【自主レポート】

私たちの取り組み「ふれあい収集」に向けた活動

奈良県本部/自治労香芝市職員労働組合

1. はじめに

 私たちの街、香芝市は奈良県の中部に位置し、大都市大阪に隣接したベッドタウンになっています。2002年4月末日で人口66,840人、世帯数22,384世帯で、毎月々増加の傾向となりながらも、一方で高齢化も進んでおり、その対策が大きな行政課題となってきています。また、私たちの清掃職場においては、財政悪化を理由にこの数年新規の採用が行われず、民間委託化への当局の圧力も強まってきています。このため、清掃事業の直営を守るために、自分たち清掃現場の労働者が「積極的に撃って出なければ」という、危機感を持っていました。
 そんな中、ごみ収集事業において、大阪市で高齢者等への行政サービスとして、「ふれあい収集」が実施されていることを知り、同じ自治労の大阪市従の仲間から様々な情報・資料等を教えてもらいながら、2002年4月1日から私たち香芝市の収集現場においても、住民サービスの一環として高齢者や障害を持った人に対して、戸口まで日々のごみを収集するための「ふれあい収集」を始めることとなりました。

2. ふれあい収集対策委員会の結成

 このサービスの実現をはかるためには、職場の全員の理解と協力が必要だと考え、日常のごみ収集業務が終了後、出勤者が全員そろった時点で職場集会を行うことにしました。その時、休んでいる人や業務で出席出来ない人のために、同じ会議を3日連続で行ったりし、またその後も何十回となく会議を開いたりしながら、意思統一を図った後、ふれあい収集対策委員会を職場のメンバー8人で構成しました。そして「ふれあい収集」実施に向けてのマニュアル作りを始めました。

3. 委員会では

 委員会では、大阪市のマニュアルも手本にしながら、まず香芝市としての対象者の範囲を決めることにしました。その作業の中では、介護保険適用者・身体障害者・独居老人、そして高齢者の対象年齢をいくつまでとすれば良いのか等戸惑いました。この対象範囲の設定によって、サービス申し込み件数も大きく変動することが明らかだったからです。
 私たちの働く香芝市収集センターの人員は46名で構成され、現在の経済不況による地方財政悪化や民営化の動きなどによって、この間、退職後の補充が行われないままにきています。この限られた人員の中で実施していくには、「いったい何件の申し込みが来るのか?」が大きなポイントになります。現在の人員体制を中心とした職場状況を踏まえた上の協議となりました。しかも、実施に踏み切れば失敗は許されないということで、現状の限られた人員の中で果たしてその取り組みが可能かという不安が何回となく生じました。しかし、委員会での論議を通じて、最初はサービス実施件数が少なくとも、後に対象範囲を広げていけば良いと決定し、スタート時点での高齢者の範囲は70歳以上を対象とすることとしました。次に業務的なことについては大阪市のマニュアルを手本とし、問題等が生じた時点で委員会で協議していくということでまとまりました。

4. 市民に対しての啓発

 現場段階でようやく具体的な実施計画が策定できた段階で、本庁の担当事務当局との協議を行い、2月5日の香芝市の「広報かしば・お知らせ版」で申し込み方法を掲載することに決まり、それに併せて申し込み期間を設けました。期間は2月12日から3月11日までの1ヵ月間ということで募集を行いました。しかし、市民への啓発方法がその「広報」のみだったせいか、当初は8件しか申し込みがありませんでした。申し込み件数が少なかったこともあり、申し込み期間が過ぎても継続して申し込みを受け付けることとしました。また、本庁担当課と「ふれあい収集」実施のについての周知方法について協議し、4月から市民に配布する「ごみカレンダー」に、「ふれあい収集」のことを掲載することで、年間を通じての啓発を行うこととなりました。

5. サービス開始に向けてのカウントダウン

 申し込みを受けて、ふれあい収集対策委員会では、申し込み者全員の状況を完全に把握出来るように事務作業に入りました。正確に申込者のニーズを把握することが、実施に当たって不可欠だと考えたからです。申し込みをされた方の状況・状態を把握し、記入するための「申込受付表」、それを管理するための「受付整理表」、現在サービスを提供している「サービス提供一覧表」等を作成し、ふれあい収集サービスの一歩を踏み出しました。
 まず、電話で申し込み受付が行われ「申込受付表」に記入していきます。住所・年齢等を記入し、さらに申し込み理由・訪問日も詳しく聞き、その後申し込みされた方については、ふれあい収集対策委員会の者が最低2人のペアで対象者宅を訪問します。その時にサービスの趣旨や内容を、申し込みされた方に理解してもらうまでやさしく説明し、「申込受付表」に記入していきます。ただし決してその場では決定せず、委員会に持ち帰りみんなで協議を行い、そこで決定していきます。こうした一連の作業すべてを現場の労働者の手で行っていきました。
 またその際、最も気をつけなければならないことは、サービス対象者のプライバシーの問題です。状況把握の課程で家族内容や状況等が分かってくるために、どうしても対象者のプライバシーの部分に触れることになります。対象者のプライバシーが完全に守られなければならないことは絶対の条件となっています。つまり、こうした「ふれあい収集」というサービスの実際の提供に至るまでの作業は、「守秘義務」を課せられている公務員だからこそできるものであり、サービスだということで、公務員としての自覚が問われる業務になり、また私たち現場労働者の実績を残す証しともなりました。

6. 現状では

 4月よりサービスを実施していますが、サービス対象者からの申し込み件数が少ないため、現段階では専用の「ふれあい収集車」1台で収集しています。そして、このサービスを受けている対象者のみなさんの反応については、「今までは、ごみを出すだけにヘルパーさんに来てもらうわけにもいかず、困っていたので本当にありがたい」等の声が寄せられ、大きな反響を呼んでいます。今後、対象年齢を下げるなどして対象者の数が増え、何10件・何百件となってくると、いずれは全号車でサービスを実施することになります。
 このサービスは「守秘義務」を課せられている自治体職員でしかできないため、業務の民営化への歯止めの一つにもなるものだと思います。また、サービス提供者宅への訪間時には「こんにちは収集センターです。今からごみを持っていきます。」と必ず声をかけ、同時に対象者の安否を確認することもしています。もし声を掛け、返事がなければ様子を伺い、ご家族等へすぐに連絡することができます。こうして、市民に対する行政サービスを広げることにつながっています。

7. さいごに

 なぜ私たち現場労働者が、「上」からの「指示」ではなく「現場」の「創意」で、このサービス実施に取り組んだかというと、私たちの仕事に誇りを持ちたいからです。現在、全国的・世界的になっているごみ問題について、私たちの専門分野で行政へ参画し、役割を果たそうとしました。現在私たちの収集センターは、香芝市生活環境課に所属しています。今までの「単純労務職」という言葉を名実ともに撤廃(香芝市では交渉ですでに職名変更はさせている)させ、私たち現場労働者の自信の確立と、行政的な位置付けにおいても事業所へと独立することを目標にしながら、今後は「ふれあい収集」においては妊産婦などへの一時的なサービス提供の実施など、さらに多様な市民サービスの実施に取り組むとともに、「ごみフェスティバル」など私たちの現場からの市民への「発信の場」づくりなど、これからも奮闘していきたいと思っています。

2002.6.25 奈良新聞