1. はじめに
(1) 臼杵市の人口減少問題
① 人口の推移
臼杵市の人口は、戦後間もない昭和25(1950)年が6.7万人とピークであったものが、昭和30年代から始まった都市部への人口移動の後、昭和50年代には5万人程度と比較的安定して推移しました。しかし、時代が平成に入ってからは、都市部への人口流出に加えて、出生数の減少と高齢化による死亡数の増加によって、人口減少が顕著となり、平成25(2013)年には4万人を下回ることとなりました。2040年には3万人を下回り、24,194人になることが推計されています。
② 人口減少の現実
「第1期臼杵市まち・ひと・しごと総合戦略」を策定した前年の平成26(2014)年度末の人口は38,999人(前年比▲555人)、平成27(2015)年度末の人口は38,509人(前年比▲490人)と、年間500人前後の人口が減少しています。その後も年間500人前後の人口減少は続いており、移住・定住への取り組みを本格的に始めた平成26(2014)年度以降も減少の幅は変わっていません。これは、自然増減(出生数-死亡数)の死亡数が上昇していく半面、出生数は低下していくという少子高齢化の影響であることや、社会増減(転入-転出)の転出数を抑制できていないことによるものと考えられています。社会増減は、大分市との間で転出超過となっている状況を均衡にすることもめざして対策を講じ、平成26(2014)年度は200人程度の転出超過であったものが、令和元(2019)年度では99人の転出超過となっており、ある程度の成果が表れている部分もあります。また、転出数においては、市内企業で働いている外国人労働者が帰国するタイミングが重なるなど、臼杵市特有の要因もあります。
③ 人口の目標
第1期総合戦略では移住者数などある程度の成果は得られたものの、想定より人口推移が下回っていたことから、令和2(2020)年3月に策定した「第2期臼杵市まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、重点プロジェクトの一つとして「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」を掲げ、"ふるさと臼杵UIJターンによる「うすき暮らし」の推進"に取り組むこととしています。第2期総合戦略が満了を迎える2024年度における転入移住者数270人と、第1期戦略で達成できなかった大分市との間の転入・転出均衡±0人を再度目標に設定しています。2040年の推計人口24,194人に対し、31,600人を目標として達成すべく、移住・定住に関する取り組みを進めています。
2. 「うすき暮らし」推進の取り組み状況
(1) うすきおためし暮らし
① 移住希望者向けモニターツアー「うすきおためし暮らし」
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個別オーダーメイド型ツアーの様子
(就農希望者と臼杵市土づくりセンター見学)
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移住検討中の方には、移住前に候補地での暮らしを体感していただくことが重要であると考え、平成26(2014)年度から移住希望者向けモニターツアー「うすきおためし暮らし」を開催しています。大分県までの交通費のみが自己負担のこのツアーでは、5組20人までを定員とし、空き家物件や生活インフラ見学等による生活環境の確認、有機農場見学や生産者との意見交換、市役所各部署の職員が対応する移住制度説明会&相談会、地元の人々のほか、先輩移住者や市長も参加する大交流会等、盛りだくさんの充実したメニューで「うすき暮らし」を体感していただきます。移住者も企画・実施に参加しているため、参加者の要望に応じたきめ細やかなプログラムを組むところも特徴的です。また、基本2泊3日の農村民泊で、田舎のお父さん・お母さんの温かさに触れたり、地元の食材をふんだんに使った手料理を味わってもらったりと、満足度の高いツアーとなっています。このツアーに参加した方の約4割が臼杵市への移住を決めています。コロナ禍の状況となった令和2(2020)年度においては、新しく1組限定の個別オーダーメイド型ツアーへと企画を変更し、事前に参加者の要望を聞き取り、就農希望者に対しては先輩農家への訪問や「うすき夢堆肥」を生産する臼杵市土づくりセンターの見学など、これまで以上に移住希望者に寄り添ったプランを提供しています。
② 移住体験滞在施設「臼杵おためしハウス」
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最大60日まで滞在可能
「野津ハウス」
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移住を検討している方が臼杵市に一定期間滞在して、ゆっくりと臼杵の雰囲気を味わって、居住地域や住居などを選定できるように、平成29(2017)年1月から移住体験滞在施設「臼杵おためしハウス」を設置し、運営しています。庭園を備えた築70年を超える昔ながらの木造平屋建ての「臼杵おためしハウス」に滞在して、臼杵時間を体感することができます。移住モニターツアーとは違い、個人の都合に合わせた日程で訪れることができるのが魅力のひとつです。施設の利用は最長で連続7日間と設定しており、移住希望者の入れ替わりが頻繁に行われている状況です。メンテナンスには、移住・定住サポーターにも清掃等の協力をお願いしています。これまで130組を超える移住希望者が利用し、19組44人が移住を決めています。また、平成31(2019)年度からは、移住・定住を本格的に検討している若い夫婦の世帯や子育て世帯をターゲットとして新たに中長期(10日~60日)の利用ができる「野津ハウス」を設置するなど、多様な移住のニーズに対応できるように受け入れ環境を充実させました。
③ 臼杵市リモートワーク・ワーケーション体験拠点事業
全国的にコロナ禍の状況が続く中にあって、都市部では、働く人の環境が変わってきており、リモートワーク等の運用をしている企業等も増えてきています。こうした状況を踏まえ、臼杵市では、新しく「臼杵市リモートワーク・ワーケーション体験拠点事業」を新設。本市でリモートワーク等を行う移住希望者を対象に宿泊費への助成を始めました。
(2) 移住・定住に関する補助制度
① 移住支援
移住に要する費用をカバーするため、移住者に対し、引越し費用(上限20万円)、不動産仲介手数料(上限5万円)の補助に加え、移住奨励金(2万円)を交付しています。これらの補助を受けるには、5年以上臼杵市に住んでいなかったこと、転入後5年以上臼杵市に住むことの誓約等が条件となります。また、賃貸住宅に居住する移住者への家賃補助として、30歳以下の単身者(上限月1.5万円・2年間)、40歳以下の夫婦(上限月1.5万円・2年間)、子育て世帯(上限月1.5万円・3年間)を対象に運用しています。このような移住支援補助金の交付を受けた移住者数は、平成30(2018)年度が220人、令和元(2019)年度が255人、令和2(2020)年度が231人と、毎年200人を超えています。また、移住者の約8割が40代以下となっており、若者や子育て世代が多くを占めています。
② 定住促進
市外に流出する若者や子育て世帯に定住してもらうことを目的に、平成27(2015)年4月から、三世代家族が同居する場合の住宅新築、購入、改修等に要する費用の補助制度を運用してきました。しかし、流出数に歯止めをかけるまでには及んでいないことから、平成29(2017)年4月から、市内で結婚をする若者に対し、引越しや不動産仲介手数料に要する経費を助成する新婚生活応援事業補助金の運用を始めています。平成30(2018)年4月からは、住宅を取得して定住を希望する市内在住の若者や子育て世帯向けの若年・子育て世帯定住促進住宅取得補助金(最大50万円)の運用を始め、年々利用者数が増加傾向にあり、定住人口の増につながっています。また、このような住宅取得補助金等と合わせて住宅金融支援機構と連携したフラット35の制度を利用することで、条件を満たした人は借入金利を一定期間引き下げることができるなど、費用面の負担の軽減が図られ、臼杵市で住宅が取得しやすくなりました。
(3) 移住・定住に関する各種取り組み
① 地域おこし協力隊制度の運用
臼杵市では、平成26(2014)年度から地域おこし協力隊を採用しており、平成28(2016)年度からは、有機農業に特化した地域おこし協力隊の採用も始めました。現在、地域づくりに携わる一般隊員が4人、有機農業隊員が5人、計9人が活動しています。採用を始めた平成26(2014)年度以降、任期満了や早期退任を含めて、17人が活動を終えており、そのうち9人が臼杵市に定住しています。定住した9人のうち、4人は起業、4人は就農、1人は就業している状況にあります。
② 情報発信
東京都、大阪府、福岡県等の都市部で開催される大分県主催の「おおいた暮らし塾」や、全国的な移住フェアにも出展して臼杵市のPRや個別相談対応をしています。平成28(2016)年度からは、東京都世田谷区で有機野菜等のメニューを提供している農民カフェ下北沢店と連携して、店舗内に移住や観光パンフレット等の設置や、「ほんまもん農産物」をメニューで提供する「うすきフェア」の開催によって、うすき暮らしの魅力を発信しています。臼杵の"住み心地の良さ"をPRするため、地域おこし協力隊(移住担当)が移住定住促進ポスター(3パターン)を作成し、都市部での移住フェア等での貼付のほか、市内の店舗・施設等にも貼付にご協力いただいています。コロナ禍の状況となった令和2(2020)年度からは、オンラインを活用した移住説明会やツアーを開催しており、移住希望者がどこからでも気軽に参加し、臼杵市の情報を手に入れることができるようになりました。
③ 仕事情報の提供
移住でネックになるのは仕事であり、子育て世代にとっては特に重要な問題となります。臼杵市では、ハローワークと提携してリアルな仕事情報を提供する就職支援サイト「うすきJobナビ」を平成28(2016)年3月に立ち上げました。このサイトでは、臼杵市から一時間程度で通勤できる範囲の求人情報を、条件に合わせて検索することができ、利用者からは、「調べやすい。」「見やすい。」と上々の評価を受けています。現在は、移住情報を含めた移住・就職支援サイト「うすき暮らしナビ」として生まれ変わり、うすき暮らしの情報発信にも寄与しています。
④ 移住・定住サポーター制度
「臼杵に移住するための情報をもっと知りたい」、「誰かに移住後の生活のことを相談したい」「移住したけど不安」、このような思いをもった移住希望者や移住者に寄り添った支援を提供するため、平成28(2016)年度から、移住・定住サポーターを設置しています。サポーターには、移住希望者への情報発信や相談対応、移住モニターツアー等市が開催するイベントへの協力等での活動をしていただいており、現在54人が登録しています。また、33人が移住者のため、移住希望者や移住者と同じ目線でサポートしていただいています。
⑤ 移住・定住相談窓口の一本化
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相談窓口を一本化 |
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平成30(2018)年4月から、移住・定住に関する相談窓口や手続きを一本化しました。まちづくりや空き家対策の業務を所管する都市デザイン課が担っていた空き家バンク制度や新婚世帯への補助事業等を、移住定住施策の企画やPRを担当する秘書・総合政策課に集約し、移住希望者の相談や手続きなどをワンストップで受け入れる体制が出来ています。また、市職員等に加えて、特別地方交付税措置の対象となる地域おこし協力隊、定住支援員を配置して、移住・定住業務に携わる人材に厚みをもたせ、多岐に渡る相談に対応できる体制を整えています。また、コロナ禍となった令和2(2020)年度からインターネットを利用したオンライン移住相談窓口も開設しており、コロナ禍においても顔を見ながら安心して相談ができる体制を整えています。
⑥ 移住者交流会「つながりミーティング」を開催
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つながりミーティングの様子 |
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令和元(2019)年度には、地域や移住者同士の結びつきを強めようと、市や移住者有志が中心となって移住者交流会を開催しました。移住者を中心に65人が参加し、有機農法で作った地元の米や野菜を使ったおにぎりと豚汁を味わいながら、臼杵市を移住先に選んだ理由や移住後の暮らしぶりについて語り合い交流を深めました。かねてより「移住者や市民がつながり、それぞれの思いを共有できる場が欲しい」という要望もありましたので、今後も移住者や市民がつながる機会を作っていきたいと考えています。
⑦ 「住みたい田舎」ベストランキングで上位ランクイン
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「田舎ぐらしの本」 2021年2月号(宝島社)
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田舎暮らしの本(宝島社)が毎年総力を挙げて行う特集「2021年版 住みたい田舎ベストランキング」が2021年2月号で発表され、人口10万人未満の小さな市部門で、臼杵市が総合第3位となり、4年連続で上位にランクインしました。これは、臼杵市が海、山、川等の自然環境に恵まれたコンパクトシティであること、移住・定住支援制度を着実に整備し、若者や子育て世代に向けた支援も充実させていること等が要因として挙げられます。
3. 移住から定住へ
(1) 若者流出等の問題
臼杵市には、大学等の教育機関がなく、高校卒業後の若者が働きたいと思える職場も少ないため、多くの若者が高校卒業等を機に市外へと転出します。企業誘致等により、若者の雇用の場を確保することは喫緊の課題となっていますが、市内の企業に就職した場合でも市外に居住して臼杵市に通勤している若者がいるという現状があります。このような状況のため、定期的に市内企業を巡って、移住・定住制度の説明や従業員に臼杵市に住んでもらうことへの協力をお願いする必要もあると思います。また、若者が臼杵市に帰って来たいと思うことが重要となりますが、臼杵市教育委員会では、小中一体教育を核として進める「3つのきょう育」(郷土の郷育、協力の協育、響き合いの響育)により、「学ぶ力」「誠実さ」「たくましさ」を身につけた「臼杵大好き"臼杵っこ"」を育てるための特色ある教育を実施することで、若者に臼杵の良さを伝えています。
(2) 子育て世代の定住
臼杵市は大分市に隣接していることから、大分市の職場まで通勤している方も多いものの、子どもの就学等のタイミングに大分市で住宅を取得するケースも増えています。大分市と臼杵市の社会増減(転入転出数)でみると、年間で400~500人が大分市に転出して、200~300人が臼杵市に転入しており、100~200人ほどのマイナスが生じている状況です。しかし、この数値を子どもの数でみるとプラスになっており、特に10歳未満の子どもの転入が多く、大分市からも子育て世代が流入していることが分かります。これは、臼杵市が近年、子育て環境を整備し、子育てがしやすい環境であることが認知されてきたことによると思います。臼杵市では、平成28(2016)年1月に、妊娠期のママから18歳の児童までの様々な相談にワンストップで対応し、子どもに関する行政手続きもできる子ども・子育て総合支援センター「ちあぽーと」を開設。平成28(2016)年度には、臼杵市総合公園や野津吉四六ランドの遊具をリニューアルしています。また、市内の保育施設としては、待機児童問題が発生していないこと、病児病後児保育のサービスも受けられること等、安心して働ける環境にもあります。このような子育てしやすい環境にあること、定住促進住宅取得補助金(2.(2)②参照)があること等を周知することにより、子育て世代の定住を促進する必要があります。
(3) 地域の受け入れ
平成28(2016)年度から平成29(2017)年度にかけて、臼杵市で住み始める際に必要となる、自治会(地区)に入る時の負担金や行事等について、306自治会(地区)を対象に調査を実施しました。この調査により、自治会(地区)に入る際の負担金(入区費)を数十万円求める自治会(地区)があること、毎月の区費を数千円求める自治会(地区)があることが分かり、住む前に移住希望者へと情報提供できるようになりました。このことにより、移住後の移住者と地域とのトラブルを回避できるようになりましたが、特に次世代の担い手が少ない地域においては、負担金等の軽減についてお願いをする必要があります。
(4) 移住者が地域を活性化
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「ひゃくすた」開催状況
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化学合成農薬・肥料不使用で、市長が認証する「ほんまもん農産物」をはじめ、朝ごはんや加工品も提供する「Usuki Farmer's Market ひゃくすた」が毎月第一日曜日に開催されるようになりました。「ひゃくすた」は「百姓ニュースタンダード」の略で、地域おこし協力隊の有機農業隊員を中心に、市内の有機農家や加工者が集って、平成29(2017)年10月から開催され、ほんまもん農産物をPRする場、消費者と生産者が顔を合わせて交流をする場として、広がりを見せています。近頃では市外のイベントにも招かれて出張ひゃくすたを開催するなど、安心・安全で美味しい臼杵の野菜を届けています。
4. まとめ
臼杵市では、平成26(2014)年度から移住・定住支援に取り組み、移住者数の増加により一定の成果は挙がっていると言えます。しかし、年々、自然増減(出生数-死亡数)のマイナスの幅は広がり、社会増減(転入数-転出数)も依然プラスに転じられず、人口減少、少子高齢化に歯止めをかけるまでには至っていない状況です。増え続けている空き家の活用、若者や子育て世代の流出抑制等、今後取り組むべき課題は多いため、移住先進地である大分県の他自治体や、全国の先進事例も参考にしながら、制度をより充実させていく必要があります。また、新型コロナウイルスの影響が続く中、都会で住み続けることに不安を感じ、地方への移住を希望する人は確実に増えていると感じています。これまでのように東京や大阪などの都心部で行われる移住フェア等に直接参加することが難しい状況にはありますが、オンラインを活用した情報発信や移住相談等を通じて移住に向けたサポートを行い、本市への移住定住を促進していきます。
臼杵市に住んでいる人が「住みやすい」と感じられるまちづくりを進めることによって定住が促進され、移住者の獲得にも繋がるものと考えていますので、今後も移住者が移住希望者を惹きつける魅力や、臼杵市特有の「人の良さ」を大切にしながら、未来の臼杵市を担う人財を確保したいと思います。
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