【レポート】

第39回静岡自治研集会
第7分科会 まちおこし ~持続可能な地域づくりの取り組み~

京都市における木質バイオマス発電の可能性について
―― エネルギーを循環させ、
地域を発展させる新たなシステムの提案 ――

京都府本部/自治労京都市職員労働組合 楳田 博之

1. 脱炭素社会を取り巻く状況

 ほんの数年前、電気自動車は航続距離や価格等に課題があり、ガソリン車に遠く及ばず、ハイブリッド車が環境に配慮した最先端の車として世界の注目を浴びていた。しかしEUでは2035年には、ガソリン車やハイブリッド車だけでなく、プラグインハイブリッド車(外部電源から直接充電が可能なハイブリッド車)までも新車販売を禁止するなど、世界の人々の環境への意識は急速に進化している。
 日本の燃焼工学技術は世界トップレベルにあり、従来よりもCO2の排出が少ない最先端の石炭火力発電を有していることから、日本政府も高効率の石炭火力発電については継続する方針を示している。しかし、今世紀半ばに温室効果ガス排出を実質ゼロにしていくため、全ての国で効果的な行動と関与が必要とされており、石炭火力発電については、ヨーロッパをはじめ多くの国々から、これまで以上に厳しい圧力がかけられることは避けられない。産業革命前からの世界の気温上昇幅を1.5度以下に抑えるためには、相当高いハードルをクリアしなければならず、日本も本気で脱炭素社会に向けて取り組むため、具体的に思い切った行動をとらなければ、世界に取り残されることになるだろう。
 いっぽう、京都市はCOP3京都議定書誕生の地であり、2004年度に全国初となる地球温暖化対策に特化した「地球温暖化対策条例」を制定するなど、持続可能な社会の構築実現に積極的に取り組んでいる。今後も脱炭素社会の潮流に後れをとることなく、世界に誇れる環境都市として、豊かな地球環境を未来に引き継ぐためには、京都市独自の具体的な行動が求められている。

2. 次世代のエネルギーとは

 サハラ砂漠に太陽光パネルを敷き詰めると計算上では世界で消費するエネルギーの7倍以上にあたる年間130万テラワットの電力を作ることができるといわれている。ヨーロッパでは本気でサハラ砂漠に太陽光パネルを敷き詰める計画が立案されるなど太陽光発電のポテンシャルは高く、多くの人が次世代の発電の主力となると考えている。しかし太陽光発電は夜間に発電できず、昼間も天候に左右されることから、安定的に電気を供給する事が出来ない。
 そこで、注目されているのが、太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電気で水を電気分解して水素を作り、それを燃料にして火力発電所で電気を作る手法である。水素は、燃やしてもCO2は発生せず、電気と違い遠・長距離輸送することが可能である。
 例えば海外の砂漠で太陽光発電を行い、そこで作った電気で水素を作り、それを輸入して国内の大型の火力発電で再び燃焼させることにより、二酸化炭素の発生をさせずに発電することができる。輸送コストや保管方法等さまざまな課題があり、海外からは実用化に向けては、疑問視する声もあるが、実現すれば2050年二酸化炭素排出実質ゼロの目標に大きく前進するだろう。
 しかし、エネルギーは生活や産業の基盤となるため、海外の情勢や政治により影響を受けないようにするのが望ましい。また、安全保障の観点からも発電するための燃料は国内で調達する事が理想である。ところが、日本は急峻な山が多く国土が狭いうえ、年間降水量も多いため日照時間が短く、国内に太陽光パネルを可能な限り敷き詰めても、現在の技術では国内全てのエネルギーを賄うことは難しい。
 京都市においても太陽光発電が、一番ポテンシャルが高いと考えられているが、京都市内の設置可能なすべての屋根にパネルを敷き詰めても、市内の電気消費量の約4割の電力しか賄うことが出来ない。そのため、風力、水力、地熱に加え、木質バイオマス発電など、様々な発電方法を活用し、少しでも電力の自給率をあげていくことが重要である。

3. 木質バイオマス発電の問題点

 木質バイオマス発電は、発電所の規模が大きいほど発電効率が良いため、安定的に燃料となる木質資源を大量に確保する必要がある。そのため、発電規模が数万kWhといった大規模な木質バイオマス発電所では、海外から安価な木材チップやPKS(*1)(Palm Kernel Shell)を大量に輸入して発電しているところが多い。
 PKSは確かに植物由来であり、国もFIT(*2)の適用を認めているが、パームヤシを栽培する土地を確保するため、熱帯雨林のジャングルを伐採することによる環境破壊などが大きな問題となっている。温暖化を防止し、地球環境を守るために有効とされている木質バイオマス発電所であるが、利益を求めて発電効率を追求するあまり、熱帯特有の自然環境や生態系を破壊してしまう結果を招いては本末転倒と言わざるを得ない。CO2の排出量を削減するため、様々なルールが作られているが、それを守るだけでなく、持続可能な脱炭素社会をつくるという理念を忘れてはいけない。

4. 木質バイオマス発電所の規模について

真庭バイオマス発電所
 燃料を海外から輸入せず、国産の木質資源だけで発電するのであれば、日本で最も林業が盛んな地域のひとつである、岡山県真庭市にある真庭バイオマス発電所の1万kWhが最大規模となる。ここでは年間約148,000tの燃料を必要としており、毎日何十台もの大型トラックが木材チップを運び入れている。地域と一体となって木質バイオマス発電所を成功させている事例として全国的に有名であるが、人口の多い都市部でこれほどの規模の木質バイオマス発電所を作るとなると、騒音等による周辺の住環境への影響や交通渋滞など別の問題が浮かび上がってくる。郊外に木質バイオマス発電所を作ったとしても、確保できる木質資源の量を考慮すると、多く見積もっても数千kWhと木質バイオマス発電所としては比較的小規模なモノになる可能性が高い。
 しかし、発電効率の劣る比較的小規模な木質バイオマス発電所であっても、地産地消で地域内にある木質資源を活用して発電することで様々な利点がある。ひとつは、これまで海外に流出していた燃料調達にかかる資金が地域内で循環することである。さらに、運搬、加工等を行うことで新たな雇用が生まれるなど、木質バイオマス発電所は電気を作って売るだけでなく、地域経済を活性化させる効果がある。
 さらに、大規模な発電所で一括して電気を作っていると、災害や事故で発電所が停止した場合、大きな影響が出るが、小規模で多様な発電所が数多くあれば、いくつかの発電施設が停止したとしても、他の発電施設で電力供給をカバーしあえば、被害を最小限に抑えることができる。

5. バイオマス発電所の効果1(林業の活性化)

山林に放置された倒木(2021年11月撮影)
 京都市は人口約140万人の政令指定都市であると同時に、森林面積が3/4を占めており、豊富な森林資源を有している。しかし、1964年に木材輸入が全面自由化されてから、安い外国産の木材が大量に輸入され、全国的に林業が衰退していく中、京都市においても林業の担い手が減少していった。その結果、京都市内に管理のされていない山が増え、2019年7月豪雨で倒れた木が、現在も処理されずに放置されている。倒れた樹木は木材としての価値は無く、そのまま放置されているが、燃料としては活用できる。
 林業を活性化させるためには、山を管理して良質な木材を育てるだけでなく、林道を整備して路網作り、木材の搬出コストを下げる必要がある。そして、倒木や間引きされた間伐材など、山に放置されている木を、安定的に買い取る仕組みを作らなければならない。そのため、木材として価値の低い材をチップに加工し、木質バイオマス発電所の燃料として買い取る仕組みをつくれば、林業の活性化と木質バイオマス発電の燃料の安定供給という二つの効果が生まれる。

6. バイオマス発電所の効果2(都市に眠る木質資源)

街路樹の剪定風景
 林業の活性化に加え、都市部に眠る木質資源を積極的に活用していく。京都市には7,134,902平方メートルの公園(国営・府営含む)と街路樹として約4万本の高木(樹高3m以上)と約80万本の低木がある(*3)。これらを木質バイオマス発電の燃料として有効活用していく。
 全国の多くの木質バイオマス発電所では、燃料となる木質資源を確保することに苦心しているが、京都市が発注している街路樹や公園樹の剪定作業で発生する枝等の処分量だけで年間2,400トンある。市内で剪定枝を再利用することを前提に、民間処理業者に樹木の枝葉の処分を依頼するとトン当たり15,000円以上の費用がかかり、処理能力をオーバーするなど、処理場の都合により受け入れが中止されることもあり、焼却処分されている事も少なくない。これらの処分先をバイオマス発電所もしくはそのストックヤードを指定すれば、京都市としては、剪定枝などの処分費が不要となり、木質バイオマス発電所は、チップやペレットに加工する作業は必要だが、無料で木質資源が手に入る。そのほか、京都市には民間施設や寺社の庭園が多くあり、樹木の剪定や伐採等、管理されることにより、剪定枝や伐採された樹木が大量に発生し処分されている。これらを木質バイオマス発電所の燃料に活用するため、造園業者などと木質資源の提供を受けるための協定書を結ぶことができれば、安定して木質資源を確保することができる。
 通常、木質バイオマス発電所では木材チップ等の木質資源を重さや水分量に応じて買取金額を決めている所が多いが、これまで業者が費用を支払って処分していた剪定枝や建築端材などの場合は、無料または、サブスクリプション(*4)で引き取ることにすれば、処分費(買取費用)を計算する事務処理が省略され、スムーズに木質資源を搬入することができ、業者にとっても大きなメリットになる。
 さらに、京都市のクリーンセンターに持ち込まれる木質資源として利用できるごみが年間16,000tある。これらを有効活用することが出来れば、ごみの減量と木質バイオマス発電所の燃料の確保ができる。

7. 京都市の役割について

 現在の京都市の財政状況では、発電所の建設費用を調達する事は相当困難である。そもそも行政が市民サービスのために税金を使いバイオマス発電所を作る必要性をみいだすのは難しい。
 しかし、行政がオール京都市のプロジェクトの中心となり、地元企業と協力し、環境にやさしい循環型社会のモデルとなる木質バイオマス発電所の建設をめざすリーダーシップをとることは可能である。小規模なバイオマス発電所は、売電だけで大きな利益を得るのは難しいが、京都市が先頭に立ち、企業や団体との調整など民間では難しい業務を担い、木質資源の調達や効果的な売電方法、さらには排熱を有効に利用するなど、安定した経営計画を作る中心的な役割をはたすことができれば、多くの企業や団体から資金協力を得ることができるのではないだろうか。補助金だけが行政の役割ではない。

8. FITについて

 研究会を進めていく中で、FIT制度についての問題点が浮かび上がってきた。FITはバイオマス発電の場合は20年間と長期にわたり適用されるため、どうしてもFITに頼った経営となり、適用期間が過ぎると経営が成り立たなくなる見通しを立てている発電所が多い。関西電力では、2021年度の木質バイオマス発電の場合、間伐材等由来であれば、44.00円/kWh(2,000kW未満)で、一般木材等では26.40円/kWh(10,000kW未満)となっており、建築資材廃材でも14.30円/kWhで買い取っているが、FIT終了後の買い取り価格は、太陽光発電の場合8円/kWhである(*5)
 適用期間が20年あれば、施設の老朽化も進み、適用期間で収益をあげてその後、事業を撤退するといった補助金目的のビジネスモデルも成立してしまうのではないだろうか。FITは、再生可能エネルギーの普及を目的とするスタートアップの起爆剤として有効な制度であると考えられるが、発電所の建設費用や送電線の接続についての補助金制度を作るなど、どのような制度が有効なのか再度検討する必要があるのではないだろうか。
 いずれにしても、バイオマス発電所をFIT終了後も長く運営していくためには、当初からFIT終了後を見通した計画を立てなければならない。

9. まとめ

 将来においても、木質バイオマス発電が電力消費の多くを担うことはないだろう。発電効率を考え、目先の利益を追求するならば、海外から大量に高カロリーな植物由来の燃料を輸入する手法が最も効率的であることに間違いは無い。しかし、木質バイオマス発電には様々な可能性がある。山に放置された倒木や間伐材を活用する場所を作る事で林業復活の足掛かりを作り、これまでごみとして焼却処分されてきた剪定枝などの都市に眠る木質資源を有効活用することが出来る。さらに、燃料となる木質資源の運搬や、それをチップやペレットに加工するなど、新たな仕事が生み出される。その他、計画する地域の特性や産業、文化を取り入れることにより、さまざまな木質バイオマス発電所が考えられるだろう。
 このレポートで様々な提案を行ったが、費用面を含め実施するには、かなり難しい課題がある。しかし、パリ協定に基づき、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑え、世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとるためには、こういった課題に挑戦していく事が必要になる。これは、国の政策を待っているだけでは解決することはできない。私たち一人ひとりが取り組む問題であり、地方自治体においても困難を乗り越えて取り組む課題である。今後、更なる調査・研究が必要な部分はあるが、私は木質バイオマス発電所を通じ、行政と地元企業・団体が一体となって、エネルギーを循環させる中で、地域が発展していく新たなシステムを作る事を提案する。

10.京都市への政策要請

 2022年4月28日、京都市に対し、木質バイオマス発電についての政策要請を行った。京都市は「COP3京都議定書」誕生の地であり、2004年に日本初の「地球温暖化対策条例」が制定された、世界に誇る環境都市である。「2050年CO2排出正味ゼロ」の目標を実現するため、太陽光発電をはじめ、水力、風力、バイオマス等あらゆる方法を使って実現をめざさなければならない。
 木質バイオマス発電所については、電気を作るだけでなく、林業の活性化や都市に眠る木質資源の活用、ごみの減量等、さまざまな利点がある。
 発電の建設にあたっては、財政状況の厳しい京都市に建設費用や補助金を求めるのではなく、木質バイオマス発電所を安定的に運営するための林業、造園業をはじめ、燃料調達や売電、熱利用等多くの団体をつなぎ合わせる役割を担うことを要請した。こういった役割をはたせるのは行政だけで是非とも木質バイオマス発電所の建設について、本気で実現してほしいと要請した。

 左より、
 京都地方自治総合研究所 高橋直樹専務理事、自治労京都府本部 岡本哲也執行委員長、
 京都地方自治総合研究所 楳田博之理事、京都市 岡田憲和副市長、
 京都市産業観光局農林振興室 大江明生森林政策担当部長
 京都市環境政策局地球温暖化対策室 永田綾エネルギー政策部長




(*1)PKSとは、主にインドネシアやマレーシアなどで作られるパームオイルを絞ったあとのヤシ種殻で、水分含量が少なく発熱量が高いことから、バイオマスエネルギーとして注目されている。
(*2)FITとは、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度で、毎年、発電方法や規模・燃料によって電気の買い取り価格が変更される。
(*3)京都市の公園について 統計解析No.94
 https://www2.city.kyoto.lg.jp/sogo/toukei/Publish/Analysis/News/094park2018.pdf
(*4)サブスクリプション 料金を毎回請求するのではなく、一定期間利用することができる権利に対して料金を請求するビジネスモデル。
(*5)買取単価は、関西電力ホームページより
 https://kepco.jp/ryokin/kaitori/gaiyou/gaiyou2/