウトロに朝鮮人が住むようになったか、2. 戦後のウトロでの生活、3. ウトロを守るたたかい、4. 新しいまちづくり、などの説明を平和祈念館で受けました。その後、ウトロ地区のフィールドワークに出かけ、市営住宅第1期棟と建設中の2期棟を見学しました。市営住宅に入居後、人付き合いが無くなったということで元の自宅に戻る方もいるそうです。
 最後に放火現場を見学しました。家が焼けた跡がそのまま残っていました。放火をした20代の青年は、ネットとSNSでウトロ地区のことを知ってから、わずか数日で歴史経緯も知らないまま犯行に及んだとの事でした。

3. おわりに

 大阪市職員労働組合は、労働組合敵視施策により、組合事務所撤去をはじめとして職員を服従させる極めて反動的な教育基本条例、職員基本条例、政治活動規制条例、労使関係適正化条例により活動が制限されています。また、長年、官民連帯で一緒にたたかってきた仲間が差別・排外主義者達から攻撃を受けています。私たちはこうした一連の労働組合潰しを目論んだ攻撃に負けることなく、一人でも多くの組合員が平和運動に参加し、歴史や現状を知って平和について理解を深め、学んだことを機関紙や報告会を通じて組合員間で共有することが重要であると考えています。
 今後も、総評結成以来の平和四原則(全面講和・再軍備反対・軍事基地提供反対・中立堅持)と護憲のもとで、「反戦平和・民主主義・人権尊重」の政治闘争を官民連帯で進めていきます。