1. はじめに
一般社団法人諫早青年会議所では、全国的に大きな社会問題とされている相対的貧困、中でも特に子どもの貧困が、諫早市においても早急に対策を必要とする地域課題であると捉え、2021年度の地域事業として「諫早こども食券プロジェクト」を企画し、実施しました。
2. 事業内容
(1) 本事業を企画した経緯
子どもの貧困支援を目的とした事業を企画するため、長崎県こども家庭課や諫早市こども支援課へヒアリングを行ったところ、諫早市では複数の主催団体により子ども食堂が開催されているものの、支援を必要とする子どもに対して開催場所や開催日数が絶対的に不足していることが分かりました。そこで、町中の飲食店と協働することで、子ども食堂の抱えるそのような課題を補う新しい仕組みを作れるのではないかと考えました。
(2) 事業概要
諫早こども食券プロジェクトは、諫早青年会議所が、諫早の市民、企業、団体、飲食店と協働して行う、新しいかたちの子ども・子育て支援事業です。子ども達は、市民や企業からの寄付によって発行される「こども食券」を利用して、市内の様々な飲食店でご飯を食べることができます。こども食券によって提供されるメニューは飲食店ごとに異なり、子ども達はホームページやパンフレットを見て好きなメニュー(お店)を選んで利用することができます。使用されたこども食券は主催団体である諫早青年会議所にて1枚500円で換金します。
(3) 事業構築において気をつけたポイント
・ 今後モデルケースとして地域を超えて広がっていくよう仕組みをなるべくシンプルにする
・ 支援の意識を広めるため、多くの市民を巻き込む
→ 幅広い市民からの寄付によって成り立つ事業にする
→ 町中(まちじゅう)の飲食店に協力してもらう
・ 関わる人々がそれぞれ無理のない範囲の善意を提供することで成り立つ仕組みにする
→ 1口500円から支援可能にする
→ 食事のメニューや提供方法は飲食店にまかせる
・ 偏見や差別につながらないようにする
→ 所得制限等を設けず、誰でも利用できるものにする
→ チラシやホームページ等のキービジュアルを明るくポップなものにする
・ 特に支援したい子ども達に直接的に届く仕組みを作る
→ 指定の配布場所に来ることで受け取れる「一般配布分」とは別に「ひとり親家庭応援分」を設け、諫早市母子寡婦福祉会会員の子ども達に毎月5枚ずつ直接配布する
(4) 実施期間
【寄付受付期間】2021年4月14日~8月31日
【こども食券配布期間】2021年5月10日~9月30日
【こども食券使用期間】2021年5月10日~10月30日
(5) こども食券のデザイン
3. 活動報告
(1) 実施状況
4月14日に公式ホームページを公開し、寄付金の受付を開始し、SNSでの情報発信やメディアへのプレスリリース、地元企業様に向けて説明会等を行い、支援を募りました。また、同時に、プロジェクトに賛同し協力していただける飲食店の募集も行いました。
全国的にも初めての取り組みということで、プロジェクトに共感してくださる方がどれだけいるか不安でしたが、受付開始から予想以上に良い反応をいただき、また各種メディアで大きく取り上げられたこともあり、順調に支援者と協力飲食店を集めることができました。
5月10日には食券の配布がスタートしましたが、配布会場となったホテルセンリュウともろおか幸盛堂薬局では、初日から多くの方がSNSや口コミなどで情報を知って親子で足を運んでくださいました。
「ひとり親家庭応援分」についても諫早市母子寡婦福祉会と連携し、スムーズに配布することができました。
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こども食券配布の様子(諫早市母子寡婦福祉会) |
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食券配布と同時に、協力飲食店での利用もスタートしました。各飲食店では「子ども達に喜んでもらえるなら」と、ステーキ弁当やトルコライス、ハンバーガーセットやお寿司など、通常なら(食券の換金額である)500円ではまず食べられないような豪華なメニューを用意していただき、子ども達やそのご家族に喜んでいただけました。特に「ひとり親家庭応援分」として食券を配布した母子寡婦福祉会の会員には、普段は外食をする機会がほとんどないような子どもも多く、喜びと感謝の声をたくさんいただきました。(次項参照)
(2) 利用者からいただいた感謝の手紙(一部抜粋)
・ おいしいごはんを食べることができて、すごくありがたかったです。飲食店の方や支援者の方に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。(14歳)
・ 牛肉のお弁当すごくおいしかったです。いつもは牛肉はなかなか食べられないのでとてもうれしかったです。すごくやわらかくて最高でした。とてもおいしいので、みんなにもすすめたいと思いました。また食べたいと思っています。これからもおいしい焼き肉作ってくださいね。いつもありがとうございます。(13歳)
・ どれもとてもおいしかったです。また、食べにいきたいです。子どもしょっけんをつかわせてくれたお店の方、ありがとうございます。(9歳)
・ お弁当をあけておどろく子どもの笑顔がとてもいやしになりました。コロナのために外で食べるという事がなくなり、久々に子ども達に笑顔が戻りました。(30代 母)
・ 母子家庭なので、外食があまりできないのと時間がなく、コロナのせいもあり、どこにも連れて行けませんが、こども食券のおかげで少しの時間、子どもと幸せになれます。とても感謝します。ありがとうございます。(30代 母)
・ どこの店員さんも、大したもうけにはならないだろうに、子ども達にニコニコしてお弁当を渡してくださいます(中にはメッセージ付きも!!)。子ども達もとっても喜んで食べてます。この企画をどんな気持ちでやっているか等、子ども達には、よく理解してもらうと同時に、将来、同じように困っている人がいたら、手助けができるような大人になってほしいものです。(年代不明 母)
・ 子どもが喜んで食べる姿を見る事ができて、とてもうれしかったです。家事をする時間が少なくなって子どもと話をする時間を多く作る事ができました。飲食店や支援してくださった方に感謝しています。ありがとうございました。(30代 母)
・ 「今日行く?」「いつ使おっかー?」など家族みんな楽しみにしていました!"もう今日はごはん作りたくない……"という日のお守りにもなっていて、何度助けられたことか……(30代 母)
・ 色んなお店に行ってみる事ができて本当に感謝です。去年コロナで仕事がなくなった時は子どもたちに「食べれるって幸せだね、食べれる事に感謝」と言っていたのに、選べて行く事ができるなんて……すごく助かってます。本当にありがとうございました。(年代不明 母)
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「子どもが学校で書いたんです」と、お母様が持ってきてくださいました |
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(3) 数値報告
寄付金総額 |
4,510,500円 |
支援者総数 |
170人(個人109人、法人61人) |
こども食券発行枚数 |
10,000枚(一般6,145枚、ひとり親3,855枚) |
こども食券使用枚数 |
9,322枚 |
協力飲食店数 |
のべ41店舗 |
(4) 本事業を実施する中での気づき
・ 経済的負担を和らげるだけでなく、家事負担軽減やそれによってできた余暇時間により親子のコミュニケーション増進にも効果があった
・ 飲食店側にも一定のメリットがあった(売上、集客、子どもの笑顔 etc……)
・ 寄付の受付について、インターネットを通じたクレジットカード決済や口座振込の対応が難しい方からの現金手渡しで寄付の申し出が多かった
・ こども食券の一般配布には子どもだけで受け取りに来ることは少なく、保護者同伴の場合が多かった
・ こども食券を受け取ってそのまま飲食店に食べに行く利用者は少なく、食べに行くお店や日時をじっくり検討した上で後日利用するパターンが多かった
(5) メディア掲載履歴
2021年5月1日 長崎新聞で紹介されました
2021年5月11日 NBC長崎放送「Pint」で紹介されました
2021年5月13日 NIB長崎国際テレビ「news every」で紹介されました
2021年5月18日 朝日新聞で紹介されました
2021年5月24日 長崎新聞で紹介されました
2021年5月24日 諫早ケーブルメディア「3SUNひろば」で紹介されました
2021年5月26日 NHK長崎放送局「イブニング長崎」で紹介されました
2021年6月9日 NBC長崎放送「Pint」で紹介されました
2021年6月11日 NHK WORLD-JAPAN Newsで海外に向けて配信されました
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2021年5月24日 長崎新聞 |
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2021年6月11日 NHK WORLD-JAPAN News |
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4. 本事業の継続について
「諫早こども食券プロジェクト」を実施する中で、支援者、協力飲食店、利用者、行政等から2022年度も本事業を継続してほしいという要望を多くいただきました。そのような中、地元のNPO法人から本事業を2022年度以降継承して取り組みたいという申し出を受けたことにより、2022年度以降の事業継続について道筋ができました。その後、諫早青年会議所会員数人が当該NPO法人に入会した上でサポートを行い、2022年4月よりこども食券プロジェクトが引き続き実施されております。
5. 最後に
今回の「諫早こども食券プロジェクト」を通じての最も大きな気づきは、経済的に困窮する家庭の子どもを助けたいと思っている方、何か行動したいとは思っているが何をしたら良いかわからない方、近くにそのような子どもがいるという現実を知らなかったが、知ったからには何とかしたいと思う方が、地域に沢山いるということでした。そうした大人達の思いを、本事業によって寄付や食事の提供という形で具現化できたことは非常に良かったと感じております。
また、子どもの貧困問題には「これをやれば解決できる」といった特効薬がないため、我々地域住民一人ひとりがこの問題について考え、地域全体で継続的な取り組みを行うことが重要です。そのような意味でも、今回、本事業に多くの地域住民を巻き込めたこと、そして、一度きりの活動で終わらず他団体に事業を継承できたことは、大きな成果であったと感じております。
今後、本事業が諫早にしっかりと根づき継続していくことはもちろん、一つのモデルケースとして地域を越えて広がり、発展することを期待しております。
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