1. はじめに
現在、我が国は、少子高齢化による人口減少社会が進展しており、今後、社会保障費の増大、日本・地域経済の縮小、地域コミュニティの維持困難等、様々な深刻な問題に直面することが懸念されている。こうした状況において、医療、福祉、子育て支援、教育、雇用、住環境等への重点施策が喫緊の課題とされる一方で、文化芸術やスポーツ振興等の余暇・娯楽に関わる分野は上記の分野と比べて施策の重要度・優先度が相対的に低いものとして扱われる傾向にあるが、世界中が混迷を深めている今般のコロナ禍のように、社会的に大きな困難に直面しているときこそ、文化や芸術は、人が多様な価値観と向き合い共生していくために必要となる、想像力、柔軟性、寛容さ等の様々な感性を育み、社会を成り立たせていくための精神的な基盤として不可欠なものであるとの認識も広がっている。
2000年代以降、文化芸術振興基本法やいわゆる劇場法の制定、文化芸術振興基本法の改正による文化芸術基本法の制定等が行われる中、文化政策の重要性と求められる施策の範囲はより大きいものとなっている。
一方で、文化芸術活動への関心の低さや担い手となる人材不足等、容易に解決できない課題が存在しており、課題の解決と求められる施策を実現していくためには、より多くの人々の文化芸術に対する関心、理解、共感を得ていくこと、そして実効性のある参加・協働の仕組みが欠かせないものであるとの考えのもと、文化振興事業の現場の実状や課題を踏まえながら、改めてこれからの文化芸術の役割や自治体文化政策の在り方について研究を行うことを目的として「文化政策の参加・協働の在り方研究会」を設立した。
なお、当研究会は、三重大学教育学部 特任教授の山田 康彦氏を座長に迎え、研究員として東員町、四日市市、亀山市、伊賀市、伊勢市、多気町より担当職員派遣の協力を得ている。
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【研究会の様子】 |
2. 文化政策を取り巻く状況
(1) 国の動向(文化芸術関連法令の制定等)
2001年(平成13年)12月に施行された「文化芸術振興基本法」により、文化芸術振興の基本理念、対象分野、国や自治体の責務等、文化政策の基本フレームを明確化し、文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図ることとした。同法に基づく「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第1次~第4次)」では、文化芸術は、社会的便益を有する公共財であり、社会包摂の機能を有しているという認識の下、文化芸術への公的支援を従来の社会的費用という考え方から社会的必要性に基づく戦略的投資と捉え直すという方向性が示された。
2012年(平成24年)6月に施行された「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)」では、文化ホール等を社会において重要な役割を担う「劇場・音楽堂等」と位置づけ、当該施設に期待される役割や、当該施設に関わる者(行政機関、設置・運営者、芸術団体等)が相互に連携協力すること、取り組むべき事項を明確にした。
【文化芸術関連法令の変遷】
2001年12月施行 文化芸術振興基本法
―― 文化芸術の振興に関する基本的な方針(第1次~第4次)
2012年6月施行 劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)
―― 劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針
2017年6月施行 文化芸術基本法(文化芸術振興基本法を改正)
2018年6月施行 障害者による文化芸術活動の推進に関する法律
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出典:文化庁「文化芸術推進基本計画 ―― 文化芸術の『多様な価値』を活かして,未来をつくる ―― (第1期)」(2018)
さらに、2017年(平成29年)6月に「文化芸術振興基本法」が改正されて「文化芸術基本法」となり、文化芸術の施策の推進に当たって、文化芸術そのものの振興にとどまらず、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業、その他の関連分野における施策との連携を図ることや、年齢、障害の有無、経済的状況、居住地域に関わらず等しく鑑賞・参加・創造の機会を得られる環境を整えることが求められることとなった。
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出典:文化庁「文化芸術推進基本計画 ―― 文化芸術の『多様な価値』を 活かして,未来をつくる ―― (第1期)」(2018) |
また、同法において、国は文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、「文化芸術推進基本計画」の策定が義務付けられ、地方自治体は、その地方の実情に即した「地方文化芸術推進計画」を定めるよう努めることが要請された。同法に基づき国が策定した「文化芸術推進基本計画」では、前文に「文化芸術の「多様な価値」すなわち文化芸術の本質的価値及び社会的・経済的価値を文化芸術の継承、発展及び創造に『活用・好循環させ』」とあるように、文化芸術の持つ様々な価値を明確化し、今後の文化芸術政策がめざすべき4つの目標と、当該目標を実現するための6つの戦略を定めた。
(2) 自治体の動向(条例・計画の策定状況)
こうした国の文化政策の動向の中で、地方自治体もその方向性を踏まえながら、それぞれ独自の文化政策を進めている。自治体としての文化政策の根拠や方向性のための条例や計画を制定・策定する自治体や、文化芸術の持つ様々な価値に着目し、その実践として社会的課題の解決やまちづくりに繋げていく施策を進める自治体も増えている。
自治体の文化政策への取り組み状況をはかる指標の一つとして、各自治体における文化政策に関する条例及び計画・指針の制定・策定状況を以下の表に示す。過去10年間における制定・策定数を調べ、全市区町村に対しての割合を算出した。
【文化政策に関する条例の制定状況】
【文化政策に関する計画・指針の策定状況】
※文化庁が毎年度発行する報告書「地方における文化行政の状況について」の数値データを参照して作成。
※上記の制定済み条例と策定済み計画・指針の内数は、その条例、計画等において対象とする範囲による仕分けを示したもの。(2016年分の調査から新たな回答項目となっている)
・「文化芸術振興のみ」……文化芸術振興のみを対象とする。
・「文化芸術関連施策含む」……観光、まちづくり、国際交流、教育、福祉、産業その他の文化芸術に関連する分野における施策も対象とする。
条例と計画・指針のいずれも10年で2倍前後の制定・策定数となっている。特に計画・指針については、近年になるほどその伸びは大きくなっており、おそらく2017年(平成29年)の文化芸術基本法の制定(改正)の影響があるものと考えられる。
ただし、全市区町村に占める割合で見ると、条例で約7%弱、計画・指針で約17%弱の制定・策定率となっており、決して高い割合にあるとは言えない状況である。
また、近年の調査では、条例や計画・指針が対象とする文化政策の範囲の把握も行われており、条例と計画・指針のいずれも半数以上が、文化芸術振興にとどまらずにその他の分野との連携を視野に入れた施策もその対象としている。
なお、三重県内における市町の状況は、条例は4自治体(13.79%)、計画・指針は5自治体(17.24%)が制定・策定済みとなっている。
(3) 文化芸術及び文化政策に関する各種調査について
国が実施した文化芸術に関する世論調査や各自治体の住民意識調査の結果から、文化芸術への住民の関わりの度合いや意識等を確認した。以下は、文化庁が実施した文化に関する世論調査における「鑑賞以外の文化芸術の活動経験の有無」についての質問の回答結果である。
出典:文化庁「文化に関する世論調査報告書」(2021)
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別質問で扱われている「鑑賞」を除いた活動経験の有無の質問であるが、2019年(令和元年)を対象とした調査で7割以上が活動等の経験をしていない結果となっている。コロナ禍にあった2020年(令和2年)を対象とした調査では、更にその割合は大きくなっている。
次に三重県内自治体が実施した住民意識調査における、「自治体が行う事業への優先度」についての質問の回答結果を示す。
出典:津市「津市総合計画策定のための市民意識調査結果報告書」(2016)
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出典:伊勢市「伊勢市総合計画策定に向けた市民意識調査集計結果報告書」(2017) |
これらの調査結果から、文化芸術活動は、多くの人々にとってはあまり関わりがなく、あるいは意識されておらず、また、医療、福祉、教育、子育て、防災等の分野に比べて優先度・重要度・関心は相対的に低い傾向にあることが見えてくる。
3. 自治体文化政策現場の状況と課題
研究会において、各自治体の文化政策現場における現状への課題についても意見交換を行った。整理した内容を以下に示す。
(1) 既存の文化団体に関する課題
多くの自治体で、既存の文化活動団体の活動や組織体制の先細りが課題となっている。既存の文化活動団体に所属している者は60代から70代がコア層となっている。参加者はほぼ固定されており、活動の広がりはあまり見られない。やめていく人はいても新規参加者が入らずに先細りとなっている。現役世代は働くことがメインとなり余暇に時間を割けないという実状がある。
また、上記のような既存の文化団体と、若者世代を中心とした新たな活動を始めようとする人達との難しい関係性も課題として挙げられた。世代が離れる程価値観が異なるものであり、大きく価値観が異なる場所に入っていくことは難しい。若い世代になるほどやりたいことがあれば自ら活動を始める。既存の団体に若い世代が進んで入っていくことはあまりない。一方で、皆で新たな活動をしようとしても、消極的な既存団体の理解や協力を得られずに活動の制約を受けてしまう場合もあるとのことであった。
(2) 活動を主導・支援する人材の発掘・育成に関する課題
住民による主体的な文化芸術活動を活性化させたり、文化芸術の持つ様々な価値を活かした活動を生み出していくためには、こうした活動を主導・支援することができる人材が必要となる。行政としてこうした人材をいかにして見つけ、連携を行っていくかが重要であるが、外部からアートマネジメントに長けた人材を呼んでくるのか、それとも地域の中でそうした人材を発掘あるいは育成していくのか、いずれにしても、実効性や継続性を持った仕組みにしていくことが難しい。
(3) 行政の体制についての課題
文化政策に取り組む自治体側の事情による様々な課題についても挙げられた。
① 事業分野の拡大
限られた職員数の中で、文化事業の範囲が以前よりも幅広くなっている。今後を見据えたときに現在の体制で事業を維持していくのは難しくなっていく。
② 他部署との連携
他分野との連携を実践しようとしても、部署間の垣根や予算の問題があり、それぞれが主体的に取り組むような連携体制が生まれない。
③ 行政組織としての制約
行政の枠からはみ出したことをするのは難しい。個人の思いだけで進められない部分がある。また、人事異動もあり属人的なマンパワー頼りでは継続性が望めない。
4. 他市の取り組み事例
文化芸術活動や文化政策現場における様々な課題と、それらへの自治体の向き合い方という視点を踏まえながら、文化政策における積極的な取り組みを推し進めている全国の様々な自治体の事例について調査を行った。その中から、香川県丸亀市と青森県八戸市に協力を依頼し、Web会議ツールを使用してオンライン上でヒアリング視察を実施した。その概要は以下のとおり。
(1) 香川県丸亀市の事例について
丸亀市は、新しい市民会館「(仮称)みんなの劇場」の建設プロジェクトにおいて、地域の様々なセクターの人々との対話や協働を通じて、施設運営や文化政策の在り方を模索しながら整備事業を進めている。当日は、取り組みの中心となっている産業文化部文化課市民会館建設準備室長の村尾 剛志氏から話を伺った。
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【当日の様子】 |
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① 市民座談会
プロジェクトにおいて、文化施設を市民の半分が使用していない状況で、「公共の文化施設」整備における全ての市民に共通する大義を考えた結果、市民共通のテーマである「くらし」に着目して、文化芸術関係者だけではなく、くらしの課題解決に取り組む人々との対話により、「要望」ではなく「必要性」を探っていくこととし、市民活動団体・NPO、福祉施設、病院等へ行政から出向いていく市民座談会を実施している。
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【市民座談会の実施状況(視察時説明資料より抜粋)】
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これまでに更生施設や、児童養護施設、就労支援施設、フリースクール等を含めた施設への訪問を行った。対話を行う中で、自分たちの町にも繋がりや関係性の希薄さがあること、社会的孤立は誰にでも起こりうることを実感し、心を開く可能性を持つ文化芸術を、様々な理由で市民会館と距離が遠くなっている人々に届けていこうとする姿勢が必要であるという思いに至った。このような思いや考えを職員の間で共有し、施設整備基本構想では、職員自らの言葉で「豊かな人間性を育む」「誰一人孤立させない」「切れ目ない支え合い」という3つの基本理念を掲げることにした。
② 文化芸術推進サポーター養成講座
施設整備事業と併行して、地域住民の中から施設整備後の運営の担い手を育成することを目的として、文化芸術推進サポーター養成講座を企画・実施した。文化芸術活動の担い手ではなく、活動支援の担い手養成を目的の一つとしている。講座については、「興味ある人を増やす」「マインドセット」「企画・事業計画」「組織・マネジメント」等の項目に分けてそれぞれウェイトを変えたプログラムを組んで、段階的な養成を進めていくような企画にしている。サポーターとなった受講者達は、その後、交流を行いながら主体的に活動を企画している。2021年度は、「まるがめ文化の寺子屋」という住民参加プロジェクトを企画から実行まで全てサポーター自らが行った。
③ 課題解決型実践事業
社会的価値に着目して文化芸術で社会的課題を解決すると言っても市民にはわかりにくいため、実際に課題となるテーマに対してどのようなアプローチをしていくかを具体的に見せていく取り組みとして、演劇や身体表現等を活用したワークショップ企画を実施している。文化芸術を活用して子ども達のコミュニケーション能力や自己肯定感を高めたり、認知症介護者の心理的負担を軽減したりする等、様々な社会課題に対してアプローチしていく。単に企画を実施するだけではなく、どのような効果や変化が期待できるかを体系的に図示するロジックモデルで可視化をして、アンケートやヒアリングをもとにその効果・変容を測定していく。
(2) 青森県八戸市の事例について
八戸市は、文化芸術によるまちづくりという明確な方針のもと、文化芸術を通して地域のアイデンティティの醸成や、新たな関係性や場の形成に繋げていこうとする様々な取り組みを積極的に進めている。当日は、まちづくり文化スポーツ部の、まちづくり文化推進室、八戸ブックセンター、新美術館建設推進室、八戸ポータルミュージアム「はっち」の担当職員から話を伺った。
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【当日の様子】 |
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① 文化施策推進の体制構築とアートのまちづくり
八戸市の文化振興を担う部署は教育委員会の文化課にあったが、市民の文化活動が幅広い分野へ展開していることから、専門的・学術的な内容が主体となる文化財保護業務と分離して、2008年(平成20年)から教育委員会から市長部局へ所管換えした。当初は「文化スポーツ振興課」としてスタートしたが、文化政策とまちづくりの一体的運営を目的として、2010年(平成22年)に「まちづくり文化推進室」となった。
2011年(平成23年)に文化芸術に関する専門職「芸術環境創造専門員」を、嘱託職員として1人採用した。その後、更に1人追加で採用して2人体制となった。その後、当該職員は、アートプロジェクトを専門とする学芸員として市の正規職員に採用された。
八戸市の主な文化施策の変遷として、2005年(平成17年)に現在の市長が就任して以降、「多文化都市八戸推進会議の設置」「アートのまちづくり」等、文化芸術によるまちづくりを積極的に推進していくことをマニフェストに掲げた。その流れの中、2011年(平成23年)には「八戸ポータルミュージアムはっち」を開館し、近年も「八戸ブックセンター」、「八戸まちなか広場マチニワ」等、様々な文化施設の整備を行っているほか、2022年秋頃には新美術館が開館する予定であり、アートのまちづくりを一層充実・加速させ、中心街に賑わいを生み出している。
② 地域資源の価値や魅力の再発見を目的としたアートプロジェクト
八戸市の地域資源の魅力や価値を再発見することを目的として、上記の「芸術環境創造専門員」が中心となってこれまでに様々な企画を実行してきた。特に長年に渡り継続してきた取り組みとして、行政職員、文化施設の指定管理者、地域住民、企業関係者等が連携して協力し合う形で行った「南郷アートプロジェクト」「八戸工場大学」等の様々なアートプロジェクトが挙げられる。
【八戸工場大学・アートプロジェクトの例】 |
「南郷アートプロジェクト」は、合併して八戸市となった南郷という山間の地区を舞台にしたアートプロジェクトで、合併に関わる行政課題と向き合いながら、外部のアーティストと地元の伝統芸能とのコラボレーション舞台や地域の歴史に関わる昔話をもとにした演劇づくり等、自然・歴史等の地域資源と伝統芸能・ジャズ・ダンス・演劇等の文化芸術を組み合わせて様々なプログラムを実施した。
「八戸工場大学」は、工業都市である八戸市民には見慣れた光景である工場群を地域文化資源として捉えて、景観・文化・まちづくり・観光・産業等の多角的な視点とアートを組み合わせることで、その魅力や価値を再発見して発信しようとするプロジェクトで、市民と行政で一緒に運営して、工場について市民と一緒に学ぶ講座や、工場と連携したアートプロジェクトの実施といった活動を行った。
5. 課題の解決・改善に向けて
文化芸術は様々な課題を抱える人々に寄り添える、まちの魅力を増幅させる等、あらゆる人々のため、地域社会やコミュニティのために役立てられる、より良い方向に変えていくきっかけになる可能性があると言われている。丸亀市や八戸市等のような積極的な施策を打ち出している自治体の取り組みには、その根底にこうした文化芸術の価値や可能性、更に社会的課題、まちづくり等に対しての担当職員の強い思いがあり、自らがまず動いて、対話を重ね、協力・連携を構築する中で企画を実現させて取り組みを継続している。
従来的な文化振興という枠組みや関係性だけに囚われずに、観光、まちづくり、福祉、教育等の他の分野との連携を図っていくことや様々な状況の人に等しく参加・創造の機会を届けるという前提に立ったこれからの自治体の文化政策は、柔軟な思考、包括的な視点、積極性、実行力等がより必要とされてくると考える。
一方で文化芸術活動の主体は地域住民であり、行政として住民にその想いや施策を発信し、対話し、理解・共感・興味関心を獲得しながら、様々な形で支援・サポートすることで、より多くの人々の参加や行動に繋げていくことが重要である。
こうしたことを踏まえた上で、研究会でその在り方について話し合った内容や考えを「職員の意識」「施策・事業」「情報発信・対話」「組織・体制」等の観点から整理する。
まず、最も基本的なこととして、行政職員として文化政策に携わる上で、自らがどういうことをしたいのか、例えば「文化芸術をあらゆる立場や環境の人達にも身近なものにして、その楽しさや嬉しさを感じてもらいたい」「文化芸術をまちづくりや社会課題の解決のために活かしていきたい」といった強い意識を持つことが重要である。また、こうした意識と共に、既成の概念や枠組みに縛られない柔軟な思考や姿勢を持ち、他の分野で面白い取り組みを行うところがあれば文化も連携できないかこちらからアプローチするくらいの積極的な意識とスタンスを持って取り組むことが、行政内外において一緒に伴走してくれる人達の広がりを生むことに繋がっていくのではないかと考える。
施設運営、イベント企画、助成制度等の施策や事業についても、現状にこだわらず、文化芸術の価値や魅力を広げていくこと、他分野との連携に繋げていくこと、行政主導ではなく住民の自主的、主体的な参加を引き出していくこと等を実現させていくためにはどうすればよいかという視点で見つめ直す必要がある。そのために活動の中心となり得る人材と手を携えていくことが重要であり、外部の人材活用も有効であるが、長期的な観点では、地域の中からあるいは組織内部における人材発掘・育成・活用が継続的に実現されていくことが望ましいと考える。また、文化団体の活動の在り方についても改めて考えなければならない。これからの担い手となる世代や活動の可能性を広げていくという方向性を持ち、新たな団体や活動を生み出していく仕組みづくりや支援を積極的に行う。そこには若者や新しい活動を行いたい人々に興味や関心を持ってもらうという視点も必要である。
職員の意識や施策・事業が変わっても、活動自体やその魅力が、人々に適切に伝わらなければ意味がない。どうすれば多くの人に知ってもらえるのか、さらにそこから参加してみたい、自分もやってみたいという気持ちに繋げられるのか、より効果的な発信手法を考えていく必要がある。また、様々なセクターとの連携により新たなアイデアを生み出していくためには、お互いに理解し合うための「対話」が必要であり、双方向かつ創造的な対話の場としてワークショップ等の手法を積極的に施策・事業に取り入れていくことも重要である。これには単発の企画としてだけではなく、既存の様々な事業(各種会議、振興計画作成、イベント企画等)の一環として取り入れる方法も考えられる。
積極的な施策を効果的に推進していくためには、組織や体制についても適切な在り方を考えていくべきであり、地域の特性に合わせて有効な行政の仕組みを作っていく必要がある。例えば、八戸市における「まちづくり文化スポーツ部」のように、文化とまちづくりの一体的運営を目的として組織として一体化させることも一つの有効な方法である。また、実効性が伴う連携を実現させていくためには、条例や計画、予算編成や事業監査等の行政全体のルールや枠組みにおいて文化芸術の活用を取り入れていくような仕組みや仕掛けのようなものがあることが望ましい。こうした体制や仕組みを変えていくことは、一担当部署だけの考えでは難しいが、職員が強い意識を持って前例に囚われない施策や事業を考えて実践し、積極的に発信し、盛り上げていくことで、周りからも変えていこうとする動きが生み出されていくことが期待できるのではないかと考える。
6. おわりに
現在のコロナ禍において、文化芸術活動を取り巻く状況は更に厳しいものとなっている。そのような状況の中、行政として、文化芸術そのものの振興や維持の支援に注力していくことももちろん重要なことであるが、文化芸術を様々な方面に積極的に活かしていくことを政策の意義として捉えていくことは、結果として文化芸術の振興に繋がることにもなり得るものであり、これからの方向性の一つとして有効なものであると考える。少子高齢化、社会的孤立、多様性への理解、コミュニティの維持、地域経済の縮小、施設の老朽化等、地域が抱える課題、行政が取り組むべき課題は様々あるが、これらの解決を考えることは、まちの未来をどうしていくべきか、どうしていきたいかを考えていくことでもあり、各分野から多様な取り組みが検討されていく中で、文化芸術の分野からもその価値や可能性を活かしていけるようなアプローチの方法を引き続き研究していきたい。
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