1. はじめに
「地域おこし協力隊制度」とは、都市から地方への移住・定住を後押しすることを主たる目的として2009年度に国が創設した制度で、協力隊員の活動経費等については特別交付税として100%の財政支援を3年間受けられる仕組みとなっている。総務省によると2020年度においては、全国の1,065自治体が地域おこし協力隊の受け入れを行っており、従事している隊員数は5,464人となっている。大分県においては別府市を除く17の市町村で協力隊員の受け入れ及び活用が行われている。
2. 調査の背景
外部人材を地域活性化にどう活用しているのか竹田市を皮切りに、これまで宇佐市、臼杵市などで協力隊員及び協力隊担当職員と交流をしながら意見交換を行ってきた。
活用事例は、観光振興や地域コミュニティー支援、6次産業の推進や移住・定住支援などの幅広い仕事から、農畜産業振興、インバウンド対応、伝統産業復興など自らのスキルを活かし業務を絞って活動するものまでさまざまであったが、いずれの業務内容もまさに「地域おこし」であった。このように活用方法は異なっても、自治体側のめざす地域活性化とその先にある定住という目的に大きな違いはなく、その目標に向かいどの担当職員も熱意を持って取り組んでいたのが印象的であった。
一方で、協力隊員側においては、協力隊に応募したきっかけや移住・定住に対する温度感についても十人十色で、自治体側と協力隊員側双方の意識に多少なりともミスマッチが生じているのではないかと感じ取られた。実際に就農・就業、さらには起業までして定住に至った元隊員がいる反面、任期後または任期途中で当該自治体外へと進路を移した元隊員も少なくない。そこには、協力隊制度に対する理想と現実のギャップが少なからず存在すると考えられ、地域活性化専門部会では、それらの実態を把握すべく2017年度に自治体及び協力隊双方、さらに2020年度に再度自治体対象のアンケート調査を行った。今回は2020年度の調査結果を中心に報告する。
3. 調査の概要
実施時期 |
2020年度(2021年度:一部未回収分を回収) |
調査対象 |
大分県内全自治体 |
調査方法 |
各単組を通じ、地域おこし協力隊担当部署にアンケートを配布・回収 |
回答者数 |
15自治体(17担当部署) ※県内自治体18市町村 |
4. 調査の結果
(1) 地域おこし協力隊の導入目的
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図1 地域おこし協力隊の導入目的(複数回答) |
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2017年度に行ったアンケート調査では、地域活性化、地域振興並びに協力隊員の定住といった制度本来の目的が主なものであった。今回についても前回同様、地域活力向上と定住については、ほぼ全ての自治体が目的として設定しているが、地場産品のブランド化や起業などを目的とする自治体もいくつかあり、協力隊員の活動に対する期待の大きさがわかる。
達成状況についても前回と同様、多くの自治体で「達成できている」又は「概ね達成できている」と感じているが、「わからない」という回答もいくつか見受けられる。
(2) 地域おこし協力隊の選考基準
協力隊として働くことへの意欲はもちろんのこと、求めている業務に対する理解度、スキル評価、住民とのコミュニケーション能力などの観点から選考を行っている。また、ほとんどの自治体で退任後の定住の意思確認を選考時に行っている。
(3) 採用人数(過去10年)
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図2 過去10年間の採用者数 |
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過去10年間の協力隊員の採用数を見ると、2014年度から急増、2016年度にピークを迎え、直近の2019年度を見ると減少傾向にある。とはいえ、この過去5年間における平均採用人数は約57人となっており、多くの自治体で地域おこし協力隊制度の活用を継続して行っていることがわかる。
男女比は、男性が62.6%(前回65.7%)、女性が37.4%(前回34.3%)となっており、依然として男性の方が多い傾向にある。
(4) 採用者の出身地
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図3 採用者の出身地 |
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過去5年間の平均値としては、採用者の80%以上が県外出身となっており、外部人材(外の風)を地域活性化の新しい力として活用しているのがわかる。
(5) 採用者の年齢構成
過去5年間における採用者の年齢構成を見ると、20代、30代の割合が男女ともに70%以上を占めており、若い力が地域の活力として活用されているのがわかる。
(6) 採用者の家族構成
採用者の家族構成は、全体の50%以上が独身であるが、一方で既婚者も20%以上、しかもその大半に子どもがいることについても注目できる。
(7) 協力隊の主な活動エリア
主な活動エリアについては、周辺部に限定されているものだけを見ても50%以上を占めている。全域を含めると、ほとんどが周辺部を活動エリアとしていることがわかる。
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図4-1 採用者の年齢構成(男) |
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図4-2 採用者の年齢構成(女) |
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図5 採用者の家族構成 |
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図6 協力隊員の主な活動エリア |
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図7-1 退任後の居住先(男) |
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図7-2 退任後の居住先(女) |
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(8) 協力隊退任後の居住先
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図8 退任後の仕事 |
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退任後の居住先は、男女ともに約50%が当該自治体内に留まっている。それ以外のうち、特に県外へと居住先を移した退任者については40%近くにものぼる。
(9) 協力隊退任後の仕事(当該自治体居住者)
当該自治体に留まって就労した退任者の内、40%以上が起業をしており、外からの風としての外部人材が、地域に新たな力として貢献しようとしていることがわかる。
(10) 行政として感じている協力隊制度の理想と現実
各自治体の地域おこし協力隊担当部局が感じている制度の理想や現状には、以下のようなものがある。2017年度にも調査を行ったが、「実際には隊員の活動が制限される」や「担当、隊員、地域の関わり方」、「退任後の定住まで結びつかない」など、前回とほぼ同様の現実が、依然として担当職員の悩みとなっている。
・地域住民の協力隊への期待と隊員本人の認識の違いがあり、必ずしも期待通りの活動ができていない。
・協力隊が活動する環境を整え、定住に至るまでのサポートをしていく必要があるが、自治体の直接雇用であり、行政の職員という立場が、隊員の活動を制限してしまっている部分があると感じる。
・隊員のこれまで培ったスキルを生かし、地域の資源、人材を巻き込んで地域活性化を図り、結果として定住に繋がってもらえればと思う。実際に様々な分野で活躍してくれている。
・任期満了後を見据えて、明確なビジョンを持って活動に取り組んでほしいが、それを見据え過ぎて自身のスキルアップに注力し、地域振興の活動がおろそかになる事例も出ている。
・隊員の方のやりたいことに対して行政として予算がない、地域との人間関係がうまくいかないといった理由により途中でやめてしまう事例がある。
・隊員ごとのスキルやモチベーションの差が大きい。
・予算執行上、活動費の判定が難しい部分が多く、隊員のやりたいこと全てが活動経費として利用できない部分もある。
・退任後の収入が不透明なため、隊員が定住を前向きに考えているのかどうか不安。
・業務内容が隊員本人に合わないことで早期退職するケースがある。また、早期退職する隊員は地域とうまくいっていない実情がある。業務を遂行してくれる隊員は、地域との関係もうまくいき任務終了後も定住してくれている。
・制度としては専門的分野に特化した業務における有効性が期待できるが、現実には定住にまでつながらない隊員が出ている。
・民間と行政とで予算の動きが違うところが多く、自由に活動をしていいと言いつつも実際には制限がかかってしまう。
・隊員独自で活動してくれると助かるが、実際には担当のサポートが必須となる。しかし、担当職員には他業務もあることから、なかなかサポートができず負担に感じことがある。また、行政が携わるからこそ、思い切ったことができないもどかしさも感じる。
(11) 国に対する要望
同様の調査を2017年度にも行ったが、今回も特別交付税措置ではなく普通交付税措置を望むといった財政面に対する要望があげられている。また、担当職員の負担軽減にも繋がる、隊員に対する任期中のサポート体制の整備・拡充、退任後の定住支援の拡充のほか、採用する際の専門的な適性判断の基準を提示してほしいとの要望もあげられている。これらの要望も、2017年度の調査であがっており、自治体と協力隊員の間に起きるトラブルを検証し、制度として見直しをしてもらいたいとの内容であった。今回の2020年度調査では、より具体的な内容が要望としてあげられている。
5. 考 察
前回の2017年度及び今回の2020年度のアンケート調査の結果により、調査をするきっかけとなった制度に対する自治体側と協力隊員側の意識のミスマッチについて、実際に確認することができた。同時に、前回調査時から3年が経過した現在においても目立った改善が図られていないということも浮き彫りとなった。
協力隊担当部署は、協力隊の主旨を理解し、協力隊に大きな期待を寄せながら、その目的達成に向け鋭意努力はしているものの、他の業務にも追われ満足のいくサポートができなかったり、自由に活動させたくとも実際には活動が制限されてしまったりと現実問題として様々なジレンマに苛まれている。
一方、協力隊員においては、比較的若い世代を中心に未来の展望に希望を抱きながら、地方部へと大きな一歩を踏み出してくる。中には配偶者や子どもを持ちながら、人生をかけたチャレンジをしてくる隊員もいる。これらの決意は、隊員を選考する際の大きな指標のひとつにもなるのであろうが、実際には地域の実情や業務内容など、様々な部分における理想と現実の不一致の発生、加えて前述のとおり担当部署のジレンマが重なり、結果的に定住まで至らないケースも多くみられる。
また、これまでいくつかの自治体で協力隊員と意見交換を行ってきたが、同じ協力隊員の中でも取り組みや活動に対する温度差が感じられた。将来の起業・定住といった「地域おこし」へ向けた明確な目的を持っている隊員については、3年という限られた期間の中で計画的に準備を進めているようであったが、一方で隊員として働きながら「自分さがし」をしていこうという方も多く、双方の業務への関わり方にも違いが出ているようであった。このように、将来へのアプローチの仕方が異なれば時間の活用の仕方も異なり、場合によってはそれがモチベーションの差へと繋がり、ひいては自治体側の求める成果を出せるか出せないかの違いにも繋がってくるのではないかとも考えられる。
退任後の居住先や仕事に関する調査結果を見ても、任期満了後、退任者の約40%は県外へと居住地を移している結果となっており、当該自治体に残っている退任者は約50%程度に留まっている。3年間という時限のある制度のなかで、自分なりのスタイルを確立し、地域に貢献しながら、自分の経済基盤を作り出すことがいかに容易なことではないかがわかる。しかし、当該自治体に残った退任者のうち、約40%は起業にまで至っていることから、任期中の将来像を見据えた計画的な活動が、起業・定住に繋がっているという一つの表われと考えられる。
いずれにしても、協力隊員の具体的な将来設計とモチベーション、自治体のサポートや課した業務内容、そして、実際に生業する場所となる地域における隊員を取り巻く環境、それらが合致したときに初めて定住というゴールが明確に見えてくるのであろう。協力隊、自治体、地域が制度導入効果でうたわれた「三方よし」で単に受け身になるのではなく、それぞれが能動的に他者を支えようとする気持ち、支えることのできる体制づくりが重要であると改めて知らされた。結果、それは支え合いとなり、隊員は退任後、その地域に愛着を持って暮らすことのできる住民となっていくのであろう。
6. おわりに
今回をもって地域おこし協力隊にクローズアップした調査研究を締め括るとするが、昨年からのコロナ禍の影響をはじめ、これまで決して満足のいく取り組みができたわけではない。今となって振り返れば、定住に至らなかった元隊員が、その後どのような進路を辿ったのか追跡調査するのも制度の意義を確かめるうえでは必要であったと思われるし、何より、協力隊・自治体・地域の「三方よし」の導入効果をめざしているこの制度において、一連の調査のなかで、自治体と協力隊の声を聴くことができたが、肝心な地域の声にまで耳を傾けるに至らなかったことは反省点である。
地域再生事業化の木下斉氏は著書のなかで「地域おこし協力隊を外から呼び寄せて、地域に新たな可能性を作り出すのは、単に隊員だけの問題ではない。」としたうえで、「地元に住んでいる方々が、縁もゆかりもない人をどう受け入れていくかに向き合わなければならない。」と述べている。大分県人口ビジョンによると、2019年度県内の高齢化率は32%を超えており、人口減少も加速している。そのような大分県内各地に協力隊員たちは可能性を見出し、変化をもたらそうと勇気ある挑戦をしてきている。「外の風」を単に「外の人」として様子見をするのではなく、隊員、自治体関係者、地域住民の三位一体の協力体制の構築や相互のつながりが、更なる「風」を巻き起こしていくであろう。今後も大分県自治研センター地域活性化専門部会では、この「風」の吹き方や取り入れ方の微妙な変化に注視し続けることを約束し、今回の調査研究を締め括ることとする。
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