【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 "「はたらく者の環(わ)」が持続可能な社会をつくる"と題して、「環境意識(低炭素・リサイクル)」が「ワクチン(感染症予防)」そして「ワーク(雇用創出)」へと働く者を通じてつながり、循環していき、持続可能な社会を作るというものです。



"「はたらく者の環(わ)」が持続可能な社会をつくる"


広島県本部/府中町職員労働組合 加計 康敬
三村 正義
近藤 一郎
清水 章博
小坪 卓也
末信 彰洋

1. エコキャップ運動から始まった

(1) エコキャップ運動とは
 エコキャップ運動とは、ペットボトルのキャップを回収して、そのキャップをリサイクル原料として再資源化を進め、キャップの売却益で開発途上国の子ども向けポリオワクチンとして寄付することを掲げている運動です。
 430個(1㎏)を約10円として計算しており、860個(2㎏)で約20円、約1人分のポリオワクチンを購入できることになります。この運動は、年齢に関係なく誰でも参加でき、社会貢献できる取り組みです。
※ ポリオ(急性灰白髄炎)は、ポリオウイルスが人の口の中に入って、腸内で増えることで感染します。主な症状として手や足に麻痺があらわれ、その麻痺が一生残ってしまうことがあります。海外では、依然としてポリオが流行している地域があります。

(2) 府中町職員労働組合では
 当職労は、広島県労働者福祉協議会が取り組む「エコキャップ活動」に賛同し、2019年から取り組みを推進してきました。
 役場本庁舎や出先機関にエコキャップ回収箱の設置を手配し、エコキャップ運動のチラシを作成して組合員に周知するとともに掲示板に設置する等エコキャップ運動をスタートさせました。
 これまでの実績は、109,393個(254.5㎏)で約127人分のポリオワクチンを購入できたことになります。(2022年3月時点)
 なお、今後回収箱の設置場所をさらに増やし、その取り組みを広げていきたいと考えています。

【これまでの実績】1㎏を430個で計算。860個でポリオワクチン1人分購入可能

(3) 住民の参加
 組合掲示板のチラシを見たり、噂を聞いたりした住民が家庭等で集めたキャップを組合に持ってきてくれるなど、少しずつ地域にも浸透してきており、活動の環(わ)が広がっています。

(4) 環境(低炭素・リサイクル)にも貢献
 廃棄物として焼却するよりも溶解してリサイクルする方が、地球温暖化の原因とされるCO2(二酸化炭素)の発生をはるかに少なくするということで、府中町の環境団体である府中町脱温暖化市民協議会が取り組みの意義を認めてくれたため、運動が地域の取り組みとして認知され浸透してきているところです。

2. 障害者施設との連携・協力 

(1) 回収に伴う課題を解決
 エコキャップの回収は、プラスチックキャップが対象となりますが、中にはキャップ以外の異物が混入することがあり、これがリサイクルの妨げになっていました。
 この課題の解決に町内の障害者施設である「社会福祉法人 福祉の郷 なないろ作業所」が名乗りをあげてくれました。各公共施設に設置しているエコキャップ回収箱の中身を回収し、シールがついているものは剥がし、汚れを落とし、一つ一つキャップ以外の異物が混じっていないか分別し、運搬するという作業を担ってくれるというものです。これにより課題であった異物混入問題は解決することとなり、当職労としてはエコキャップ回収が進めば進むほど、また回収箱を設置すればするほど、エコキャップの回収が見込めるが、同時に異物混入も増えるというジレンマと異物除去の労力から解放されることとなりました。
 また、なないろ作業所に依頼し、組合から手数料を支払うことにより障害者の雇用創出につながることが分かりました。環境負荷を低減し途上国の子どもたちの健康と未来のためにと始めたエコキャップ運動が雇用の創出や仕事の増加につながるなんて、労働組合としてこれほど嬉しいことはありません。
 社会貢献、CO2削減、資源リサイクルの3つの目的に加えて、障害者雇用促進という新たな目的が生まれました。現在、当職労から一次的な集約先である広島県労働者福祉協議会に対して、広島県労働者福祉協議会からリサイクル施設までの運搬を障害者施設に委託できないかを提案しているところであり、また今後さらなる取り組みの展開をめざしています。

「社会福祉法人 福祉の郷 なないろ作業所」
【エコキャップの選別・運搬の様子】
【なないろ作業所ブログより抜粋】

3. 今後の取り組み

(1) 労働者の祭典「メーデー」における連携
 当職労では、連合が毎年開催する労働者の祭典「メーデー」において、若手組合員による出店を企画するとともに、町内障害者施設へも出店も呼びかけ、労働者同士が連携した取り組みを企画しました。残念ながら、新型コロナウイルス感染症の影響で中止又は規模縮小となり実現できませんでしたが、今後、新型コロナウイルスが収束したら、この企画を進めていきたいと考えています。

(2) 美味しいパン
 町内障害者施設である「特定非営利活動法人WINDえのみや」では、とても美味しいパンを作っています。
 あんパン、メロンパン、カレーパン、ソーセージパンなど種類豊富なパンを取り揃えており、とても美味しく、職員に大人気となっています。
 当職労では、定期大会等の組合行事において、WINDえのみやからパンを購入し、組合員に配布しています。
 定期大会等には、このパンを楽しみに参加する組合員も少なからずおり、当職労としても大変嬉しく思っているところです。
 また役場庁舎にもWINDえのみやの方が定期的にパンの販売に来ています。
 ただ、その販売形態は、受付カウンター越しのやりとりとなっており、それはそれで利便性はあるかもしれませんが、やはりあるべき姿は定置場で、販売してもらうべきであると考えています。
 当職労としては、組合事務所を販売の場として提供することを考えており、WINDえのみやに打診したところ、歓迎の意思を示されているところです。
 今後、月に1回程度、組合事務所でパンの販売を行い、機関紙等で組合員へ周知していく予定です。
 障害者施設と当職労の連携は、パンの売上の増加となり障害労働者の収入アップにつながるものと考えています。
 さらには、パンの味の向上、種類の増加等の飽くなき探求につながり、労働者としてのやりがいにもつなげてくれればと期待しているところです。

(3) 公務員として福祉の目線での仕事
 障害者であっても自らの力を最大限発揮し、色々な社会資源を活用しながら、働くことができる人は働けるようになることが望ましく、そのためには、働くための気持ちと力を身につけることが重要です。
 その上で、行政は、障害者が働くことを支えないといけません。本人の努力も必要ですが、障害者が働くための場所(仕事)を提供すること等の行政の支えも必要と考えます。
 自治体の厳しい財政状況を十分認識しつつ、行政の支援について執行部において議論を重ねているところです。提言としていくつか列挙することができました。(既に他市町で取り組みをされていることもあるかもしれません。)
・各種会議等のテープ起こし(筆耕翻訳)
・公用車の洗車
・入札制度における障害者雇用の評価
・町広報の配布
・庁舎清掃
・町平和式典で使用した折鶴の再生利用
・自動販売機の管理(飲料の補充等)

(4) 障害者施設の現場の声
聞き取り時の様子
左から小坪書記長、なないろ作業所福本さん、末釜さん
 エコキャップの回収を依頼している町内障害者施設に伺い、現場の声を聞き取りました。今回、なないろ作業所で働く職員お二人にお話を伺いました。
 「エコキャップの回収等については、これまで町内にある他の企業さんとやらせていただいてきました。この度、府中町職員労働組合さんからも話をいただいて嬉しかったです。長引く新型コロナウイルスの影響で、仕事も減ってきている中、こうしたエコキャップの取り組みにより仕事が増えることは、作業所の利用者さんにとってもありがたいことですし、何より利用者さんも喜んでいます。エコキャップは職員1人と利用者さん数人で回収し、分別は重度障害者のグループ10人程度で行っています。重度の障害を抱える利用者はできる作業が限られていますが、このエコキャップの取り組みは重度障害者でもできるのが良い点です。地域との密接な取り組みでもありますし、開発途上国でのポリオワクチンの購入にも繋がり、社会貢献できるということは非常に励みになっています。」

4. 結びにかえて

 これまで当職労は、気負わず、普段の組合活動の中でできることをしようと取り組んできました。その結果、エコキャップ運動から障害者施設との連携まで飛躍的に取り組みが広がりました。今まで取り組んできたことが、「すべての人に健康と福祉を」、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「働きがいも経済成長も」など国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」に繋がっていました。当職労の方針であり展望しているのは、「働くことに最も重要な価値を置き、誰もが参画し貢献する社会」です。持続可能とは、何かを「し続けられる」ということです。エコキャップ運動はまさに、「し続けられる活動」なのです。
 「し続けられる活動」により繋がった障害者雇用について、府中町で働く職員の労働組合として何ができるのか、執行部の中で議論を重ね、雇用創出について考えるようになりました。
 「公務員が福祉の目線を持つべき」ということは当たり前のことです。ただ、それをどう実践していくのかということを考えていかなくてはいけません。
 自治労は、市役所、町村役場などの地方自治体で働く職員のほか、福祉・医療に関わる民間労働者、臨時・非常勤等職員、公営交通労働者などで構成されている組織です。
 そのため、自治労運動には、公共サービスの向上、自治研、平和等さまざまな取り組みがあります。それらの一つ一つの取り組みを丁寧に進めるということが、SDGsを実現することにつながるのです。
 つまり、その運動はすべてSDGsに繋がっているということに当職労は気づいたのです。SDGsと言われても具体的に何をどうしたらいいのか分からないと思います。しかし、意外にもその答えは明快でした
 「自治労運動の一つ一つの取り組みを丁寧に取り組んでいくことが持続可能な社会を作ることにつながる」それが私たち、府中町職労が出した答えです。