(玖珠町の概要)
玖珠町は、大分県西部に位置し、総面積は286.60km2、人口約15,000人の町です。
町内には、久大本線(豊後森駅、北山田駅)が通り、主要幹線道路として、東西に大分自動車道(玖珠IC)、国道210号線、南北には国道387号線が通り、福岡・北九州・熊本へ車で約90分圏内、大分市には60分圏内に位置する交通の要衝となっています。
九州では第1の河川である筑後川の上流、玖珠川が東西に貫流し本流や支流には「三日月の滝」「慈恩の滝」「清水瀑園」など、随所に滝や湧水地が見られます。
北は耶馬渓、南にくじゅう連山、東に約4,000haに及ぶ日出生台高原が広がり、豊かな山なみの懐に抱かれた、静かなたたずまいを醸し出しています。また、万年山、伐株山、岩扇山、鏡山などの山々が、玖珠盆地を取り囲み、全国でも珍しいメサ台地に囲まれた地域となっています。そして中山間部の盆地地形であるため、年間、日間ともに温度差が大きいことが特徴です。農産物にとって、この温度差が天然のマッサージとなり、実においしい実をつけてくれます。玖珠のお米は、JR九州クルーズトレイン「ななつ星in九州」の食材としても使用されています。
1. 自治研部の近況活動報告
新体制となった2021年10月以降、新型コロナの落ち着きもあり、少しずつ自治研活動を再開しはじめました。
5月5日のこどもの日に開催された日本童話祭では、玖珠川河川敷にて、水質検査の取り組み結果を載せたチラシ「地球環境は家庭から!」と、環境に優しい手作り石鹸を来場者に配布し、身近な川の現状や、環境保全の必要性をPRしました。実に3年ぶりの取り組みです。
そして、5月17日には2022年度の水質調査を実施。調査結果を載せたチラシを作成し、町内に新聞折り込みで配布しました。
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(手作り石鹸配布状況) |
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(水質調査状況・浦河内川) |
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2. 水質検査の課題
概要で触れた内容は以下のとおりです。
(1) 意 見
① 現在の調査方法で有効なデータとなり得るのか不明。
② 現在の実施箇所に県が定期的に行っている調査箇所と重複があり、実施回数や箇所の検討が必要では。
③ 毎年検査をしているという自己満足になっていないか。この検査結果を分析し、PRや次へ繋がる取り組みが必要では。
④ 学識経験者に有効なデータとなり得る検査方法等を相談するべきでは。
⑤ 川をきれいにする取り組みを、もっと町民に広げるべきでは。
⑥ 水質調査を10か所実施しているが、箇所を減らし、回数を増やした方がよいのでは。
(2) 課 題
① 調査箇所の再検討をする。
② 検査時期や実施回数等、調査方法を再検討する。
3. 学識経験者・水質監視者「プロフェッショナル」への意見聴取
(1) 学識経験者への意見聴取
大分県地方自治研究センター理事(学識経験者)であり、水環境についての開発経済学を研究されている山口大学の山本勝也准教授から、以下のアドバイスを得て、水質調査方法を検討することができました。
① 河川への関心や地元の玖珠川水系環境への関心喚起のためにも、今後も調査は継続していただければと思います。
② BODなどの化学的調査の重要性はもちろんですが、同時に「見た目の水質調査」のようなものを取り入れることも有効かもしれません。国交省では住民との協働による水質調査が実施されているようですが、この観点からの調査は、上記①にも関連して、住民の玖珠川水系への意識にも好影響を与える可能性があります。国土交通省の河川水質調査要領にも、河川の時間的特性と空間的特性を考慮した調査の必要性が指摘されています。
③ 前日の天候による水量の不安定さについては、現在のデータに前日の天候に関するデータが含まれるならば、一定の修正が可能ではないかと思います。現在でも天候や時間、季節による流量変化はあると思いますので、そうしたデータを用いて過去のデータに遡って一定の修正が可能なのかもしれないと推測します(専門ではないので、あくまで推測です。また、長期的には河川工事などがあって簡単ではないかもしれません)。
④ 調査地点についても、上記②の関連で言えば、住民が玖珠川に触れる機会の多いポイントを取り入れることなどが考えられるかもしれません。
⑤ 調査の最終目標の設定についてですが、安全な水源の確保はもちろんですが、やはり上記②と関連するように、玖珠川の水質・環境が改善することによる住民の河川への意識や地元への愛着など、より包括的な目標を設定することができればと考えました。
(2) 実務者への意見聴取
学識経験者に加え、実際、どうなのか? 玖珠町をはじめ、県下多くの水質監視業務に携わっている方の意見も伺いたく、水質検査を毎回依頼している公益財団法人大分県薬剤師会検査センター(以下「県薬剤師会検査センター」という。)から、以下のアドバイスを得て、調査項目を検討することができました。
① 調査基準値については、水質汚濁にかかる環境基準(昭和46(1971)年12月28日環境庁告示第59号)に基づき調査を行うことが有効だと考えます。
同告示では、2つの環境基準「人の健康の保護に関する環境基準」「生活環境の保全に関する環境基準」が設けられており、前者は人に毒性がある基準です。後者に河川の基準値が、5項目((ア)水素イオン濃度(pH)(イ)生物化学的酸素要求量(BOD)(ウ)浮遊物質量(SS)(エ)溶存酸素量(DO)(オ)大腸菌数)、その基準値による水質類型がAA~E類型と定められています。
さて、玖珠町職労自治研部の水質調査では、BODだけではなくCOD(湖沼)の調査基準値を採用していることは、どのような由来でしょうか? BODはそこに生息する生物による調査基準値、CODは化学物質による基準値です。CODは河川の基準値には含まれていませんし、河川の5つの基準値で調査すべきですが、これまでの調査も踏まえた上で今後も調査をするのか、しないのかを検討すればよいと考えます。
② 調査箇所数は検査費用とのバランスで決めるのが望ましいと考えます。現実問題、水質調査は検査費用が発生します。やみくもにただ場所や回数を増やせばよいというものではありません。なお、大分県は年間複数回の調査結果や環境白書を公表していますので、ご参照ください。
③ 場所の選定については、上流(本川や支川)と下流(本川や、支川との合流点)とを比較調査すれば結果がわかりやすくなりますので、1つの調査方法です。
4. 調査場所の検討・回数の精査について
自治研部は現在、下記の10ヶ所の水質調査を行っています。1971年の水質調査開始以来、ダム・道路造成、住宅開発などに伴う調査場所の追加や削除などの検討を重ねながら、玖珠の川の清流を守る取り組みの1つとして、継続してきました。
本町の流域には特に大きな汚染源はなく、生活排水による汚染が主体です。この中には、大分県が行う公共用水域の水質調査場所との近似地点があります。
(表1:2022年度の水質調査場所)
採水場所 |
類型(2022) |
備 考 |
① 中島橋下(玖珠川) |
AA |
一級河川。県が約2㎞下流の協心橋で調査実施。 |
② 滝瀬(玖珠川) |
AA |
一級河川。県が約3㎞下流の市の村橋で調査実施。
2020年7月の豪雨により巨石が大量漂着し調査が危険。 |
③ 昭和町(裏水路) |
B |
宮下都市下水路。水量が少ない。 |
④ 役場横(下水路) |
A |
渇水期は水が流れていない。 |
⑤ 青果市場前(下水路) |
C |
帆足都市下水路。 |
⑥ 門出(水路) |
A |
古後井路の下流部。 水があまり流れていないが流域人口が多い。 |
⑦ 塚脇本町(下水路) |
A |
塚脇都市下水路。 |
⑧ 胴力橋(森川) |
A |
一級河川森川の下流部。 |
⑨ 四日市叶田橋(太田川) |
AA |
一級河川太田川の下流部。 |
⑩ 平川眼鏡橋(浦河内川) |
AA |
一級河川浦河内川の下流部。
近年の調査箇所は「眼鏡橋」ではなく「平川橋」。 |
BODなどの基準値はもとより、川に棲む生き物によって水質類型が分かれています。
ABC順にきれいな水で、AAが最も良い類型です。 |
玖珠川の調査回数は、大分県が公共用水域及び地下水の水質測定計画に基づき年6回、協心橋、市の村(いちのむら)橋などを調べ、75%平均値などを用い、毎回の調査データを比較しながら測定値を決定しています。また、河川水質調査要領(案)でも年複数回の調査による平均値を調査結果とすることが前提となっています。このことからも、自治研部の5月の年1回の調査では、データ不足は否めません。一般的には水量が水質を左右するため、田の用水が増える5月、落水する11月、年2回とし、調査を続けたいと考えます。費用は増えますが、データ比較が可能となり、より正確な測定値を得ることができます。正確なデータを得ることができれば、きれいな水を守ることに繋がり、住民の貴重な財産となります。
ここで、玖珠川において、近似地点でのBOD年間平均値の経年変化による比較をした結果、大分県の調査結果と比較ができることが分かりました。
(1) 玖珠町内の玖珠川上流の調査箇所の比較
中島橋から、一級河川谷川、塚脇都市下水路などと合流し、約2km下流が協心橋です。
塚脇都市下水路の流入により、協心橋では軒並みBODが上昇しています。
(2) 玖珠町内の玖珠川下流の調査箇所の比較
滝瀬調査箇所から、一級河川山浦川の合流を経て、約3km下流が市の村橋です。
この約3kmの過程で、有機汚染が減少し、BODがおおむね低下していることがうかがえます。
以上の結果や、下記の事由により、追加場所、廃止場所を検討しました。
なお、市の村橋のすぐ上流では国道210号をはじめとする河川関連の災害復旧工事の最中でもあり、当面はその観測値を注意深く監視していく必要があります。
(表2:2022年度水質調査場所のうち、廃止する場所)
廃止する場所 |
理 由 |
中島橋下・滝瀬(玖珠川) |
県の調査結果と比較可能であるため。 |
四日市叶田橋(太田川)・平川眼鏡橋(浦河内川) |
上流部の道路造成が終了し、水質も安定しているため。 |
役場横(下水路) |
大規模開発行為が行われる土地がない。
常時、水が流れている訳ではないが、水質が安定しているため。 |
(表3:次回2023年度水質調査場所に追加する場所)
追加する場所 |
理 由 |
協心橋(玖珠川)
※表1 ⑦ 塚脇本町(下水路)と同箇所 |
住民との協働による水質調査に繋がる「見た目の水質調査」に取り組むべく、目視や、簡易水質検査キットを用いたCODの測定のみを実施したい(後段で記載)。
大分県が水質調査を行っているため、県薬剤師会検査センターへの検査依頼は考えていない。
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水質調査の依頼を5ヶ所、年2回として、現在と同じ費用となります。金額は税込です。
・(pH・BOD・COD・SS) 13,750 × 5ヶ所 × 年2回 = 137,500円
5. BOD・CODについて
さて、自治研部が水質調査開始以来、継続調査してきたBODやCODは、水の汚れ具合を数値化した基準値です。
BOD(Biochemical Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)は、微生物が水中の有機物を栄養源として増殖・呼吸する時、消費される酸素量を表した基準値です。数値が高いほど水に含まれる有機物が多く、水が汚れている状態であり、ひどい場合は酸素欠乏による悪臭発生源にもなります。そして、数値により川に棲んでいる生物も異なります。BODは一般的に、微生物の消費した酸素量を実際に計測しながら数値測定をします。
COD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)は、水中の有機物が酸化剤(過マンガン酸カリウムなど)により化学的に酸化される時、消費される酸素量を表した基準値で、数値が高いほど水に含まれる有機物が多く、水が汚れています。CODは一般的に、水中の有機物を酸化するのに消費された酸化剤の量を酸素に換算して求められます。
以下の数値が、食品をそのまま生活排水とした場合のBODの代表例です。
食品などの使用量 |
BOD (単位:mg/L) |
BODを5mg/Lにするために必要な水の量※1 |
しょうゆ(15ミリリットル) |
150,000 |
450リットル(浴槽約2.3杯分※2) |
牛乳(200ミリリットル) |
78,000 |
3,120リットル(浴槽約16杯分) |
使用済天ぷら油(500ミリリットル) |
1,000,000 |
100,000リットル(浴槽約500杯分) |
※1 BOD ÷ 5 × 使用量(単位:リットル) にて計算。
※2 浴槽1杯200リットル換算。
6. COD調査の由来とは
前段でBODの数値の代表例を記載しましたが、CODは明確な数値がありません。理由は後述しますが、数年前から課題となっていた「CODを今後調査するのか」の議論をするにあたり、BODやCODが環境基準の基準値となった経緯や法規制を以下にまとめました。
BODやCODは、表中⑤で「生活環境の保全に関する環境基準」として定められています。
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施行日 |
法名称 |
内 容 |
① |
1959年3月1日 |
公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法) |
公共用水域の水質の保全を図り、あわせて水質の汚濁に関する紛争の解決に資するため、産業の相互協和と公衆衛生の向上に寄与することを目的とし制定。法④の施行に伴い廃止。 |
② |
1964年7月10日 |
河川法 |
流水の正常な機能の維持(流水の清潔の保持を含む)が河川管理者の責務とされる。 |
③ |
1967年8月3日 |
公害対策基本法 |
これにより環境基準が定められ、基準⑤が1970年4月に閣議決定。また、公害対策基本法の実施法としての位置づけの法④が1970年12月に制定。法⑩の施行に伴い廃止。 |
④ |
1971年6月24日 |
水質汚濁防止法 |
国民の健康の保護及び生活環境の保全を確保するため、工場や事業場からの排水及び地下浸透水を規制し、公共用水域及び地下水の水質の汚濁の防止を図る。 工場や事業場を監督指導するために、特定施設の設置や構造等の変更をしようとする者に対して、当該施設に係る事項について事前の届出を義務付けるとともに、健康被害や生活環境の悪化の原因となる化学物質等について、排出水中に許容可能な濃度を排水基準として定める。 |
⑤ |
1971年12月28日 |
水質汚濁に係る環境基準 |
人の健康の保護及び生活環境の保全に関し定められている。環境基本法第16条に基づき定められている水質汚濁に係る環境基準のうち、人の健康の保護に関する環境基準については、公共用水域について27項目、地下水について28項目が、生活環境の保全に関する環境基準については、公共用水域において13項目が定められている。
⇒ BODは河川、CODは海域・湖沼の指標となる。 |
⑥ |
1972年6月22日 |
自然環境保全法 |
他の自然環境の保全を目的とする法律と共に、自然環境保全が特に必要な区域等の生物の多様性の確保、その他自然環境の適切な保全を総合的に推進し、国民が自然環境の恵沢を享受し、現在~将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与する。 |
⑦ |
1973年 |
水浴場の水質の判定基準 |
主要な海水浴場では海開き前に水質AA~Cが発表されるが、ふん便性大腸菌群数、油膜の有無、COD又は透明度のいずれかの項目が、表の「不適」に該当する箇所は「不適」な水浴場とされる。 不適の判定に際し考慮されるのは、ふん便性大腸菌群数と油膜の有無のみで、COD、透明度については上限値が設定されていないことから不適判定の際には考慮されない。 |
⑧ |
1985年10月1日全面施行 |
浄化槽法 |
浄化槽の設置、保守点検、清掃及び製造規制、浄化槽工事業者の登録制度、浄化槽清掃業の許可制度の整備、浄化槽設備士及び浄化槽管理士の資格制定等により、浄化槽によるし尿等の適正な処理を図り、生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与する。 |
⑨ |
1990年8月1日 |
玖珠町環境保全条例 |
3,000m2を超える開発や、水源と周知される地域で、水質の汚染、汚濁等のおそれのある事業等には、開発内容の事前協議、申請義務を定める。 |
⑩ |
1993年11月19日 |
環境基本法 |
法③を発展させ、環境保全に関する国の政策の基本的な方向を示すため制定。現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することと人類の福祉に貢献することが目的とされ、具体的には大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動やライフスタイルを見直し、環境にやさしい社会を築くため、国の環境政策の新たな枠組みを示す基本法律。これにより法③は廃止、法⑥は環境基本法に合わせ改正。 |
⑪ |
1997年6月4日 |
河川法の改正 |
法②の目的に「環境」が明文化され、「河川環境の整備と保全」が位置づけられ、住民との協働による水質管理(水質調査を含む)が必要とされる。 従来の河川水質調査等の目的に加え、以下4つの視点を目的に加えている。 ・人と河川の豊かなふれあいの確保 ・豊かな生態系の確保 ・利用しやすい水質の確保 ・下流域や滞留水域に影響の少ない水質の確保
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⑫ |
1998年6月4日 |
美しい山河を守る災害復旧基本方針(ガイドライン)の策定 |
法②改正に合わせ、河川内で行われるすべての災害復旧事業において、自然環境の保全に配慮した復旧を実施することを目的に策定。 |
⑬ |
2001年4月1日 |
浄化槽法の改正 |
法⑧改正により、浄化槽の定義から単独処理浄化槽が削除され、合併処理浄化槽のみが浄化槽と定義。 |
⑭ |
2002年4月1日 |
玖珠町環境基本条例 |
・「玖珠町環境保全の日」制定(7月1日) 当初は7月1日に住民参加の一斉清掃(玖珠川河川敷等)、現在は7月第1週日曜日に実施。 自治研部が行ってきた河川敷清掃が町の行事となり、現在では多くの住民が参加する活動となっている。 ・環境保全月間(7月) 地域の清掃等、環境を考える1か月間に制定。 |
⑮ |
2005年3月 |
河川水質調査要領(案) |
法②改正内容が河川水質調査の目的に反映される。 |
自然界では、有機物を微生物が無機物に分解する、「生分解」による自浄作用が働いています。そして有機物は、河川では流下し、海域や湖沼に滞留するという特性があり、流下する間に微生物が有機物を分解し、呼吸や増殖に必要な酸素の量を測るBODが河川の環境基準値の代表指標とされています。
一方、水の流れがほとんどない海域や湖沼の閉鎖性水域では有機物の分解に長時間かかるため、すべての有機汚濁の具合を測るCODが、海域や湖沼の環境基準の代表指標とされています。
この理由から、CODは河川の環境基準値となっていません。大分県も水質調査開始以来、BODを含む河川の環境基準5項目での調査を継続しており、河川ではCODを調査していません。自治研部の水質調査開始当初の調査場所25ヶ所にも、海域や湖沼は含まれていませんでした。
川でのCOD測定は余計なお金がかかり無駄だと言えばそれまでですが、川でCOD測定を行ってきたことは、大変貴重なデータです。またCODは表⑮にも「今後のデータの蓄積をおこない、河川水質管理の指標項目として調査すべきか、又は他の項目で代替すべきかを判断するために、調査をおこなう」水質項目の1つとなっています。
COD測定の由来は、長年の活動記録から、以下のとおり考察しました。
まず、水質検査開始当初の時期は、中性洗剤やし尿の垂れ流しによる汚染が進み、その汚染具合を以下の2項目で調査していました。
① 陰イオン界面活性剤(ABS:合成洗剤の有効成分で、泡立ちの原因となる物質)
② アンモニア性窒素(NH3-N:し尿の垂れ流しや蛋白質により生じる汚染物質)
かつては洗濯洗剤にリンが配合され、琵琶湖での赤潮発生原因の1つとされるなど、窒素化合物やリンなどによる富栄養化が深刻な問題となりました。それらを含む生活廃水が、玖珠の川にも流れ込み、深刻な汚染が発生したと想像でき、この窒素・リンを基準値とするCODの測定を行ったことがうかがえます。
次に、玖珠発電所の取水により玖珠川の水量が激減したことや、玖珠の川を流れている水量に比べて排水が多すぎると考えられる、との記録があります。したがって、玖珠の川では藻類が繁殖していたと想像できます。藻類は、光合成により有機物を生成する過程で酸素の生成、消費を両方行うため、BODの値が不明確になります。
そして、川の流れがほとんどないところでの水遊びや、川泳ぎ、魚捕りなど、現在よりも川と密接な暮らしがありました。CODはBODとの相関性はないとされるものの、そのような場所ではCODの調査が必要であったと推測されます。
つまり、現在もCODを調査していることは、過去のデータと比較し、玖珠の川が綺麗になり、水環境が改善されたことを示すデータの積上げに他なりません。玖珠町内の合併浄化槽使用率が約58%と県平均を下回っている状況もあり、今後の継続調査が妥当と考えます。
しかし前述した、CODが河川の環境基準値ではない点や、検査手数料(税込4,400円/1箇所)が水質調査費用全体の3割を占めているなど、まだ課題があります。
そこで、表⑮にある「住民との協働による水質調査」に繋げていく活動とするため、玖珠川においては簡易水質検査キットを用いた環境測定に新たに取り組みたいと考えます。これは、同表の測定方法(案)に示されている環境測定方法の1つで、部員自らの手でCODを測定することができます。これまでも気温、水温、当日の気候は調査当日にそれぞれの調査場所で調べていたため、それと合わせた調査が可能であると考えます。
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また、採取データをiPhoneで写真撮影し、アプリ内で採取データを数値化することにより、これまで蓄積されたデータとの比較も可能で、県薬剤師会検査センターへの検査丸投げ状態も脱せます。
この検査キットは、1箱50回分の試料が入っていますので1回1ヶ所として、COD調査50ヶ所分の費用の試算をした結果、簡易検査キットが安価で調査可能であることが分かりました。
注意点は、使用期限があることと、測定範囲があること、最初は検査慣れするために大量の予備を持ち運ぶ必要があることなどです。
測定範囲については、0~200mg/Lの測定範囲を網羅するため、過去の最大値もクリアします。
そこでCODの測定については、今後1~2年間の移行期間を設け、検査機関での測定とともに簡易水質検査キットを併用して測定し、それぞれの結果に相違がないか比較調査し、問題がなければ、簡易水質検査キットを用いたCODの測定に移行したいと考えます。
今後1~2年間の検査費用は増加しますが、その後の費用対効果が高まります。
① COD測定・50回(50ヶ所)を想定した費用試算
ア 簡易水質検査キットの費用試算
パックテスト5,060円(50回分)+専用カップ660円(10個)× 5 +送料=9,000円
(簡易水質検査キットに関する出典:株式会社共立理化学研究所HP)
イ 県薬剤師会検査センターへのCOD検査依頼にかかる手数料
4,400円×50箇所=220,000円
② 前段4.での試算に対して、
検査手数料(pH・BOD・SS) 9,350 × 5ヶ所 × 年2回 = 93,500円
上記に、簡易水質検査キットの購入費用(9,000円)を加えた合計 102,500円
が今後、簡易水質検査キットによるCODの測定に移行後の調査費用と想定されます。
① 2022年度の検査手数料(pH・BOD・COD・SS) 13,750×10ヶ所=137,500円
② 2023年度から今後1~2年間の検査手数料・費用 137,500+9,000=146,500円
※ 2022年度の、県薬剤師会検査センターへの調査委託項目
生活環境項目 |
1ヶ所あたり検査手数料・13,750円の内訳 |
① 水素イオン濃度(pH) |
1,100円 |
② 生物化学的酸素要求量(BOD) |
4,950円 |
③ 化学的酸素要求量(COD) |
4,400円 |
④ 浮遊物質量(SS) |
3,300円 |
金額はいずれも税込です。ここまで簡易水質検査キットによるメリットばかり記載しましたが、川の濁りやにおいなど、個人で違う感覚に頼った調査を行うことになるため、一定のマニュアルを整備します。
7. 数値だけにとらわれない、より目に見える水質調査を
河川水質調査要領(案)にて調査の必要性が指摘された「見た目の水質調査」を取り入れた住民との協働による河川水質調査に今後取り組むことを念頭に、費用、調査項目、調査方法を検討しました。
今後の方針としては、
① 「住民との協働による水質調査」に繋げていく活動とする
② 調査場所を10ヶ所から5ヶ所に変更する
(「4. 調査場所の検討・回数の精査について」中、表1から表2を除いた場所)
③ 年1回の水質調査を、年2回に変更し、精度の高いデータを積み上げる
④ 簡易水質検査キットを用いてCODを調査する
としていきたいと考えます。
検討中にはさまざまな方から助言をいただき、これまでの水質調査で蓄積されてきたデータが非常に有効であることを改めて理解することができました。
玖珠の川を清流にするため、私たちは、町民の皆さん、下流域に住まれる皆さんはもちろんのこと、次世代の子ども達にも誇れる取り組みを、今後も継続していくことを誓い、玖珠町職労自治研部としての報告といたします。
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