【自主レポート】

公共事業執行から見る地域の再生へ向けた
制度・政策の転換

香川県本部

1. はじめに

 地方分権一括法が施行され、2年半が経過しようとしています。中央集権制度を打ち破ることは、明治維新以来の大改革と言われながらも、税・財源の地方委譲が伴っていないため、その実感は身近にわいてきません。
 また、「機関委任事務から自治事務・法定受託事務へ移行」「国・都道府県・市町村は対等の関係」「地域住民主導によるまちづくり」などと言われても、日常の業務内容はほとんど変わらず、相変らずの陳情行政が続いています。地方議会も「真の地方分権」に向け、「わが町をどうするか」などの議論より、利権誘導や保身に一生懸命と言った状況も見られます。
 さらに、政府主導の押しつけ的公共事業執行などから、国同様に地方財政も大きく逼迫してきており、年金・医療・福祉の切り捨てなど、国民負担の増として責任転化してきています。また、民間労働者に対する賃下げ・リストラ攻撃は、自治体職員に対しても同様であり、地方行革を名目とした人員削減・賃金カット・昇給停止などが強行され続け、ますますの消費停滞も予想されるところです。今こそ、公共事業を執行する立場で、縦割り行政や補助金・負担金行政の弊害とともに、業務執行における制度矛盾等の問題を提起し財政の健全化とともに、「真の地方分権」を目指す必要があると言えます。
 私たちは、自治労香川県本部の自治研推進委員会の中に、公共事業専門委員会を発足させ、3年前より公共事業に係る制度矛盾について県民アピールを続けています。この徳島自治研(本分科会と第5分科会)に、これまでの取り組みを紹介するとともに、全国の仲間に呼び掛けることから制度・政策の転換をめざしたいと考えます。

2. 制度矛盾を放置したままの改革

(1) 利権誘導型の公共事業
   公共事業執行に関しては、「政・官・業の癒着」「談合による税金の無駄遣い」「計画性に乏しい大型公共事業」「政治家による口利き」など、"政治と金"を題材に、毎日のようにマスコミに取り上げられています。しかし、『聖域なき構造改革』を旗印にしている小泉首相も、これら問題の根源とも言える「公共事業受注企業からの政治献金を禁止すべき」とした声には耳を貸そうとしません。
   また、公共事業執行に関しても「事業費の総枠抑制」とか「道路公団の民営化」などを打ち出していますが、制度矛盾の抜本的改革の方向は見えて来ません。なぜなら、公共事業予算の3~5%を政治献金として還流させるシステムが壊れてしまうことを恐れているのかも知れません。そして、制度矛盾を放置したままで、公共事業予算をいくら増やしても景気対策にはなり得ません。このことは、過去10年に及ぶ公共事業執行を中心とした景気対策が十分な効果を上げていないことからも明らかと言えます。

(2) 公共事業の価格決定の矛盾
   公共事業執行を担当している者は、国の決めた(承認も含む)積算根拠と材料・人件費単価等を使い、最新の注意を払って設計金額をはじき出しています。その内容は、現場で働く作業員の保険料から工事機械の燃料費や償却費まで、非常に幅広いものです。また、当然のことですが、周辺地域に与える影響を少なくし、作業員や住民の安全を守るための費用(例:騒音防止型機械の使用、監視・誘導ガードマン、転落防止用ネット、水替費用etc)も含まれます。
   そして、合計で1,000万円必要と設計したものを競争入札にかけます。各業者は、所有している工事機械や雇用している作業員、材料の仕入価格、工事の施行方法、適正な会社の儲けなど、あらゆる条件から工事価格を算定し、「我が社なら、この価格で安全・安心の工事ができます。」として、競争入札に望む訳です。私たち担当者とすれば、当然に1,000万円で入札されても、おかしいとは思いません。逆に、「そんな価格では、安全な工事はできない。」として、落札されない工事があってもおかしくないとも考えます。しかし、現実は「談合」で問題視されている受注の輪番性(高額入札)や、タタキ合い(低額入札)などが生じており、単に自由競争として片付けるべきでない制度矛盾が隠されていると言えます。

(3)ウマミのある公共事業
   公共事業がなぜ儲かるのかと言えば、適正価格として設計に計上した単価が、実際には支払われていないところにあります。さらに、設計に計上する諸経費が高すぎるとの声も積算担当者から出されています。
   香川県の現在の普通作業員(特別な技能を有せず、ごく一般の作業に従事する者)の単価は15,200円で計上しています。この単価に、保険料などの様々な諸経費が50~70%加わりますから、1日当たりの単価は22,800円から25,840円にもなります。これに近い額が労働者に支払われるのであれば、まさに、経済対策としての効果が発揮され、内需拡大になるはずです。しかし、ここ数年普通作業員に支払われている賃金は、8,000円から10,000円で推移しています。つまり、普通作業員一人当たりで13,000円から17,000円が請負企業の「モウケ」として残る訳です。500人の普通作業員を必用とする工事を請け負えば、それだけで750万円近い利益が約束されるのですから、政治献金により予算を確保し、政治家に「口利き」をしてもらい、仕事の配分を受けようとするのは当然のことかも知れません。
   また、諸経費率(現場作業の安全を確保するための管理費用、各種社会保険制度確保に必要な費用、会社の設備投資など健全な経営を担保するための費用、etc)が高いことも指摘されます。特に、2年前に実施された現場管理費のアップ(1~3%)は、その必要性が十分に示されないまま実行されており、一般の目につかないところで「高い公共事業」を確保する目的が見え隠れしていると言えます。
   また、自由競争や規制緩和などを言い訳に、「不当なピンハネ下請け」を許していることも、大きな制度矛盾であり、大手企業のウマミの部分です。「丸投げ」と言う手法で、全ての工事を下請けにまわして利益を上げていることが問題視されてから、その部分での規制は強化されましたが、抜本的改善には至っておりません。少なくとも、公共事業については、末端労働者の賃金・労働条件に影響を与えることが予想される「不当なピンハネ下請け」を規制すべきであり、実行ある最低賃金制の確立とともに、その監視体制を確立する必要があります。特に、不況対策として政策誘導するならなおさらのことであり、国や地方自治体が発注する事業に限っての制度改善だけでも大きな効果が予想されます。
   私たちは、"談合"が税金の無駄使いでなく、「儲け(ウマミ)」の多い仕組みを作っている制度が"税金の無駄使い"であることを指摘します。

(4) 「地域の再生」へ向けた公共事業
   国・地方とも莫大な借金を抱える中、「事業費の総枠抑制」が実行されていますが、前述のウマミを残したままであり、加えて、補助金行政によるゼネコン対策事業が優先されるシステムの中では、地場の中小業者は生き残れません。最低制限価格を設けない試みも実施されていますが、このことも真面目に仕事を取り組んでいる業者には、大きな負担となっています。「仕事がないよりまし」とした考え方で公共事業を執行させることは、末端労働者の賃金・労働条件に悪影響を与えることはもちろん、安心・安全の工事確保にさえ支障がでると言うことです。補助金行政によるゼネコン対策事業を優先するのでなく、地場中小業者を対象とした生活密着型の公共事業を無理なく進めていくことが求められます。
   雇用・労働行政を切り口として、適正な設計価格と適正な利潤を再検証するとともに、その支払いを監視するシステムを確立することにより、「事業費の総枠抑制」に対応できると考えられますし、末端人件費が保障されることにより、内需拡大にも繋がるのではないでしょうか。

3. まとめ

 以上、公共事業に係るいくつかの制度・政策矛盾を指摘してきましたが、単に公共事業だけに限った問題ではなく、他の分野においても同様なことが指摘できるのではないでしょうか。規制緩和を名目とした市場競争による地場・中小企業の切り捨てや、効率性を名目とした行政組織の再編から地域間格差の増大、成績至上主義を名目とした安上がりの雇用・労働行政、モラルなき中高年のリストラなど、例を上げればキリがありません。
 今こそ、地方行政に係る私たちが、現在進められている国主導の制度・政策の矛盾を指摘しつつ、地域住民や地場中小業者とともに、地域に根ざした産業の育成を図り、また、雇用・労働政策を改善していく必要性を再認識し、全国の仲間とスクラムを組んで「真の地方分権」を確立していくべきと考えます。

県民本位の行政をめざして!! 変えなきゃ香川県