【レポート】

第39回静岡自治研集会
第5分科会 コロナ禍の平和運動を探る ~平和運動の原点と未来~

 町と組合と協力してのロシアのウクライナ侵攻に抗議する神石高原町民集会を開催することになった経過、町民集会の内容について報告したものです。



『ロシアのウクライナ侵攻に抗議する
神石高原町民集会』の開催
 

広島県本部/神石高原町職員労働組合 川上誠太郎


(庁舎玄関に掲げられた横断幕)
 
 私たち神石高原町職員労働組合は、2004年11月に4町村(油木町・神石町・豊松村・三和町)が、合併する前から同じ神石郡に位置し、各町村で足並みをそろえるように「非核自治体宣言」を制定していました。合併後も、その翌年2005年には、この思いを引き継ぎ、制定されました。
 労働組合では、被爆地ヒロシマの県東部に位置しながらも、反戦・反核・平和運動を積極的に推し進めてきた経緯があります。核実験の報道があれば、各役場庁舎前などで「座り込み」により抗議し、青年女性部を中心に「反核平和の火リレー」に取り組み、「平和の夕べ」と題して、原爆体験を聴講し、広島県平和友好祭には、産別の違う町内の仲間とともに大挙して参加し、連帯を通じて、「平和」を訴え続けてきました。
 そのような中、2022年2月24日からロシアのウクライナへの侵攻がはじまりました。ロシア軍が、戦車などの武力により力ずくで攻め入り、ミサイルで町を破壊し、罪のない市民の平和な生活を奪い、悲しみの声と映像が、連日報道されるようになってきました。
 そんな映像を目にし、組合の役員をはじめ、誰しも、反戦・平和の行動(訴え)をおこすべきではないかと考えていました。
 2022年3月8日、町長から労働組合執行委員長に対して、「3月11日に町民集会を組合と共同で開催できないか。」との申し入れがありました。同日、組合も5役会議を開催し、協議しました。当初は、性急な日程では、「組合員への連絡が行き届かない。」「多くの町民に声掛けをするならば、呼びかけるための時間が必要。」といった意見もありました。しかし、多くのウクライナ国民が苦しんでいる惨状を止めるためにも、より早い訴えをおこさなければならないとの思いで、無理を承知で3日後の3月11日に開催することに合意しました。
 執行委員会は、書面により決議し、意思の確認を行うとともに、職場分会を通じて、組合員への参加呼びかけを図りました。3月9日以降、町内の連合等関係団体へも参加の呼びかけを行いました。
 集会の内容検討、登壇いただく方々の調整、横断幕等の会場設営、役割分担等々急ピッチで進めました。コロナ禍での開催ということもあり、屋内での開催を断念し、屋外での開催としました。しかし、本町の3月中旬の気候は、まだまだ寒く、短時間での開催を余儀なくされました。
 組合としては、執行委員長あいさつ、集会宣言を受け持つこととなり、短時間で集会宣言等を作成し、当局との確認作業を行いました。
 当日は、さまざまな団体等への声掛けにより、200人以上の町民のみなさんが集まってくださいました。人口約8,500人という小さな町の町民集会とあって、多くの報道のみなさんも駆けつけ、取材していただき、我々の訴えを広めていただくこととなりました。
 集会では、次の方々により、それぞれの思いのこもった訴えを伝えていただきました。
1. 神石高原町 町長
2. 神石高原町職員労働組合 執行委員長
3. 神石高原町原爆被害者協議会 会長
4. 特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンから現地報告
5. 神石高原町職員労働組合 青年女性部長による「集会宣言」
6. 神石高原町議会 副議長 閉会あいさつ
 ここでは、集会での訴えをより正確に伝えるため、できるだけ発表内容を原文のまま掲載することとしました。

1. 広島県神石高原町 町長 入江嘉則 あいさつ


 みなさんこんばんは、町長の入江です。
 今日は、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する神石高原町民集会に、こんなに大勢集まっていただきありがとうございます。
 私は今、この暴挙に腹が立って、腹が立って、気が収まりません。
 みなさんも同じ気持ちだと思います。
 特に、原発を占拠して、核の使用をちらつかせるとは、被爆地広島の心を踏みにじる行為です。広島を馬鹿にしているのか……到底容認できるものではありません。
 3月2日には、町長として町民を代表し、ロシア大使館に抗議文を送付しました。
 この集会を通じ、ロシア、ロシアというよりプーチン大統領に対し、強く抗議するとともに、侵略を受けて、幼い子どもたちや一般市民が命を落とし、母国を追われている、こんな状況を一刻も早く終わらせる。
 ウクライナの早期の平和を強く祈りたいと思います。
 今日、この町民集会の主催者は、ここに集まっているみなさん全員です。
 みなさん一人ひとりが主催者です。
 こんな小さな町の小さな抗議であっても、この思いだけはどこにも負けない。そう思っています。
 この集会の意味、みんなの思いをしっかり伝えていきましょう。
 今日はありがとうございます。ともに頑張りましょう。

2. 自治労広島県本部神石高原町職員労働組合執行委員長 川上誠太郎 あいさつ


 みなさんこんばんは。
 神石高原町職員労働組合で執行委員長の任にあたっております、川上誠太郎です。
 立派に完成した庁舎の前での初の町民集会となりました。
 そうした、我が町の歴史の1ページには、新町が誕生した翌年、「非核平和自治体宣言」を発表し、「生命の尊厳を深く認識し、非核三原則の堅持を願うとともに、一刻も早い核廃絶と世界の恒久平和を希求する。」とあります。
 2月24日からロシアの軍事侵攻により、ウクライナの人々の多くの命が奪われ、201万もの人々が住み慣れた町を追われ、逃げまどい、さらに、逃げ道をはばむように攻撃を受け、100万を超える子どもたちが被害を受けているともいわれています。ロシア国内では、反戦デモ参加者1,700人以上が拘束されたと報じられました。プーチン大統領の武力侵攻は、ロシア国内でも、全く支持されていません。
 命がけで声を上げたロシア国民と主権を守ろうとするウクライナ国民と連帯していかなければなりません。
 旧庁舎の裏山、町を見晴らす「つつじが丘公園」に、井伏鱒二さんの「黒い雨」の一節が刻まれた文学碑があります。
 『 戦争はいやだ
  勝ち敗けはどちらでもいい
  早く済みさえすればいい
  いわゆる正義の戦争よりも
  不正義の平和のほうがいい 』
 第二次世界大戦から戦後77年を迎え、世界で唯一の原子爆弾による被爆国。そして、今日3月11日は、東日本大震災から11年を迎える日です。
 日本人は、多くの苦しみや悲しみを知っています。だから、世界で起こっている人の痛みがわが身のようにわかる国民だと思います。
 今こそ、プーチン大統領の暴挙に、声を大にして「NO」を突きつけましょう。
 本日は多くのみなさまにお集まりいただき、ありがとうございます。
 悲しみや苦しみのない、平和な社会の実現のため、ともにがんばりましょう。

3. 神石高原町原爆被害者協議会 会長 山本剛久 あいさつ


 私は、ただいま紹介がありました「山本」と申します。
 私は、神石高原町原爆被害者協議会の会員の一人として、また、町民の一人として、ロシアのウクライナ侵略に対し、怒りを込めて抗議します。
 連日、報道される常軌を逸したロシア軍の蛮行に震えるような怒りを覚えています。いかなる理由を掲げようとも武力による現状変更は絶対に許されるものではありません。町民のみなさんとともに、強く抗議します。
 無差別に一般住民居住地への砲撃、燃えさかる町の中を逃げ惑う人々、ライフラインを絶たれた地下の冷たいベッドの上でお産をする妊婦の姿、混雑する避難者の群れの中で、はぐれて泣き叫びながら避難する子どもたち。やり場のない怒りで体が震えます。今では学校、病院まで標的にして、なりふり構わぬ破壊と殺戮をほしいままにしています。一刻の猶予もありません。すぐやめさせなければなりません。泥しぶきを上げ砲撃しながら疾駆する戦車の群れはまるでヒットラー率いる、ナチスのウクライナ侵攻を想起させます。
 私は被爆者の一人として、特に許しがたいのは、ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用を示唆して、威嚇していることです。
 私は、1歳と4ヵ月の時、広島で入市被爆しました。母の背に背負われての入市です。私は何も覚えてはいませんが、母親からは、何度も何度もそのすさまじい光景について聞かされてきました。それは被爆者が共通して語られるように、正に、生き地獄の光景でした。私たち家族は全てを失いました。それは強烈な印象とともに、『こういうことを繰り返してはいけない。』ということを子供心にもはっきりと思いました。
 生きながら、木の葉のように焼かれて死んでいった人々はもちろん、生き残った人々も長い年月、心身をむしばまれています。私自身も内部被曝のせいと思われる影響で、息子を血液の癌で失いました。つらい思い出です。
 被爆者の持つ共通の願いはただ一つ、「ふたたび、このような思いを世界の誰にも味わわせてはならない。」ということです。
 ロシアの行為は、ヒロシマ・ナガサキを繰り返し、「ふたたび被爆者をつくる。」ことにつながります。そんなことを決してさせてはなりません。そんな世界を作ってはいけません。
 国際社会は、核兵器禁止条約を手に入れました。この条約は核兵器による威嚇も禁止しています。ロシアは、これに真っ向から挑戦しています。このことは、この核兵器禁止条約の存在が、ますます、重要になってきたことを示しています。
 このような情勢の中、日本は被爆の実相を知る唯一の国の政府として早急に核兵器禁止条約を批准し、核兵器のない世界の実現へのリーダーシップをとるべきだと改めて要望します。
 また、一方、こともあろうに核戦争が、現実のものとなりかねない状況の中、あろうことか、被爆国の元首相から許しがたい発言がなされました。安倍元首相の「核共有」 発言です。我々が、ウクライナ情勢に不安を感じているのに乗じて核武装を言い出すなど、もっての外です。被爆国として、核に頼ることのない安全保障の議論をリードすることこそ被爆国日本のなすべきことだと思います。
 ひとたび核が使用されれば、敵も味方もなく世界は破滅します。それに気づいたからこそ核兵器禁止条約ができたのです。平和と安全のためには、核兵器の廃絶しかない。究極の非人道兵器による悲惨を知る被爆国政府こそ、それを世界に発信すべきです。
 もう一つ大変危惧するのは、ロシアが原発・核研究施設への攻撃をしていることです。「核テロだ。爆発が起きれば、ヨーロッパは終わる。」このような声が世界中から起こっています。プーチンには聞こえないのでしょうか。核被害は長期にわたり、人体や経済、環境に影響を与え続け、生活を狂わせることは広島・長崎で実証済みです。
 ロシア自身が、36年前のチェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故、近くは、11年前のフクシマ原発事故で何が起こったか、何が起こっているかよく知っているはずです。その上で、原発攻撃をするなど、狂気の沙汰です。国際法であるジュネーブ書にも「どのような状況下でも原発は攻撃してはならない。」とあります。
 いやしくも国連の常任理事国が、これは、「戦争だから何でもあり。」という態度をとれば、国際秩序は根底から破壊されてしまいます。度重なる過去の戦争の歴史から何を学んできたのでしょうか。
 そこでさらに、気になるのは、日本にも各地に存在する原発のことです。3・11フクシマ原発事故からすでに今日で11年が経過しました。今も尚、故郷に帰れず避難生活を余儀なくされている人たちの数は、3万3千人を超えている現実、事故を起こした原子炉の廃炉作業は、まだその緒についたばかりで、今後、何十年かかって、どのように始末できるのかさえ目途が立っていない現実。このような現実から学ぶべき教訓が今の世界に生かされているのでしょうか。
 プーチン大統領のみならず常軌を逸したように見える一国の指導者が、日本の近くにも存在しています。しかも、近々、再稼働されようとしている島根原発は、我が神石高原町のすぐ近くです。黙って見過ごしていいのでしょうか。
 ヒロシマ・ナガサキ以来、核戦争が起きなかった理由には、世界の人々が「戦争を起こすな。核を使用するな。」という声をあげ続けてきたことが大きな要因だったと聞いています。今回のロシアの侵略に対しても、世界各国で、反対の声がわき起こっています。ここ神石(高原町)でも、このようにみなさんが戦争やめよ、ロシアは、ウクライナから手を引け、の声をあげています。
 このことこそが、希望です。未来は子どもたちのものです。その未来が、戦争による破壊と放射能に汚染されたものであってはいけません。
 侵略は世界の人々、世界の被爆者の願いを踏みにじり、人類を危険にさらす行為です。即刻、戦争をやめ、ロシアはウクライナから即時引き揚げるべきです。
 NO MORE HIROSHIMA. NO MORE WAR. NO MORE HIBAKUSHA.
 ご静聴ありがとうございました。

4. 特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン国内事業部部長 國田博史

【現地報告】
 (ピースウィンズ・ジャパンによる現地報告)

 本町に本部を置くNGOピースウィンズ・ジャパンからウクライナの隣国のポーランドやモルドバでの人道支援活動についての報告が、WEBを通じて行われました。
 ポーランドへ行かれていた方からは、現地の様子の報告がありました。
 また、モルドバとオンラインでつないで、現地状況の報告がありました。
 ウクライナから避難してこられた方に物資を供給する活動や物資が不足している状況などの報告、日本から物資を送る場合は、日本の物品だと現地の人には合わないものや薬などは、日本語での表記では使用方法が分からない、という問題があるため、「現金」が一番助かるとの話がありました。その資金で現地の人に必要な物を購入するのに使わせてもらうとのことでした。
 テレビで観ている風景が現実に起きている。そのようなことを思い、実感することができました。

5. 集会宣言 神石高原町職員労働組合青年女性部 部長 牧野明子

(集会宣言を読み上げる青年女性部長)

ロシアのウクライナ侵攻に抗議する神石高原町民集会 集会宣言
 ロシアのプーチン大統領は、2月24日、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切った。度重なる警告を無視し、対話のチャンネルを放棄する形での侵攻で、すでに民間人を含む多くの死傷者がでている。国家主権と領土を武力で侵すことは国際秩序を揺るがす蛮行であり断じて許されない。ロシアは、即刻武力侵攻を中止し、軍を撤退させ、国際社会との対話の席に着かなくてはならない。
 プーチン大統領は、ドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国の親ロシア政権の独立を一方的に承認するとともに、ロシア系住民への迫害があるなどの理由で「自衛」を口実にウクライナに侵攻した。これは、この地域の紛争解決のためのミンスク合意を反故にするものであり、迫害の事実があれば、まずは国際社会へ問うべきである。「自衛」のための攻撃が正当化されることは、危険な論理である。過去の多くの戦争は「自衛」の名の下に引き起こされてきた。それが無辜の市民に多大な犠牲を強いることは自明である。
 さらに、この間プーチン大統領は、公然と核兵器使用をほのめかす発言をし、核による威嚇を繰り返してきた。核兵器禁止条約が発効し、核兵器の非人道性が指摘される中での発言は「核兵器」を弄ぶものであり、断じて許されない。私たちは、世界初の被爆地であるヒロシマから声を大にして訴える。
 また、ロシアは、廃炉となっているチェルノブイリ(チョルノービリ)原発を武力により制圧した。ウクライナには現在15基の原発が稼働している。福島原発事故を経験し、復興をめざしている私たち日本人は、原子力発電施設を戦いの標的にすることは断じて許さない。
 今ここに、私たちは一刻も早いウクライナ国民の自由と国土の復興を求め、ロシア軍のウクライナからの即時撤退と、ロシアに対して国際社会への対話の窓口を開くことを強く要求する。
   2022年3月11日
ロシアのウクライナ侵攻に抗議する神石高原町民集会

6. 神石高原町議会副議長の閉会あいさつ

 町民集会は、最後に、神石高原町議会 寄定秀幸副議長の閉会あいさつで集会を締めくくりました。(※内容は、省略します。)
 この町民集会を通じて、私たち組合員は、多くの町民と「反戦・反核・平和」の思いが共通の認識であると再確認しました。このことは、私たちの運動に非常に大きな力になったと感じました。
 急きょの呼びかけに神石高原町職員労働組合からの参加者は本庁を中心に47人、担当者として職務で参加した組合員もいるため参加人数はさらに多く、連合関係からの参加もありました。
 私たちの訴え以降も、ロシアによるウクライナ市民に対する、残虐な行為が報道され続けています。生物化学兵器の使用の疑いや大量虐殺の報道など、その残虐さは、日を追うごとに、増え続けています。
 私たちは、このような暴挙を許すことなく、すべての戦争・軍事作戦、そして、すべての核に反対し、抗議の声をあげ続けることの重要さを感じています。
 ロシアのウクライナ侵攻を終結させ、ウクライナが早期に復興し、武力による威嚇で乱されることのない世界平和を取り戻すことを祈って、レポートとします。