【レポート】

第39回静岡自治研集会
第6分科会 災害に強いまちづくり ~みんなで守る いのちとくらし~

 これ迄の大規模な自然災害を踏まえ各自治体では防災減災に関する対策がハード・ソフト面共に進められてきた。本市の避難所となる学校ではマンホールトイレシステムや災害備蓄品・資機材の配備は整備されて来たがそれらの活用方法や災害発生時の初動体制は確立されていない。
 学校用務員が主体となり学校の非常用設備を理解しそれらを児童生徒教職員全体で維持管理することで発災時の自分の命を守る、生きる力を育成する取り組みの報告とする。



災害から自分を守る「防災・減災教育の取り組み」
―― 非常用設備の維持管理からはじめる『生きる力』の育成 ――

宮崎県本部/宮崎市役所職員労働組合・現業評議会 野島 邦彦

1. はじめに

 学校において、児童生徒及び教職員が安全で安心な環境で学習活動等に励むことが出来るようにすることは、公教育の実施において不可欠である。また、学校施設は、非常災害時には地域の避難所としての役割を担っている。そのため、日常はもとより災害時においても十分な安全性・機能性を有することが求められる。
 学校では、法に基づく安全点検が義務付けられており、施設を所有・管理する設置者と施設を利用する教職員がそれぞれの立場に応じて点検等を行う事が必要である。本校においても生徒指導部を中心とした環境安全の確保を教職員全体で取り組んでいるところである。
 しかしながら、近年の大地震をはじめとする様々な自然災害やそれを起因とした二次災害、また学校への不審者侵入、校舎からの転落、遊具による事故などが多数報告されている。適切な維持管理を継続的に行っていくためには体制の整備が不可欠だが、技術職員が在籍していないなど、財政面からも体制の整備が困難である場合は外部の人材を活用する必要がある。
 こうした中、2015年6月に「学校保健安全法」が改正され、各学校において共通に取り組むべき事項が規定されることとなった。
 小学生は、安全教育に対して習得の程度の個人差はあっても、一様に素直に受け止め、身に着けようとする柔軟な姿勢を持っている。安全教育にとって最適な時期でありその効果は大きい。逆のいい方をすればこの時期の安全教育の不足がその後の人生に不利益を残すことになると言っても過言ではない。児童生徒及び教職員の生命と財産を守る取り組みは、これらの安全教育を基本に改善、拡充を加えたうえで、新たな教育の在り方を模索し、実践していかなければならない。

2. 設定理由


(図1:非常階段の青海苔・カビ等付着状況)

 学校で例年行われる定期安全点検の指摘事項に「非常階段の青海苔・カビ等の付着による滑り転倒の危険」「非常階段手すり腐蝕による怪我の危険」の項目があり、その検証と対策を実施する事となった。
 屋外にある非常階段の青海苔・カビ等付着状況(図1)については雨天時や長雨時に発生し、普段は気付かない部分である。有事の際に青海苔・カビ等が発生している状況で使用することは転倒・転落の恐れがある。また、手すりの腐食では、施工当初に塗装されていた塗料が経年劣化によって剥離し、金属部が露出することで鋭利な形状で錆が発生しているため、触れる事で切傷が危惧される。また、腐食が進行する事で、手すりそのものの強度が低下する。非常時の過大な負荷により折損の危険性が増すことが懸念される。
 この様な検証を踏まえ、その対策として学校夏季休業中に、①青海苔・カビ等の除去、②手すり塗装の2点において教職員作業を実施した。以下にその作業内容を記述する。
① 非常階段青海苔・カビ等の除去
  使用機材:高圧洗浄機
  効  果:青海苔・カビ等そのほとんどが除去できた。
② 手すりの腐食部除去及び塗装
  使用機材:ペンキ・刷毛・腐食防止剤
  効  果:汚れていて、暗い印象の非常階段が、明るく綺麗な状態となった。(図2


(図2:清掃後の様子)

 また、これを機に、これまで実践していなかった非常階段を使用した避難訓練を計画し、地震発生を想定した避難訓練を実施することが出来た。
 この訓練を振り返って、児童から「この階段は、これまでなぜ使わないのだろうと思っていたが、今日の訓練でこの階段の役割が分かった。訓練ができて良かった」という意見が上がった。このことから、学校内のあらゆる非常用設備について、子ども達の理解度が低いのではないか、と疑問を抱くこととなった。そこで、学校における非常用設備の存在意義について再確認することを本研究の主題とした。
 防災に関する施設や設備については、誤作動による怪我など日常の安全性の観点からその管理も必要であり、定期点検・取り扱いの注意等を徹底する必要がある。

3. 調査・計画

 学校における代表的な非常用設備は以下のものが挙げられる。
 ①非常階段 ②防火シャッター ③誘導灯 ④消火設備(消火器)
 これらについて、調査・計画を行った。
① 非常階段
 学校における非常階段は主に屋外に設置されており階段部の青海苔付着、カビ等の発生による滑りやすさ、手すり部分の腐食・錆の発生による切傷及び強度の低下が懸念される事から定期的な清掃と塗装作業が必要である。地震火災等の避難訓練では上層部から下降するものであるが不審者侵入等の事案においてはその活用方法が異なることを学習させる必要がある。
② 防火シャッター
火災発生時に延焼、煙を防ぐものであるが、シャッター下降部に物が置かれていたりしてその機能を阻害している場合がある。普段は廊下の天井裏など、目に見えない場所にある為、維持管理については消防法に基づく定期点検に頼ることになるが、同設されている非常用扉と併せてその機能の周知と周辺の整理整頓が必要である。
③ 誘導灯
 夜間の発災や災害発生による視界不良時にその経路を促し、安全に建物の外に誘導するもので、避難口誘導灯及び通路誘導灯があり、その機能を理解していなければ誤った判断をし兼ねない。
 学校生活は主に昼間であり、消防法により避難口誘導灯が設置されているが、私生活におけるデパートや商業施設の空間においてもそのことに意識づけ出来るよう教育していく必要がある。
④ 消火設備(消火器)
 火災発生時の初期消火として消火器があり火災の種類によりA・B・Cの3種に分類される。映像による教育では消火器の重量やレバーハンドルの硬さなどは実感出来ない為、その仕組みや操作方法などは積極的に取り組まなければならない。また、地震による揺れや避難時の雑踏でそれが転倒し、2次災害を発生させないよう管理する必要がある。そのため、日常から設置場所や管理の仕方を確認することが必要である。

4. 取り組み事例


(図3:非常用階段の清掃)

 これらの調査を総括し、その計画として学校夏季休業前の大清掃時において、この設備に関する役割と機能の学習及び維持管理体制の確認と清掃整理を行うことを提案し実施した。
 非常用階段では、青海苔・カビ等が小規模な状況のうちにデッキブラシ、ほうき等で水洗作業を行い、それを取り払う事で拡散を防ぎ、排水設備に蓄積した落葉等を除去すると共に、手すり部分の腐食についてはワイヤーブラシ、錆び取り材を用いた養生を経て塗装を施し腐食防止、強度維持に努めたほか、景観に配慮できた綺麗な仕上がりとなった。
 防火シャッター及び付帯設備においては、シャッター下降部に傘立てや靴箱が置かれていたり、非常用扉の固着による開閉困難個所や表示の剥がれやその表示が薄くなっているなど、新たな不備を確認した。そのため、防火シャッター場所へのテーピングによる表示を施し、シャッターレールの清掃、非常用扉可動部へのグリスアップ・粉塵の除去をしながら動作確認と表示プレートの張替えを行った。
 誘導灯については、点灯確認や埃除去を行い、雑巾掛けを行うことで明るく鮮明な表示灯へと再生した。
 消火器については、設置個所周辺の清掃整理をする事でその場所を再認識した。転倒防止対策がとられていない物や表示プレートの剥がれ等を確認し改善を行った。
 今回の取り組みではハード面での維持管理における清掃活動を主に行った結果、その設備等に問題点や対策が必要な点に気付き、その部分を改善出来たのではないかと感じている。自然災害、事件事故が発生した場合、児童及び教職員が安全・安心に避難できるよう体制整備を継続し、さらに改善を加えながら防災減災対策を強化していく事とする。

5. おわりに

 学校生活における自然災害や事件事故が発生した場合、そのことから自身の生命を確保し危険から回避できる能力を身に着ける教育として、子ども達に伝えることができたことは非常に有意義な取り組みであった。また、今回の取り組みを実施できたことは学校内の非常用設備を再確認でき、その維持管理体制を見直すきっかけとすることが出来た。
 しかしながら、非常用設備の機能や役割の教育については十分ではないと感じる。全児童が理解できるようになるには更なる改善が求められ、学年毎の学習内容を検討し実践する事を今後の取り組みとしたい。
 学校には児童を預かる責任と判断の重さ、高度な防災知識と経験が求められている。教職員一人一人が事故防止に対する注意義務を十分に認識し、積極的に安全教育や安全管理にかかわりその知識・技術を向上させるため校内研修等を強化する必要がある。