【論文】

第39回静岡自治研集会
第5分科会 コロナ禍の平和運動を探る ~平和運動の原点と未来~

 地方分権一括法施行とともに地方議会でも住民に開かれた議会への改革機運が高まった。しかし、全国にはそうした流れに逆行するような議会もある。そんな議会での、①議会基本条例の制定(パブリックコメントを実施してから四年近くも放置されている)、②住民監査請求(会派による不適正な政務活動費の支払いの返還)の二つを事例として議員として二期八年間かかわっての取り組みから、なぜ改革が進まないのかを検証する。



五所川原市議会での議会基本条例と住民監査請求
―― 討論を封じる会派制度の問題点について ――

青森県本部/一般社団法人青森県地方自治研究センター・研究員 井上  浩

1. 議論なきままのパブコメ結果

図1
(出所)五所川原の未来を拓く会・発行
「五所川原新報第291号(2018年11月18日)」

 「……2018年9月25日から10月24日まで『五所川原市議会基本条例(案)へのパブリックコメント募集』がされています。後段に、議会事務局の『募集』を載せましたが、『実施要綱』が作られていませんので、内容はこれ以上でもこれ以下でもありません。『このたび、条例案がまとまりました』とありますが、『議会改革検討委員会(2会派のみで構成)素案を2会派が検討した』として、井上作成の『対案』(添付文書『提案理由』『対案の逐条解説』『素案に対する質問』)については、そのために開いた全員協議会で一切の内容上の議論をせず、『多数決の原則』という議長の一方的宣言で強行決定された『案』です。『至誠公明会』会派では改革委員会任せで、『市民の会』会派では議論していない旨を表明しています。にもかかわらず、議会全員協議会で強行採択されてしまい、議会での発言が議論無きままに封じられました。よって内容(パブコメ意見)で市民に訴えるしか残された方法がなくなりました。……」図1
 五所川原市議会2009年第7回定例会一般質問(9月15日)で、「地方政府・五所川原市の基本戦略を示す自治(自治体・議会)基本条例の制定を急ぐ必要があります」と提言してから始まった五所川原市政での基本条例つくりの模索はこの時から、パブリックコメントで出された意見を巡る攻防となった。この後パブリックコメントへの対応を含めて市議選(2019年1月)後の新議員で議論することとなり、改選後の2019年9月にはパブコメ意見(井上対案)への議会としての考え方7-①図2図3がまとまり筆者の意見が大幅に取り入れられた。しかしその後の議長の職責についての新提案(追加第4条)図37-②により審議は止まり、パブコメ結果の報告もなく今日に至る。

1 五所川原市議会によるパブコメ『募集』と『対応』の概要 ―― ① 「下記のとおり、皆様からの意見を募集します。意見募集期間 2018年9月25日(火)から2018年10月24日(水)まで。② 提出された意見 1人の方から26項目の意見をいただきました。意見の反映については、2019年2月に任期満了による市議会議員の改選があったため、改選後の議員で対応を検討中です。 2 パブコメの『実施要綱』を議会では作っていない ―― 2008年4月1日から市の基本的な計画や施策を対象に制度が導入され、寄せられた意見に対する市の考え方が市民へ公表される。五所川原市では議会のパブリックコメント手続実施要綱はないが、議会独自に作成している市もある。
3 井上対案の『提案理由』 ―― 改革委員会案では何故条例を制定するのかがよくわからない。以下の義務規定が不備。① 議会報告会の開催による市民との意見交換の最低条件を担保する「年一回以上の開催」は明文化されずに実施要綱に委ねられ(市民に見えない)、② 市民の政策提言と位置付けた請願、陳述の提出者による意見陳述の記載 がない、③ 議員間の自由討議は抽象的な表現にとどまっている。
4 井上対案の『逐条解説』 ―― 議員間討論を促すため、井上議員(当時)が議長に提出(2018年7月30日)した。
5『素案に対する質問』 ―― 改革委案に対する26項目の質問書を、井上議員(当時)が議長に提出(2018年8月27日)した。
6 井上発行「五所川原新報」の内容 ―― 図1「市民は開かれた議会を期待」を参照(2018年11月18日)

図2
(出所 2022年3月『地方自治あおもり』No.167)

図3
(出所 2022年3月『地方自治あおもり』No.167)

2. 議会基本条例制定がなぜ進まないのか、議長及び市長を糺す

(1) 議長の会派離脱を求め追加条項を提案
 市議会会派の新生会が「(隣の)つがる市みたいに、正副議長は会派に所属しない。中立の立場でいるべきだ」として基本条例への追加を提案(2019年12月3日開催 五所川原市「議会運営委員会」会議録1頁)した。
 これを受けて、議会基本条例には新たに次の第4条を付け加えるよう成田和美議運委員長が提案した。
 (議長及び副議長)
第4条 議長は、議会を代表する立場として、公平で中立な立場で活動を行うものとする。
2 副議長は、前項に規定する議長と同じ立場で、議長を補佐し活動を行うものとする。
 ところがこれらの調整にもかかわらず、新生会が「公平な気持ちなんもないように思う」として、条例に賛同しない旨を表明(2020年6月1日開催「議会運営委員会」)した。この後、水面下の折衝が続けられたのち、成田和美議運委員長が「会派代表者会議での協議を経て、おおむね各会派の了承が得られたようでございます」としてパブコメへの回答及び条例案(前記第4条を含む)を全員協議会(12月3日)で確認後、議員全員発議により提案することが決定(2020年11月30日開催「議会運営委員会」会議録5頁)された。
 ある議員より「議会基本条例が決定予定」と筆者にも伝えられていた。しかし全員協議会では議長が提案したものの、再び第4条で対立表1して、継続審議となった。

表1 追加された「議会基本条例第4条(案)」で対立
(出所 五所川原市議会事務局 2020年11月30日開催「議会全員協議会」会議録)

 そもそも一度市民にパブコメ案を提示しながら新たな条項案を追加したのだから、議会は追加条項についてパブコメを実施するのが道理であるが、それもやろうとせず、また決めることもしなかった。

(2) 議長に「パブコメ」実施報告と「議会基本条例」早期制定を促す
 五所川原市議会では拮抗する2会派(定数22人、至誠公明会11人、新生会9人)による委員会人数の按分などをめぐる対立がある。もともと会派を中心に運営が進められてきた議会であったが、市長に対する距離感(与党か野党か)で作られる会派所属人数が接近したことで、より政争が激しくなった。
 基本条例案の会派条項で示したように会派は本来、政策集団(市政の調査研究を行い、政策立案、政策提言等についてその意思を表明する)だが、議決のための"員数確保"が前に出すぎて「理の政治」が忘れ去られている。
 そこで、この間の議会での審議内容を市民に明らかにするため、筆者は2月17日に磯邊勇司議長に「期限付き(3月14日)公開質問状」を提出して、議長回答図4を得た。
 質問1「議会基本条例」制定が遅れている理由 質問2「議会基本条例」制定の今後の見通し(貴職の考え)
 磯邊議長は3月10日に「一部会派から理解が得られず、継続協議となっている」旨を回答した。

図4

 「議長の会派離脱」が議会総体としての意見集約のための焦点となっていることから筆者は、その打開策について「追加された『第4条(議長の会派離脱)』のパブリックコメント実施」に関する磯邊議長への質問書として3月11日に提出した。その回答図5は「(第4条は)『議長の会派離脱』を意味するものではありません/2018年に実施したパブリックコメントの意見反映時点での制定が望ましい」というものである。
 筆者の意見を反映したパブリックコメント意見反映案を是としたものの、争点となっている議長の職責をめぐっての議長の会派離脱などに関しては"議会総体の意思形成への努力"を議長自身によって拒否された。

(3) 自治基本条例制定を市長に問う
図5
図6
 議会基本条例では義務規定として、① 議会報告会の「年一回以上の開催」、② 請願、陳述の提出者による意見陳述、③ 議員間の自由討議に関する記載が必須だが、五所川原市のパブコメ後の修正案では①、②が今後の検討課題とされた。これでは不足ではあるが、制定することがまずは急務だろう。そのうえで制定後も「議会運営のルールを定めた『生ける基本条例』」として磨いていかねばならない。
 ところがパブリックコメントを実施しても基本条例の制定が進まないという混乱ばかりか、会派の政務活動費の不適正な使途問題(次章で報告)が新たに発生した。そこで筆者は五所川原市議会では議会基本条例の早期制定が相当に難しいばかりか、自浄努力へ向けた誠意はもはやないものと判断して、4月12日に市長に議会基本条例の趣旨を包含した自治基本条例制定の意向を質した。市長からの回答書図6(5月16日)では、「引き続きあらゆる視点から検討していく」とされた。
 基本条例制定運動の端緒となった筆者による一般質問(2009年9月15日・第7回定例会)での三上裕行副市長答弁は「最高規範となるべきまちづくりの理念の形成が図られ、協働推進の機運が醸成されることによりまして、条例制定の検討が必要になっていく」であった。「議会が自ら基本条例を策定できない」という異常事態への対応を「あらゆる視点」に加えてほしいものである。
 市長選挙(6月19日投開票)立候補者からも「(自治基本条例は)速やかに制定へ向けて対応」と前向きな回答をいただいたし、再選が決まった現職の頑張りも含めて市政・議会改革はこれからが正念場である。

3. 政務活動費使途で会派が暴走

(1) 政務活動費を不適正に使用する
 市議会の広報公聴委員会(委員長・山口孝夫;「新生会」、副編集委員長・高橋美奈;「至誠公明会」)では議会開催毎に発言者(質問・討論)に原稿提出を求めて「五所川原市議会だより」を市内全戸に配布している。市民に選挙で選出された議員による議会での発言報告である。
 ところが2022年3月、議員による「会派」集団の一つである「至誠公明会」が、「市長に質問!! 政務活動報告書」と称して、所属議員(磯邊勇司議長を含む)による議会での発言報告集を政務活動費表2を使って市内全戸に配布した。
 8 【令和3年度 政務活動費収支状況】
 至誠公明会 所属議員数11名(定数22名)
       交付額    3,564,000円
       支出額    1,637,273円
        内 広報費 1,561,301円
 (出所 https://www.city.goshogawara.lg.jp/gikai/files/R3seimu.pdf

(2) 会派は調査研究の政策集団
 議会の会派とは「第4条 議員は、同一理念を共有する他の議員と政策集団としての会派を結成することができる。2 会派は、市政の調査研究を行い、政策立案、政策提言等についてその意思を表明することができる。」(五所川原市議会基本条例・PC案)というもので、結成の趣旨は「政策を実現するためには、多くの議員の賛同が得られることが必要となり/協力して政策立案、政策提言等のための調査研究をする」(五所川原市議会基本条例逐条解説・PC案)というものである。
 「至誠公明会」による広報紙の趣旨は、会派の意見を直接に市民に伝達するというものであり、紙面を見る限りでは「議員間の合意形成を図るよう努める」、あるいは努めたという痕跡は見られない。そればかりか、記載内容の大半は市民に配布されている「五所川原市議会だより」での議員個人の議会発言報告図9にすぎない。
 9【至誠公明会・会派報告】/【五所川原市議会だより】対照一覧(後掲)を参照(会派構成議員11人中、9人による1議員1~3回 = 毎回・顔写真付きの報告、磯邊勇司・三潟春樹両議員の報告はない)
 この広報紙では9議員中3議員(木村慶憲2カ所・寺田幸光・平山秀直)が4カ所で、為にすると思わざるを得ないような市長攻撃(対立の強調)の表現を意図的に掲載している。前回市長選後、一貫して"市政野党"を自認してきた「至誠公明会」は、今回6月19日投票の市長選挙では"自派候補"の新人を擁立した。市長任期満了3カ月前の発行というタイミングから、会派としての市長攻撃が発行の主目的と考えられ、「議会全体の合意形成に寄与する」という会派本来の機能"外"の目的実現に資するもので、政務活動費制度の趣旨からみて論外である。
 会派を土台として市長を巻き込んだ"与・野党対決"は市民にとって何の益もない。もうこうした不毛な争いに終止符を打ち、「調査研究での政策集団」(議会基本条例PC案)に会派は立ち返るべきである。そんな思いで筆者は6月20日に「至誠公明会」政務活動費不適正使用として住民監査請求図7図8を行い、6月21日には市の監査委員に受理された。たたかいは続く。

図7 図8 市長選関連報道として地元紙に掲載された記事
(出所 「東奥日報」2022年6月21日 朝刊)

表2【令和3年度 政務活動費収支状況】
(出所 https://www.city.goshogawara.lg.jp/gikai/files/R3seimu.pdf

図9
(出所 2022年6月『地方自治あおもり』No.168)



【参考文献】
飯塚 誠
 2016年3月「地方自治体における議会基本条例の特徴と課題 ―― 地方議会がより本来機能を発揮するための一考察 ―― 」 CUC policy studies review,(41)
神原 勝
 2009年3月『[増補]自治・議会基本条例論』公人の友社
寺田 友子
 2010年3月「政務調査費制度に係る住民訴訟」『桃山法学第15号'10』295~328頁