【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 2018年度に28施設設置されていた公立幼稚園が、同年に策定された休園・統廃合基準により15施設となった2021年4月、大分市内で初となる公立の幼保連携型認定こども園が設置され、公立幼稚園と保育所の一体化が実現しました。本レポートは、公立施設としての認定こども園化に向けて発生した事象と課題について、まとめたものです。



公立幼稚園・保育所の認定こども園化と今後の課題
―― 公立施設が担うべき役割を考える ――

大分県本部/大分市職員労働組合・副執行委員長 利光 吉広

1. はじめに

 大分市は、2018年7月に策定した「大分市立幼稚園及び保育所の在り方の方針」(以下、在り方の方針)において、少子化の進行や市立幼稚園における園児数の減少、女性の就業率の上昇など、幼児教育・保育を取り巻く環境が大きく変化する中、望ましい集団活動が行える規模を確保しながら、子どもの「生きる力」の基礎をはぐくむ教育・保育の実践と多様な保育ニーズに柔軟に対応できる保育サービスの提供が求められているとして、公立幼稚園と保育所の一体化により、市内の13地区公民館区域ごとに公立の幼保連携型認定こども園を整備する方針を示しました。
 その後、2020年3月には「大分市立認定こども園設置計画」が策定され、計画に沿って2021年度には市内で初の公立認定こども園として「大分市立のつはる認定こども園」が開園されました。
 その公立認定こども園設置にあたっての労使協議や保育現場・事務担当職場の対応など、様々な視点から見た認定こども園化について、所見を含めて報告します。

2. 現 況

(1) 大分市の状況
 ・人 口 477,676人(2021年4月末現在住民基本台帳人口)
 ・保育施設 認定こども園  53(うち公立1) ※2021年4月1日現在
       保育所     72(うち公立13 ※1園はへき地保育所)
       小規模保育施設 16、 家庭的保育事業所 7、 事業所内保育事業所 4
       幼稚園     32 ※うち、新制度移行園20(うち公立17)

(2) 組合の概要
 ・組合員数 1,907人 ※2021年4月1日現在
  ※幼稚園教諭は組織外

(3) 公立保育所の職員配置基準(労使で確認した基準)
 ・正規職員配置基準(2014年4月1日から労使で確認した配置基準となる)

0歳児

1~2歳児

3歳児

4~5歳児

3:1

6:1

20:1

30:1

  ※上記に加え、各保育所に所長1人、主任1人、フリー1人(1保育所を除く)、特別支援加配4人
  ※別途、休日保育、一時預かり事業、繁忙期等の非正規職員の加配あり
 ・公立保育所の正規職員数 156人(のつはる認定こども園除く) ※2021年4月1日現在
  ※内訳は、保育士130人(所長13人は管理職)、調理員26人
  ※別途、事務担当課に保育士2人(1人は管理職)、子育て交流センターに保育士3人(1人は管理職)、しらゆりハイツに保育士2人(1人は管理職)

(4) 公立認定こども園設置提案前段の取り組み(当初予算交渉)
<子育て環境の充実に関する要求>(2018)
① 子ども・子育て支援法において、新制度の実施主体である市町村の権限と責務が法定化されたことから、公立教育・保育施設が子ども・子育て支援の専門機関及び行政機関であることを踏まえ、公立保育所が担う役割を確立すること。
 (回答)公立保育所が担う役割については、昨年(2017年)10月に設置した大分市幼児教育の振興並びに市立幼稚園及び保育所の在り方検討委員会における議論も踏まえ、市立幼稚園及び公立保育所の在り方の方針を策定していきたい。
② 公立保育所での新規事業の実施等については組合と十分協議するとともに、公立保育施設の維持・整備に必要な財源及び労使で確認した配置基準により正規職員を確保すること。
 (回答)公立保育所の新規事業の実施に係る勤務労働条件については、必要に応じて組合と十分協議するとともに、施設の維持・整備に必要な財源や正規職員の確保に向け努力していきたい。
③ 待機児童の解消や保育サービスの充実にむけた保育施策を講じるための予算を確保すること。また、保育士不足によるサービスの低下を招かないよう、各保育施設の実態に即した保育士の配置と勤務労働条件の向上をはかること。
 (回答)待機児童の解消や保育サービスの充実については、保育所入所希望者は大幅に増加していることから、すくすく大分っ子プランに掲げている数値目標の中間見直しを行い、将来的な保育ニーズを考慮しながら保育所の増改築や新規開設等の取り組みを進めるとともに、保育サービスの充実を図るための必要な予算確保に向け努力していきたい。

3. 公立認定こども園設置提案に対する取り組み

(1) 在り方の方針に関する当局主催の説明会(2018年7月)
① 公立保育所と幼稚園の整理・統合により市内13地区ごとに幼保連携型認定こども園を設置する
 ・ 公立保育所がなかった地区に公立認定こども園が設置される
 ・ 公立保育所と同数の認定こども園が設置される(へき地保育所は現行どおり存続される)
② 公立幼稚園の休園・廃園基準を策定
 ・ 入園児童数により公立幼稚園を休園・廃園する基準が示される
③ 公立認定こども園に求められる役割
 ・ 特別な配慮を必要とする子どもの教育・保育の充実、地域における子育て支援の拠点機能の拡充、幼保小連携の充実など

・以上の考え方を確認したうえで、設置計画(案)や職員の身分、職員配置基準、勤務労働条件などの見直しにあたっては、組合と改めて協議することを確認するとともに、認定こども園で働く職員の労働環境が改善される案を検討するよう強く求める。
・労使協議の場(検討会)を設置し、こども園化に向けた課題等の洗い出しを行っていくことを確認

(2) 市立保育所及び幼稚園の在り方に関する検討会(計4回)
 業務内容、地域における役割、配置基準の考え方、保育教諭の法的位置づけ、資格取得、こども園の一日のタイムテーブル、勤務形態・働き方、導入スケジュール、定員 などの課題整理

(3) 保育教諭等の任用及び勤務労働条件に関する労使協議(2020年1月、2月)
① 向こう10年間で市内13地区ごとに公立の幼保連携型認定こども園を設置する(3期計画)
 ・ Ⅰ期計画(2021~2023年度)として各年度1園ずつ幼保連携型認定こども園を設置
 ・ Ⅱ期、Ⅲ期計画は、案ができ次第、改めて協議する
② 保育教諭の職員配置基準について
 ・ 年齢ごとの定員に応じて、国基準に基づく職員数を正規職員で配置する
 ・ 3歳以上の各クラスは、定員を下回った場合も年齢ごとにクラス編成し、正規職員を配置する
 ・ 保育所の主任保育士に該当する主幹保育教諭を1人配置し、地区公民館区域内に2以上の私立施設がある場合、園外担当の主幹保育教諭として正規職員を1人加配する
 ・ フリーの正規職員を2人配置し、内1人は特別支援担当とする(特別支援を要する児童の有無に関わらない)
 ・ 特別支援を要する児童が5~7人在園する場合は会計年度任用職員1人を加配、8人以上の場合はさらに1人を加配する
 ・ 肢体不自由児が1~2人在園する場合は会計年度任用職員1人を加配、3~4人の場合はさらに1人を加配する
 ・ 定員を超えて児童の受入を行う場合は、会計年度任用職員を配置する
③ 調理員の職員配置基準について
 ・ 直営による自園調理を行う
 ・ 定員90人未満は正規職員2人、定員90人以上は3人(正規職員2人、非正規職員1人とし、2・3号の合計定員が90人以上の場合は正規職員3人)を配置する
 ・ 151人以上の定員設定を行う場合は、別途、配置人数を検討する
④ 職員の身分と勤務労働条件
 ・ 保育士全員を保育教諭に任用替えする(保育所に勤務する保育教諭は呼称を保育士とする)
 ・ 身分は教育公務員となるが、現行どおり行政職給料表を適用する
 ・ 認定こども園・保育所・幼稚園が併存する期間中、もともと保育士の保育教諭が幼稚園に勤務することは原則想定していない
 ・ 勤務形態は4週7休制とし、勤務ローテーションや週休日などの考え方は保育所と同様とする
⑤ 特別保育事業など
 ・ 休日保育事業や一時預かり事業(一般型)は、全園で実施せず、地域のニーズに応じて実施することとし、実施にあたっては組合と協議する
 ・ 延長保育や一時預かり事業(幼稚園型)、特別支援保育事業、医療的ケア児教育・保育事業は全園で実施する
・認定こども園に勤務する保育教諭については、義務教育等教員特別手当の支給を早急に検討する
・園ごとの定員設定や職員配置の考え方については、担当部局と組合・職場代表者で構成する検討会で、別途協議する
・認定こども園に移行後に廃止となる保育所の順序や時期については、将来的な地域の保育ニーズの見通し等を踏まえ、今後検討していく
・事務担当課の職員の労働環境改善策を講じる

(4) 任用及び勤務労働条件に関する労使交渉(2020年3月)
① 義務教育等教員特別手当について、認定こども園に勤務する職員に支給する
② 現行の勤務ローテーションは時間外勤務が前提となっているため課題と捉え、今後協議する
③ 園ごとの定員設定や職員配置の考え方について、検討会にて別途協議する
④ 給食については、直営で行う自園調理とする
⑤ 事務担当課の職員の労働環境改善策を講じる
⑥ 協議・交渉で確認した事項を遵守し、確実に履行する
⑦ 組合と確認した事項について、一方的な見直しを行わない
⑧ 職員配置基準を遵守し、必要な職員数を確保する
⑨ 公立施設の維持・整備に必要な財源を確保する
⑩ 確認書を交わす

(5) 労使による検討会(2020年5月)
① 定員と職員配置人数
② 開園時間と教育・保育時間
③ 一時預かり保育料、副食費などの設定
④ 園児募集、入園手続きなど

※のつはる認定こども園の概要(2021年4月1日現在)
 定員:0歳3人、1歳8人、2歳8人、3歳20人(12人)、4歳22人(12人)、5歳22人(12人)
    ※()内は1号の定員
 職員配置:正規職員13人(保育教諭11人→保育士8人+幼稚園教諭3人、調理員2人)
 (内訳) 園長(管理職)   1人
      主幹保育教諭    1人 ※地区内に私立施設が無いため1人配置
      保育教諭(フリー) 2人
      保育教諭      7人
      調理員       2人

4. 大分市で初となる公立認定こども園の誕生(実務上の取り組み)

(1) 事前準備
① 条例・規則等の例規整備
 ・ 関係部局とともに制定・改正する条例・規則等を抽出して整備
 ・ 教育施設であり保育施設であるため、事務手続きが複雑
 ・ 事務担当課内に各担当者を集めたプロジェクトチームを結成して対応
② 関係者への説明
 ・ 市議会への事前説明
 ・ 保護者への事前説明
 ・ 地域住民への事前説明
③ 1号認定子どもの募集・選考方法、弾力運用等の検討
 ・ 優先入園基準の作成(①在園児の兄弟姉妹 ②特別支援又は地域内の居住者)
 ・ 2号認定子どもとの弾力運用の検討
④ 施設整備
 ・ 老朽化対策と併せた施設改修
 ・ 保育所と幼稚園の保育室の使用方法を整理(黒板、ロッカーの形状、手洗い場など)
⑤ 教育・保育カリキュラム等の整理
 ・ 3歳児以上のクラスは、1・2号認定子どものカリキュラムの編成
 ・ 5歳児クラスでは午睡を廃止
⑥ 文書の様式や保存年限の見直し
 ・ 保育所や幼稚園と異なるため見直しが必要
⑦ 保育所と幼稚園で相互に教育・保育体験を実施
 ・ 職員が相互に体験することで交流を促進
⑧ 一時預かり利用料等の徴収方法を検討
 ・ 納付書で月ごとの支払いへ

(2) 大分市立のつはる認定こども園の開園
① 開園セレモニー・入園式
 ・ 1号認定子どもの入園と合わせて開園セレモニーを実施
② 視察対応など
 ・ 市議会の視察や報道などに対応

(3) 翌年以降に向けての開園準備
① Ⅰ期計画の残り2園の開園に向けての準備
 ・ 施設整備や保育所と幼稚園の職員・子ども交流などを計画

5. 今後の課題

(1) 地域における子育て支援の拠点施設としての役割の確立
① 地域の未就学児童や保護者への子育て支援策の検討
② 私立教育・保育施設との連携・情報共有方法の検討
③ 休日保育事業や一時預かり事業(一般型)などの実施の検討

(2) 公立保育所・幼稚園との情報共有
 誰が、いつ、認定こども園の勤務になっても対応できるよう、定期的な情報共有
 ※組合的な課題として、保育士と幼稚園教諭の加入組合が異なることから、両組織で連携方法を検討する必要がある

(3) 災害時の臨時的な保育の実施
 災害時に臨時休園となった施設のうち、保育が必要な児童の代替保育場所の確保の検討

6. おわりに

 日本の就学前児童の教育・保育体制は、所管省庁が文部科学省である幼稚園と厚生労働省である保育所が並存しており、対象児童の年齢や施設、人員配置の基準等が異なるという二元体制となっています。しかしながら、本来、保護者の就労といった家庭環境に関わらず、同じ歳の子どもは同じ内容の幼児教育・保育を受けられることが望ましいとの考えなどから、幼稚園と保育所を一元化しようとする「幼保一元化」が提唱されてきました。
 こうした中、少子化の進行をはじめ、家庭や地域を取り巻く環境の急速な変化に伴い、就学前の子どもの教育及び保育に対する保護者ニーズが多様なものとなってきたことから、2006年に「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(認定こども園法)」が制定され、「幼保一体化」が進められてきました。
 さらに、待機児童対策が重要視される中、2015年4月から「子ども・子育て支援新制度」がスタートし、幼保連携型認定こども園を中心とした認定こども園制度の改善がはかられたことなどから、私立保育施設は増加しており、大分市の認可施設は新制度施行前と比べて倍増しています。
 一方で、少子高齢化が進む中、今後は待機児童数や未入所児童数も減少していくことが想定されており、保育施設数も将来的に減少していくことが見込まれるため、公立施設が担う役割を明確にして、私立施設との連携により地域の教育・保育・子育て支援を推進する体制を構築することが求められていると考えます。
 このような状況下、私は労働組合や事務担当職場の一員として"保育"に関わってきたこの10年間は、現場で働く皆さんにとって大きく環境が変わった時期だったと思います。しかしながら、今後も環境は変わり続けると思います。
 変化する時代の中で必要なことは、現場の皆さんだけで考えるのではなく、労働組合や事務担当職場と一緒に考え、対策を練っていくということです。日常の"保育"に加え、私立施設には無い"公立施設としての役割"を見出していくことが、今後の保育サービスのカギになると考えます。目の前の子どもに何ができるかを考えながら、地域の子どもたちに何ができるかを、これからも一緒に考えていきましょう。

資料(新聞記事)