【レポート】

第39回静岡自治研集会
第7分科会 まちおこし ~持続可能な地域づくりの取り組み~

 地域で新型コロナウイルス感染症の影響を受けている飲食店を少しでも助けよう。地域で暮らす人たちが豊かに暮らせなければ、私たちのやりがいをもって仕事をできなくなります。今回は、飲食店を中心に応援を行いましたが、新型コロナウイルス感染症の影響は多岐にわたっております。今後も、どのような形になるかはわかりませんが、地域の人たちに寄り添った活動を行っていきます。



労働組合のコロナ禍における地域飲食店への応援活動
―― 地域の人たちに寄り添った活動を ――

三重県本部/自治労熊野市職員労働組合・自治研究部

1. はじめに

 私たちが暮らす熊野市は、紀伊半島の南東部に位置し、津市(県庁所在地)までは約120km、名古屋市まで約190km、大阪市まで約160kmという距離にあり、大阪や名古屋まではどちらも自動車で約3時間程度の時間がかかります。
 市域面積は373.35km2で、その約88%を豊かな森林が占めています。人口は2021年4月1日現在16,115人で世帯数は8,639世帯、65歳以上の人口が4割を超える、超高齢化地域となっています。
 農業では、熊野市でしか収穫されない柑橘「新姫(にいひめ)」をはじめとした温暖な気候に育まれたみかんの栽培が盛んで、この地域の特産品となっています。他にも、三重ブランドに認定された「熊野地鶏」、熊野市のブランド牛「美熊野牛」、『みえの安心食材』として認定されている、めはり寿しの材料「高菜」や豊かな魚礁で採れる魚介類など、海の幸、山の幸ともに多くの特産品があります。また、日本で熊野市でしか産出されない那智黒石は碁石の黒石や試金石として有名なオンリーワンの特産品です。
 観光面では、世界遺産に登録されている熊野古道(紀伊山地の霊場と参詣道)をはじめ、日本書紀に記され日本最古の神社と言われる花の窟神社、夏の風物詩であり300有余年の歴史を誇る熊野大花火大会などが有名です。
 さらに、温暖な気候、豊かな自然を活かし、ソフトボールやラグビーなどスポーツ大会や合宿、スタンドアップパドルサーフィンなどのマリンスポーツ、ボルダリングなどのアウトドアが積極的に行われています。特に、ソフトボールは全国的に有名で各年代の全国大会も数多く開催され、観光業と連携した熊野市の主要な産業の一つとなっています。

2. 熊野市における新型コロナウイルスの状況

 2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を受け、当時の安倍総理大臣は新型インフルエンザ対策等特別措置法(2012(平成24)年法律第31号)に基づく緊急事態宣言を東京都など7都府県に発出し、4月16日には全国に区域を拡大しました。三重県においても感染症拡大阻止に向けた「三重県緊急事態措置」が取られ、外出自粛の徹底やイベント開催の自粛を要請しました。
 前述のとおり、名古屋や大阪などの都市部までに150km以上の距離がある熊野市は、コロナウイルス感染症とは縁のない遠い話のように思われます。しかし、県内では、新型コロナウイルス感染症に罹患した人に対する根拠のない噂に基づく誹謗中傷やいたずらが行われ、熊野市においても、単身赴任者などの他府県ナンバーの自動車が傷を付けられるなど、新型コロナウイルス感染症以上に他人の目を恐れなければなりませんでした。熊野に暮らす人たちにとっても息苦しく、暮らしづらい生活が始まりました。例年、大型連休やお盆、お正月には帰省客により賑わっていましたが、新型コロナウイルス感染症が流行してしまえば、医療機関も限られ高齢化率の高い熊野市では、医療崩壊が起きる可能性も大いに考えられ、自分の家族から新型コロナウイルス感染症を出すわけにはいかないという思いから、帰省を控えさせる傾向が見受けられました。
 また、都市部と同様、例年開催されているイベント等においても例外ではなく、毎年20万人近くが訪れる熊野大花火大会をはじめとするイベントの中止や、規模の大きなスポーツ大会など延期または中止が次々と決定されました。『県境を越える移動は避けるように』という注意喚起も合わさり、観光客の大幅な減少や外出の自粛などの影響により地場産品を生産している農業や畜産業、漁業など第一次産業をはじめとし、地域の飲食店や旅館などは大きな打撃を受けていました。(図1 スポーツイベント中止に伴う損失額)
 2021年3月末現在の熊野市内感染患者数は3人に留まっており、蔓延には至っておりませんが、第4波や変異株の感染者も急速に増加していることから、依然予断を許さない状況となっています。

図1 スポーツイベントの中止による損失額(宿泊業)

3. 地域の応援活動の取り組みについて

 2020年3月からは、新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まると言われている大きな宴会はなくなり、それは私たちが働く熊野市役所でも当然のように歓送迎会は自粛する流れとなりました。1年経った現在でも変わらず、新しい生活様式を遵守するため、多人数・長時間の飲食を避ける習慣は残っています。そのため、連日のニュースでも取り上げられているように、『歓送迎会は御法度』といった暗黙の了解のルールが出来上がりました。熊野市では特に大きな企業はなく、県の出先機関や警察署、学校で働く職員が飲食店の要となるお客でしたが、そこで働く人たちが外食を控えるようになりました。『外食控え』は飲食業に対する影響に留まらず、飲食店に卸していた一次産業にまで影響を与え、食のサプライチェーンが毀損されることとなりました。熊野市水産・商工振興課が市内の事業所を抽出し聞き取り調査した新型コロナウイルス感染症の影響調査によると、多くの業種で前年度より大きく売上げが落ち込んでおり、特に2020年6月時点で飲食業については、対前年度同月比30%以上減の事業者が80%以上ありました。(図2 市内事業所影響調査結果)熊野市の飲食店営業許可及び喫茶店営業許可を保有している事業者は約270店舗あるため、この影響は非常に大きいと考えられます。

図2 市内事業所影響調査結果 2020年6月末時点
2021年2月末時点

 この新型コロナウイルス感染症の影響を受けている飲食店を少しでも助けようと私たち熊野市職員労働組合は立ち上がりました。私たちの強みは、テレビでも批判されていたこのような状況でも給料が変わらないことです。実際にはコロナ対応で業務が増える職場もありましたが、月例給が変わることはありませんし、下がることもありませんでした。これが、市民の目にどう映るかというと、あまりいい評価にはなりません。このような時こそ、市民に寄り添う姿勢を打ち出し、実行する必要があります。
 行政としてではなく、労働組合だからできること、地域経済のためにも組合員にとっても役に立てる事業を検討しました。新型コロナウイルス感染症の影響により売上げが減少している市内の飲食店や新型コロナウイルス感染症対策に追われる組合員を応援するため、自治研究部と教育宣伝部が連携して、組合員専用の公式LINEアカウントを活用した取り組みを実施しました。
 
(1) お弁当斡旋事業「勝手に飲食店応援企画」(テイクアウト、デリバリー)
 新型コロナウイルス感染症の流行により外出を控える事が多くなり、飲食店の利用者が減少する中、飲食店、特に居酒屋では、生き残りをかけてテイクアウトメニューやお昼のお弁当販売など業態を変化させながら何とか活路を見いだす取り組みが全国と同様に熊野市でも広がりました。
 私たちはゴールデンウィーク中に構想を練り、休み明けにすぐさま実行に移しました。組合で昼食のお弁当を集約し、飲食店へ発注する仕組みを構築しました。集約方法は、それまでに立ち上げていた組合公式LINEアカウントを利用しました。熊野市職員労働組合では、従来の新聞での教宣活動に加え、2019年2月からメッセージアプリ『LINE』を活用し、組合活動やろうきん、共済の旬な情報を組合員にお知らせしています。登録者数は組合員総数160人に対し、74人(2021年3月現在)と半数に達していませんが、新聞でのお知らせに比べてタイムリーな記事を提供できること、チャット機能を使うことで双方向でのやり取りができるため、組合員から意見をダイレクトに返してもらえることができます。今回の取り組みで組合員に参加してもらいやすくするためには、忙しい組合員が手軽に注文でき、運営側も手軽に集約できることが必要でした。
 お弁当集約の手順は、①教育宣伝部が購入日3日前に公式LINEを通じてお弁当注文の受付の開始を通知。②組合員は購入日1日前までに公式LINEに希望する注文個数を返信。③お弁当配布当日、組合書記局にてお弁当を受け取り。という流れで実施しました。なお、お弁当の種類や金額は、自治研究部が市内飲食店に聞き取りを行い決定しました。
【LINEを活用した、組合員への斡旋連絡】
 試験的に開始し、最終的には実施回数計17回、574食分の注文があり、売上金額は総額374,956円という成果を上げることができました。また、LINEというデジタルツールを活用し、組合員からの注文を取りまとめ、飲食店へまとめて注文、配達をしてもらうことで人との接触を最小限に抑え、お店での新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まる3密を回避することができました。
 この機会をきっかけに、市内飲食店の事業者の皆さんからは、「自分のお店の宣伝にもなり、テイクアウトメニューの利用が増えた」、「利用者(売上)が減っている中で、テイクアウトを利用してもらうのはありがたい」との声をいただくことができました。また、利用した組合員からも、「行ったことの無いお店の味を知ることができた」、「毎回美味しい料理を楽しんで購入できた」という喜びの声もいただきました。
 しかしながら、この企画は、お弁当を提供する飲食店が、テイクアウトを本業としていないため、食中毒の対策不足が懸念されたことから、6月いっぱいで終了することになりました。また、組合書記局まで配達してもらうことが前提となったため、配達不可のお店は対象から外しました。食中毒への対応や配達の方法など、飲食店がテイクアウトに業態変化させる際にはいくつか課題があることを感じました。外食が未だ控えられている中、テイクアウトは新たな生活様式の一つとして定着しています。飲食店の収益の柱の一つとしてテイクアウトで売上げを伸ばしていくためにも、この購入者側のニーズを行政、飲食店双方にフィードバックさせる必要があります。


組合公式LINEを活用してお弁当を斡旋

(2) 組合員親睦促進事業
 熊野市職員労働組合では、例年年末に熊野市役所で働く仲間(非組合員を含む)の慰労と交流のために忘年会を開催していました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の第3波が囁かれるようになり、それは現実となり、またしても外出自粛が要請されることとなりました。この影響により、忘年会・新年会は当然自粛する流れとなりました。またしても、飲食店はかき入れ時にお客さんを失うことになってしまいました。
 例年、予算的に150万円程度かかっていた組合主催の忘年会が無くなってしまったため、このお金が市中に落ちることがなくなってしまいます。また、組合員からも組合費を徴収している以上、何かしらの還元をしていく必要がありました。そこで、新しい生活様式を遵守した規模で、複数人で飲食店を利用した組合員に対する助成事業を企画しました。
 感染症拡大防止対策を講じながら日々の業務に励む熊野市職員の交流を促し、職場での親睦を深めるために、組合員等が対象期間において実施する懇親会に要する経費に対し助成金を交付しました。助成対象となる飲食店は市内の飲食店のみに限定し、地域のお店を利用する機会を増やしました。助成額は一人当たり2,000円とし、計37人に助成を行いました。市内飲食店を利用した金額は総額299,138円となりました。


職員への周知LINE

5つの場面の注意喚起

※参考:三重県公式新型コロナ対策パーソナルサポートより


(3) 年末年始もテイクアウトを、オードブルメニューの情報発信
 交流助成事業として、補助金を出しても、やはり飲食店には行きづらいという意見も組合に寄せられました。「3密」になる場面を避ける、ソーシャルディスタンスの徹底、大人数や長時間の飲食を避けるなど、外で集まって会食することがためらわれる厳しい状況が続く中、クリスマスや年末年始に外食をしなくても家族での団らんの時間を、楽をしておいしく楽しむため、自宅でお店の食事を楽しんでもらえるオードブル斡旋企画を実施しました。この12月、熊野市では市内の商店で利用できる地域商品券が市民1人あたり1万円配布されたため、地域商品券使用可能店で購入できるオードブルを組合公式LINEで情報発信に努めました。こちらは、取りまとめは行わず情報発信に留めましたが、組合員からオードブルの感想が書記局に寄せられたことから、一定の効果があったと考えています。


自宅で楽しめるオードブルを斡旋

4. おわりに

 2021年2月から、医療従事者へのワクチン接種が先行して開始されました。また、高齢者の接種も各地域で始まっています。しかし、変異株の出現などにより感染が拡大しており、4月には再び全国各地で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が取られ、新型コロナウイルス感染症の収束についてはいまだ見通しが立っていません。
 テレビでも元首長が、「こんなに民間が苦労していても、公務員は給料が減らない」と発言し、国民の敵意を煽る発言をしていました。だからこそ、スモールステップかも知れませんが、地域で暮らす人たちが豊かに暮らせなければ、私たちのやりがいをもって仕事をできなくなります。今回は、飲食店を中心に応援を行いましたが、新型コロナウイルス感染症の影響は多岐にわたっております。今後も、どのような形になるかはわかりませんが、地域の人たちに寄り添った活動を行い、熊野市職員労働組合が地域に喜ばれる存在となれるよう努力していきたいと思います。



出典
・三重県食品営業許可一覧
・三重県公式新型コロナ対策パーソナルサポート
・熊野市市内事業所聞き取り調査結果
・熊野市スポーツイベントの中止による損失額(宿泊業)