【自主レポート】
東京都社会福祉事業団・児童養護施設における
「子どもの地域支援(ショートステイ)」の取り組み |
東京都本部/自治労都庁職員労働組合・民生局支部・むさしが丘学園分会 財前 仁
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1. はじめに
東京都では、福祉改革の名のもと施設の廃止、民間社会福祉法人への経営委託等を含めた改革案が出されている。そんな中、私たち現場で働く組合員は、自らが新たな施設改革を積極的に進めていく中で機能強化を図り、ショートステイや、グループホーム等の利用者援助の向上に向けての取り組みを行ってきた。今回、東京都の事業団施設としては初めて実施した「ショートステイ」について報告したい。
児童養護施設には、「養育機能」、「再養育機能」、「自立支援機能」、「家庭調整機能」、「地域支援機能」という5つの機能がある。その中で、入所児童以外を対象とする「地域支援機能」については、歴史的にほとんど実施されてこなかった。平成6年度から「ショートステイ」、「トワイライトステイ」の事業を民間3施設が開始して以来、平成12年度末の段階でも8施設で行われているのみである。また、児童養護施設以外では、母子生活支援施設等で実施されている。
現在各区市町村において「子ども家庭支援センター」の設立が相次いでおり、子育て支援の具体的な方策である「ショートステイ」、「トワイライトステイ」の需要が高まることが予想される。児童養護施設は、保護者から児童を一時的に預かって生活をさせることのできる施設としてますますその役割が期待され、「地域支援機能」の充実が求められるであろう。私たち事業団施設においても、今後は地域に施設機能を提供し、子育て支援をしていくことは避けて通ることはできないはずである。
むさしが丘学園では、平成13年度から小平市、平成14年度からは国分寺市も加え「ショートステイ事業」を実施してきた。先行している民間施設に比べてノウハウの蓄積もなく、手探りの状態で1年3ヵ月が経過した。この間の経過とそこから浮かび上がってきた課題をとおし、事業団施設における地域支援への取り組みについて考えてみたい。
2. 経 過
(1) むさしが丘学園での地域支援の取り組み
① 近隣の小学校のクラブ活動や、地域のバレーボールサークルへの体育館の貸し出し、PTAへの会議室の貸し出し、地域住民との交流の機会として学園祭の実施等を行ってきた。
② 学習ボランティア、大学のボランティアサークル等と児童との関わりも古く、地域の人が学園に出入りする状況は特別なことではなかった。
③ 自閉症児のケースが非常に多いこと、入所期間が短いこと(平均4年弱)が特色で、週末帰宅も頻繁に実施されてきた。
(2) 実施を検討し始めた根拠
① 平成9年1月作成の「養護施設運営計画」…児童養護施設の機能充実及び人的・物的資源の活用により「地域支援事業」への取り組みを明記
② 「都立児童養護施設の新たな展開をめざして」…「高年齢児童を含めた生活施設としての児童養護施設の機能、ノウハウを活かした地域支援事業(ショートステイ)」を行うことを推進。
③ 児童福祉法第56条の6②、「地域の実情に応じた積極的な支援を行うよう努めなければならない」
④ 「東京都福祉改革推進プラン」、「子どもが輝くまち東京プラン」、「平成4年度東京都児童福祉審議会答申」等の地域支援事業としてのショートステイの位置づけ。
(3) 実施までの経過
① 平成12年6月の園検討会で、地域子育て支援機能の強化を園の課題とし、子育て相談、ショートステイ、トワイライトステイの実施を目標とした。
② 同7月から8月にかけて小平市と東村山市と協議を開始し、その中で、小平市について具体化の要望があり、協議を継続してきた。
③ 同12月、小平市において「小平市子ども家庭在宅サービス事業について」(案)ができた。
④ 平成13年1月、小平市事業案の変更によりトワイライトをカットし、ショートステイのみの実施要請となった。
⑤ 同3月、局、事業団との協議を経て、「小平市の事業を東京都が受託し、事業団(むさしが丘学園)に再委託する」という方式で実施が決定した。
⑥ 同4月、「小平市子ども家庭在宅サービス事業」開始。
⑦ 平成14年3月、国分寺市と「国分寺市子ども家庭支援ショートステイ事業」受け入れ決定、同4月から上記事業開始。
3. 実施内容
(資料「東京都むさしが丘学園地域子育て支援事業実施要領」、「平成13年度小平市子ども家庭在宅サービス事業受託事業実施計画」、「国分寺市子ども家庭支援ショートステイ事業実施規則(案)」参照)
4. 現 状
(1) 利用状況(平成14年7月30日現在)
① 平成13年度
ア 利用人数 4名
イ 利用泊数 のべ23泊
ウ 利用時の理由
a 母が宿泊で研修に行くため
b 母が出張に行くため
c 保護者(祖父)の疾病のため
② 平成14年度
ア 利用人教 小平市のべ4名、国分寺市2名
イ 利用泊数 のべ31泊
ウ 利用時の理由
a 母の疾病のため
b 母が入院するため
c 母が出産したため(緊急の利用となった)
d 母の出張のため
e 父、祖父母が出張、母が疾病のため、
(2) 実施してみてわかったこと
① 利用者が少ない。
小平市には「子ども家庭支援センター」は開設されていない。したがって、身近な育児相談から利用に結びつけることが難しい。また、市民に情報が充分伝わっていない可能性もある(地域在住のオンブズマンの話から)。
国分寺市については、今年度から実施し始めたばかりなので今の段階では判断できないが、地域的に遠くなること等も考えられる。
② ショートステイを担当するアルバイトの確保が困難である。
計画的な利用があるわけではなく、時として緊急時の利用もあるため、アルバイトの確保が非常に困難である。今のところ、当学園で実習をした学生やボランティアをしている学生等に依頼しているが、連続して担当できず、日替わりで対応者が変わることもある。
③ 利用児童の負担
入所児童と違い、一時保護所を経由せず直接施設に来るため、特に年少児童の保護者との別れは精神的に負担が大きい。また、上記理由により対応職員が特定されないことにより、負担を増加させることもある。
④ 入所児童への負担
当学園では、自立支援型寮を除き1室9名定員での運営を行っている。居室が4つしかないことから、3人部屋ができてしまう現状である。そのような中で、ショートステイ利用児童を受け入れるということは、居室の狭さや、人数の多さからくる騒々しさ等が一層厳しくなる。特に高齢児童については、日頃から落ち着いて生活したいという要望がある中で、このような状況になるということの負担は大きい。
⑤ 職員の負担
1泊あたりの利用料金が13,200円となっており、給食費(1,212円)と光熱水費(420円)を除いた人件費は11,568円となる。このことから、1日2名の職員(@8,700円+交通費400円)を雇用すると予算はオーバーしてしまので、今年度から1日8時間で1名のアルバイト雇用となった。そのため、主に昼から夜にかけての対応をアルバイトが行い、午前中及び夜間は職員が対応することになった。結果として、寮担当職員の負担が増加した。
5. 今後に向けて
(1) ショートステイを実施している他施設の状況(児童養護施設、母子生活支援施設)
子ども家庭支援センターを併設している施設、ショートステイ用の専用電話回線が設置されている施設、受け入れの判断を独自に行うことができる施設、専従職員が配置されており、夜間や緊急での受け入れが可能な施設等がある。児童の送迎は、かなりの施設で実施されている(区や市で金銭的補助をしている場所あり)。
(2) 当面のむさしが丘学園の課題
① 小平市、国分寺市担当セクションとの連携を密にとり、広報活動の充実を図ること。
② 緊急時に対応し、かつ継続して利用児童の援助を行うため、専属的職員の配置を求めること。
③ 入所児童の負担軽減のため、居室の整備を行うこと。
④ 国分寺市が加わり利用児童の対象が広範囲になったことから、学校等への送迎体制を確立すること(国分寺市からは学校への送迎用に100,000円の予算措置がなされているが、どのように使用していくかは現在検討中)。
(3) 将来的な課題
地域の子育て支援は、自治体に先駆けて児童養護施設が主体的に実施しなくてはならないという性格のものではない。それは、児童養護施設が区市町村に均等に配置されているわけではないことからも明らかである。
そんな中、社会の子育てを取り巻く状況は、昨今の児童虐待の増加等に見られるように、危機的状況に瀕している。とりわけ、24時間の相談体制や、緊急時の保護体制等の需要は高いと考えられる。そのような中で、「子ども家庭支援センター」等、身近な地域での子育て支援体制の整備は急務であり、各自治体はその努力をする責務を負っている。
一方、児童養護施設は、その専門機能の一つとして「地域での子育て支援機能」を有している。したがって、入所児童の養育機能だけでその役割を果たしていることにはならない。日頃から、入所児童の保護者の対応を行っていることや、一時保護委託等正式入所ではない子どもの支援を行ってきたこと等から、児童養護施設には様々なノウハウが蓄積されている。時代の要請として地域の子育て支援が求められている以上、積極的にその機能を提供することは当然である。
ショートステイの実施を通して感じたことは、自治体の行政施策としての子育て支援は比較的新しい分野であり、施策の立案については検討の余地があるということである。私たち児童養護施設が地域の子育て支援に参加することの意義は、自治体からの要請によって施設機能を提供するだけにとどまらず、専門機能を有するものとして積極的に提言を行うことであり、また、実践を通して新たなニーズを掘り起こすことである(調布市や三鷹市では新たに駅前に支援センターが設置された)。そして、それらの実践を発信していく中で、最終的には各自治体の子育て支援施策を充実させていくことも不可能ではない。
今までの都立施設の枠では、様々な制約により実施が困難であった地域支援事業であるが、地元の自治体との協議が整えば実施できるという体制作りができ、少人数ではあるが利用者がいたということは大きな前進である。地元自治体との共同事業という私たちにとっては初めての試みであるが、地域に密着した施設作りをしていくためには、避けて通れないことである。今後は都立施設や児童養護施設等の枠にとらわれず、先駆的な試みを行っている様々な施設と連携を取り合いながらよりよい実践を行っていきたい。
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