【レポート】

第39回静岡自治研集会
特別分科会 今、必要とされる公共サービスと自治

 2019年12月に中国の湖北省で初めて確認された新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は、現在もなお、日本国内のみならず世界中で猛威をふるっています。私たちの生活は一変し、経済活動に制限がかかり医療現場のひっ迫は社会的問題になっています。
 本レポートにおいては、新型コロナウイルスで落ち込む経済や家計を支援するために2020年4月に閣議決定された特別定額給付金事業を活用した竹田市職労での取り組みの一例を紹介します。



特別定額給付金を活用した域内消費の促進について
―― コロナ禍における労商連携事業の一例 ――

大分県本部/竹田市職員労働組合・書記長 後藤 祥司

1. はじめに

 2019年12月に中国湖北省で初めて確認された新型コロナウイルス感染症は、依然として収束の兆しがみられず、日本国内においては80万人を超える方が感染し15,000人以上の方が命を落とされました。大分県内における状況は比較的落ち着いているとはいえ、医療現場や学校現場におけるクラスター感染が幾度も確認され、3,500人を超える方の感染と約60人の方の死亡が確認されています。現在、新型コロナウイルス感染拡大を抑制する手段としてワクチンの接種が頼みの綱となっていますが、ここにきて供給量を不安視する報道がなされるなど、私たちが安心して暮らすことのできる生活を取り戻すまでにはまだまだ多くの時間を要することが想定されます。
 この間、政府は新型コロナウイルスを抑え込むために緊急事態宣言を発令し、人流と経済活動を抑制してきました。しかしながら、経済活動の縮小は多くの労働者やその者の生活そのものに大きな打撃を与えてきました。事実、厚生労働省は、新型コロナウイルスの影響で解雇・雇い止めされた人は10万人を上回ると発表しています。雇用や景気の回復にむけた道のりは遠く、官民一体となった着実な歩みが求められています。

2. 特別定額給付金の概要と取り巻く情勢

(1) 特別定額給付金の概要
 2020年4月20日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定されました。その中で、迅速かつ的確に家計への支援を行うことを目的に特別定額給付金事業(参考1)が実施されることになりました。

(参考1:特別定額給付金の概要 ※総務省HPより一部抜粋)
(1) 施策の目的
 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定)において、「新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言の下、生活の維持に必要な場合を除き、外出を自粛し、人と人との接触を最大限削減する必要がある。医療現場をはじめとして全国各地のあらゆる現場で取り組んでおられる方々への敬意と感謝の気持ちを持ち、人々が連帯して一致団結し、見えざる敵との闘いという国難を克服しなければならない」と示され、このため、感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う。
(2) 事業費
 12兆8,802億93百万円
  給付事業費 12兆7,344億14百万円
  事務費 1,458億79百万円
(3) 事業の実施主体と経費負担
 実施主体は市区町村
 実施に要する経費(給付事業費及び事務費)については、国が補助(補助率10/10)
(4) 給付対象者及び受給権者
 給付対象者は、基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている者
 受給権者は、その者の属する世帯の世帯主
(5) 給付額
 給付対象者1人につき10万円

(2) 特別定額給付金を取り巻く情勢
 特別定額給付金事業が打ち出されて以降、有識者から「生活に困窮していない、議員や公務員は特別定額給付金を受給すべきでないのではないか」「自主返納すべきでないか」「寄付するべきではないか」など様々な世論(参考2)が吹き荒れ、その内容をマスコミは連日報道しました。当初は、公人ではなく私人が自身の考えを声高に主張するのみにとどまっていましたが、その主張に同調したのか公人や他県の労働組合からも同様な声が発せられるようになりました。

(参考2:特別定額給付金の取り扱いに関する意見の一部)
① 橋下徹氏の意見
 橋下氏は、「給料がびた一文減らない国会議員、地方議員、公務員は受け取り禁止をなぜルール化しないのか」と持論を展開しました。
② 高須克弥氏の意見
 高須氏は、橋下氏の主張に賛同し、特別定額給付金にとどまらず、「議員さんや公務員の給与が急激に減少し困窮しているのでなければ給与を止めるのが筋です」との発言を行いました。
③ 湯崎英彦広島県知事の発言
 湯崎知事からは、新型コロナウイルスの感染拡大防止策で休業などの要請に応じた中小企業への支援金に、「県職員から任意で集めた給付金を原資に検討する」との発言がありました。(翌日撤回)
④ 自治労神奈川県職労米倉尚人中央執行委員長の提案
 米倉中央執行委員長は、給付された10万円について「給付金の使途は一人ひとりが考えること」と断ったうえで、県職員に対して寄付を呼びかけ「困っている勤労者に届く形で使わせていただきたい」との提案を行いました。

 竹田市職労においても機関会議を開催し、特別定額給付金の取り扱いについて議論をスタートさせました。会議の中では、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいる地域事業者が少しでも元気を取り戻すことに寄与できるような取り組みはできないかに焦点があてられました。そのような中、2020年4月24日付けで自治労大分県本部書記長談話(参考3)が県内単組に発信されました。さらには、竹田市経済四団体から竹田市に対し、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営支援等に関する要望書」(参考4)が提出されました。

(参考3:自治労大分県本部書記長談話 2020年4月24日付け)

「一律10万円給付」に対する県本部書記長談話


1. 政府は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策案の一つとして、感染拡大前と比較して収入が一定程度落ち込んだ世帯に、現金30万円を給付する制度を示した。
 内閣府によると、給付を受けるためには、世帯主の月間収入が、2020年2月から6月のいずれかの月で、以下のどちらかを満たす必要があるとしている。
 ① 新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税均等割非課税水準となる低所得世帯
 ② 新型コロナウイルス感染症発生前に比べて大幅に減少(半減以上)、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税均等割非課税水準の2倍以下となる世帯等

2. この要件については、「わかりにくい」「本当に厳しくなっている人たちに必ずしも給付がいきわたらない、対象が全世帯の2割程度」「世帯主の月収で判断」といった問題が指摘されました。

 このような混乱した状況を受け、政府は4月20日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急経済対策の裏付けとなる2020年度補正予算案を組み替え、閣議決定した。その主な内容は、生活困窮世帯への30万円の現金支給案を取りやめ、全国民を対象に一人10万円の一律給付とした。

3. この「一律10万円給付」に端を発し、4月21日に広島県の湯崎知事は、「県職員も10万円の給付対象になっており、この活用も含めて聖域なく検討していく」と発言し、県の休業要請に応じた中小企業の支援の財源とする考えを示した。これには、「公務員にも家族や生活がある」とした抗議のメールや電話が2,000件以上寄せられ、湯崎広島県知事は、翌22日に発言を撤回した。
 また同21日、大阪府の吉村知事は、「明らかに収入の減っていない層がある。例えば僕、政治家、公務員。1円も給料が減っていない人にも同じようにやるのか」と、そういった人たちに給付は必要ないとの考えを示した。加えて、吉村知事の発言をフォローするように、橋下徹大阪維新の会法律顧問も『「給料がびた一文減らない国会議員、地方議員、公務員は受け取り禁止」と、なぜルール化しないのか』とツイッターを更新した。
 他方、埼玉県和光市の松本市長は、21日、「申請しないと国庫に溶けるだけ。全額市内で使います」と、ツイッターで投稿すると、各地の首長や議員から賛同する投稿が相次いだ。

4. 「一律10万円給付」問題が、知らず知らずのうちに私たち公務員労働者にバッシングとして向けられている現状の中、県本部として、地域の経済活動を少しでも活性化させる運動を起こすことが重要と考えます。国の政策が十分に行き届いていない地方の中小零細事業者やそこで働く労働者に如何に還元していくかを考えた時、私たち公務員労働者も、しっかり「一律10万円給付」を受け取り、そのお金をそれぞれ組合員が居住する市町村で消費することが地域経済の活性化につながるものと考えます。
 手法としては、「現金」や「地域商品券」で消費することとなりますが、各市町村の商工会や商業団体等と連携し「地域商品券」として還元することで、公務員が地域活性化に貢献している態度を見せることが最善と考えます。
 各自治体単組で労使協議を行い、一律の給付金を「受け取らない」や「回収する」という問題が起こらないように、しっかり地域に還元していく方策を議論することとします。

2020年4月24日

(参考4:新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営支援等に関する要望書)

竹田市長  首 藤 勝 次  様

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営支援等に関する要望書


 晩春の候 貴台にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
 竹田商工会議所・九州アルプス商工会・竹田市観光ツーリズム協会・竹田市商店街連合会における諸事業につきましては、平素よりご指導ご支援を賜り心より感謝申し上げます。
 さて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国・県が大規模イベントの中止及び不要不急の外出自粛を要請していることから、地域の経済社会活動は幅広い業種の中小・小規模事業者の経営が危機的状況に陥っています。特に、観光・宿泊・飲食店などへの客足が一気に激減したことにより、地域経済への影響は時間の経過とともに深刻さを増している状況にあります。
 また、現在、資金供給や雇用維持を中心とした政府の緊急対策が実行されていますが、刻一刻と経営が悪化する事業者からの相談は急増しており、倒産や廃業を防止するため、さらなる支援体制の強化と施策の拡充が不可欠であります。
 つきましては、竹田市におかれましても中小・小規模事業者に対して、雇用の維持、事業者の景気浮揚、需要回復に向けて、更なる格段のご配慮を賜りますようお願い申し上げます。
 この未曽有の困難に直面し、地域経済団体である竹田商工会議所並びに九州アルプス商工会をはじめとし、竹田市観光ツーリズム協会、竹田市商店街連合会は、政府、地方自治体との連携をより一層緊密化させ、地域における事業や雇用を守り、竹田市経済の底割れを防ぐため、引き続き事業者の皆様の力となり、活動を展開する所存でありますので何卒ご指導ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
要望団体          
竹田商工会議所       
 会頭  佐 藤 春 三  
九州アルプス商工会     
 会長  首 藤 文 彦  
竹田市観光ツーリズム協会  
 会長  井 上   隆  
竹田市商店街連合会     
 会長  都 築 員 守  

 この談話及び要望書を受け、竹田市職労では、組合員一人ひとりが、特別定額給付金一律10万円をしっかり受け取った上で、地域の経済活動の活性化に寄与することができる取り組み、すなわち、速やかに域内にカンフル剤である現金を供給する仕組みづくりはできないかという方針を決定し取り組むこととなりました。

3. 独自商品券「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」を発行

 竹田市職労は、独自商品券である「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」(参考5)を発行することを企画し実行にうつすことにしました。この取り組みを組合員のみならず職員全員の取り組みとして実現させるため、竹田市職員共済会理事会を招集し承認を得ることで特別職である市長・副市長・教育長をはじめ、竹田市課長会、竹田市消防職員協議会も足並みを揃え事業に取り組むとの確認をとることができました。当初は、竹田市議会にも打診し賛同を得ていましたが、独自商品券という性質上、政治資金規正法に抵触する可能性が払拭できないとのことで、市議会には本取り組みを応援するという立場での参画を促しました。
 仕組みはいたってシンプルで、竹田市職労が中心となり発行した独自商品券を特別職を含む職員が10万円を目標に購入し、竹田市経済四団体会員の事業所にて利用させていただき、竹田商工会議所及び九州アルプス商工会と連携し組合書記局で換金を行うというスタイルを構築しました。商品券発行枚数は、購入できる者が344人であり、1人10万円購入を目標にしていたことから35,000千円とし、速やかな利用を促すため利用期間は2020年6月~9月の4か月間に設定しました。
 事業がスタートするとともに竹田市経済四団体会員以外の事業者からも多くの問い合わせをいただき、対象店舗に加えていただけないだろうかとの相談を受けました。竹田市職労の目的は、竹田市経済四団体に限らず、域内での消費を促進することであったため、相談をいただいた事業者すべてに加入していただき事業を実施してきました。

(参考5:「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」事業実施概要 ※一部抜粋)

「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」事業実施概要

1. 趣旨
 新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛ムードの高まりから、竹田市内における「元気」や「消費」の低迷がみられる。竹田市職員共済会では、独自商品券を発行し特別定額給付金を原資として、会員が独自商品券を購入し、竹田市内で速やかに消費することにより街の活気を取り戻すことを目的とする。

2. 主催
 竹田市職員労働組合・竹田市職員共済会・竹田市消防職員協議会・竹田市課長会・竹田市議会

3. 協力
 竹田商工会議所・九州アルプス商工会・竹田市観光ツーリズム協会
 竹田市商店街連合会・その他本事業趣旨に賛同する事業者

4. 商品券事業の概要
名称 新型コロナに負けない たけたOneTeam券
発行総額 35,000,000円 ※額面500円の商品券を70,000枚発行
販売期間 2020年5月末日~2020年8月31日(月)
販売場所 竹田市職員共済会事務局(電話0974-63-3369)
 ※9:00~17:00(土日・祝日及び閉局日を除く)
購入対象者 竹田市職員共済会会員 344人
使用期間 2020年6月1日(月)~2020年9月30日(水)
取扱店舗 竹田商工会議所会員、九州アルプス商工会会員、竹田市観光ツーリズム協会会員、竹田市商店街連合会会員、その他事業者で本事業趣旨に賛同する事業者
商品券デザイン 別添のとおり(参考6
取扱条件 ① 額面(500円)以下を受領する場合は、つり銭は出さない。
 ② 商品やサービスの提供内容によっては、事前購入(前払い)に協力願いたい。※例:宴会の事前予約金の支払い 等
 ③ 換金は現金にて行う。
商品券特徴 ① 偽造防止のためのミシン線
 ② プレミアム性なし


(参考6:「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」商品券デザイン)

「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」デザインと仕様

1. デザイン
 ① オモテ面


 ② ウラ面


2. 仕様
 ① 偽造防止のため、商品券の中央付近にミシン線をいれてあります。
 ② ウラ面には換金をする際に、引換協力店の署名と捺印をいただく欄を設けてあります。

4. 事業の効果と検証

(1) 事業の効果
① 商品券発行額 35,000,000円(500円券×70,000枚=35,000,000円)
 ※ 発行額の決定根拠:竹田市職員共済会員数が344人だったため、1人あたり100,000円以上の購入を目標に35,000,000円分の商品券を印刷しました。
② 商品券販売額 31,650,000円(90.43%)
 ※ 内訳:個人308人 29,290,000円、課所室・団体8団体 2,360,000円
③ 換金額 31,524,000円(99.60%)
④ 協力店舗数 
 625店舗(内訳:竹田商工会議所管内303店舗、九州アルプス商工会管内322店舗)

(2) 事業の検証
 この間、大分県内において、新型コロナウイルスに関する様々な経済浮揚策が打ち出され取り組みがなされてきましたが、竹田市職労が中心となり取り組んだ本取り組みは、労商連携という観点から見たときに県内初となりました。新型コロナウイルス感染症対策に係る予算の補正などを待たずに竹田市職労独自の速やかな取り組みが実施できたことは一定の評価ができるものと考えられます。
 また、コロナ禍の中、組合員及び共済会員の家庭においても何かしらの影響を受けていたにもかかわらず、対象者344人、特別定額給付金総額34,400千円のうち、92%にあたる31,650千円が域内で消費されたという事実は、組合員が「地元のために何かできることはないか」という目的について、しっかり理解し動いた成果といえ、現金の域外への流出を防ぐ一助になったと考えられます。
 今回の独自商品券事業に呼応してくださる店舗もあり、店舗独自の商品券の発行やテイクアウトチラシの作成、店舗の紹介チラシの作製などが多くみられました。今回の取り組みをきっかけに個店の活力増進につながったことは当初の計画を上回る効果として報告できます。

5. 今後の取り組み

 新型コロナウイルスの収束が見えない中、まだまだ閉塞感がぬぐえない状況が続いています。竹田市職労においては、独自商品券事業である「新型コロナに負けない たけたOneTeam券」の実施とあわせ、飲食店支援として「今日はみんなでお弁当を注文しよう デリ弁デー」を火曜日と木曜日に設定し、現在もその取り組みを継続しています。
 また、竹田商工会議所や九州アルプス商工会の要望に応えていくため、GoToEatキャンペーン
おおいた味力食うぽん券(食事券)の販売促進を代議員会を通じて要請するなど、地元密着型支援を行っています。
 これからも竹田市職労においては、自治研活動を通して組合員ならではの事業を模索し、一過性ではなく継続的な労商連携事業を行うことによる地域の底上げと底支えにつながる取り組みを実行していきます。地域を守ること、それこそが「エッセンシャルワーカー」としての使命にほかなりません。

(報道資料1:大分合同新聞 2020年5月12日)
(報道資料2:大分合同新聞 2021年2月4日)