大阪市 戸籍業務、精査スムーズ
大阪市は18年3月に東淀川と浪速の両区役所の戸籍業務でAIを活用するモデル事業「職員の知恵袋」を始めた。
戸籍業務は「出生」「婚姻」「転籍」など36項目の届け出書の内容を精査し受理する仕事。従来、担当者は判断に迷うと文献の検索や先輩や法務局に聞いたりしていた。法務局は回答に2-3週間かかることもある。市はこの判断過程にAIを取り入れた。
市のICT戦略室の中道忠和活用推進担当課長は「制度変更が少なく費用対効果が見込める」と話す。
市は約1,000万円をかけ、「出生」「婚姻」「離婚」を中心に1万8,000件の戸籍関連辞書をデータ化。検索画面にキーワードを入力し、参考文献を表示する。
「文献を探さなくて済む」との声がある一方、「若手やベテランといった職員の習熟度で使い勝手の評価は異なる」と言う。19年3月まで、データ最適化や再学習で検索精度を向上させながら実証。19年度は市内全24区役所に広げたい意向だ。
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これは2018年のとある新聞記事。
全国の自治体で初、行政業務にAI導入、話題先行によって多くの自治体から問い合わせが殺到し、担当の課長は講演の依頼などで本業が出来ないぐらいだったそうです。
さて、AIは便利なのか? 仕事は変わるのか? 人は減るのか?
これは、最後に解説させていただきます。
1. まず、どうしてこんなこと(戸籍業務にAIを導入する)がはじまったのか?
大阪市では、2012年から本格的な橋下市政が始まります。どうもIT・ICTを好まれたようで、人材を投入し予算をつけました。2016年には市長直轄の「ICT戦略室」なる「局」を設置し、「デジタルファーストで行政サービスの向上」などを打ち出しました。
そう、AIブームです。
2. では、なぜ戸籍が選ばれたのか?
例えば福祉でも良かった訳ですが、福祉は関係法が多い。さらに制度の改正が頻繁。
戸籍は明治から150年、制度が安定しています。次年度の春に制度改正……まずありません。データは紙ベースでも、入力すればいいので活用しやすかったのがその理由です。
3. 次に、現場でどういうことが起こっていたのか?
20~30年ほど前には、戸籍業務一筋20年、25年という職員がいました。戸籍の神です。
また、かつては事務研究会というものもありました。戸籍係の職員が集まり研究・研修をし、専門的でレアなケースに対応するノウハウを継承していくという訳です。
現在は人事異動のサイクルが非常に短くなっていて(そういうルールになっています)、長年の業務経験者が少なく、先の事務研究会的な会議もない。当局や職制に、そうした意識が希薄化しているのだと思われます。
4. では、専門的でレアなケースとは?
大都市ならではということになるかもしれません。
例えば、関西国際空港に降り立ったイタリア人と在日本のネパール人が、空港から南海特急「ラピート号」で「なんば駅」に到着し、最寄りの浪速区役所へ。婚姻届を受理してくれと、どうしたらいいのかとなる訳です。
このケースに対応しようとすれば、すべて紙ベースになります。
そう、加除出版の戸籍時報、テイハンの機関誌「戸籍」です。
これらはタイムリーな事案などが掲載されていますが、いつ・どこに掲載されたのかを知らないと探せません。
5. そこで、AIの活用イメージは?
今、何もないところに、戸籍に関係する文献や事案だけを読み込ませて、検索して、学習をさせる。
可能な限り正解に近い文書を探してこなければ、役に立たないということになります。
6. 行政業務用としての課題、ポイントは?
職員はシステム開発が業務ではありませんし、戸籍AIの精度を上げるための業務もしていません。例えば、戸籍業務20年、25年の職員が100人・200人で検索結果に○×を1年間つけ続けるなどという奇特なことをこなせば、精度は飛躍的に上がると思います。
2つめのポイントはデータの入力作業です。つまり、さきほどの写真。あのデータをすべて誰かが手入力してくれたら良いのですが。誰が入力し、誰がデータベースを作るのか。これが自治体業務にAIを導入する際には不可避であると思います。
3つめは、AIのレベルをどこに合わせるのか。戸籍1年目では、出てきた答えの意味が理解できない。さらにかみくだいた解説が必要になります。また戸籍20年職員でも知らないケースをAIに求めるとなると膨大な情報量が必要となります。
4つめは、AIが出してくる答えに100%を求めてはならないということです。AIの答えはあくまでこの中にあるかもしれないということです。受理したケースが、AIと一致しているのかを審査し決定するのは職員だということです。
<自治労中央本部の取り組み>
中央本部政策局視察 2018年10月2日
石上総合政治政策局長 徳永政策局長 榎本労働条件局長 永田書記 菅沼書記
・大阪市職員労働組合本部で概要説明
・浪速区役所、東淀川区役所で職場組合員との意見交換
(帯同:大阪市職本部役員、区役所支部連絡協議会常任委員)
組合員からは、「戸籍データ入力作業が膨大で通常業務に支障が出ている」「経験年数の浅い職員が調べる際には活用できるが大幅な業務改善にはならないのでは」など、現状課題と導入後の問題点を指摘する意見が多く出された。
7. 結果は?
大阪市役所HPの報道発表に掲載された文面
職員の業務支援におけるAIの活用事業について ―― 職員の知恵袋 ―― (事業終了)
≪ 本事業は平成30年度で終了しました ≫ |
2018年度で終了、特段の説明は記載されませんでした。
担当の課長は、「戸籍は失敗だったとは思わないけれども、ひとつの自治体がチャレンジするには必要なデータ量が膨大過ぎた」と話していました。なにしろ今回の予算は、業者に1,000万円しか払っていません。学習データが少なかったということです。
8. もしも、AIが導入されていれば……
最初の問いへの解説です。
① 便利なのか?
便利です。「ある程度」の答えが載っている情報に導いてくれるAIは、職員の役に立つと思います。
② 仕事は変わるのか?
仕事は少し変わります。考えたり、覚えたりすることが減ると思います。
一番危惧するのは、「AIがそういっています」と市民に答える職員が現れることです。
③ 人は減るのか?
職員は思っているよりは減りません。調査に時間を要する事務は時間短縮されます。
9. 最後に(今回のAI導入事案にふれ、少しAIをかじった個人的感想ですが……)
(1) AIは「恐れるに足らず」
郵便しかなかった時代のFAXやメールの導入とは違うように思います。
確かに、紙から電子へ移行することで、検索能率も上がるということがあるとしても、戸籍や福祉のエリアで全面的に展開できるモデルではありません。
生活保護の業務に助けになるかというと、それも疑問です。職員の頭の中に蓄積された経験知は、AIに学ばせることは出来ません。
保健師が感じ取る、検診に来た子どもの様子、異変、疑われる障がいや虐待などに、AIの画像認識が役に立つでしょうか。人権の観点ということだけでなく、そこまでの情報を入力することも困難ではないでしょうか。類型化できないのです。
私たちは、声のトーン、匂い、例えば着衣の雰囲気など、五感以上のものを働かせて業務にあたっています。
(2) AIは「使うもの」
AIを使用して間違いや調べものの時間を減らせても、市民への説明責任は職員という人間にしか出来ません。質の高い行政をめざすなかで、AIとの共存は否定しませんが、あくまで職員の業務を効率化するために使うのであり、職員の集合知や経験値がAIを上回っていないと業務が遂行できないことを当局や職制に認識させなければなりません。
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