【レポート】

第39回静岡自治研集会
特別分科会 今、必要とされる公共サービスと自治

 2021年から全国で始まった新型コロナワクチン接種予約について、県の大規模接種、市の集団接種においても原則としてネット予約であること、コールセンターに電話してもつながりにくい等の問題が生じ、ネットに不慣れな高齢者層のワクチン接種予約ができない事態が生じていました。本レポートでは、ネットに不慣れな層でも、スムーズにワクチン接種予約を行えるよう地域に密着した公共サービスについて提言します。



「ワクチン接種予約支援」の取り組みについて
―― 地域住民に寄り添った行政窓口 ――

広島県本部/福山市職員労働組合連合会・公民館部会・コミュニティセンター部会

1. はじめに

 福山市では、ものづくり産業を中心とした経済成長に伴う急激な人口増加に対応しつつ、市民生活や福祉の向上・充実を図るため、公民館やコミュニティセンター・館、ふれあいプラザなどの地域交流施設を整備し、今日の地域社会をつくりあげてきました。現在、市内79箇所の公民館・交流館、13箇所のコミュニティセンター・館が社会教育・生涯学習・人権啓発を基底として地域住民とともに地域活動の拠点としての役割を果たしています。
 しかし、経済成長期(1970年代~1980年代)に整備された地域交流施設は、市民生活や社会福祉、人権問題など分野ごとに、それぞれの活動を支えるべく整備され、人口の急増・街の急速な広がりに対応すべく、市内一律的につくられてきました。それから約40年、市が保有する多くの地域交流施設が建築後30年以上を経過し、今後10年から20年の間に一斉に更新期を迎えることや、少子高齢化に伴う人口減少社会に突入し、社会保障関連費の増加や税収の伸びが見込まれないなど、市の財政状況は一層厳しさを増しています。このままでは現在の公共サービスを維持していくことが困難であることから、福山市では2015年6月に「福山市地域交流施設等再整備基本方針」が策定され、公民館やコミュニティセンター・館、ふれあいプラザの機能の見直しや集約化等、地域交流施設の再整備が進められ、現在に至ります。
 そのような状況の中、2020年から全国で新型コロナウイルス感染症が拡大し、福山市においてもそれは例外ではなく、感染者の増大に伴い、公共施設等についても利用が制限され、市民や団体の利用ができないことから、地域の行事や各種事業についても延期や中止の判断をせざるを得ませんでした。その一方、新型コロナワクチンについて、医療従事者等を対象とした接種が行われ、続いて高齢者に対するワクチン接種が始まりました。しかし、ワクチン接種の予約については、県の大規模接種、市の集団接種においても原則としてネットによる予約であること、コールセンターに電話しても回線が混雑してつながらない等の問題が生じ、ネットに不慣れな高齢者にとってワクチン接種予約ができない事態が生じていました。

2. 公民館・交流館、コミュニティセンター・館における取り組み

 公民館・交流館、コミュニティセンター主事においては、施設利用制限の影響により、業務自体を見直しをしている中、困っている市民がいることに対し、地域に最も近い存在である自分たちでできることはないかと模索していました。公民館部会、コミュニティセンター部会、人権生涯学習部会と市職労連合執行部を含め、議論をする中、高齢者へのワクチン接種予約のサポートであれば対応できるのではないか。2020年度中に公民館、交流館、コミュニティセンター・館では、オンラインで業務に対応できるようWi-Fi環境の整備及びタブレット端末を設置していたことから、自宅にネット環境がない、またはネットに不慣れな高齢者に対してこれらを活用した新型コロナワクチン接種予約をサポートできる環境が各館には整っているのではないか、まさに「今困っている地域住民を助ける必要がある」と意思統一する中、取り組みを進めることとしました。
 ワクチン接種サポートを公民館、交流館、コミュニティセンター・館で実施したい旨を当局へ提案し、協議を重ねるなか、市民サービス向上につながる取り組みであることから、実施することにつながりました。実施に向けては、ワクチン接種予約の開始時期から時間的猶予がほぼない中、市民への周知文書、事務のマニュアル等を整理し、2021年6月10日より「コロナワクチン接種WEB予約の支援」を開始しました。開始初日、市内の各公民館、交流館、コミュニティセンター・館で多くの市民が申請に来館し、計524件の申請をサポートしました。市民からは「コールセンターに何度電話をかけてもつながらず、困っていた」、「スマホの字が小さく、操作できない」、「アドレスが分からず、結局自分だけでは申請できない」などの課題を抱えた高齢者を支援することで、多くの感謝の声をいただくことができました。中には一人暮らしで頼れる人がおらず、電話がつながらない中、支援によって予約ができたことに安心して涙ながらに喜ばれた方もいました。しかしその反面、ワクチン予約分が予約開始日でほぼ埋まってしまったこともあり、予約ができなかった人も一定数いました。また、「市の予約システムが分かりにくい」、「集団接種の枠が少なすぎる」などの苦情を受けることもありました。


2021年6月11日 中国新聞

 これらをふまえ、福山市としてワクチンの3回目接種に向けては、ワクチン供給が不安定であることや接種の予約が取りにくい課題に対し、供給計画の早期提示と安定供給を国・県に要望し、ワクチン供給量や対象者数に応じた十分な接種体制(個別接種・集団接種)の確保、接種券の小まめな発送、コールセンターの回線確保や引き続き公民館、交流館、コミュニティセンター・館におけるWEB予約支援をしていく方針を掲げました。3回目の接種予約については、一度経験していることでもあり、ワクチン接種予約支援を始めた当初と比べ、トラブル等も特になく、スムーズに予約支援を進めることができました。

3. 今後に向けて

 公民館、交流館、コミュニティセンター・館は、地域におけるまちづくりや社会教育、生涯学習や人権啓発の拠点であることのみならず、地域に最も近い存在として、そして「地域に必要とされる施設」として、自分たちで何ができるか、どのようにすればよいのかを日々の仕事や組合活動を通じて議論し、実践を重ねてきました。
 高齢化社会や昨今のデジタル化社会の進展に伴い、高齢者世帯や障がい者など、行政のみならず様々な手続きをすることが困難な人は多くいます。地域に最も近い公共施設の役割として何ができるかの視点を持ちながら、コロナ禍だから何もできないのではなく、コロナ禍だからこそできることは何かという発想から、今回の取り組みが実現できました。町内会の減少や地域とのつながりの希薄化が全国的な社会問題となっている今だからこそ、これまで培ってきた現場力を最大限に活かし、今後とも地域に寄り添った取り組みを実践することが必要であると考えます。