【自主レポート】
時短推進の一考察~予算編成のあり方
奈良県本部/奈良県職員労働組合・時短推進WG 坂野三輪子
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1. はじめに
私たちは、「国」でも「市町村」でもない、「県」という自治体のあり方を、行政という組織とは少し距離を置いた職員組合という立場から、のびのびと研究していきたいと考えています。言い換えれば、「県民という顧客」の顧客満足度の向上とともに、私たちがより生き生きと働ける仕組みづくりを研究する活動です。
様々なテーマが考えられますが、そんな中から、すぐにでも取り組めること、中長期での準備が必要なこと、といった優先順位を付け、具体的な方策を検討し、県当局に助言・提案していくといった政策提案活動を強化しています。
今年度は、「残業を減らすにはどうしたらよいか」という議論から、なぜ残業が生じるのか、どんなときに残業が多いのか、から始まって、個人の資質の問題、国から急な調査を言ってくる等々のワイワイがやがやを経て、私たちで研究を進め、改善提案のできる取り組みとして、「予算編成のシステムに問題があるのではないか」という仮説のもと、研究を進めました。
2. 現 状
時短推進の妨げとして考えられることは、
① 人員と業務量のアンバランス
② 業務のシステムの不備
③ 仕事の仕方(個人のやり方)が悪い
などです。個別事業毎に、業務量・システム・人員をチェックすることが必要です。これらのチェックを経て、ムリ・ムラ・ムダの排除が可能となり、時短推進が可能となります。
時短推進の取り組みとしては、「時短推進キャンペーン」などのムードづくりも必要ですが、抜本的な解決を図らない限り、時短の定着は困難です。今回は、予算編成時期になると、残業が特に多く発生しているという実態から、現行の予算編成システムに目を向けてみました。
まずは、「予算編成システム」についての検証です。
本県もご多分に漏れず、予算編成時期ともなると財政課の職員は泊まり込み状態となり、深夜のヒアリング、徹夜が当たり前というのが、良く見られる光景でした。また、説明のための膨大な資料づくりに忙殺されるという状況でした。
ただ、昨年から「経常経費」については、一定のルールのもと、査定が行われなくなり、以前に比べると軽減化され、改善されてきている部分もあります。
しかし、晩秋ともなると残業に継ぐ残業という構図は変わらず、特に、景気低迷による税収の低迷を受けて、事業見直し・経費削減を求める財政課との折り合いがなかなか付かず、堂々巡りの議論をしているケースも見られます。
現状の予算編成の流れは次のとおりです。
7月 夏期討論 シーリング
予算編成方針作成
経常経費、政策経費要求
財政課長査定・内示
総務部長復活要求
総務部長査定・内示
知事復活要求
2月 知事査定・内示 |
7月の夏期討論から始まり、シーリングを受けて予算編成方針を作成、経常経費、政策経費の要求を行います。財政課長、総務部長、知事査定及び、2回の復活要求という流れで、一部儀礼的な性格も否めません。
3. 問題点
現状を分析する中で判明してきた問題点がいくつかあります。列挙しますと、
① 予算編成に取りかかる時期が遅い。
② 予算編成方針の基礎となる知事の意向が十分伝わっていない為、途中で方向が変わることがある。
③ ルーチン的な継続事業にまで、一律に資料作成を求められる。
④ 財政課の業務が多すぎる。
などです。
これらの問題を更に掘り下げると、諸課題に対して、県として取り組む優先順位付けが不十分であるということができます。このことが、事業の優先順位による強弱が乏しく、一律の予算資料を求められることにつながっていると考えられます。
また、財政課の業務が多すぎるという点については、絶対、財政課でないとできない仕事なのかどうか、例えば、財政課の業務の1つに議会の質問のとりまとめがありますが、財政課でなくてはならないのかということです。質問には確かに予算面からの検討を要するものも少なくありません。しかし、それは1つのセクションとして、問われたときに財政課が答えるというスタイルでもいいように思います。
4. 提案する予算編成システム
前述の問題点を解決するキーワードの1つ目は、「平準化」です。
「平準化」には2通りが考えられます。年間スケジュールの中での時期の平準化と、職員間の仕事量の平準化です。前者は文字通り予算編成時期に仕事が集中しないようにもっと早い時期にできることはやっておこうという発想です。後者は現在財政課が行っている業務で、財政課でなくてもできる仕事は他に回してしまい、財政課は予算編成と執行管理に特化させようというものです。平準化してもなおオーバーワークの状態になるとすれば、根本的に人員が足りない、人員増以外には解決の手段がないと考えられます。
解決のもう1つの柱は、「事業評価システム」との連動です。これは、前述の「時期の平準化」を実現する大きなポイントです。4月早々、決算と同時に前年の事業評価を行い、継続事業であれば、事業評価で「良」のものは予算ヒアリングを省略するといった具合に活用すれば、実質的に4月から予算編成をスタートさせることになります。
詳しくは図1に示すとおりですが、簡単に流れを追ってみます。
4月 事業評価
事業評価をもとに継続事業を決定
経費区分決定
予算編成方針作成
シーリング
優先順位付け
査定(部局間調整)
2月 予算配分 |
これまでと大きく違う点がいくつかあります。
・実質的な予算編成が4月からスタートする。
・財政課長、総務部長、知事という3段階の査定をなくす。
・各部局で責任を持って、早い段階から、新規事業・見直しを要する継続事業の是非を検討し、事業間の優先順位付けを行う。
・財政課での査定は部局間調整のみ。
・国での予算が固まる時期以降に業務が集中しない。
このシステムが円滑に働くための条件として次の点が考えられます。
・事業評価を部局横断的に見る必要がある。
・予算以前の政策議論を活発に行う。
・各部局に予算作成の権限を任せる。
・予算編成方針作成時に知事の意向を十分確認する。
以上のような特徴を持った予算編成システムですが、実際の運用までにはまだまだ詰めていかなければならない点が残っています。
まず、前提となる事業評価システムの確立が必要です。例えば、道路の改良と、男女共同参画キャンペーンのどちらがより効果的かと比較するような場合の評価基準の確立が急務です。次に、これまでのように課題が与えられてから物事を考えるのではなく、自分が所属する部局では、行政課題は何で、どんな施策が必要かと常に考える姿勢をもっていくという意識の改革も必要になってきます。
5. 終わりに
こうして考えてきた予算編成システムの考え方を、過日、知事協議の機会に提案しました。知事からの反応は2つ。「よく勉強しているな」という感想と、「国の予算が決まらないと県の予算は組めないという事情から実現が難しい部分がある」というものでした。また、知事からは、「もっと検討を加え、より効果的なシステムの提案を期待する。」とのコメントもありました。
労使が共同で効果的な行政を作り上げていく、その車の片輪としての労働組合に求められる役割が大きくなっているという認識のもと、今後も提案する組合として活動強化を図っていきたいと考えています。
(参考資料) 財政課業務の見直しの視点
図1 【提案する予算編成の流れ】
・ 時短推進
・ 予算時期の業務の集中
・ 業務量の年間での平準化
・ 業務量の部署間での平準化
・ 予算編成のあり方の見直し
・ 事業評価の予算編成への組み込み |
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