1. はじめに
広島県職員連合労働組合・東部地域自治研(以下、東部自治研)では、「観光を通したまちづくり」という研究テーマで、若手組合員による現地調査を中心として活動をしています。
今回は、東部地域の二大観光地である鞆の浦(2020年11月)、尾道(2021年7月)、また昨今のキャンプブームで注目を集める百島(2021年11月、2022年2月)について、地域目線での課題の抽出とその解決に向けた研究活動を行いましたので報告します。
2. 鞆の浦
(1) 鞆の浦の概要と活動目的
広島県福山市、沼隈半島の先端に位置する鞆の浦は、「潮待ちの港」として江戸時代に栄えた町でした。鞆の浦には、その頃から残る常夜燈や寺社・町家が大切に保存されています。福山駅からバスで約30分のアクセスでありながら、仙酔島(無人島)が目と鼻の先に見えるなど、自然を目一杯感じることができます。
2019年度に東部自治研メンバーが22人から10人へと減少し、新規メンバーの募集を含め東部地域の組合員に自治研活動を知ってもらう必要がでてきました。そこで、フィールドワーク(路上観察)をすることで、鞆の浦について考えてもらい、自治研活動の様々な手法と組合員同士の親睦や新メンバーの募集を図る目的として鞆の浦での路上観察を実施しました。
(2) 活動内容
日時 2020年10月31日(土)
時間 10:00~15:30
開催人数 交流会参加者11人、自治研メンバー7人、支部役員3人 計21人
当日の流れ
10:00~10:45 開催のあいさつ、自治研メンバー及び参加者の自己紹介、路上観察の説明
10:45~14:15 鞆の浦路上観察
14:15~14:50 報告会の準備
14:50~15:20 報告会(5グループ)
まず、参加者を集めるため、東部管内の各支部ユース部担当者に広報をお願いし、若手組合員の参加の声掛けを行いました。その結果、三原支部から3人、尾道支部から4人、福山支部から4人参加してもらうことができました。また、路上観察までに鞆の浦の公民館の予約、お弁当・お茶の準備、当日の受付・説明係を分担し準備を行いました。
当日は自治研メンバー及び交流会参加者を5グループ(1グループ3~4人)に分けて、各自好きな場所に行ってもらい路上観察を実施し、気になるものを見つけたら写真に収めてもらうようにしました。
散策後は公民館で各自が撮影した写真を持ち寄り、グループごとに発表会を行い鞆の浦における発見を共有しました。
(3) 結果・考察
今回参加した方からは、「今までは観光で来たことがあったが、今回は路上観察という鞆の浦の良さを見つけるという視点で歩けて楽しかった。」や「路上観察をしながら、みんなでコミュニケーションがとれるので、良かった。」などの路上観察だからこそ感じられる楽しみを得てもらうことができました。
一方、自治研メンバーからは、開催直前で中間会議を開いたこともあり、分業や情報共有が出来、スムーズに進行できたものの、コロナ禍ということもあり参加者の人数は想定よりも少なく、募集方法の再検討が必要などの課題が見えてきました。
これらの結果を踏まえて、鞆の浦の研究をさらに進めていくのか、別の観光地を研究していくのか、会議により方向性を決めることとしました。
3. 尾 道
(1) 尾道市の概要と活動目的
尾道市は、山陽地方の中南部、岡山市と広島市のほぼ中間に位置しており、広島県東部に位置する温暖な港町です。
瀬戸内海に面し、古くから海運による物流の集散地として繁栄しています。
2022年2月1日時点で、総人口127,996人、市域の面積は285.11km2で、1999年5月の瀬戸内しまなみ海道開通によって四国の今治市と陸路で結ばれ、物流面での利便性が高まり、2015年3月には中国横断自動車道が全線開通し、「瀬戸内の十字路」と呼ばれています。また、全国的に映画のロケ地としても有名で、尾道を舞台とした作品が多数発表され、ロケ地観光を目的とした観光客で賑わいをみせています。
東部自治研の活動としては、職員の交流と東部地域自治研のメンバー募集も兼ねて、尾道市を対象とした路上観察を行いました。2020年10月に鞆の浦にて路上観察を行いましたが、同じく観光地として脚光を浴びる尾道市にて、観光客の方に聞き取り調査、アンケート調査を行い、尾道の現状を研究する目的で尾道市内を歩いて観察しました。
(2) 活動内容
各支部のユース担当者に広報をお願いして、尾道支部から1人参加、自治研メンバー5人、支部役員2人の合計8人にて尾道路上観察交流会を実施しました。
会場はしまなみ交流館内で準備し、2グループに分かれて、観察エリアを打ち合わせ、各グループでフィールドワークを行いました。
観察対象は、建物、建築装飾、壁、堀、階段、雨樋、郵便受け、看板、張り紙など多岐にわたり、「四角いアタマを丸くして」「モノの見方をモードチェンジする」という趣旨で、「景観」とみなされない何の変哲もない「風景」が魅力的に見え、街の見方も変わってくる。新しい尾道の魅力が発見できればとの想いで活動をしました。
フィールドワーク終了後は、メンバーが1人ずつ撮影した写真をスクリーンに映して、感想を発表する報告会をしました。路上観察交流会の開催手法や、広報、段取りなど今までよりも上手くなり、尾道という街の観光に関する知見が広がり、良い成果があったと思います。
コロナ禍ということもあり、観光客も若干少なく感じましたが、観光スポットである千光寺や商店街は観光客で賑わいをみせていました。
(3) アンケート・聞き取り調査
路上観察中に尾道市内でアンケート調査と聞き取り調査を実施しました。アンケート内容は、「年齢性別(推定)」「どこから来たか」「目的」です。アンケートの回答結果としては、グルメや観光目的が多く、遠方からは茨城県から来られた観光客もいました。
コロナ禍ということもあり、アンケート調査をすることの難しさも感じました。聞き取り数は想定より少なくなりましたが、聞き取り調査をすることで、尾道市についての生の声を聴くことができ、尾道市の魅力を観光客の視点で知ることができました。
4. 百 島
(1) 百島の概要と活動目的
百島は尾道市に属する離島です。2022年1月時点の人口は422人、面積は3.08km2、島に渡るにはフェリーまたは高速船に乗る必要があります。航路は尾道~戸崎~歌~満越~福田(百島)~常石となっており、常石港から約10分、尾道港からは高速船で30~40分の距離に位置しています。
東部自治研では、2021~2022年に、鞆の浦、尾道にそれぞれ2度目となる路上観察を実施しましたが、いずれもコロナ前と比べて人通りや活気の少なさを感じるものでした。
そんな中、コロナ禍を背景としたキャンプブームを追い風に、百島が盛り上がりを見せているとの情報を各種報道で目にする機会が多くなりました。コロナ禍におけるこれからの観光地を考える上で大事なヒントが百島にあるかもしれないと考え、百島について研究活動を行うこととしました。
(2) 現地視察(2021年11月)
ユース部等への声掛けは行わず、参加者は8人。徒歩、自転車、自動車等で一日かけて島を巡り、各自で聞き込みや魅力・課題の抽出を行いました。
その結果、マリンスポーツやグランピング施設などによる賑わいを確かに感じた一方、①無料レンタサイクル用自転車の老朽化、道幅の狭さ、フェリー駐車場の混雑などの交通問題、②イノシシ被害の深刻さ、物資調達手段などの住環境、③飲食店、コンビニエンスストア、現状を反映した観光地図などの観光利便性、④移住で来られた方と元々住まれていた方の観光への意識の違い、などの課題も見えてきました。
これらについて住民の方がどの程度課題意識を持たれているのか、一緒に解決できないか、改めて意見交換をすることとしました。その際に手ぶらで行くのではなく、視察で気づいた様々な問題点の改善策をこちらから提案できるよう、東部自治研のメンバーで手分けをして事前調査を行いました。
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福田港にて集合写真 |
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十文字山山頂 |
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グランピング施設で聞き込み |
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(3) 町内会の方と意見交換(2022年2月)
まん延防止等重点措置の期間中だったことから、人数を絞り、東部自治研から3人、百島町内会から3人で意見交換を実施しました。
実際にお会いし、様々な意見を頂く中で、島のレンタサイクルの老朽化問題や、近年マスコミにも取り上げられたイノシシ問題については、町内会としては何ができるか模索する中で、島民の減少や高齢化問題もあり「何をするにも人手が足りない」と言っておられました。また観光対策に対するスタンスも世代間で差があり、意見が様々ある中で町内会の運営を行っておられました。
(4) 無料レンタサイクル交換プロジェクト(2022年1~3月)
百島の道路は道幅が狭く、また周囲約10kmと狭いため、移動には自転車が有効な手段で、島の入り口である福田港には無料のレンタサイクルがあります。そのレンタサイクルの老朽化問題について、現地視察後に町内会の方と連絡をとって行く中で、約10年前に提供された尾道駅前の不法駐輪自転車を再度活用する方法をお聞きし、活動として尾道市との橋渡しを行うこととなりました。尾道市と連絡をとり、趣旨をご理解いただいて約15台の自転車を提供いただき、自治研メンバーで基本的な整備を行った後に、島民の方々と共に島へ搬入しました。SDGsの観点からも有効であると思われ、引き続き自転車を維持管理していく方法を島民の方々と共有し、協調して活動を行っていきたいと思います。
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自転車整備の様子 |
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福田港にて荷下ろし |
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町内会の方々と意見交換 |
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(5) 振り返りとこれから
まずは、島の入り口である福田港の無料レンタサイクルの更新に関する活動を行いましたが、近年マスコミに取り上げられ一躍有名となったイノシシ問題についても、町内会から電気柵や箱罠、狩猟など多くの取り組みをお聞きしたことを手掛かりに、今後自治研活動として何らかの形で一緒に取り組んでいく方法を模索していきたいと思います。
5. 最後に
持続可能な自治研として、若手組合員に自治研の魅力を伝えることも重要な課題だと認識しており、引き続き現地活動を中心に研究をしていきたいと考えています。今回の百島での活動は単発ではなく、成果の検証も行いつつ、様々な角度から、様々な意見を頂きながら、あらゆる可能性を排除することなく活動を継続していきます。
今回の活動はコロナ禍における観光地のまちづくりの一翼を担う活動であり、今後は東部の中で他の地域での取り組み、すなわちヨコでの比較を行い、そこで得られたノウハウを百島にフィードバックしていきます。そしてまた得られた知見を他の地域に入り活用していく活動を引き続き継続して行っていきたいと思います。
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