【論文】

第39回静岡自治研集会
第7分科会 まちおこし ~持続可能な地域づくりの取り組み~

 地方圏における地域振興の方策の一つとして、観光産業を振興するという方針が各地で示されている。青森県も観光産業を農林水産業に次ぐ第2の基幹産業として位置付けている。青森市ではトリエンナーレを開催しているほかに、県内の主要な美術館5館が連携した活動を始めており、アートツーリズムに対する関心が高まっている。また、青森県にはねぶた祭りなどの郷土文化や津軽塗や陶芸などの工芸が息づいており、それらの観光資源をアート街道として整備して行くことが効果的と考えている。



青森のアート街道形成の提案
―― ニューツーリズム時代の体験型アート地域の創出 ――

青森県本部/一般社団法人青森県地方自治研究センター 内山  清

1. アートツーリズムの背景

 国の経済成長が停滞するなかで、地域経済の振興において観光産業の発展に期待する状況が続いている。コロナ禍で中断した感はあるが、国の観光振興方針は継続しており、2030年6,000万人のインバウンド目標は降ろしていない。地方圏においても、観光産業の活性化が地域振興の課題となっている。青森県では農林水産業が基幹産業であり、第2の基幹産業として観光産業を選択し、観光立県宣言をしている。県の「観光力」を強化することにより、国内外との交流人口を拡大して地域経済を活性化することに取り組んでいる。
 従来は団体旅行や物見遊山的な観光が主流であったが、近年では個人・小グループ旅行が増加すると共に、テーマ性が強い地域固有の文化やイベント等を体験することができる観光形態が拡大している。観光庁では、このような旅行形態を「ニューツーリズム」と定義し、観光立国を推進している。ニューツーリズムを創出することにより、観光旅行者の多様なニーズに応えるとともに観光旅行者の宿泊数の増加につなげることをめざしている。
 青森県内には、エコツーリズムやグリーンツーリズム、ヘルスツーリズムなどの様々なタイプのニューツーリズムが既に根付き始めているが、これに加えて、青森県の芸術を活用したアートツーリズムの可能性が膨らんでいる。従来から青森県にはアートに関わる旅行素材が広く分布しており、青森県出身の有名なアーティストも存在している。2006年に開館した青森県立美術館は、2013年11月に総来場者数が300万人を超え、7年連続で年間入場者数東北1位を記録した。また、棟方志功や奈良美智などの作品は世界的にも有名である。

2. ニューツーリズムの拡大

 ニューツーリズムとは、地域の特性を活かして多様化する旅行者ニーズに応えた新たな旅行形態をいう。主に体験や交流を取り入れながら、地域資源を活用する旅行形態で、観光客は感動や共感などが強く得られ、印象的な旅行を体験することができる。また、受入れ地域においても経済的及び社会的な刺激が得られ、地域社会の活性化が図られる。
 ここで簡単に代表的なニューツーリズムの諸形態について整理する。
① エコツーリズムとは、観光客が自然ガイド等の案内を受けながら、自然の保護に配慮しながら、自然と触れ合い、自然に関する知識と理解を深める旅行形態である。青森県には自然型の世界遺産である白神山地もあり、多くの活動が展開されている。
② グリーンツーリズムとは、農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の観光形態であり、青森県には多様なグリーンツーリズムのコンテンツがあり、国際グリーンツーリズムでは先行県とされる。
③ ヘルスツーリズムとは、自然豊かな地域で、自然や温泉などで心身を癒し、地域の食材を愉しみ、健康の回復や増進を図る旅行形態である。昔から湯治や転地療養などはあったが、それを現代の医療技術や生活スタイルなどを踏まえてリニューアルしており、温泉地が数多い青森県では実績が高いといえる。
④ スポーツツーリズムとは、スポーツを「観る」、「する」、「支える」諸活動と観光活動を連動させた旅行形態、旅先でのスポーツ活動も含まれる。
⑤ 歴史/文化・アートツーリズムとは、地域の歴史や伝統といった文化的な要素に対する知的欲求を満たすことを目的とした旅行形態である。青森県には世界遺産に登録された縄文遺産群や伝統芸能・祭り、美術館が多数あり、この類型のツーリズムの潜在力は高い。
 ここに紹介したニューツーリズム以外にも、産業ツーリズムや宗教ツーリズム、フィルムツーリズム、フラワーツーリズムなどの様々な旅行タイプがあるという。
 ここで、青森県に親和性があると想定されるニューツーリズムを抽出すれば次図に示される5領域が挙げられる。旅行素材としてのポテンシャルが高く、既に活動の実績や推進計画・体制が認められ、地域住民から支持されているものである。第1はグリーンツーリズム領域であり、エコツーリズムやグリーンツーリズムが含まれる。なお、これには漁村で展開されているブルーツーリズムも含まれ、漁業活動を体験できる。第2はメディカルツーリズムであり、ヘルスツーリズムをよりポジティブに拡張して、健康増進や病気・怪我の治療/癒しを提供するメディカルツーリズムである。快適な静養環境が提供される。第3はスポーツツーリズムである。青森では各種のスポーツ大会が開催され、気候や自然特性を活かしたスポーツ合宿が増加している。地域に根差した地域スポーツも盛んである。第4は多彩な青森の食材を活かしたグルメツーリズムである。海鮮系の料理や郷土食、果物や山菜など、豊かな農水産物を背景に印象的な食事を提供する。第5はカルチャーツーリズムである。これには歴史観光や文化観光が含まれ、特徴的な地域の価値や社会風土などに参画できる。青森観光は四季の自然風景の中で、異日常の活動を同好者と交流しながら感動の時間を共有し、心に残る手づくりプログラムを体験する旅行をめざすことが期待される。

3. アートツーリズムの動向

 アートツーリズムは、上述したカルチャーツーリズム(文化観光)のひとつの分野であり、地域の歴史や文化的な要素を大切にする旅行形態である。観光庁では明確な概念提示を行っていないが、一般的な辞書(大辞林第三版)では「美術館などの展示施設や、野外彫刻などの作品を巡ることで、地域の文化に触れる観光活動」としている。従って、旅行先で美術館巡りをしたり、各地で開催される芸術祭を訪れて現代の文化に触れることと解すことができるが、この辞書の記述内容では対象が少し限定的すぎるように思われる。
 次にアートツーリズムの現状について簡単に見ると、文部科学省の社会教育調査によると、全国には1,064館の美術館があり、年間の入館者数は3,072万人となっており、数多くの人々が美術館を訪れていることが分かる。実際には美術館に近い居住地の人々が訪れているのか、旅行先での行動かは不明であるが、魅力的なスポットであることは確かそうである。入館者数の1位は国立新美術館で285万人、2位は金沢21世紀美術館で255万人となっており、2位の金沢21世紀美術館は兼六園の斜め向かいの立地である。また、じゃらんnetによる全国美術館人気ランキング調査では特徴のある美術館や話題性のある美術館が上位にきている。具体的には三鷹の森ジブリ美術館や大塚国際美術館、鳥取砂丘・砂の美術館、箱根ガラスの森美術館、彫刻の森美術館などの旅行者の視点で評価が高い施設が上位を占めている。
 青森県の各地には様々なタイプの美術館が分布しているが、人口10万当りで見ると全国20位前後(0.99館/10万人)で極端に多いわけではない。人気の美術館ないし印象に残る美術館としての評価は高い。旅行情報サイトのトリップアドバイザーが発表した「旅好きが選ぶ 日本人に人気の美術館・博物館ランキング2020」(口コミの評価による)では、十和田市現代美術館が9位という好順位であった。また、トリップノートが発表した「会員が実際に行っている美術館ランキングTOP33(2020年9月時点)」によると、12位に青森県立美術館、14位に十和田市現代美術館がランキング入りしている。青森県の美術館の競争力は比較的に高い状況にあるといえる。
 欧米でも同様な傾向にあり、入館者数で見ると1位のルーブル美術館が740万人、2位のメトロポリタン美術館が700万人、これ以降に大英博物館、ナショナル・ギャラリー、ヴァチカン美術館が続いている。旅先での美術館訪問はキラーコンテンツとなっている。美術館巡りは景勝地や歴史的施設等と同様に、旅行者に訴えかける感動の活動であるといえる。
 次に、芸術祭については、美術館などにおける美術品の鑑賞活動とともに、野外展示や廃校舎、空き倉庫・店舗などに現代アート作品等を展示する形態で全国各地において実施されており、アートツーリズムの新たな推進力となっている。そもそも芸術祭の始まりは、1895年に開催されたヴェネツィアビエンナーレ(ビエンナーレ:2年に1度開催される芸術祭)といわれている。この国際美術展では、美術作品以外に音楽・映画・演劇などの部門も行われ、都市を挙げての一大イベントが開催された。その後、ヨーロッパの主要都市で開催され、1990年代に入ると韓国、台北、シンガポールなどアジア圏を含む世界各地で芸術祭が開催された。わが国の芸術祭の開催は、欧米諸国やアジアの先行国の後塵を拝する形となった。
 日本では文化外交政策として国際交流基金が主導する形でようやく2001年に横浜トリエンナーレ(トリエンナーレ:3年に1度開催される芸術祭)を開催し、2010年に愛知県の主導であいちトリエンナーレが開催された。横浜、愛知といった大都市で開催される芸術祭とは別に、地方圏でも芸術祭が開催されるようになり、2000年に越後妻有アートトリエンナーレ、2010年に直島を中心とした瀬戸内国際芸術祭が開始された。このような芸術祭は30~60万人の来場者を確保し、その経済波及効果が60億円を上回る場合も多く、全国各地で芸術祭が開催されることになった。青森県では青森市が市政100年を記念して1998年から名称を変えながらトリエンナーレを開催してきており、芸術祭開催の先行グループに位置している。その芸術祭は郷土出身の棟方志功の功績を踏まえて「版画」ないし「PRINT」がテーマとなったが、冬季のイベント開催や予算規模の問題、名称が定着しない等の影響で、必ずしも成功しているとはいえない状況にある。
 さらに、美術館や大規模な芸術祭ではないが、様々なアート活動を活用した地域活性化の事例が各地で見られる。先ず、三重県の地方都市である亀山市では、2008年から旧市街地商店街を会場に、全国公募型の現代アートイベント「アート亀山」を開催してきた。2014年からは会場を拡大し、3年に一度開催の「亀山トリエンナーレ ART KAMEYAMA 2014」を開始している。主催者は「アートによる街づくりを考える会」で、地元商店経営者、地元在住アーティスト、地元住民等により構成されており、女性会員が多く主導的な役割を果たしている。
 群馬県渋川市にある伊香保温泉は古くからある温泉であるが、温泉街は衰退の兆しが見られた。そこで2011年に「伊香保アートプロジェクト」が発案され、伊香保温泉旅館組合青年部と伊香保の石段街振興会、伊香保商工会青年部が中心となり「伊香保アートプロジェクト実行委員会」が組成された。具体的には「湯けむりとアート展」次代を担う世代の担当者たちが名乗りをあげ、コラボレーションが実現した。具体的には、伊香保の良さを再発見する大学生による「伊香保のお宝写真展」と、旅館・飲食店との作品制作による「湯けむりとアート展」の二つが実施され、歴史ある宿泊施設や石段に絵や写真が飾られて好評を得た。
 このように、大規模な芸術祭でなくてもコミュニティアート型イベントとしての芸術祭や小規模なアートプロジェクトでは、全国のどの地域でも開催可能といえる。青森県でもアートプログラムなどが各地で展開されており、東日本大震災からの創造的な復興をめざして「なんごう小さな芸術祭」が2011年からスタートし、その後新設された八戸美術館の活動に統合されることになった。また、青森県立美術館では農業とアート体験を掛け合わせた地域アートプロジェクトを展開している。さらに、田舎館村の田んぼは数多くの来場者を毎年集めており、現在では全国の多くの農村で類似の田んぼアートプロジェクトを実施する状況となっている。ここまで大がかりではなくとも、農村地域の道路沿いに案山子のオブジェを並べるイベントなども展開されている。いずれにしても、アートを活用した地域活性化では、経済的な利益よりも社会的な利益が大きな目的となっているといえる。

4. 青森のアートツーリズムの新展開

 経済活動が成熟化して生活の質を求める時代となり、アートに対する思いが着実に高まっており、生活の場においても旅行先での体験でも心に残る感動を求めている。ここでは青森のアートツーリズムの新展開として、主要の美術館の5館連携事業と街中アートの動向について紹介する。
 青森県には多くの美術館が存在しているが、主要な施設は弘前れんが倉庫美術館・青森公立大学国際芸術センター(ACAC)・青森県立美術館・十和田市現代美術館・八戸市美術館の5美術館である。簡単に各美術館について見ていく。
 先ず、弘前れんが倉庫美術館は、明治・大正期の煉瓦倉庫を建築家の多根剛氏が「記憶の継承」というコンセプトで改修した施設である。建築空間の魅力を最大限にいかして国内外の現代アートを紹介しており、文化創造の拠点をめざしている。弘前市出身の作家や在住芸術の作品も展示している。アートワークショップも盛んである。
 次に青森公立大学国際芸術センター(ACAC)は、建築家の安藤忠雄が設計した「森に埋没して隠れた建築」となっており、青森公立大学が管理運営している。八甲田山麓の自然と特徴的な建築が生み出す環境を活かして、アート・イン・レジデンス(滞在制作)と展示会、教育普及を3本柱としている。敷地内に野外作品が点在しており、自然散策しながら作品鑑賞ができる。 
 さらに青森県立美術館は三内丸山遺跡に隣接しており、シャガールや宗像志功などの作品を鑑賞できると共に、若者に人気の奈良美智の8.5m大の白い犬オブジェと対面できる。県下で一番に来場者数が多い美術館であり、様々なアートプロジェクトを展開している。
 また、十和田市現代美術館では現代アート作品を館内展示するだけでなく、野外でチェ・ジョンファの「フラワー・ホース」や草間彌生の作品に出合える。現代美術に特化した美術館として全国的に高い人気がある。
 最後に八戸市美術館は、2017年に閉館した旧八戸美術館が生まれ変わって2021年に誕生した施設である。「アートのまちづくり」を推進している八戸市は、「出会いと学びのアートファーム」として新美術館を整備した。美術展示が中心だった美術館とは異なり、人が活動して新たな文化創造を行う空間としての機能も担っている。八戸市や南部地域に根差した作品群も展示されている。
 このような様々な特徴を有する5美術館が連携して、2020年7月に「青森アートミュージアム5館連携協議会」を設立した。これにより「5館が五感を刺激する ―― AOMORI GOKAN ―― 」というプロジェクトが開始した。美術専門家は「5館もの美術館が連携できるのは青森だけ。バランスよく県内に美術施設がつながることで、アートの県というメッセージが発信できる」としている。そして、2021年2月、プロジェクトの一環として初のトークイベント「アート県/圏『青森』の挑戦!!」が開催され、様々な可能性が示された。今後のプロジェクト展開や活動状況等を発信している公式サイト自体も注目される存在となっている。
 将来的には5美術館が連携して芸術祭を開催することも想定され、芸術的な可能性に留まらず、大きな経済波及効果も見込まれている。
 次に街中アートの動向について紹介する。先ず十和田市では、2008年に美術館が開館し、2010年春にアート広場が整備された。また、官庁街通りにはストリートファニチャーが設置され、「Arts Towada」というアートによる街づくりプロジェクトが始められた。国内外30人のアーティストによる作品展示に加え、展覧会やワークショップ、地域と連携したプログラムが継続的に実施されている。冬季にはアート広場において「アーツ・トワダ ウィンターイルミネーション」が実施され、2020年秋からは「街なかアートマルシェ」が開催されている。さらに、秋冬に十和田湖近辺においてイベントを開催し、「十和田湖伝説」をモチーフとしたイルミネーションや、光と音楽で演出されるプロジェクションマッピング等を見ることができる。
 八戸市には「まちづくり文化推進室」が設置され、「アートが持つ力で市民一人ひとりがまちづくりの主役として活躍する」をコンセプトに「アートのまちづくり」という観点で文化施策が推進されてきた。2011年には「八戸ポータルミュージアム・hacchi(はっち)」が開館し、市民と観光客が共に八戸を知ると共に文化交流することができる施設となっており、アートを単純な鑑賞の枠を超えたまちづくりコンセプトとしている。
 弘前市では「津軽・弘前という土地を再発見する」ことをテーマに掲げた市民参加型の展覧会が開催された。14組のアーティストの作品が、旅館・駅・弘前れんが倉庫美術館に併設するカフェ&レストラン等の様々な場所に展示された。「まちなかアートピクニック」というコンセプトでイベントが構成され、市が参画する中土手町まちづくり推進会議が実施している。
 五所川原市内にある「ギャラリーカフェ ふゆめ堂」では、カフェ内にギャラリーが併設されており、食事とアート作品の両方を楽しむことができる施設となっている。ギャラリーには、青森県内の陶芸家や画家、版画家等の作品が数日から数週間での入れ替わりで展示されている。居心地の良い空間の中で、ギャラリーのアート作品を楽しみ、オリジナルのスイーツとコーヒーを味わうことができる。

5. アートツーリズムの革新

 上述してきたように、ニューツーリズムの拡大の流れの中でアートに対する関心が着実に高まってきている。今後アートツーリズムを更に充実させ来訪者を増大させていくための方策について検討していく。
 第1の視点は、アートツーリズムの活動形態を拡充させていくことである。アートの芸術性の程度と鑑賞者か創作者かの2軸にそって6分野を想定してみる。芸術性はハイカルチャーとサブカルチャーに分かれる。ハイカルチャーだけがアートであると限定するのは難しいし、創作活動と鑑賞活動は連動していてアート分野においては両面性や同時性が認められる。作品鑑賞が中心の美術館巡りなどは第1領域で示され、参加者を募るアートプロジェクト等は第2領域である。現状では少ないが好事家が参加する撮影会などのツアーは第3領域となる。歴史的な街並みや建築物を巡るツアーは第4領域であり、既に各地で実施されている。第5領域の地域の連続文化講座などに参加する旅行企画は情報発信が乏しくほとんど見られない。第6領域の地域のフェスティバルや芸能、祭りには数多くの参加者が見られている。地域住民と観光客が共にアートを楽しめるように、様々な工夫を凝らすことが求められる。

 第2の視点は、アート対象の領域の拡大である。アート=美術館のイメージが強いので、絵画や造形、書画、陶芸、写真などを連想しがちであるが、建造物や庭園などもアートの範疇であろうし、イルミネーションやプロジェクションマッピング、打ち上げ花火などもアートということができる。生活の様々なシーンにアート要素が潜んでおり、如何にスポットライトを当てられるかが勝負となっている。第1の視点と組み合わせれば、アートツーリズムの世界は非常に広いといえる。
 第3の視点は、地域全体としてのアートツーリズムに対する取り組み戦略についてである。既に指摘したように、アートツーリズムの裾野は広い。旅行者がアート体験先を効率的に見つけ出すことは困難であり、結果として美術館や芸術祭、人気のお祭りなどに集中する結果となっている。広く各地に分布しているアート素材を一定程度まで組み立てて企画提案することが考えられる。前述した青森の美術館の5館連携事業はその出発点として有効である。しかし、アートツーリズムの範囲はサブカルチャーや様々な領域のアート体験を含むとすれば、新たな仕組みが創出されることが期待される。
 過去に、ドイツの地域観光振興の方策として街道沿いの観光地を訪ねていく「ロマンチック街道政策」が注目され、わが国でも試行導入されたことがあった。しかし、当時は旅行素材の範囲が狭く、魅力的な街道開発が難しくて下火になってしまった。アートツーリズムは先に見たように様々な潜在力を有しており、基本の5館連携ルートに補足的なアートプロジェクトや地域活動が連動することで面的な広がりを確保することができる。既存の景観素材や飲食、郷土資料館、祭り施設、工芸工房等の様々のアート要素を取り込むと共に、地域同好者との交流や地域ガイド、学校との連携などの仕組みを構築してテーマ別の街道ルートを整備することが期待される。
 第4の視点は、アートツーリズムに関する情報発信の方法である。仮に、アート街道が形成されても、旅行者や地域の人々に認知して頂く仕組みを準備しなければならない。アート街道MAPの作成や関連イベントなどの詳細情報をタイムリーに情報発信していく必要がある。近年のIT技術を活用してSNSなどで容易に必要情報を入手できる仕組みの構築とメンテナンス体制の確立が望まれている。