【自主レポート】

大阪市職の野宿生活者対策の取り組み

大阪府本部/大阪市職員労働組合

1. はじめに

 長期化する不況、それに伴う失業率の増大によって大都市を中心に野宿生活者(ホームレス)が増加しています。大阪市においても、市内全域に野宿生活を余儀なくされる人が急増(98年調査値:8,860人)し、大きな社会問題となっています。
 また、大阪市はいわゆる「釜ヶ崎」を抱えており、釜ヶ崎地域における「あいりん対策」事業も行われていますが、それと合わせて野宿生活者の市域全域への拡大にともなって「野宿生活者対策」としての取り組みが重要になっています。
 これまで、大阪市の対策は、国と大阪市をはじめとする関係自治体で構成する「ホームレス問題連絡会議」によってとりまとめられた「ホームレス問題に対する当面の対応策」を基本的な指針として、99年7月に設置された「野宿生活者対策推進本部」(自立支援事業、雇用創出促進、保健医療対策、地域環境整備の4部会も設置)を体制として、巡回相談事業、自立支援センター事業、特定公園における仮設一時避難所の設置、雇用創出事業等が行われていますが、課題解決には至っていません。
 大阪市職は、深刻化する野宿生活者問題が、福祉関連職場のみならず、保健施策、さらには公園・道路・河川など施設職場の組合員の業務に関わりを持つことから、総合的・抜本的な施策を市側に対して求めるとともに、政策提言を行うため関係支部組合員も参画した「野宿生活者対策プロジェクト」を2000年12月に設置しました。
 「野宿生活者対策プロジェクト」では、8回のプロジェクトを開催し、関係職場での野宿生活者問題について対策の現状と課題をまず相互に共有化するとともに、自立支援センター、仮設一時避難所等の施設見学も行いながら、総合的・抜本的な施策実施に向けた議論を行い、2001年5月「大阪市職野宿生活者対策プロジェクト提言」をまとめました。
 また、その提言を参考に2001年12月3日大阪市従との共同で市側に対し、①大阪市の当面の対応策の策定と各施策内容に関わって9点、②現行事業における事業改善に関わって6点、③国への要望に関わって3点からなる「野宿生活者対策に関する申し入れ」を行ってきました。
大阪市職としてのこの間の取り組みを紹介します。

2. 野宿生活者問題に対する大阪市職の基本認識

 「ホームレス問題連絡会議」がまとめた「ホームレス問題に対する当面の対応策」は、あくまでも「当面の対応策」であり、「野宿生活者問題をどう捉えるか」という観点から出発した対応策には程遠い内容となっています。
 日本において野宿生活者問題は、一義的には大阪:釜ヶ崎をはじめとした、いわゆる「寄せ場」を中心とした日雇労働者の課題として捉えられていました。「豊かな日本ではまじめに努力をすれば野宿生活をしなくても生活はできる。野宿生活をしているのは、本人の努力がないから」というステレオタイプ的な市民意識に象徴されるように、野宿生活者本人の「自己責任論」としての捉え方が支配的であり、「野宿生活者問題をどう捉えるか」ということについては、十分な議論が行われてきませんでした。
 このような中で、野宿生活者に対する市民からの偏見や差別的な視線、就労にあたっても野宿生活者をあからさまに異質者とみる企業・社会の閉塞性等、野宿生活者は社会的に援護を必要とする対象者でないかのような極めて厳しい実態も明らかになっています。
 また、現場で対応する自治体労働者も、事業実施あるいは日常業務の中で、規則や条例といった側面と、人道的な立場から野宿生活者の生活権を確保しなければならない必要性の狭間に立たされながら、対応に苦慮しているのが実情です。
 このように、「野宿生活者問題をどう捉えるか」という点について、十分な議論と結論付けがなされないまま、まさに「当面の対応策」として施策が実施され、現場での具体対応に様々な影響を及ぼしていることから、改めて議論の出発点として、まず「野宿生活者問題をどう捉えるか」ということを整理することが重要です。
 野宿生活者問題については、経済システムからの疎外による貧困問題にとどまらず、基本的に戦後の政治・経済・社会システムの行き詰まりによる貧困問題として捉えることが妥当です。いわば、政治システムが問題解決の対象としてこなかったことに加え、社会システムからも排除を余儀なくされている人権問題も内包した「社会的な貧困問題」として捉える必要があり、「野宿生活からの脱却 ― 社会再参入」のための方策の確立が求められています。その視点から、中・長期的な施策・事業を検討し、実施していくことが重要であるといえます。

3. 大阪市職の取り組み

① 2001年1月まとめられた「野宿生活者(ホームレス)に関する総合的調査研究報告書;大阪市立大学都市環境問題研究会(以下、総合的調査研究報告書)」に関わる概数調査や聞き取り調査への参加(大阪市職約100人参加)
② 2001年3月16日「野宿生活者問題の抜本的解決に向けて ― 大阪市職講演集会」を開催(参加者324人)~(ア)プロジェクトでの議論の中間報告、(イ)「釜ヶ崎における保健・医療の現状と課題~大阪社会医療センターの役割と今後の課題」と題した大阪社会医療センター労働組合の宗書記長より現場の報告、(ウ)「野宿生活者の実態とその課題」と題した大阪市立大学教授の福原宏幸さんより講演
③ 2001年6月19日「野宿生活者支援法(仮称)の早期成立を求める国会議員要請行動」への参加
④ 同年6月21日「野宿生活者支援法(仮称)の早期成立をめざす決起集会」(連合大阪、当事者団体《NPO釜ヶ崎支援機構》等との共同集会)への参加
⑤ 「野宿生活者自立支援法」の早期成立を求める組合員署名(10,951名)
⑥ 2001年12月3日大阪市従との共同での「野宿生活者対策に関する申し入れ」
⑦ 自立支援センター・仮設一時避難所の入所者を対象に開催される靴の修理講習会(就労支援事業)にあたって、教材となる古い靴収集の取り組み(146足の提供)
⑧ 連合大阪シンポジュウムや近畿弁護士会連合会シンポジュウムへの参加
⑨ 自治労野宿生活者(ホームレス)支援対策会議への参画
⑩ 連合大阪・あいりん地区問題プロジェクト会議への参画
⑪ 「市民の健康と福祉対策協議会」(労使協議会:毎年度12月と3月開催)での市側の取り組み要請

4. 「大阪市職野宿生活者対策プロジェクト提言」

《資料参照》

5. まとめ(今後の課題と取り組み)

 野宿生活者問題は新たな都市問題として私たち自治体労働者に対して多くの課題を投げかけています。新たな問題であるがゆえに、それらに対応する法制度がなく、既存制度の活用では限界がある中で、その矛盾が行政の現場に現れています。
 長引く経済不況や、現在の「構造改革」の動きの中で事態はますます深刻化することが予想され、そうした時に、行政として対症療法的な対処のみならず抜本的な対策の構築が急務の課題になっています。
野宿生活者対策については、日本全国レベルでの広域的な課題であるとともに、雇用・福祉分野における関連法の改正や新たな法整備が必要であり、具体施策・事業にかかる財源の問題もあることから、自治体のみの対応には限界があり、基本的に国の政策課題として捉えなければならず、したがって、野宿生活者対策の基本理念や自治体と国の責務等を明確にした「特別立法」の制定を求めてきました。
 本年7月第154国会で「ホームレスの自立支援等臨時措置法」が成立しました。
 この法律では、就労機会や住居の確保等を国や地方自治体の「責務」として明記されており、一定評価できるものですが、一方で、強制排除につながりかねない規定が盛りこまれています。
 2001年12月に行った申し入れに対する市側の個別回答に関わって、法で規定された実施計画の策定に向けて、早期策定と実効性のある内容、さらに、排除の論理に立つことのない人道的立場での施策推進などこの間の経過を踏まえた大阪市の主体的な取り組みを求めていきたい。
 自治体現場では、施設管理の側面からの市民要望も多く出されており、今なお多くの問題を抱えながら現場対応が行われていますが、現場の矛盾解決に向け取り組むとともに、政策を提起していくことも、自治体で働く労働者の組合として重要であり、今後とも現場・支部と連携を図りながら市に対する取り組みを強めていくとともに、広く野宿生活者問題への市民理解を図るために運動的な視点からの取り組みを進めていきたい。

資 料

 

大阪市職野宿生活者対策プロジェクト提言 《2001年5月31日》

 

提言のとりまとめにあたって

 長期化する不況のなか、あらゆる業種において拡大していく雇用不安を反映して、大阪市においても、市内全域に野宿生活を余儀なくされる人が急増し、大きな社会問題となっています。また、建設日雇労働市場の縮小と日雇労働者の高齢化等による釜ヶ崎地域における増加にとどまらず、建設日雇労働等の経験をもたない、いわゆる非「釜ヶ崎」層が市内全域に拡大しており、これまでの「あいりん」対策としての行政対応だけでは問題解決がはかれないという、困難性を伴っています。
 このような状況のもと、大阪市は、99年7月に、野宿生活者対策を全庁的・総合的に推進するため、国と大阪市をはじめとする関係自治体で構成する「ホームレス問題連絡会議」によってとりまとめられた「ホームレス問題に対する当面の対応策」を基本的な指針として、市長を本部長とする野宿生活者対策推進本部を設置して、具体的な野宿生活者対策事業として巡回相談事業、自立支援センター事業、仮設一時避難所の設置、雇用創出事業等をおこなってきました。
 市職は、野宿生活者問題について、深刻な社会問題であり、啓発活動をはじめとした市民の理解と地域の協力が得られるような施策の検討とともに、人道的立場に立った総合的・抜本的な施策が必要であるとの認識のもと、とりくみを進めてきました。とりくみにあたっては、連合大阪のとりくみと連携しつつ、2001年1月に策定された「野宿生活者(ホームレス)に関する総合的調査研究報告書;大阪市立大学都市環境問題研究会(以下、総合的調査研究報告書)」に関わる概数、概況調査や聞き取り調査について関係支部の協力もいただくとともに、現場や支部における、この間の懸命なとりくみを受けて、「市民の健康と福祉対策推進協議会」を節目としながら、総合的・抜本的な施策としての「大阪市としての当面の対応策」の策定をはじめとして、具体施策の推進について市側の責任ある対応を求めてきました。
 また、労働組合としての主体的なとりくみを強める立場から、2000年12月に「野宿生活者対策プロジェクト」を設置し、政策提言の作成にとりくむこととしました。
 プロジェクトにおいては、総合的調査研究報告書等を基礎資料として、就労自立のための施策、保健・医療施策、福祉施策、住居施策、施策実施に当たって住民理解を得るために(NPO、市民団体との連携方策も含めて)等、野宿生活者の自立支援について、各施設見学を実施しながら集中的な検討・議論を積み重ね、本年3月に「大阪市職野宿生活者問題講演集会」において、その時点におけるプロジェクトとしてのとりくみ報告を行いました。
 今回、3月のとりくみ報告を基本にして、以下のとおり、プロジェクトとしての政策提言をとりまとめましたので報告します。

提言1 野宿生活者問題について「自己責任論」に帰結することなく「社会的な貧困問題」として捉えることを出発点にしよう

 野宿生活者問題について、欧諸国においては、居住権の確保によるセーフティネットの構築がなければ、あらゆる社会的なアクセスから疎外された状態としての野宿生活に至るため、その状態への可能性までを含めて課題認識し、「居住権」に重心を置いた捉え方をしています。
 一方、日本においては、一義的には大阪:釜ヶ崎をはじめとした、いわゆる「寄せ場」を中心とした日雇労働者の課題として捉えられていました。「豊かな日本においてはまじめに努力をすれば野宿生活をしなくても生活はできる。野宿生活をしているのは、本人の努力がないから」というステレオタイプ的な市民意識に象徴されるように、多くの人々にとって関係のない、野宿生活者本人の「自己責任論」としての捉え方が支配的であり、「野宿生活者問題をどう捉えるか」ということについては、十分な議論が行われてきませんでした。
 したがって、「ホームレス問題連絡会議」がまとめた「ホームレス問題に対する当面の対応策について」も、その内容はあくまでも「当面の対応策」であり、「野宿生活者問題をどう捉えるか」という観点から出発した対応策には程遠い内容となっています。
 また、大阪市における自立支援センター事業について、本プロジェクトで自立支援センターを訪問した際、偏見や差別的な視線から自立支援センターに入所をしていることを雇用主に言えない利用者の苦しさや、就労先の開拓の段階において、利用者をあからさまに異質者とみる企業・社会の閉塞性等、野宿生活者について社会的に援護を必要とする対象者でないかのような極めて厳しい実態が明らかになりました。
 さらに、事業実施あるいは日常業務のなかで、現場で対応する自治体労働者として、人道的な立場から野宿生活者の生活権を確保しなければならない必要性と、規則や条例の狭間に立って極めて苦慮しなければならない状況を生み出しています。
 このように、「野宿生活者問題をどう捉えるか」という点について、十分な議論と結論付けが成されないまま、まさに「当面の対応策」として施策が実施されており、現場での具体対応に様々な影響を及ぼしていることから、改めて議論の出発点として、「野宿生活者問題をどう捉えるか」ということを整理することが重要です。
 プロジェクトとしては、野宿生活者問題について、経済システムからの疎外による貧困問題にとどまらず、基本的に戦後の政治・経済・社会システムの行き詰まりによる貧困問題として捉えることが妥当であると考えます。いわば、政治システムが問題解決の対象としてこなかったことに加え、社会システムからも排除を余儀なくされている人権問題も内包した「社会的な貧困問題」として捉える必要があり、野宿生活からの脱却―社会再参入のための方策の確立が求められていると考えます。

◆就労自立に向けた施策関連

提言2 技能取得支援充実に向けた独自の職業訓練メニューの創設を

 求職と求人のミスマッチを解消することに向け、人材が不足している産業分野に対応できる人材育成のために、自立支援センターにおいて利用者のエンプロイアビリティ(雇用可能性のこと)を高めるとりくみが重要です。しかしながら、原則3カ月、最長6カ月の入所期間内で、技能取得支援としては大阪府常用雇用促進事業への参加やフォ-クリフト講習会への参加にとどまっているのが現状です。(技能講習メニューの実施時期、実施期間の問題から、フォークリフト運転技能講習等最初から限定されている)
 そのことをふまえ、自立支援センター事業向けの職業訓練メニューの創設や支援期間の延長等をおこない、利用者の状況に応じた柔軟な支援方策の検討が求められています。

提言3 社会全体で支える自立支援に向け、企業や市民への積極的な啓発を

 自立支援センターにおける現実の問題として、住所(居住地)や身元保証人が障壁となり、就労活動がうまく進まないケースが見られます。このことは、自立支援センター事業がまだまだ社会に認知されていないことと、野宿生活者に対して偏見をもった一般的な市民意識のあらわれと言えます。野宿生活者だから雇用しない、住民登録ができないから、住民登録地と生活地が異なるから雇用しないという実態は、人権問題の観点からも重大な問題であると認識するものです。身元保証人も、制度的には大阪市生活保護施設連盟による身元保証人制度(生活保護施設、障害者施設等26施設が加盟する、施設入所者の就職時、住居賃貸借契約時における身元保証制度)がありつつも、十分に活用できていないことや、事故保証の観点から親族保証を求められるという実態が明らかになっています。
 これらは、野宿生活者を社会的に排除している一つの例でもありますし、このことへの対応として、企業・市民に対して、野宿生活者問題が「社会的な貧困問題」であること、自立支援センタ-の制度内容や存在意義、利用者の就労意欲の高さ等について、行政の責任として十分な啓発活動を実施することが重要です。

提言4 雇用創出促進施策の推進にあたっては、国・府・市の連携を強めよう

 公的な雇用創出事業としては、既存の大阪市の単独事業と国の緊急地域雇用特別交付金を活用した釜ヶ崎における高齢日雇労働者対象の生活道路清掃事業、仮設一時避難所入所者に対する生活指導・訓練の一環としての作業、自立支援センター利用者に対する府の野宿生活者常用雇用促進事業(常用就職による自立に向けて、勤労意欲と勤労習慣の醸成をはかることを目的とし、訓練作業期間は連続6週間)等があげられ、NPOが委託を受け運営をおこなっています。
 いずれも、訓練事業的・期間限定的で、常用雇用にそのまま直結する性格のものではありませんが、当事者にとって貴重な生活の糧であり、社会再参入へのステップとしても重要な役割を果たしており、その内容充実や規模拡大に向け各方面の懸命なとりくみが行われています。
 一方、この国の緊急地域雇用特別交付金事業は、2001年度までの事業であり、2002年度以降の事業継続に関わって大きな危惧を抱くものです。国は、いわゆる失業者対策事業が95年度に終了して以降、国・自治体による雇用創出について消極的ですが、市域全体に広がっている野宿生活者への雇用創出策として、国・府・市が連携して行政自ら雇用創出にとりくむことは重要であり、事業の継続にかかる国への要望を強めるとともに、大阪府と連携して具体の雇用創出を促進していかなければなりません。
 大阪府においては、野宿生活者就労支援モデル事業(雇用・就労支援方策を検討するにあたっての基礎資料を得るための調査研究事業に着手しており、NPOと連携して、2001年度から、生ごみリサイクルのモデル事業が実施される。)がとりくまれており、大阪市としても様々な施策においてとりくみ検討が必要です。

提言5 労働界、行政、市民・NPO、産業界の連携による就労支援ネットワークをめざそう

 現在の自立支援センター事業については、就労支援のとりくみとして核となるべきものであり、事業改善をおこない事業の充実をはかることが求められます。しかしながら、新たな雇用の確保について、現下の厳しい経済状況のもとでは、行政、企業による個々の努力だけに求めることは実効的ではありません。
 そこで、もう一つの就労支援のしくみをめざして、労働界、行政、市民・NPO、産業が連携してとりくむことが重要です。
 例えば、障害者の就労支援ネットワークづくりとして、障害者就労支援センター、連合大阪、関経協が共同してとりくんだ大阪障害者インターンシップ制度、さらには国を巻き込んで、障害者緊急雇用安定プロジェクトのようなしくみの構築について検討することが求められます。

提言6 再び野宿生活に戻ることのないよう、総合的な自立支援プログラムを

 大都市特有の構造と機能は、多様な人々を受け入れることができる一方、不安定生活者については、とりわけ、野宿生活者に端的に見られるように様々な「貧困」状態を固定化・継続させ再生産させています。
 したがって、自立支援センター、仮設一時避難所からの退所者をはじめとして、住居や雇用が不安定な状況である以上、再び野宿生活に戻ってしまうおそれがあります。
 そうしたことから、とりくみにあたっては、自立に向けた効果が発揮できるように、従来の「紋切り型給付対応」にとらわれず、社会への再参加・再参入を視野に入れた総合的な自立支援プログラムの整備が検討されるべきです。 
 また、仮設一時避難所入所者が自立支援センターにステップアップするのではなく、その場で滞留していることへの対応は喫緊の課題であり、2001年度における西成公園、大阪城公園での仮設一時避難所の開設を控える中で、仮設一時避難所入所者が自立支援センターへスムーズに入所していけるよう、生活指導・訓練の一環として、作業従事の拡大とともに、心身の健康回復のための専門的なカウンセリングやケア等の拡充が必要です。

提言7 国の雇用政策におけるセーフティネットの張り替えを

 長引く不況のもと、恒常的な雇用不安が日本社会を覆っている状況で、新たな雇用を生み出すことは容易なことではありません。しかし、市場原理主義に任せ景気回復だけに望みをかけて、このまま手をこまねいていると、雇用不安から社会不安につながっていくことは必定であり、私たちがめざす「ゆとり、豊かさ」を感じられる社会とは程遠いものになっていきます。
 雇用保険における失業給付資格喪失以降の無保障期間の長期化が、住居の喪失から野宿生活へと導いていることは明らかです。野宿生活に至らない予防施策として、国の雇用政策レベルで、雇用保険消滅後の支援策が必要です。例えば、現金給付としての給付期間の延長や、現物給付としての失業期間中の職業訓練や技能取得支援事業等をセーフティネットとしてミニマム保障していくことが求められます。

提言8 多様な職種の開拓、職業相談・職業紹介の充実を~もうひとつのチャンネル-連合「(株)ワークネット」の活用~

 自立支援センターにおいて、就労自立支援のとりくみが進められているところですが、利用者側に生活圏を変えることへの不安、希望職種の限定等もあり、求職希望と求人のミスマッチが発生しており、現状から言えば、単に職業紹介数が多ければ就職に結実するということにもなっていません。
 今後のとりくみにあたっては、最初からフルタイム正規雇用にこだわらず、パートタイム雇用など一時的雇用による社会再参入の要素も含め、常用雇用につなげていくための柔軟な対応と、多様な求職希望にできるだけ合致させるために、多様な職種の開拓と職業相談、職業紹介の充実が必要であると認識するものです。
 多様な職種の開拓をするために、当面の対応策では「求人開拓推進員の活用による求人の掘り起こしの推進」と記述されていますが、現状では、職業相談員が派遣されているものの、求人開拓推進員とは位置付けられていません。したがって、労働行政への責任性を追及し必要な対応を求める等、早急な対応が求められます。
 また、職業相談、職業紹介の充実をはかるための一つの方策として、2000年11月に設立された「連合版ハロ-ワ-ク事業」としての「(株)ワ-クネット」の活用を提起しておきたいと考えます。
 ワークネットの事業内容としては、連合のもつネットワーク機能を活用して求人情報の提供を受け、職業紹介としての求職と求人のマッチングをおこなう他に、求人のニ-ズに合った教育訓練を受けるアドバイスとフォロ-をおこなうシステムも備えているというものです。
 今後の全国展開が待たれますが、自立支援センタ-事業における職業相談・職業紹介のもうひとつのチャンネルとして期待したいと思います。

◆保健・医療施策関連

提言9 結核対策に関わって、患者の早期発見と確実な治療につながる医療体制の確保を

 大阪市の結核罹患率は、全国平均の3倍となっており、この原因は多くの要素が複雑に絡むため特定することは不可能な実態ですが、西成区を頂点に周辺区での罹患率が高いことからも、釜ヶ崎地域の結核罹患率が大きな要素の一つであることは間違いありません。そのため、大阪市結核対策基本指針の中で、DOTS(Directly Observed Treatment Short Course 服薬を直接確認する結核短期療法)の積極的な推進をはかることをはじめとして、あいりん対策における、あいりん総合センター前結核検診のPR強化、南港臨時宿泊入所者結核検診の実施や、仮設一時避難所入所者等における野宿生活者結核検診の実施を行うとしています。
 今後は、市内全域の野宿生活者を対象とした結核検診の実施により、患者の早期発見と二次感染防止に努めることが求められます。
 患者の発見から治療につなげるためには、医療体制の確保が求められていますが、現在でも病床数は不足しがちであり、他県の病院に入院しているケースもあることから、大阪市内の医療機関における受入病床の確保、とりわけ公的医療機関での拡充が求められます。また、一度治療中断した人の再受入れには難色を示すケースや、野宿生活者の受入れを実質的におこなっていない病院もあり改善が必要です。
 また、退院後も一定期間の服薬をおこなわなければ、再発や耐性菌の出現もあるだけに、引き続き服薬を確実なものにするための対策が必要であり、入院時からDOTSを実施して、退院後も治療終了に至るまで継続して実施することで治療中断を防止することが重要です。
 さらに、退院後も野宿生活に戻らないための居住施設や清潔な環境の確保、抵抗力を維持するための食事等が必要となるため、一定数の施設の確保等、住居施策の拡充と連携したとりくみが重要です。

提言10 感染症対策をはじめ一般施策の充実を

 野宿生活者対策に関わる保健・医療施策としては、感染症対策、環境衛生対策、食品衛生対策等が考えられます。とりわけ、感染症に対する知識の普及啓発、衛生管理の徹底、健康管理のための検診の実施、医療機会の保障など、一般施策の充実が野宿生活者対策を進めていくうえで重要です。

◆福祉施策関連

提言11 居宅保護など生活保護制度の適用について、法の原則にもとづいた適用の徹底を

 厚生省による1981年の123号通達や、居宅を有しない人への福祉施策の不十分性から、全国各地の地方自治体において、「働く能力がある者は保護しない」「居宅でない者は緊急要保護患者以外保護しない」というような生活保護制度の運用実態が見受けられます。しかし、2001年3月2日厚生労働省は不十分ながらも、自治体間の取り扱いの差が生じないよう「ホームレスに対する基本的な生活保護の適用について」を示しました。
 そのような国段階における動向をふまえ、都道府県、さらには市町村においても、その趣旨が徹底されることが望まれます。とりわけ、自立支援センタ-に入所したものの、就労自立に結びつかず退所せざるを得ない福祉的援護を必要とする利用者への生活保護の適用について、改めて法の原則(注参照)にもとづいた適用が徹底されるべきであると考えます。(注;生活保護法第1条「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともにその自立を助長することをいう」第4条「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」)

提言12 行旅病人(緊急要保護患者)へ適正な治療・療養を

 現状において、行旅病人(緊急要保護患者)を受け入れる医療機関は、多くありません。そのうえ、医療機関によっては系列医療機関内で転院を繰り返すような実態も見受けられます。搬送当初以外は、福祉事務所と医療機関のソーシャルワーカーの間で療養指導や今後の療養方向についての連携がはかれず、十分なケースワークができない現状にあり、親族がいないなど立場の弱い行旅病人が多く入院していた安田病院事件も、こうした福祉職場の現状を逆手にとった事件であると言わざるをえません。
 したがって、行旅病人へ適正な治療・療養を担う医療機関を増やすことが重要です。また、その後の自立や居宅保護への移行などに向け、医療機関と福祉事務所とが十分な連携をとることが求められています。

提言13 福祉施策の充実のための財政面の裏付けを

 1万人を越えると想定される野宿生活者に福祉的援護を十分におこなうには、財政面の裏付けが不可欠です。福祉的援護は単に生活保護の適用にとどまらず、野宿生活者の野宿生活からの脱却-社会への再参入を促進するための総合的な自立支援プログラムが必要です。
 また、野宿生活者問題が深刻な事態となってきていることから、対症療法的施策でなく予防的側面からの施策実施も必要であり、大阪市における予算配分についても精査・検討がおこなわれるべきと考えます。地方財政が逼迫している現状から、大阪市独自で福祉的援護に要する人件費や事業予算を賄うことは自ずと限界があり、国レベルの課題として、自治体がおこなう福祉施策関連事業に財源が保障されることが必要です。

◆住居施策関連

提言14 既存の施設について、「収容」のための施設という視点に立たず、自立へのステップとしての位置付けを

 野宿生活から脱却するための既存の施設(必ずしもその施設の設置目的が野宿生活者を対象としているものばかりではない)については、①生活保護制度を利用した施設(救護施設・更生施設) ②あいりん臨時夜間緊急避難所 ③生活ケアセンター ④自立支援センター ⑤仮設緊急一時避難所 ⑥「あいりん」越年対策事業による臨時宿泊所をあげることができます。
 こうした既存の資源を拡大・充実させつつ、野宿生活者を野宿から脱却させる資源として充実する必要があります。
 そのためには、現行市内3カ所に設置された自立支援センターの機能を十分に発揮させることによって、就労による自立の流れを作りだし、野宿→シェルター→自立支援センター→賃貸住宅等、自力で居住場所の確保という、ステップアップを実現させなくてはなりません。
 また、野宿生活者の総数(8,660人:98年調査値)や巡回相談事業の拡充に伴って、自立支援センターへの入所人数も増加することを考慮すると、3カ所280名の定数枠では少ないことから増設の必要性があります。
 仮設緊急一時避難所については、昨年長居公園に設置されましたが、予定されている西成公園、大阪城公園での早期のとりくみが求められます。
 施設については自立へのステップとして位置付け、総合的な自立支援プログラムを提供することに向け、その機能を多様化する観点から、大規模施設だけでなく、小規模施設の設置について求めていかなければなりません。

提言15 「居住権」確保の観点からの施策の確立を

 「居住権」については、国連社会権規約11条(注参照)において権利保障されており、それは一般的意見4の中で「適切な居住の権利」として解釈することができます。日本はこの条約を批准していることから、国・自治体は野宿生活者対策を「居住権」の確保の観点から捉え、必要な施策を講じるべきであると考えます。
 現在野宿生活者対策事業が実施されている仮設一時避難所、自立支援センターを対処後の住居の確保に関わって、公営住宅の活用なり、民間賃貸住宅への入居促進策等の施策の検討等が求められます。後者については、保証人の問題などをクリアする必要はありますが、家主への補助金等の支給等のインセンティブと入居者への家賃補助等の施策が求められます。
 (注;社会権規約11条1項「この規約の締結国は、自己及びその家族のための適切な食糧、衣類及び住居を内容とする適切な水準についての並びに生活条件の不断の改善についての全ての者の権利を認める。締結国は、この権利の実現を確保するために適当な措置をとり、このためには自由な合意に基づく国際協力が極めて重要であることを認める。」)

◆施策実施にあたって住民理解を得るために

提言16 住民理解を得るために、人権問題として啓発活動にとりくみ、情報の提供に努めること

 2001年1月にとりまとめられた野宿生活者に関する総合的調査研究報告書の中の市民意識調査でも読み取れるように、市民意識の中には野宿生活者に対して偏見や差別的な考え方が潜んでいます。市民意識の中では表層的な部分しか認知されないことが多く、外見からしか判断をしない住民に対して、行政として野宿生活者の実態について積極的に啓発活動をおこなう必要があります。
 また、啓発にあたっては、野宿生活者問題について人権問題を含む「社会的な貧困問題」として捉え、都市生活者としての理解を求めることが重要です。
 さらに、施策の実施にあたっては、施設コンフリクトの問題もあり、市民への事前の情報公開と丁寧な説明が重要です。

提言17 市民・NPOとの連携をはかり、事業展開を行うこと

 施設コンフリクト問題に象徴されるように、施設建設にあたっては地域住民の理解、信頼関係が不可欠です。相互信頼のためには、直接的な対話や交流を図れる場の設置も検討されるべきではないでしょうか。また、その運営について、行政のみならず市民・NPOと連携する中で、対立構造になりがちな行政と住民、行政と野宿生活者という構造に緩衝的な役割を担ってもらうことによって、より施策をスムーズに展開していくことができます。また、単に広報などを通じた啓発活動により住民に理解を求めることにとどまらず、コーディネータ的な役割をもつ人材育成策など、住民理解を促進するための積極的な方策が求められます。

◆その他

提言18 釜ヶ崎(あいりん)における野宿生活者対策は地域事情を考慮した対策として進めること

 簡易宿泊所の集中する釜ヶ崎(あいりん)地域においては、簡易宿泊所のアパート化の動きが加速しています。長期化する不況による寄せ場労働者の就労機会の激減とあわせて西成区の生活保護受給者数は他の区に例をみない激増傾向が続いています。
 簡易宿泊所を活用した野宿生活者の住宅施策は、現有する社会資源を使った方策のひとつではあるものの、生活保護との関連を整理する必要がありますし、まちづくりや区行政の観点からも慎重な対応が必要です。
 こうしたことから、釜ヶ崎(あいりん)地域における野宿生活者対策は、98年2月とりまとめられた「あいりん地域の中長期的なあり方」(報告書)と整合性のある地域事情に応じた施策として進めるべきであると考えます。

◆総合的な観点から

提言19 野宿生活を予防する観点から、新たな制度設計を

 以上述べてきた提言のうち、就労自立、保健・医療、福祉、住居の各施策・事業について、今後は各方面から指摘されているように、高齢野宿生活者に加えて若年の野宿生活者が増加することが予想されることをふまえると、対症療法的な施策にとどまらず、野宿生活に至る前に予防的側面も合わせ持った施策が必要です。
 国に対しては、新たな制度として、例えば「住宅手当」「住宅補助」といった給付制度を創設することが求められます。その際どの法律を適用するのか、あるいは新たな法律として国に求めていくのか等、施策の実施にあたっては十分な精査・検討が必要ですが、社会保障制度のセーフティネットという点からも野宿生活に至る前段の「装置」は是非必要であり、本格的な議論が行われてしかるべきです。

提言20 国・自治体の責務、野宿生活者問題が「社会的な貧困問題」であること等を明記した特別立法の制定を

 野宿生活者対策については、日本全国レベルでの広域的な課題であるとともに、雇用・福祉分野における関連法の改正や新たな法整備を求めるものであり、具体施策・事業にかかる財源の問題もあることから、自治体のみの対応には自ずと限界があり、基本的に国の政策課題として捉えなければなりません。
 したがって、野宿生活者対策の基本理念や自治体と国の責務等を明確にした「特別立法」の制定が必要です。

提言21 施策・事業を効果的かつ円滑に進めるために市民との協働の観点から、NPO等との積極的な連携を

 施策・事業を効果的かつ円滑に推進するため、これまでも、「あいりん」対策、野宿生活者対策事業において、NPOと連携して事業運営が行われており、成果をあげています。
 野宿生活者対策に限らず、大阪市として、いかにして市民との協働をおこないながら施策・事業を実施していくのか、ということが今日的な行政の重要課題でもあり、総合的かつ抜本的な野宿生活者対策の確立に関わって、市民・企業等に対する十分な周知と啓発、円滑な事業運営、施設コンフリクト等について、市民との協働の観点からNPO等と積極的な連携をはかりつつとりくむことが重要です。そのために、これまでの行政手法にとどまらず、ボランティア、NPO等との連携方策等、新たな手法を早急に確立することが求められます。

提言22 自立に向けたステップアップを実効あるものとするため、総合的な施策確立に向けた大阪市野宿生活者対策指針の策定を~大阪市野宿生活者対策実行計画の策定を展望して~

 野宿生活者の自立に向けては、確かに野宿生活状態から脱するための施設整備を進めることは重要ですが、野宿生活者を施設に収容してそれで解決ということにはなりません。
 自立に向けたステップアップを実効あるものとするためには、全庁的な連携をはかって対策を講じることができる強力な推進体制を確立することが求められています。そのために、現行の大阪市野宿生活者対策推進本部のあり方を見つめ直すとともに、今後の中長期的施策のあり方も視野に入れた「野宿生活者対策に関する大阪市の当面の対応策」について、単なる対策事業の羅列にとどまらない、総合的な施策を確立する自立支援のための「大阪市野宿生活者対策指針」として策定することが重要であると認識するものです。
 その内容としては、基本理念、施策の方向性や事業の目的について明確にしたうえで、この指針にもとづく具体的な対策事業の体系化をはかることとともに、総合的な自立支援プログラムの提供を実現するための実行計画の策定を明記すべきであると考えます。
 そして、指針策定にあたって、2001年にとりまとめられた総合的調査研究報告書や有識者懇談会での議論、この間実施している野宿生活者対策事業の検証から浮き彫りとなる実態や課題を十分にふまえるとともに、実行計画の策定やその進捗状況の管理については、市民、NPO等関係団体、経済界、労働界、学識経験者等幅広い意見を反映させることに留意することが重要です。